インタビュー
プレイヤーとともに作り上げていくという「ストリートファイター オンライン」の今後の展開とは?
SFOは,親会社であるカプコンの看板対戦格闘ゲームから名称と外観を継承しつつも,マウス一つでプレイ可能,要求するPCスペックも極めて低いというライトなカジュアル仕様。さらには簡単な操作で必殺技が出せるなど,従来のストリートファイターシリーズ,ひいては対戦格闘ゲームのイメージとは,まったく異なるプレイ感だ。「なるほど,これは新しい」とは思うものの,いったい誰をターゲットにしているのか,どうプレイさせたいのか今一つピンと来ないところもある。
そこでそうした諸々や過去のクローズドβテストの経過,前夜祭と正式サービスで実装される予定のコンテンツ,その後の中長期的な展望などについて聞いてみた。お話をうかがったのは,ダレット 戦略局 局長の波多弘幸氏,戦略局編成室コンテンツプロデューサーの内田洋平氏,オンラインサービス部コンテンツオペレーション室の渡辺賢作氏の3名である。
「ユーザーと共に作り上げる」を目標に
Plan-Do-Checkを徹底したクローズドβテスト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。SFOはこれまでにクローズドβテストが3回実施されましたが,まずはこれまでのテストでの手応えについて聞かせてもらえますか?
テスト前からプレイヤーの反響は良くも悪くもかなりのものでした。公式サイトからSFOの詳細を見るというリンクをクリックしていただいた数もかなり多く,注目度は非常に高かったといえます。もちろんクローズドβテストでは参加人数を制限していたので,実際にプレイできた方の数は限られていますけれども。
テスターの方にはアンケートを実施したのですが,テストを重ねるにつれ,回答の傾向に変化が見られました。最初は「ストリートファイターではない」という否定的なご意見も少なくなかったんですが,それが次第に変わっていき,肯定的なご意見や前向きなご意見が多くなっていった感じですね。
4Gamer:
事前の予想と比較しても大きな手ごたえだったのでしょうか?
波多氏:
僕らは1回目から2回目,また3回目とそれぞれにテーマを設けてテストに臨んだんです。テスターの方々から寄せられたご意見に1件1件目を通して,それに基づいて「どうしたら喜んでもらえるか」を検討してきました。それは,プレイヤーの皆さんと一緒にSFOを作り上げていきたいと考えているからです。
そうしてアップデートを続けた結果,最終的には肯定的な意見も多くなってきて,僕らとしてもかなり「作り上げてきた」実感があります。最終的なアンケートの結果でいうと,約7割のテスターから「いい」という回答をいただきました。またデザインなどの部分を見ても「面白い」という回答が多かったですね。
4Gamer:
1〜3回目のクローズドβテストで設定したテーマを,それぞれ具体的に教えてもらえますか?
波多氏:
まず大前提から話すと,SFOをプレイヤーの皆さんと一緒に作っていくという意図でのβテストだということです。
黎明期のオンラインゲームだと,クローズドβテストの時点ではインターフェイスすら全然できていなくて,テスト中にどんどん変わっていくということもありました。ところが最近では傾向が変わってきて,βテスト時点でほぼゲームが完成しているものが多いですよね。
4Gamer:
そうですね。ただ,クローズドβテスト/オープンβテストでプレイヤーが評価を下してしまうこともあるので,致し方ない部分があるとは思いますが。
波多氏:
僕らとしては,プレイヤーの皆さんと1個1個作り上げていく感覚を大事にしたかったんです。それを前提として,第1回目では「マウスでの操作性」をテーマにしました。マウスだけでプレイすることが,どう受け入れられるか。
あとはクライアントをダウンロードして,インストールして,デスクトップのショートカットから起動して……という多くの手順を踏ませることなく,Webブラウザから起動できるようにしています。いかに気軽に手軽にできるか,マウスを中心にいかに入りやすい環境にするかということに重点を置いて仕様を考えていました。
4Gamer:
確かに,ブラウザでスタートボタンを押すだけでクライアントが起動するまで自動で行われる,というのはとてもお手軽ですね。デスクトップに直接起動するためのショートカットもほしかったところですが。マウス操作については,テスターからどのような反応がありましたか?
波多氏:
当初はマウスのホイールで内功スキルが出しにくいとか,さまざまなご意見をいただきました。その後,チューニングを重ねて改善した結果,ネガティブなご意見はだいぶ減りましたね。
4Gamer:
それでは次に,2回目のテーマを教えてください。
2回目は対戦についてです。単なるマッチングではなく,対戦ルームを作ってプレイすることの是非を確認したかったんです。いってみれば,PSPの「モンスターハンター ポータブル」のように,顔見知りの友達同士で遊ぶ感覚ですね。これは海外ではそれほどではないんですが,日本人にとっては大変重要な感覚です。なので,そこに重点を置いたチェックをしました。
4Gamer:
結果はどうだったんでしょう?
