テストレポート
ATI Radeon HD 4890追試。オーバークロックとCrossFireX動作を検証する
時間の都合もあって先のレビュー記事ではこの点についての検証ができなかったのだが,GIGABYTE TECHNOLOGY製の「GV-R489-1GH-B」とSapphire Technology製の「SAPPHIRE HD 4890 1GB GDDR5 PCIE」,2枚のHD 4890搭載カードを,それぞれ日本ギガバイトと(Sapphire Technologyの販売代理店である)アスクの協力により用意できたので,今回はオーバークロック周りを検証してみたい。また,せっかく2枚あるので,2-way ATI CrossFireX(以下,CF)構成でも,スコアを取ってみることにしよう。
GV-R489-1GH-B メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) http://www.links.co.jp/ 実勢価格:3万2000円前後(2009年4月9日現在) |
SAPPHIRE HD 4890 1GB GDDR5 PCIE メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:3万1000円前後(2009年4月9日現在) |
2製品ともコアクロック1GHzには“届いただけ”
970MHzでの安定動作を確認
上の写真で示したように,今回入手した2枚のカードは,いずれもAMDのリファレンスデザインを踏襲した製品だ。3本のヒートパイプを備えたGPUクーラーも,表面に貼られたシール以外は共通のものだった。
というわけで,さっそく2枚を使って,オーバークロックを試みる。今回は「ATI Catalyst Control Center」の「ATI OverDrive」を使って,GPUコアのみ引き上げてみたが,両製品とも,確かに動作クロック1GHzを達成できた。
……しかし,コアクロック1GHzで動作させられるのは,低負荷な状態のみ。「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)などを実行し,負荷をかけると,すぐにシステムがフリーズしてしまうため,1GHzでの常用は無理な印象だ。
さて,順番が前後したが,今回のテスト環境は表のとおり。スケジュールの都合もあり,4月2日のレビュー記事,そして,「GeForce GTX 285」のレビュー記事から,流用できるデータはすべて流用している。そのため,GeForce GTX 285(以下,GTX 285)と「GeForce GTX 295」(以下,GTX 295),「GeForce GTX 280」(以下,GTX 280)で,ドライバのバージョンが若干古めになっている点は,あらかじめお断りしておきたい。
なお,ATI Radeon HD 4800シリーズで,HD 4890だけドライバのバージョンが異なるのは,2日のレビュー記事で述べているとおり,AMDからレビュワー向けに配布されたドライバが,HD 4890にしか対応していなかったためだ。
また細かい点だが,以下,HD 4890オーバークロックのスコアは,GV-R489-1GH-Bで計測したものを用いることもここであらかじめ述べておきたい。CF時はGV-R489-1GH-BとSAPPHIRE HD 4890 1GB GDDR5 PCIEの組み合わせとなるが,データを流用する関係上,リファレンスクロック動作時のスコアは,Hightech Information System製品「H489F1GP」のものである。
テスト方法も2日のレビューと共通で,基本的にはレギュレーション6.0準拠だが,解像度1024×768ドットは省略した。
14%のクロック引き上げで5%程度の性能向上
CFの効果は「やってみなければ分からない」印象に
前置きがくどくて申し訳ないが,テスト結果のチェックに入っていこう。
グラフ1,2は,「標準設定」でテストした3DMark06のスコアである。以下,コアクロックを970MHzに引き上げたHD 4890は「HD 4890[OC]」と書き,CFもしくはNVIDIA SLI(以下,SLI)構成についてはそれぞれGPU名の後ろに[CF][SLI]と付記することにして,シングルGPUとデュアルGPUとで分けてグラフ化しているが,まずシングルGPUで見ると,HD 4890[OC]のスコア向上率はHD 4890と比べて最大約5%。順当と見るか,ほとんど誤差と見るかは人それぞれだと思われるが,この伸びにより,GTX 275とほぼ並んだのは確かである。
HD 4890[CF]も,グラフ1とグラフ2を横断的に見ると,シングルGPU比のスコア向上率は約15〜29%。GTX 285[SLI]のスコアも上回っているのは,注目しておきたいポイントだ。
4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用する「高負荷設定」のスコアでは,高負荷環境に強いGeForce GTX 200シリーズに多少置いて行かれる。ただ,HD 4890[CF]が,シングルGPUから約28〜45%高いスコアを示している点は,評価できよう。
実際のゲームタイトルから,まずは「Crysis Warhead」。グラフ5,6は標準設定時のスコアだが,ここもオーバークロックの効果を評価するのはなかなか難しい。わずか1fpsなので,ほとんどないともいえるが,パーセンテージでは3DMark06と同じく,最大5%だ。
一方,CFに効果は見て取れるものの,SLIと比べるとインパクト不足は否めない。
