レビュー
初心者に最適,生産から始まるターン制大戦略
大戦略Win III NET BATTLE
» 「現代大戦略200x」シリーズと共通のシンプルなルールで,ユニット生産から始まる昔ながらの大戦略のテイストを実現した「大戦略Win III NET BATTLE」を,大戦略シリーズとの付き合いもいいかげん長い田村眞治氏がレビューする。いや氏がレビューするからといって,萌えキャラなど一人も出てこないので,そこはご注意を。
シンプルで誰にでも楽しめるターン制ストラテジー
大戦略Win III NET BATTLEが採用するゲーム進行は,大戦略シリーズの原点ともいえる交互ターン制だ。各プレイヤー(陣営)が自分の手番でユニットの移動や戦闘を行い,それが終わると次のプレイヤーの手番が来るという形でゲームが進む。これはPCゲーム以前,つまりボードゲーム時代から使われてきた,古典的なスタイルである。
もちろん,現実の軍隊が敵味方順番に動くわけはないのだし,リアリティの点で交互ターン制には大きな欠陥がある。それゆえ,それが生じないリアルタイム制のほうが優れているように想像しがちだが,実はそうではない。RTS的な意味でのリアルタイム制では,ユニットに指示を与える手際が勝敗を分ける大きなファクターになる。それはそういうゲーム性であってかまわないのだが,純然たる「思考ゲーム」でないのは事実。これに対してプロット制や交互ターン制であれば,プレイヤーの立てた作戦が“手の速さ”に左右されることなく実現できる。
そして,地上/海中/低空/高空などといった高度の概念や索敵概念は,ターン制の枠内でなるべくリアルな展開を目指すための付加的要素とまとめられる。そうした要素を盛り込みつつも,操作が煩雑にならないように工夫された大戦略Win III NET BATTLEは,ストラテジーゲームの持つ最もシンプルな魅力を前面に立てることで,初心者にも親しみやすい作品になったといえる。
またネットワーク対戦機能もあり,インターネットを介してほかのプレイヤーとの対戦も可能だ。ネットワーク対戦では,通常ルールのほかに,操作に時間制限と操作できるユニット数の制限を設けてスピーディに対戦できるようにしたルールも,利用できる。
戦闘だけでなく,生産こそが大きなポイント
大戦略シリーズ伝統のマップである「アイランドキャンペーン」も,もちろん収録されている。ひょうたん形の島のくびれた部分を素早く確保し,いかに相手領内に侵攻するかがポイントになるマップだ |
都市の占領は自陣営の収入を増やす有効な手段だ。より多くの都市や工場を占領することでターン開始時に入ってくる資金が増え,それだけ高価なユニットの生産が可能になる |
行動フェイズではユニットの移動や戦闘,各種施設の占領などを行う。各ユニットは移動後に,敵ユニットへの攻撃や都市の占領などが可能だ。例えば都市を占領すれば収入が増え,基地を占領すれば補給や補充が可能になる。戦闘で他陣営のユニットを撃破することも大切だが,大戦略では都市や基地を占領することで,自軍の勢力を拡大するのが重要だ。より高価なユニット,より多くのユニットが生産可能になり,自陣営が有利になるからである。また,例えば自陣営の首都と敵陣営との中間地点あたりにある空軍基地などは,航空機の運用に欠かせないため,侵攻の足がかりとして重要になる。ここをどう占領し,維持するかが戦況を大きく左右するだろう。
都市などに部隊を収納すると,ヘックスの上に小さな三角のマークが表示される。このマークをクリックすると,そのヘックス内に収納されている部隊の一覧が表示されるようになっている |
都市に収容されていると,ターン開始時の補給/補充フェイズで,弾薬の補給や兵器の補充を受けられる。損害を負ったり弾薬が切れたりした部隊は,これらによって前線に復帰できる |
戦闘では,ユニットが持つ複数の武装から利用するものを選べる。残弾数や効果などを考えて,適切な武装を選びたい |
戦闘ではこのようにそれぞれのユニットが同時に攻撃を行い,結果が表示される。大戦略シリーズ伝統の描写である |
各マップ共通の勝利条件である「自分以外の陣営の首都を占拠する」「敵軍のユニットをすべて撃破する」のいずれであれ,充たすためには,敵陣営の施設を占拠して彼我の形勢を有利に導く必要がある。邪魔な敵ユニットを直接排除する手段が戦闘だ。
