レビュー
帰ってきたデュアルGPU版GeForceは,ハイエンドゲーマーの食指を動かせるか
WinFast PX9800 GX2
» 「GeForce 7950 GX2」以来となる,NVIDIA“純正”のデュアルGPUソリューション,「GeForce 9800 GX2」。製品型番からも分かるとおり,GeForce 9世代の最上位モデルとして位置づけられることになるが,単体でSLI動作するカードには,ハイエンドカードとして,どこまで期待が持てるだろうか。宮崎真一氏が分析する。
もはやこれはカードではない!?
意外と静かな“グラフィックスボックス”
カードを“真後ろ”から覗き込んでみると,ボックスの両端にカードが置かれていると分かる |
カードを裏返してもカバー付き。SLIブリッジコネクタには着脱可能なカバーが取り付けられている |
この“ボックス化”は,どうやらエアフロー制御を徹底した結果のようで,意図しないところにエアフローが生じてしまわないようにしたと思われるNVIDIA SLI(以下,SLI)ブリッジコネクタ部のカバーなどには,ユニット内エアフローに対するNVIDIAのこだわりが見て取れる。
ただ,DVI-Iインタフェースの脇に設けられたスリットを利用した外排気仕様かと思いきや,実際のところ,熱のほとんどがボックス側面のスリットからPCケース内部に放出される仕様になっているのは(何か冷却面での意図があるのだろうが)あまり気分はよろしくない。実際に使うときには,グラフィックスカードの周囲に熱が籠(こ)もらないよう,PCケース内のエアフローに気を配る必要を感じた。
もう一点注意すべきは,二つあるDVI-Iコネクタのうち,プライマリのデジタル/アナログRGB出力は,PCI Express x16スロットを持たないほうのカード(=PCB)になる点だ。WinFast PX9800 GX2の場合,プライマリ出力に「1」,セカンダリに「2」と表記されていた。
XP用ドライバの提供がなかったため
Windows Vista Service Pack 1ベースで検証
比較対象として用意したのは,GeForce 9800 GX2と同じく2GPU構成を採るATI Radeon HD 3870 X2と,GeForce 8世代のウルトラハイエンドモデル「GeForce 8800 Ultra」「GeForce 8800 GTX」の計3製品。前者はMSIのクロックアップモデル「R3870X2-T2D1G-OC」であるため,リファレンスクロックまで動作クロックを落として利用している。
また後二者に対してはGeForce 9800 GX2用ForceWareドライバが当たらなかったので,公式βの最新版「ForceWare 169.44 Beta」を利用した。テストのベースとなるマザーボードはPINE Technology(XFX)の「nForce 790i Ultra SLI」マザーボード「MB-N790-IUL9」だ。
R3870X2-T2D1G-OC クロックアップ版のデュアルGPUカード メーカー:MSI 問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン TEL:03-5817-3389 実勢価格:6万4000円前後(2008年3月18日現在) |
R3870X2-T2D1G-OCとWinFast PX9800 GX2を並べてみた。カード長は267mm(※突起部除く)で同じだ。ちなみにATI Radeon HD 3870 X2カードは1020gだったが,GeForce 9800 GX2カードは1085gとさらに重い。装着時にはマザーボードに負担をかけないよう,しっかりとケースに固定しよう |
このほかテスト環境は表のとおり。以下,とくに断りのない限り,製品名ではなく,「GeForce」「ATI Radeon HD」を省略したGPU名で表記を行う。
高解像度&高負荷設定時のスコアが優秀
ドライバの完成度に起因すると思われる問題も
まずグラフ1,2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。同ベンチマークのデフォルトとなる,「標準設定」の1280×1024ドットだと9800 GX2と3870 X2のスコアはほぼ互角。だが,それよりも解像度が上がったり,「高負荷設定」となって描画負荷が上がったりすると,両者の差は次第にはっきりしてくる。もともとATI Radeon HD 3000シリーズは高負荷設定にそれほど強くないが,総じて9800 GX2のほうが地力に勝るといったところか。GeForce 8世代のハイエンドカードに対しては,さすがにSLI動作,一線を画したスコアだ。
ゲームアプリケーションのテスト結果を見ていこう。上で述べたとおり,FPS「Crysis」のGPUベンチマーク「Benchmark_GPU」を,DirectX 9モードで実行した結果をまとめたのがグラフ3,4である。このクラスのグラフィックスカードだと,さすがに標準設定の1024×768ドットではCPUボトルネックが見られるものの,1280×1024ドット以上ではほかを圧倒。1920×1200ドットでは8800 Ultraに対して1.5倍以上,3870 X2に対しても1.3倍以上のスコアを叩き出している。
ただ,その流れで行くなら高負荷設定ではさらに優位性が高くなるはずなのだが,なぜか1600×1200ドット以上でスコアが急激に落ち込んでしまう。
DirectX 10モードのPlaydemoを利用して行ったテストは,Benchmark_GPUをさらに極端にしたような結果が出ている(グラフ5,6)。標準設定では1024×768ドットからほかを圧倒する一方,高負荷設定ではまったくスコアが上がらないのだ。先のおかしなスコアも含め,さすがにこれらはドライバの問題と思われ,早急な改善を望みたい。