波多氏:
参加者の数が限定されていたので大きな差が出たわけではないのですが,最終的にはオートマッチングよりもルーム対戦の数が多くなりました。テスターの方々からも多くのポジティブな意見をいただいていますし,僕らとしてもルーム対戦の重要性をあらためて認識したというところです。
4Gamer:
なるほど。SFOに限らず,日本でオンラインゲームを展開するにあたっての大きなヒントとなりそうな事例ですね。
波多氏:
3回めのテーマは,それまでのネガティブなご意見を踏まえて,その部分をいかに修正できるかということでした。まあネガティブというよりも「こうすればいいのに」という要望を,どうやって反映していくかといったところですね。
4Gamer:
ちなみに,どういった意見が多かったのでしょうか?
一番多かったのは,ディフェンス機能です。ディフェンスがないと,格闘ゲーム,もっといえばアクションゲームとしての選択肢が狭くなってしまうのではないかという意見でした。実のところ,僕らは気軽にマウスをガチャガチャやってもらえればいいと考えていたので,当初ディフェンスはいらないと考えていたのですが,予想以上に必要だという意見が多かったんです。
4Gamer:
開発の意図とテスターの要望が食い違っていたわけですね。
波多氏:
当然,無理に僕らの意図を貫くわけにもいきませんし,かといって要望をそのまま取り入れると普通の対戦格闘ゲームになってしまうから,どう昇華しようかという議論を重ねました。
その結果たどり着いたのが「ガマンモード」などです。おかげさまでアンケートでも「あっていい」という回答が約7割を占めていまして,それに関連した「ガマンカウンター」「ヨッコイショカウンター」もありだという評価をいただいています。
4Gamer:
お互いの意見を加味した試行錯誤が成功したわけですね。
少し言葉を追加しておきますと,ディフェンスについては構想にもともと存在していました。ただオンラインゲームとして考えた場合に,本当に必要かどうかという取捨選択があったんです。
最初は「とことん気軽に」というコンセプトだったので削った状態でテストに臨んで,テスターの皆さんからの要望が多かったのでやっぱり必要だと感じた結果,再考して現在の状態に合わせた形で導入してみようという流れですね。なので,要望があったから思いつきでドーンと追加しました! ということではないんです。
気軽という点では,ガマンという名称もそうですね。格闘ゲームだと,普通はディフェンスやガードといいますが,あまりゲームを知らない一般の方は少々難しい操作をイメージしてしまうかもしれません。そこでガマンという誰でも分かる言葉でカジュアルな感じにして,格闘ゲームの間口を広げたいという意図があります。ほかの部分でも,なるべく専門的な難しい言葉を使わずに平易な言葉を使おうと心がけています。
波多氏:
僕らの勝手な思いこみかもしれませんが,プレイヤーの皆さんと会話を重ねてここまで来ることができたという実感があります。今後,前夜祭から正式サービスへと展開していきますが,まだまだ補足しきれなかった部分はありますし,もっともっと満足していただきたいですから,ベストな状態を維持するための試行錯誤を続けていきます。
システムだけでなくゲーム内用語でも
誰でも気軽に手軽にプレイできるライト仕様に
4Gamer:
渡辺さんのおっしゃる平易な表現といえば,今回はオープンβテストではなく,前夜祭という言葉を使っていますよね。
カジュアルであるということは,どれだけ簡単に理解してもらえるかということです。普通,オンラインゲームではオープンβテストと呼んでいますが,果たしてゲーマーではない一般層の方々にどれだけ認知されているのかというと疑問も残ります。僕らが目指しているのは,従来のオンラインゲームプレイヤー層にとどまらない,もっと広い層なので,より分かりやすいだろう前夜祭という言葉を選びました。
4Gamer:
言葉一つとっても,裾野を広げることを目的としているわけですね。
波多氏:
オープンβ云々といってしまうと,○○用語とかカタカナ言葉みたいに聞こえてしまうじゃないですか。今回は,これまで限定していた参加者枠を開放して広くプレイヤーを集めたい,まさに祭のような感じで入ってもらいたいというニュアンスを込めて,前夜祭としました。
内田氏:
まあ,祭ならちょっと入ってみようかという人も増えるんじゃないかと(笑)。
4Gamer:
なるほど。一般に広めようという意図はごもっともですし,理解もできましたが,実際にSFOがメインターゲットとするのはどういったプレイヤー層なのでしょうか?