戦闘には,隣接したユニット同士で起こるもののほか,砲やミサイルで離れたヘックスから一方的に攻撃できるケースもある。対空装備を持たない相手を航空ユニットで攻撃すれば,反撃を受けることもなく一方的に叩ける。
地上部隊に対して絶大な威力を発揮するMBT(主力戦車)も,攻撃ヘリや攻撃機による空からの攻撃には弱いのだ。戦闘では,このような兵科ごとの特性と相性を把握し,効率よく進めるのがポイントである。
本作では移動と戦闘を1ユニットずつ処理していくため,先に行った戦闘の結果を受けて次のユニットの行動を決められる。例えば都市に立て籠もる敵を排除してから,そこに歩兵を送り込んで迅速に占領したいとき,1回の戦闘で排除しきれなかったら,別のユニットを動かして2回目の攻撃を試みることになる。結果の不確定部分を織り込んで作戦を立てることが重要になるのだ。
これがもし現実の戦闘だったら,各部隊がどう動いたことになるのか少々疑問は残るが(このゲームに複数ユニットによる一斉攻撃はない),ターン制ストラテジーの基本精神である,シンプルな考え方の組み合わせでより高度な目標を達成するという路線には,沿ったものといえよう。
こうしてユニットの行動が終わったら,次は生産フェイズになる。首都や近隣の都市,工場や各基地で新規ユニットの生産が可能だ。各ユニットには生産にかかる資金が設定されており,所持金の範囲で生産する。資金が比較的豊富な序盤にどれだけ効率よくユニットを揃え,自軍を展開させるかが戦局を分ける。そして中盤以降は相手の出方に合わせて生産するユニットを決め,相手の攻勢をしのぐなど,プレイの中で生産が占める重みはかなり大きい。
さまざま兵器の特徴を掴み,どう使うかが決め手
生産タイプはアメリカ,ロシア,ドイツ,イギリス,フランス,イタリア,スウェーデン,イスラエル,インド,中国,韓国,日本の12種類 |
独自の生産タイプを設定することや,既存の生産タイプに手を入れることも可能。現在計画中のF-X(F-4EJの後継)で,噂に上がっているタイフーンを,日本の生産タイプに組み込んでみたところ |
ユニットにはそれぞれ得手不得手があり,弱点を補い合わせるべく組み合わせて利用するのが良い。例えば都市の占領には歩兵など,占領能力のあるユニットが必須なものの,歩兵は移動が遅い。前線に素早く到着させるためには輸送トラックやAPC(装甲兵員輸送車),輸送ヘリなどに載せる必要があるのだ。また,前線近くの都市を占領するまでは手近で燃料や弾薬の補給ができないため,序盤では補給部隊も重要になる。
また,航空機は空港や空母などに格納されているときを除いて,たとえ移動しなくても燃料を消費する。燃料がなくなると墜落してしまうため,空港を確保しておかないと運用自体が困難だ。
マップの地形や都市の配置などを確認し,どんな兵器をどのように使って戦いを進めていくのがよいか。つまり作戦を一からじっくり考えて戦いに臨めるのが,このゲームの魅力と言ってよい。
一方ネットワーク対戦としては,LAN内のほかのPCとの対戦や,インターネット経由での対戦が可能だ。また,ネットワーク上で同時に対戦するのでなく,自分のターンを自分の好きなときにプレイし,メールをで互いに結果を送り合って進める,いわゆる「Play by mail」での対戦も可能だ。
最初にも述べたが,近年の大戦略シリーズはいくつかの系統に分かれて作品がリリースされており,3月14日にはこの大戦略Win III NET BATTLEと比べて,さまざまなファクターが盛り込まれた「大戦略パーフェクト」シリーズの最新作,「大戦略パーフェクト3.0」も発売されている。
そちらはそちらで古くからのファンにはたまらない作品なわけだが,あえてシンプルなルールを採用した大戦略Win III NET BATTLEは,ストラテジーゲーム全般に対する入門用として,誰にでも勧められる作品に仕上がっているといえよう。本作を足がかりにして,ストラテジーゲームの魅力をあらためて見いだす人が増えることを祈りたい。
- 関連タイトル:
大戦略Win III NET BATTLE
- この記事のURL:
(C)2008 SystemSoft Alpha Corporation