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[GDC2008#18]計測の手法を取り入れた科学的ゲームデザインのアプローチ
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印刷2008/02/21 23:08

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[GDC2008#18]計測の手法を取り入れた科学的ゲームデザインのアプローチ

Chris Swain氏
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 GDC08のゲームデザインジャンルで最初のレクチャーが,「Master Metrics: The Science behind the Art of Game Design」と題されたセッションである。講師のChris Swain氏は,南カリフォルニア大学/EA Game Innovation Labの助教授という,ゲームの専門家だ。ここでは,さまざまな手法でゲームを計測し,それをもとにより良いゲームデザインを行う試みをまとめている。ゲームデザインという分野に,できるだけ科学的な方法論を持ち込むための実験ともいえるだろう。

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 ここでは紹介された測定の手法を,それぞれ取り上げてみたい。

●metacritic.comの事例


 最初に紹介されたのは,いろんなものを批評するサイト,「metacritic.com」の事例だ。このサイトでは,ユーザーがいろいろなものに0〜100点の評価をしていく。ゲームも扱われており,そこでの平均評価と売り上げの関係を示したグラフが提示された。グラフには,評価が5ポイント上がるごとに,売り上げが1.5倍になる傾向が示されている。この結果をどう捉えるか? それが問題となる。
 成功している作品の特徴を挙げていくと,

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1 コンテンツの範囲が広い(20時間以上遊べる)
2 プレイヤーの取れる選択肢が多い
3 何度でも遊べる
4 グラフィックスやサウンドが非常に高水準
5 反応が良く,簡単な操作性
6 魅力的なストーリーとキャラクター
7 インタラクティブ性やAIの質が高い
8 視点変更の反応が良い


といったものが見られるという。逆に点を失っているゲームでは,

1 ゲームの分岐が少ない
2 製品の作り,管理が粗雑
3 何をすればいいのか/何が起きたのか分からない
4 前提からかけ離れた仕組み
5 インタラクティブでない環境(単調すぎる)
6 流れがない(難しすぎる,急すぎる)
7 セーブポイントまで遠すぎる
8 ロード画面が単調,長すぎる


といった特徴が見つかるという。ただ,こういった分析は有用だが,あまり鵜呑みにすると,どこかの既存タイトルにそっくりのゲームが出来上がるので,あえて無視することも必要だとしている。

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●要素の組み合わせによる再構成


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 次に紹介されたのは,ブレインストームなどで各要素のバリエーションなどをリスト化し,それらを組み合わせて新しいものを再構成する手法というだ。レオナルド・ダ・ビンチの人物画がまさにそういった手法で描かれているのだという。いくつかの手法が紹介されたが,基本的な部分はそう変わらない。
 こういったリストを作っておけば,きわめて短時間に膨大な新パターンを生成できる。これはゲームデザインにおいて有用だとしている。

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●マイクロソフトの事例


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 氏によると,Microsoftはこういった手法を最もうまく使う会社だという。講演では「Halo3」の例が挙げられ,マップデザインのための測定技法が示された。考え方は単純で,テストプレイを繰り返し,プレイヤーが死んだ位置に黒いドットをプロットしていくだけ。多くのテストを繰り返すと,どのあたりでプレイヤーが死ぬかという分布図が出来上がる。とくによく死ぬ部分や殺された武器の種類によって別の色にすれば,さらに特徴ははっきりする。
 マルチプレイヤーの場合は,どこにどの武器を置くべきかなどを詰めることでゲームバランスの改善につながる。シングルプレイヤーの場合は,敵の位置などを修正することでバランス調整に有用なデータとなるだろう。

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●BioWareは時間で計測


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 BioWareの例では,「Mass Effect」の「プレイヤーが何をしているか」を示す時間が紹介された。マップによってムービーシーンが多かったり,戦闘が多かったり,移動が多かったりと,プレイヤーの行動に差が表れている。こういったデータを参考に,BioWareではゲームの調整を行っているという。
 プレイヤー個人個人で行動の変わりがちなRPGでも,平均的なプレイヤーの行動の仕方が分かればゲームの作り方に生かすことは可能だろう。プレイヤーの行動をこのように数値化することは重要である。

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●制御系は何次元か?


