連載
デュアルダイ(デュアルGPU)仕様グラフィックスカード「GeForce 9800 GX2」のリリースからわずか2週間。日本時間4月1日10:00PM,NVIDIAはGeForce 9シリーズ初のハイエンド向けシングルGPU「GeForce 9800 GTX」を発表した。GeForce 9800 GTXは,言ってしまえばGeForce 9800 GX2のシングルGPUモデルという位置づけだが,NVIDIAの置かれている状況を示す材料として非常に示唆的な存在だ。
GeForce 9800 GX2の単体GPU版となるため,GeForce 9800 GTXが持つ3Dグラフィックスコア部分の基本設計(アーキテクチャ)は「GeForce 8800 GTX」と同じ。汎用シェーダユニット「Streaming Processor」(以下,SP)を128基有する,DirectX 10/プログラマブルシェーダ仕様4.0(Shader Model 4.0,以下SM4.0)のGPUとなる。製造プロセスルールは65nmで,GeForce 8800 GTで初めて採用された「G92」コアを採用する,都合5製品めのGPUだ。NVIDIAによる想定売価は299〜349ドルなので,GeForce 9800 GX2の40〜50%程度ということになる。
GeForce 9800 GTXを特徴付けているのは,その高い動作クロックである。具体的には,コアクロックが675MHz,シェーダクロック1.688GHz,メモリクロック2.2GHz相当(実クロック1.1GHz)で,GeForce 8800/9800シリーズを通じて最も高いクロックとなっている(表)。
※ GPU 1基当たり
カード全体の消費電力は公称156Wで,GeForce 9800 GX2の197Wと比べるとかなり低い。まあ,GPUの数が少ないのだから当然ではあるのだが。なおNVIDIAいわく「システム電源は450W以上を推奨する」とのこと。
G92コアという点から想像できるように,接続インタフェースはPCI Express 2.0 x16。リファレンスデザインで採用されるGPUクーラーは2スロット仕様だ。カード長はGeForce 9800 GX2やGeForce 8800 GTXと同じ268mm(突起部除く)で,かなり長い。装着するとマザーボード上の各種コネクタを“横断”することになるだろう。
Intelの最高性能CPUを購入するより2-way SLIのほうがコストパフォーマンスは高いとか,3-way SLIではこんなにフレームレートが上がるとかアピールするNVIDIA。しかし,GeForce 8世代とのパフォーマンスを比較したスライドはない
NVIDIAはGeForce 9800 GTXを「GeForce 8800 GTXの置き換え」と位置づけるが,実効性能に関するコメントを求めると,とたんに歯切れが悪くなる。同社の公式コメントは「GeForce 8800 GTXより10%高速なときもあれば,遅いときもある」とのことだが,これは,同じアーキテクチャを採用し,同じSP数のGPUコアであっても,グラフィックスメモリバス幅が異なるためだ。
GeForce 9800 GTX(=G92)が256bitに対して,GeForce 8800 GTX(=G80)は384bit。動作クロックで100MHz以上下回るGeForce 8800 GTXだが,グラフィックスメモリバス幅が広いため,フィルレート性能ではGeForce 9800 GTXを大きく上回ってしまうのだ。そのため,NVIDIAもGeForce 9800 GTXのパフォーマンスを強くはアピールできず,実際,報道関係者へ事前に配布されたプレゼンテーション資料にも,GeForce 9800 GTXとGeForce 8800 GTXの性能比較は示されていない。
NVIDIA SLI(以下,SLI)については,2-way/3-wayをサポート。2-way SLI時に1.5〜1.7倍,3-wauy SLI時には2.3〜2.5倍の性能向上が期待できるとされている。
このほか,「Hybrid SLI」「PureVideo HD」両対応というのは,GeForce 9800 GX2と同じだ。Hybrid SLIを構成する「GeForce Boost」と「Hybrid Power」のどちらもサポートされるが,GeForce Boostでグラフィックス機能統合型チップセットと“コラボ動作”しても性能差がありすぎて効果が期待できないため,対応チップセットにおいて3D描画負荷が低いときにグラフィックスカードへの電力供給をカットできるHybrid Powerのみが有効とされている。
PureVideo HDに関しては,GeForce 9世代でサポートされる新機能をすべてサポートする。新機能の詳細については2008年2月8日の記事「ゲーマーのための『PureVideo』発達史,2008年初頭版」を参考にしてほしい。
GeForce 9世代でサポートされるPureVideo HDの全フィーチャーをGeForce 9800 GTXはサポートする |
2週間前に掲載したGeForce 9800 GX2の解説記事のまとめで,筆者は「NVIDIAは,同一コアで広いグラフィックスカードのラインナップを展開し,利益回収率を向上させたい思惑がある」と述べた。今回のGeForce 9800 GTXの登場は,まさにこの戦略をさらに推し進めた結果といえる。
GeForce 9800 GTXは,「ATI Radeon HD 3870 X2対抗」として,GeForce 8800 GTXを置き換える。もっとも総合的に考えて,パフォーマンスポテンシャルはむしろGeForce 8800 GTXのほうが上といえそうだが……
GeForce 8シリーズとWindows Vistaの登場によって幕を開けたDirect3D 10/SM4.0だが,2008年の第2幕となるDirectX 10.1/プログラマブルシェーダ4.1(以下,SM4.1)世代ではAMDがいち早く対応。DirectX 10.1/SM4.1対応GPUとしてATI Radeon HD 3000シリーズを展開し,DirectX 10/SM4.0対応の従来製品から型番を“+1000”してきた。
その点,NVIDIAはDirectX 10.1/SM4.1には移行しない考えを打ち出したため,本来であれば製品型番を変更する必要はないのだが,マーケティング戦略的には競合の“+1000”に対抗せざるを得ない。どうしても,GeForce 8シリーズの“次”が必要だったのだ。アーキテクチャレベルではG80から代わり映えしないG92コアをGeForce 9800/9600シリーズとして投入してきた理由は,おそらくここにある。
そもそも,G92コアという名前もおかしい。3Dアーキテクチャレベルで変わっていない以上,本来は“G8xコア”と呼ばれるべきだ。これは,市場――OEMとなるカードベンダーやPCベンダー――から望まれて付けざるを得なくなったGeForce 9世代の製品型番とバランスを取るため,後付けされた製品コードネームと見るほうが自然である。実際,報道関係者向けの資料でも,GeForce 8シリーズまではG8xやG7xといったコードネーム入りの資料が多かったのだが,GeForce 9世代では,まるで箝口令が布かれたかのように語られなくなっている。こちらから確認すると,「アーキテクチャレベルではGeForce 8800 GTと同じだ」といった,歯切れの悪い回答が返ってくる状態だ。
こうしたマーケティング事情というか,開発コードネームにまつわる混乱は過去にもあった。それは,GeForce 6シリーズまでは「NVxx」と“NV型番”で語られてきた開発コードネームが,GeForce 7800で突然「G70」と,“G型番”へ変更されたときだ。GeForce 7800とGeForce 6800は同一のアーキテクチャを採用していたが,マーケティング的側面から“次世代”になって“+1000”し,開発コードネームも一新することでイメージの仕切り直しを図ったのだ。
2008年のグラフィックスカード市場において,ユーザーには「DirectX 10.1かDirectX 10か」という選択が突きつけられることになる。そして「DirectX 10までの対応でいいや」とGeForceファミリーを選択するときにも,4Gamerなどのベンチマークテスト結果をよく見て,型番の大小に惑わされず判断しなければならないだろう。
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