波多氏:
もちろん,既存のオンラインゲームプレイヤーは無視できないですね。例えば「モンスターハンター フロンティア」をプレイしているといっても,長時間ずっとプレイし続けていられるかというと,そうではないと思います。ちょっと休憩してSFOをやってみようといったように,セカンドゲームとして選んでもらうのもいいと思います。
4Gamer:
それはつまり,SFOをメインでプレイするような層はあまり想定していないと?
波多氏:
多くの人にとって,眠ったり働いたり勉強したりする時間を除いた余暇時間は1日に数時間程度です。その中で買い物に出かけたりカラオケに行ったりデートをしたり,あるいはゲームをしたりと,それぞれの価値観で時間配分しますよね。ただ,余暇のすべてをゲームに費やすという人はほとんどいないと思うんです。だとすれば,僕らがゲームだけを売り込んでも意味がない。そこでSFOでは,一般の人が,SFOをやってみようかなと思ってもらえるちょっとしたきっかけというか雰囲気を作っていこうと考えています。
4Gamer:
もう少し詳しく説明していただけますか?
波多氏:
具体的には,さまざまなタイアップやコラボレーションですね。より多くの人に親和性のある土壌を作りながら,もちろんオンラインゲームプレイヤーがカジュアルゲーム,セカンドゲームとして楽しめる部分も残していく。SFOをゲームとして見てしまうと,どうしてもオンラインゲームやコンシューマゲームといったカテゴライズが出てきて,自ずとターゲットも限定されてしまいます。
しかし,いろんな要素が融合したツールとして捉えれば,もっと別のターゲットを生み出していく逆説的なものと見ることもできるでしょう。例えば,お菓子のパッケージにSFOのシリアルコードが印刷されているとしましょう。SFOを起動して,そのコードを入力すればそのお菓子のアバターが手に入る。今まではお菓子しか知らなかった人も,SFOというものに関心が向かうかもしれません。
4Gamer:
なるほど,「メイプルストーリーガム」とか,MHFと「アイスの実」のタイアップのような方向性ですね。
波多氏:
ええ。そういったことを考えているがゆえに,気軽に手軽にという部分に重点を置いています。せっかく関心を持ってもらっても,複雑な操作やコマンド入力が必要だったり,インストールが手間だったり,グラフィックス性能が足りなくて動かなかったりでは矛盾が生じてしまいます。
4Gamer:
確かにPCゲームでは,何かのきっかけで面白そうだと思ってもハードルが高すぎてプレイ開始までに至らないという話を聞きますね。
そこで徹底してライトに作ることによって,新たなターゲット層に訴求できるようにしています。なので,今,SFOのターゲット層を聞かれたら「オンラインゲームユーザーです」と答えますが,僕らはもっと多くの人にとって面白いものとしてSFOを提供していこうと考えています。
例えるならストリートファイターが一流のインド料理店で,SFOは町のカレーライス屋です。インド料理に詳しくなくても,お店からカレーの匂いがしたらちょっと食べていこうかという人はきっと多いですよね。そんなイメージで,新しいオンラインゲームのあり方を打ち出していこうと。
4Gamer:
なるほど,より広い層を狙っているのは分かりました。ところでクローズドβテストでは,どういったテスターが集まったのでしょう? クローズドβテストから参加するような人は,ライトというよりはコアなゲーマーが多い気もしますが。
波多氏:
実は対戦格闘ゲームをやり込んでいる層は,それほど多くなかったんです。1番はアクションで次がRPG,対戦格闘ゲームは3番目でした。一口にアクションといってもライトなものからコアなものまで幅広いですから少々つかみにくいのですが,格闘ゲームのコアユーザーがメインでなかったことは確かです。
4Gamer:
平均的なプレイ継続時間についてはどうでしょう?
波多氏:
だいたい1回のログインで1時間弱くらいですね。勝利数でいいますと平均60勝くらい,多い人では400勝している人もいました。
内田氏:
2〜3分で勝敗が決まりますから,1時間あれば20回ほど対戦できますが,多い人では対戦数が500回を越えています。
あとはゲームの性質上,プレイヤーが多い時間帯は継続時間も長いですね。人が多いうちにいっぱい対戦しておこうという感じですね。深夜に向かうにつれて人が少なくなると,ログインしても短時間でやめてしまう傾向が見られました。これは同じ人と連戦する確率が増えるからですね。
4Gamer:
なるほど。どれだけ多くのプレイヤーを集められるかがカギになるわけですね。
グラフィックスの代わりに必要PCスペックの引き下げなど
“捨てる”だけではなく“拾う”部分がある
4Gamer:
クローズドβテストでのアクティブ率はどのくらいだったんですか?