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 ゲームコントローラとゲームの操作法などに関する測定の手法が紹介された。まず,ゲーム用コントローラには実にさまざまな種類があることが示された。
 本筋とはあまり関係ないのだが,パラパラと無数のコントローラのスライドを切り替える途中で,1種類だけ念入りに紹介されたものがあった。見るからにブラジャーで,実際にブラジャーなのだが,ゲームで使用するときには写真のように女性に着用してもらうものらしい。

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 それはともかく,コントローラで実現可能な操作の種類は,ゲーム機が新しくなるにつれて増えているものの,最近は9種類でだいたい落ち着いている。
 あるゲームで必要になる操作の種類を挙げて,何種類になるかをまとめたものが示された。「テトリス」だと左右移動と回転の2種類(落下はないんだろうか?)で「2」,「Half-Life」だと行動と視点の移動が2軸ずつ,射撃やジャンプ,しゃがみ,武器変更,泳ぎ,といったものをひっくるめて「7」としている(0.5のものもあった)。

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 コントローラで実現可能な数が,ゲームで要求されている数より下では困る。また同ジャンルのゲームより著しく操作次元が高かったり低かったりするのも問題であろう。ゲームの操作方法を決定するときには,このような統計も参考になるのかもしれない。

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●EmSenseでの感情の測定


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 次に,先日紹介したEmotiv EPOCと似た製品,EmSenseのセンサが紹介された。このセンサは,脳波,脈拍,頭部の動き,呼吸,眼球の動き,体温を測定できるというもの。EPOCと違って,ゲーム内のオブジェクトに働きかけるような用途ではなく,純粋にセンサとして使用されるもののようである。
 興奮したとき,考えているとき,嬉しいときといった場合に出ている脳波の特徴などからプレイヤーの状態を把握することができる。いろいろなゲームでの例が挙げられた。まず,Wiiの「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」をプレイしているプレイヤーのボス戦での変化では,ボスとの戦いが始まると緊張度がまず大きく上がり,ついで思考の部分が上がっている。ボスを倒して,アイテムを手に入れると嬉しさが一気に上昇している。

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 「Medal of Honor」では,最初に死んだときと比べて2回目に死んだときには,ゲームへの傾倒度が大きく下がり,元のレベルまで回復するのに15分を要している。この回復時間が長いゲームはあまり良くない,また,逆に傾倒が続きすぎるのも良くないとしているのは面白いところだ。たまには死ぬくらいでないと面白くないといっているわけでもなく,短期間で切り替わるようなものが良いとしているのだ。
 「Gears of War」でのデータでは,占領と防戦時の状態が紹介された。防戦時には傾倒度が素早く降下し,すぐにより高い位置まで回復するというデータが出ており,先ほどの論を裏付けている。ここから,FPSのようなゲームでは,短い周期でプレイヤーの傾倒度を変化させることが有用だと結論付けていた。

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●感情の分析


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 ゲーム中のプレイヤー体験を30の感情に分類し,さらに4種類の尺度とするXeo Designの手法が紹介された。Fieroは「誇らしさ」,Curiosity「好奇心」,Amusement「楽しさ」,Relaxation/Excitement「緊張と緩和」,この4尺度でさまざまなゲームを分析している。
 プレイヤースキルとゲームの難度の関係では,簡単すぎると退屈してしまい,難しすぎるとフラストレーションが溜まる。やや難しめのところで設定されるとFieroが多くなる。難しめのものを達成することがFieroにつながるわけだ。

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 展開の予測しやすさでは,あまりに見え見えだと興味を失い,先が全然読めないと信用されなくなる。適度な想像力が必要なところで好奇心が芽生えてくる。
 いま一つ理由は分からないのだが,目的を持ってプレイし,実現していくことで緊張と緩和が,そして,Amusementは友達とのやり取りの中に生まれるとしている。

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●最初の300秒


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 とにかく最初が肝心ということで,最初の300秒を重視した分析を紹介している。オープニングでは何が重要かなどを紹介し,つかみから一気に傾倒させ,さらに引き入れるための構成が重要となる。
 紹介されたのはなぜか映画の最初の300秒での感情の変化を示したグラフなのだが,ゲームでもこのようなチャートを作ってみることが有効だとしている。

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 定量的な分析は行いにくく,プログラミングなどとは違って科学とは縁遠い分野だったゲームデザインにも,以上のように,非常にさまざまな技法で科学的な手法を持ち込むことが提案されている。このような手法に従ったからといって面白いゲームになるとは限らないわけだが,何をすれば当たるのかなど誰にも見当が付かないという五里霧中の状態からは脱却できるかもしれない。
 プレイヤーの実際の反応を根拠にする手法も多いので,プレイヤーを置き去りにしたゲームが減ってくれるだけでもメリットになる,という考え方もできる。おそらく正解は導けない話ではあるが,手法がいろいろと考え出されることで,より工夫されたゲームが増えるならプレイヤーにとっても歓迎すべきことだろう。
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