続いては,Crysisよりも描画負荷の低い「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果だ。グラフ7だが,レギュレーション5.2準拠では,Windows XP環境よりもテスト結果にブレが大きく,信頼性には疑問が残った。9800 GX2のスコアは1600×1200ドットで頭一つ抜け出ており,ポテンシャルを感じさせるが,今回に限っては参考程度に留めておいたほうがよさそうだ。
さらに描画負荷の低いFPS「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)の結果をまとめたのがグラフ8,9だが,標準設定では完全にCPUボトルネックが生じてしまった。高負荷設定でもほとんど差がなく,HL2EP2クラスのゲームをプレイするに当たって,現行世代のハイエンドグラフィックスカードなら,どれも大きな差はないといったところだ。
UT3やHL2EP2から一転,大きな差がついたのが,描画負荷の非常に高いTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)である。グラフ10,11では,より実際のゲームに近い「Snow」テストの結果をまとめてあるが,マルチGPUに対応し,GeForceに最適化されているということもあって,低解像度から高解像度,標準設定から高負荷設定まで,まんべんなく9800 GX2の優位性が見て取れる。高負荷設定時に1024×768ドットで100fpsを越えている点は立派の一言。また,同設定時の1920×1200ドットにおいて,8800 Ultraに対し1.5倍弱の差をつけている点も目を引く。
最後にRTS「Company of Heroes」の結果がグラフ12,13となる。ここでも9800 GX2のスコアは優秀で,とくに高解像度や高負荷設定時に,そのポテンシャルの高さが分かる。
消費電力はHD 3870 X2と同程度
動作音は意外と静か
補助電源コネクタとして6ピンと8ピンを用意するあたり,9800 GX2の消費電力には覚悟が必要な印象だが,実際のところをワットチェッカーで計測して確かめてみよう。
今回もシステム全体の消費電力を計測することにし,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行し,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」とし,各時点のスコアをまとめたのがグラフ14となるが,9800 GX2の消費電力はやはり,かなり高いが,高負荷時の消費電力なら3870 X2と同程度,と見ることもできる。
もっとも,アイドル時の消費電力は,省電力機能「ATI PowerPlay」のぶんだけ3870 X2が有利だ。また,9800 GX2は「Hybrid Power」によってアイドル時の電力供給をカットできるのがウリだが,利用するには対応マザーボードが必要であり,総合的な扱いやすさでは3870 X2に軍配が上がる。
Hybrid Powerの有効性に関しては,対応マザーボードの登場を待って再テストする必要がありそうだ。
グラフ14の時点におけるGPUコア温度を,GPUユーティリティ「ATI Tool」(0.27β3)で測定した結果がグラフ15だ(※3870 X2だけはATI Toolから測定できないため,「ATI Catalyst Control Center」から測定している)。
注目したいのは,消費電力の高さの割に,9800 GX2のGPUコア温度がそれほど高くない点。正直,この箱のような形状には不安を感じていたのだが,いい意味で裏切られた。9800 GX2の採用する冷却システムが,かなり有効に機能していると見るべきだろう。
なお,筆者の主観になることを断ったうえで付記しておくと,ファンの風切り音は「GeForce 9600 GT」リファレンスクーラーなどと比べると多少耳につく。しかし,ウルトラハイエンドグラフィックスカードの冷却機構として見るなら,9800 GX2のファン動作音は相応に静かである。
コストを度外視するなら
選択肢としてはアリ
ただ,9800 GX2の予想実売価格は8万円台。WinFast PX9800 GX2は8万7000円前後であり,3870 X2ならリファレンスクロックモデルがたいていは6万円以下で購入できるので,「価格に見合ったパフォーマンスを得られる」とまでは言えそうにない。
その意味では――ウルトラハイエンド製品に対する“よくあるまとめ”になってしまうが――コスト度外視で最高の3Dパフォーマンスを入手したい場合に,9800 GX2は有力な選択肢となるだろう。そして,そういった人がどれくらいいるかを考えるに,9800 GX2は,ニッチな市場に向けられた製品ということになる。
※2008年3月24日追記:
SLIをサポートしないマザーボードで9800 GX2は利用できるのか。Intel P35搭載マザーボードである「P5K Premium/WiFi-AP」とCore 2 Duo E6850/3GHz,AMD 790FX搭載マザーボード「M3A32-MVP Deluxe」とPhenom 9600/2.3GHzの組み合わせで試したところ,3DMark06(1280×1024ドット,標準設定)のスコアが順に13746,9382となり,どちらも正常にSLIが機能していると確認できたことをお知らせしておきたい。
ちなみに,AMD 790FX環境でスコアが上がらないのは,Phenom 9600が足を引っ張っているためだろう。SLIを無効化してシングルGPU動作させたときのスコアは同条件で8918だった。
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GeForce 9800
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