波多氏:
一日中ログインしっぱなしというゲームではないので,ログイン時間はほどほどですね。正確な数字ではお答えできないのですが,かなり継続度は高かったと思います。クローズドβテストでは対戦をやるほどポイントが溜まり,それだけカプセルマシンでアイテムを入手できる機会が増えるという仕様だったので,そこにワクワク感を持った方が継続してプレイしていたのかなと思います。
4Gamer:
と,おっしゃいますと?
これまでのストリートファイターだと,キャラクターを一人選ぶと使える技は固定されますよね。「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」では多少幅がありますが,それでも制約は多いです。技を出すにはさまざまなコマンド操作を身に付けなければならないので,時間をかけて一人のキャラクターを使いこなせるようになるという,いわば習熟度のゲームです。
しかしSFOでは必殺技もすぐに出せますし,そういった必殺技はアバターアイテムに紐付いているので,組み替えも可能です。つまり,今までのストリートファイターとはまったく異なるゲームなんですね。
SFOは,パーツを変えればいろんな技が出せる,この技とこの技を組み合わせたら相性がいいとか試行錯誤しているうちに,気づいたら時間が経っていたという面もあるのではないかと思います。
4Gamer:
確かに,それはいわゆる対戦格闘ゲームの楽しみ方にはない部分ですね。
波多氏:
そうですね。SFOではカジュアルで遊びやすいという先にさまざまな戦略/戦術性があって,その取捨選択を楽しめるんですよ。そこに気づいた人は,すごく長く遊んでくださっています。今までのストリートファイターにはないゲーム性を見いだせたかなと思います。
4Gamer:
見た目はなじみのある対戦格闘ゲームでも,実はゲーム性のキモの部分はまったく異なるわけですか。
波多氏:
対戦格闘ゲームの進化というと,見た目が主ですよね。よりグラフィックスが精密/精緻になっていったり,3Dになったり。そうした中で,SFOは違うベクトルで新たな境地を見出せたんじゃないかと思っています。
当初は,他社の最新格闘ゲームと比較してSFOはグラフィックスが弱いというご指摘が多かったのですが,クローズドβテストを実施するごとにテスターの皆さんの視点が変わっていったんです。新しい遊び方に慣れたとでもいいますか。
4Gamer:
組み替えの妙を楽しむゲームであると。そうなるとやはりパーツをどれだけ用意できるかにかかってきそうですね。
波多氏:
今度はガマンモードも入りましたんで,また新たな選択肢が増えています。もちろんそうした組み合わせはどんどん増やしていく予定なので,膨大なバリエーションから,自分にあったスタイルを見つけ出すための試行錯誤もより楽しめると思います。そのバリエーションは,時間をかけてゲームをやり込めば揃えられますし,またお金で買うことも可能です。
SFOは,いろんな要素を取捨選択した結果,できているゲームなんです。“捨てた”ものも山ほどあります。グラフィックスは捨てたものの中の一つですが,捨てたことによってプレイできるPCのハードルが下がるというところを拾っています。まあ,実際に見た目がしょぼいといわれるとへこんでしまうのですが(笑)。
また波多がいったような,別の遊び方に広げることもできました。パーツの組み替えで見た目が変わるので,たとえば「こんなの春麗じゃない!」という人も出てくるでしょう。見た目にこだわるというのは,我々があえて“捨てた”部分で,代わりにゲーム性を追求しましょうということですね。
マウスの件もそうです。ゲームパッドやキーボードを使えば,より格闘ゲームに近い操作感覚でプレイできますが,ゲームパッドを持っていない人はプレイするために追加でお金がかかってしまいます。キーボードだと操作に使うキーを覚えなければならない。しかしマウス操作なら気軽に遊べます。いずれも,より多くの人に遊んでもらうために取捨選択した結果です。
4Gamer:
なるほど。ただ捨てるだけではなく,代わりに拾うものが必ずあってこその取捨選択なんですね。ちなみに,グラフィックスを捨てたという部分ですが,なぜキャラクターをフィギュアにしたのでしょうか?
ストリートファイターのキャラクターをそのまま使って組み替えをすると,「何これ?」って話になっちゃいますよね。モラル面での心情的/感情的な部分もありますし,それでフィギュアにしたんです。
あと,ここまで語っておいてなんですが,組み替えの面白さについては,僕らは“裏”の要素だと考えているんです。一番伝えたいのは,やはり気軽に楽しんでもらえる部分ですね。奥にある裏の部分は,あまりウリにはしたくないんです。
フィギュアの話が出たついでに宣伝ですが,海洋堂さんの「リボルテック」シリーズはすごく出来がいいんですよ。
4Gamer:
そういえば,フィギュアも発売予定があるんですよね。そちらでは,ゲーム内アイテムのマグロの頭などもフィギュア化されたりするんですか?
波多氏:
それは海洋堂さんといいますか,フィギュアを作ってくださる方次第ですね。例えば春麗ですと,もともとの春麗が持っていた魅力を詰め込んだものに仕上がっていますから。SFOにおける組み替えの面白さとは,また別のエンターテイメントだと捉えてください。
ライトなプレイフィールの裏に隠された
奥深い“パーツ組み替えの妙”
4Gamer:
組み替えが面白いのは理解できるのですが,昨今のオンラインゲームでは見た目にこだわる人も増えていますよね。グラフィックスの質もそうですが,それより見た目の統一感や,もっといえば格好よさや可愛らしさなどに重点を置いている人もいます。今後もそうした需要を切り捨てていくのは,少々疑問があるのですが。
内田氏:
クローズドβテストではデフォルトキャラにこだわって,着せ替えすらしない人もいましたが,同じキャラクターのパーツでもアバターアイテム,つまり洋服を数多く用意しました。春麗一筋で行くという人であっても,春麗のパーツでスーツや「ストリートファイター ZERO」のジャージを用意していますので,そういったこだわりがある人でも楽しめると思います。
波多氏:
あと,パーツによって実はパラメータが異なるんですよ。たとえばテイランなら,通常のパーツとスク水(スクール水着)を用意していますが,スク水のほうがスピードが高いんです。つまりテイランのパーツだけを使っていても,飛び抜けてスピードを速くするなど,差別化することが可能なんです。視覚的な違いだけでなく,実は一つ一つがアクションゲームの要素として紐付いているんですね。まあ,これも奥にある楽しみ方の一つなんですが。
内田氏:
そこらへんも試行錯誤してほしいところですね。とにかく勝ちたいという人もいれば,見た目が可愛くないとダメという価値観の人もいると思います。我々は見た目/必殺技/パラメータを持ったパーツを用意しますので,どこに重点を置いてSFOを遊んでいくかは,プレイヤーの皆さんに選んでいただきたいということですね。
4Gamer:
組み替えの縛りはプレイヤー次第であると。
内田氏:
そうですね。まあ,春麗にテイランの腕を付けるといったように,女性キャラ同士ならあまり違和感はありません。むしろ,これもありだという意外な組み合わせも出てくると思います。
波多氏:
今のところ,パーツはオリジナルのものだけで300種類はあります。テクスチャやパラメータを変えたりすることで,さらにバリエーションは増えます。また同じパーツに見えても,こっちのカプセルマシンとあっちのカプセルマシンで微妙にパラメータが違ったり。たとえば,よく見るとパーツにテントウムシのマークが入っているとスピードが速いとかですね。
4Gamer:
何かしらヒントとなる要素が見えるということですか。
波多氏:
そうですね。それは調整次第なんで,僕らのセンスに任せていただくということで。
内田氏:
SFOは格闘ゲームというよりもカードゲームに近いかもしれませんね。自分のプレイスタイルに合わせてデッキを組んでいくような感覚で,キャラクターを組み替えていくような。
波多氏:
カードは平面ですが,SFOはキャラクターなのでより自分の嗜好を反映しやすいですね。より美学を投影しやすいといいますか。美学を持って臨むと,SFOはより楽しくなるかもしれません。
コミュニティ強化に主眼を置いた
“前夜祭”以降の中長期的な展開
4Gamer:
聞けば聞くほど,SFOはいろんな楽しみ方の隠されたゲームであると思えてきますね。
波多氏:
SFOは,初期の段階から「オンラインエンターテイメント」といってるんです。これは語呂がいいからそうしているんだろうと思われがちですが,実はゲーム性だけでなくもっとさまざまな形で楽しむためのゲームであるという意味を込めているんです。
4Gamer:
ただメインとなっているのは,やはり単純な1対1の対戦です。それだけではいずれ飽きが来ると思うのですが,中長期的な展望ではどのように考えているのでしょうか?
波多氏:
非常に優等生的な回答をするならば,そこはプレイヤーの皆さんと一緒に作り上げていきたいですね。これは本気で思ってまして,前夜祭で実装される「俺の部屋」の中に「俺のギャラリー」という要素があります。そこには自分の気に入った組み合わせを飾ることができて,名前を付けられます。ほかのユーザーがコメントを付けることもできて,どんどん話を広げていくこともできます。
4Gamer:
いわゆるコミュニティ要素の強化ですね。
波多氏:
ゆくゆくはフレンド機能などを拡張して,ゲーム内SNSのような機能を持たせる計画もあります。またユーザージェネレイト機能を持たせて,自分でアバターアイテムを作ってアップできるようにしたりとか。あとはリプレイ機能ですね。自分の対戦でのパフォーマンスをムービーとして再生して,他人に見せることができるんです。
内田氏:
対戦格闘ゲームには見せるプレイの美学と,上手いプレイを見る楽しさがあると思うんですよ。
4Gamer:
なるほど。アーケードの対戦格闘ゲームではギャラリーに「魅せる」プレイといった考え方もありますし,需要は高いかもしれません。
波多氏:
そのほかにも2対2の対戦ですとか,PvEの協力プレイなども考えています。たとえば,4人で巨大な春麗と戦うとかですね。
4Gamer:
それこそ「モンスターハンター」みたいですね(笑)。
あとはシングルプレイのストーリーモードですね。すべての人がオンライン対戦だけを望んでいるわけではないですから,対CPU戦や協力モードも用意します。
そうなると,じゃあ誰と協力するの? って話にもなりますから,当然その前段階としてフレンド登録やいわゆるギルド機能を導入します。今回の前夜祭で実装するギャラリーは,その先駆けですね。
波多氏:
リプレイを盛り上げるために,前夜祭では「ふきだし」も実装します。自分の好きな言葉を入れて対戦中に表示させることができます。
内田氏:
吹き出しの種類もいくつかあるのですが,ふきだしは12行分あるのがポイントです。オンラインゲーム初の試みじゃないかと思うのですが,大きめのアスキーアートを入れることも可能です。
4Gamer:
アスキーアートも使えるとなると,対戦はもちろんリプレイも盛り上がりそうですね。ちなみに,ふきだしは何種類くらい作れるのですか?
内田氏:
10種類まで設定できて,1〜0の数字キーに対応しています。対戦中にキーを押すと,ボッコーンと表示されます。使い方によっては簡単な会話もできます。
波多氏:
戦略説明会で発表したカットイン機能も,前夜祭以降に実装しますよ。
4Gamer:
初心者向けのチュートリアルなどはどうでしょう?
最初の30対戦を終えるまでは「強さレベル」が変動しない「初心者モード」を用意しました。また正式サービスからは,日本人が好む「自己実現」の考え方を反映した級位/段位を導入します。級位はパンチ/キックを出すだけ,マウスをガチャガチャやるだけでも取れて「何だ,簡単じゃん」という感じですが,段位になると難度が上がります。例えば,他人と対戦したことがない人はクリアするのが難しいレベルです。そうすると知らない人と戦いたくないという人であっても,自分の段を上げるための修行の場としてマッチング対戦を捉えて,参加するようになると思います。
4Gamer:
なるほど,それなら確かに対戦への抵抗感を減らすことができるかもしれません。他人に勝つためのチュートリアルではなくて,シングルプレイで段位を取るために他人と対戦して練習するという逆の考え方ですね。
波多氏:
そうやって自分のステータスを高めていくうちにプレイヤースキルも付いてきて,あとから「ああ,チュートリアルだったのか」と気付くみたいな感じにしたいですね。このシステムなら,「対人対戦は嫌だ」という人でも比較的親しみやすくなるかと思います。
また,ある程度の級/段を取ると賞状が発行されてギャラリーに飾ることができます。このシステムは強制ではないので,無視してどんどん対戦するのももちろんありです。
そういったようにゲーム性以外の部分も強化していきます。今のSFOは,まだまだ構想を実現できていませんから。実現していない部分については,プレイヤーの皆さんの声を聞きながら作り上げていきたいんですよね。実際にゲームをプレイして,もっと面白くなるアイデアをどんどん僕らに投げてほしいんです。みんなで考えて,反映できるものはみんなでシェアしましょうと。
4Gamer:
なるほど。そのほか,直近の前夜祭で実装されるものとしては何があるでしょう?
パーツを選んで購入できる「人形屋」が実装されます。あとはユーザーインターフェイス周りが変わりまして,用語がかなりぶっちゃけた分かりやすいものになります。基本は日本語で,例えばローディングという言葉を「パソコンちゃんがはたらいてます」といい換えたり。まあ「面白くない」という意見が多ければさらに変更しますが,まずは僕らの方からそういった形で提供してみるわけです。
先ほどお話したSNS化も同じですね。まずは俺の部屋と俺のギャラリーで始めて,ユーザーの反応を見ながら「こういった機能がほしい」などの要望を後々反映させていく予定です。最初にバーンと完成形を出すのではなく,小出しにして反応を見ながらよりよいものを充実させていく方法です。
カプコンのタイトルだけじゃなく他社タイトルからも
SFOに参戦するキャラクターも登場するかも?
4Gamer:
新キャラクターはどうでしょう?
金庸さんの作品から「バイチョウフ」というキャラクターが登場します。グラマラスな女性ですが,頭を掴んでゴーンと投げるようなえげつない技を使います。
内田氏:
これは前夜祭開始直後からではなく,途中から実装予定です。
4Gamer:
バイチョウフを使うには,カプセルマシンでパーツを揃えなければならないのですか?
内田氏:
基本はそうですが,人形屋で買うこともできます。
4Gamer:
バイチョウフ以降の予定はどうでしょう?
内田氏:
暑い盛りにストリートファイターシリーズのキャラクターが一人追加されます。頭がホウキみたいで,よく待っている人ですね。
4Gamer:
ストリートファイターシリーズで有名なあの人がいるんですね(笑)。
そのほか,カプコンのほかのタイトルや他社タイトルで人気の高いキャラクターなども,積極的に推進する予定です。ゲームに限らずアニメとか,予想もつかないようなキャラクターがSFOに出ることもあるかもしれません。
4Gamer:
おお,それは楽しみですね。ぜひ実現してほしいところです。ちなみに,正式サービス以降,有料アイテムはどうやって購入するのでしょう?
波多氏:
前夜祭では,ゲーム内ポイントが使えます。正式サービス以降は,ダレポを購入していただくと,カプセルマシンと人形屋で使えるという形になります。
4Gamer:
となると,正式サービス以降のゲーム内ポイントの使い道はどうなるのでしょう?
波多氏:
壊れかけの自動販売機コーナーが実装されます。裏道にひっそり置いてあるような,ちょっと怪しげなヤツみたいな感じです(笑)。
内田氏:
基本的には,ダレポでもゲーム内ポイントでも同じものが手に入るよう設定しています。
正式サービスは7月上旬に開始する予定なのですが,当面は毎週のように何かしらアップデートを続けていこうと考えています。そしてアップデートしたものに対して逐一アンケートを取り,ユーザーの反応を確かめていきます。
4Gamer:
手間のかかる作業ですね。
やはり,そこは手間暇かけていかないといけない部分ですから。カットイン機能などは1月の戦略説明会で発表してまだ実装していませんが,それも反応を見ながら導入時期をうかがっているところです。正式サービスから3か月くらいはそんな感じですね。
そういえば,前夜祭から対戦ランキングもWebで表示できるようになりますよ。
4Gamer:
ランキングはゲーム内の俺の部屋から確認できるのですか?
内田氏:
ゲーム内でリアルタイムでの反映だと,現時点ではまだちょっと躊躇しているところもあるので,今のところはSFOの公式サイトで,定期的に更新するという形です。
波多氏:
最終的には,ゲーム内でも確認できるようにしたいですね。
ゲーム内広告,海外進出とさらに広がるSFOの展望
4Gamer:
戦略説明会といえば,ゲーム内広告のお話に興味を持ったのですが,現時点ではどうなっているのでしょう?
波多氏:
前夜祭からはログイン/ログアウト時に表示されるようになります。
まあ,まだ自社広告を入れている段階ですね。今後は対戦ステージなどにも入っていく予定です。
波多氏:
ある程度データが蓄積してきたら,例えば初心者と200勝以上している人では別の広告が表示されるようになったりとかも考えています。
4Gamer:
それはもうシステム的に実現可能なんですか?
波多氏:
ええ。ただ,一つ一つ検証しながら進めたいので,今の時点ではまだ使っていないということです。
4Gamer:
戦略説明会では海外への進出,特に金庸作品のキャラクターを使って中国圏にアピールするというお話でしたが,具体的に進んでいるのでしょうか?
波多氏:
ええ,海外進出については,稲船以下,積極的に打ち出していこうと考えています。水面下ではいろいろやっているのですが,もう少ししたら具体的に発表できると思います。
4Gamer:
今日のお話を聞いていると,SFOは非常に日本人向けに特化して作られているように感じました。それが海外進出の障害になったりしませんか?
波多氏:
それはもちろん,その国に合わせた展開をしていきます。韓国や中国では,何が何でも勝ちたいという空気が強くなりますから,それに合わせて有料アイテムを調整したりとかですね。
あ,ついでというわけではないのですが,海外云々に関連していうならSFOは完全なメイド・イン・ジャパンです。そうでないと,ここまで日本人向けに作ることはできないですよ。
4Gamer:
それでは最後に,SFOを楽しみにしている人たちと4Gamer読者にメッセージをお願いします。
SFOは一見すると純然たる格闘ゲームですから,どうしても初心者は手馴れた人に勝てないんじゃないかというイメージがあります。ところがSFOのアンケートでは,格闘ゲームに慣れているはずの人であっても,初心者とほぼ同じくらいのプレイヤースキルであるという結果が出ました。SFOは,初心者の方が気後れすることなく始められる格闘ゲームとしてお勧めできると思います。
さらにSFOの場合,既に大きな箱はできあがっていますので,ユーザーに継続していただくためのイベントを実施や,全くゲームを知らない層にもアピールしていきたいと考えています。最近は物騒な事件も多く,ゲームが関連付けられてしまうこともありますが,お母様方に「SFOなら安心ね」といわれるくらいの手厚いサポートを目指しています。
また前夜祭でもアンケートを実施します。お答えいただいた方には,抽選で豪華プレゼントがありますのでぜひ参加してみてください。
内田氏:
まずは多くの方々に遊んでいただきたいです。我々はそのレスポンスをゲームに反映していきます。SFOを一緒に作っていくという気概で頑張っていきますので,ぜひとも一度遊んでみてください。
3回目のクローズドβテストを終えた時点で,何かしら掴めた感じがしました。大きな確証というわけではないのですが,アンケートやユーザーの一生懸命な書き込みを見ているうちに,何となく「これは!」と思えるものがあったんです。適当に書いている意見なんて全くないんですよね。なので,そういう部分を大事にしてSFOをいい方向に持っていきたいと考えています。
戦略局 局長の立場からいわせていただくなら,稲船の言葉にもあるように,ダレットは新しいことにチャレンジしていく会社です。SFOもダレットワールドもそうですが,常にチャレンジをしています。その中でユーザーからお叱りを受けたり,あるいは拍手されたりということがありますが,一つ一つを真摯に受け入れていく姿勢を大事にしていきたいですね。そういうスピリットでSFOも運営していきたいということです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
また最後に,前夜祭を控えて多忙を極め,残念ながらインタビューに出席できなかったテクニカルディレクターの三澤 剛氏からもメッセージをいただいたので掲載しよう。
三澤 剛氏:
マウスで動かせる格闘ゲームは非常に新しい試みですから,ぜひ体験してほしいです。僕自身,格闘ゲームは初心者レベルなんですが,そういう人でもみんなと一緒に楽しく遊べるストリートファイターを目指していますので,ぜひ楽しんでください。SFOはユーザーの皆さんと一緒に作り上げていくゲームです。
SFOについてのインタビューは,1月29日の記事以来の掲載となる。3回のクローズドβテストを経て,ガード/カウンター/投げといった“対戦格闘ゲームらしさ”が加わって,ゲームのシステム的に深みが増し,テスターにもおおむね好意的に受け取られているようだ。また,パーツの組み替えでキャラクターが使える必殺技が変わるという“組み替えの妙”が,既存の対戦格闘ゲームにはないひと味違う面白さを生み出しているのかもしれない。今後キャラクターのパーツがさらに増えていけば,その組み合わせは無限大に広がるといえる。
ただ,技の組み合わせが豊富になればなるほど,パブリッシャ側がその組み合わせすべてを検証できない可能性が出てくるため,いわゆる「ハメ」の対策が重要になってくるだろう。特定のパーツの組み合わせが異常に強いとなれば,基本的に対戦格闘ゲームというスタイルを取っている以上,勝つためにその組み合わせを選ぶプレイヤーが多くなるのは避けられない。同じパーツの組み合わせで同じ戦法を取る対戦相手ばかりになって勝てないとなってしまうと興がそがれるし,SFOがターゲットにしているライトなゲーマー層も離れていってしまうだろう。このような状況にならないよう,開発陣の手腕に期待したいところだ。
ともあれ,6月11日から7月上旬まで前夜祭としてオープンβテストが実施され,クローズドβテストに参加できなかった人もSFOをプレイできる。このインタビューを読んで本作に興味を持った人は,まずは一度プレイしてみてほしい。
「ストリートファイター オンライン マウスジェネレーション」公式サイト
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