高負荷設定時も同様だ(グラフ7,8)。HD 4890[OC]によるフレームレート向上は1fps。HD 4890[CF]は,シングルGPUと比べて30〜40%というスコアの伸びを示しているのだが,最大で80%を超える伸びを示すSLIと比べると霞んでしまう。
「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果から,標準設定時のものをまとめたのがグラフ9,10だ。HD 4890[OC]のスコアは,HD 4890と比べて5%程度高いが,GTX 275にはあと一歩届かず。一方,HD 4890[CF]は,最適化が進んでいるのか,GTX 285[SLI]に迫るスコアを示している。
グラフ11,12が,高負荷設定のスコアだ。傾向自体は標準設定と同じながら,HD 4890はオーバークロック時,CF時とも,GeForce勢から一歩置いて行かれる印象を受ける。
続いては「デビル メイ クライ 4」だが,2日のレビュー時にもお伝えしているとおり,標準設定では,アプリケーションかドライバか,あるいは両方の理由により,HD 4890は期待されるパフォーマンスを発揮できない(グラフ13,14)。
そのため,グラフ15,16に示した高負荷設定のスコアを見ていくことにするが,オーバークロックの効果は4%程度。とはいえ,元が160fps超ということを考えると,ほとんど効果はないともいえる。
HD 4890[CF]は,高解像度でスコアの落ち込みが少ない傾向を見せた。1920×1200ドットだと,GTX 280[SLI]との差がかなり縮まっている。
「Company of Heroes」の標準設定は,Crysis Warheadとよく似た傾向(グラフ17,18)。オーバークロックの効果は最大5%で,CF時にはシングルGPU時から3〜4割高いスコアにまとまっている。
グラフ19,20は同じCompany of Heroesから高負荷設定のスコアだ。HD 4890[CF]は,シングルGPU時から50%近くスコアを伸ばしているのだが,SLIのスコアがもっと高いため,全体としてはあまりぱっとせず,イマイチな雰囲気になってしまっている。
最後に,ATI Radeonに有利なスコアが出やすい「Race Driver: GRID」のスコアを見てみるが,まず標準設定ではHD 4890[OC]が最大4%程度だが,きっちりとスコアを伸ばし,GeForceとの差を広げている(グラフ21,22)。デュアルGPU構成のスコアは,CPUボトルネックによる頭打ちが生じている雰囲気だ。
GRIDから,高負荷設定のスコアをまとめたのがグラフ23,24だが,HD 4890[OC]のオーバークロック効果は,ここだと最大3%前後。一方,HD 4890[CF]は,解像度が上がるほど,CFのメリットが出てくるが,対シングルGPUでの伸び率,そして実際のスコアの両方で,GTX 285[SLI]やGTX 280[SLI]の後塵を拝してしまった。
オーバークロックによる消費電力上昇は10W前後
アイドル時の消費電力がやはりHD 4890の弱点か
以上,パフォーマンスを見てきたが,オーバークロックやCF構成が,どれだけ消費電力にインパクトを与えるのかは気になるところだ。今回も,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を測定してみよう。
OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とし,それぞれをスコアとして集計した。
その結果がグラフ25,26だ。多少のバラツキはあるものの,アプリケーション実行時におけるHD 4890[OC]の消費電力は,定格動作時から10W弱上昇しているといっていいだろう。一方,アイドル時は省電力機能「ATI PowerPlay」が有効になるため,オーバークロック時と定格動作時で消費電力に違いは生じていない。
アプリケーション実行時におけるCF構成の消費電力は,(これまたアプリケーションにもよるが)おおむねGTX 285[SLI]を下回っており,まずまずといったところ。ただし,アイドル時は,シングルGPU時にもあったGeForceとの消費電力差がさらに開いてしまっている。
最後にグラフ27,28は,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-Zから,GPUの温度を測定した結果だ。システムはPCケースに組み込まれていない,いわゆるバラック状態にあり,22℃の室内で測定したものとなる。
デュアルGPU構成については,プライマリGPUの温度をスコアとしてまとめているが,いずれにせよ,GPUクーラーが異なる以上,スコアはあくまで参考程度となる。その点は注意してほしいが,シングルGPU,デュアルGPU時ともども,HD 4890はアイドル時の温度が高いのは少々気になるところだ。もっとも,オーバークロックによる温度上昇が,それほど大きくないのも見て取れる。
“OCで遊べる”GPUなのは確か
CrossFireXはよくも悪くもいつもどおり
4Gamerではこれまでも何度かクロックアップ版のグラフィックスカードを検証してきているが,グラフィックスカードの場合,動作クロックだけ引き上げても,得られるパフォーマンス向上度合いはあまり大きくない。それだけに,HD 4890のオーバークロックで得られた,最大5%程度というスコア向上は,ある意味で予想どおりの結果といえそうだ。970MHz動作によって,体感できるだけの性能向上を実現できたかというと,疑問が残る。
ただ,テストした2枚のカードが,いずれもコアクロック970MHzで安定動作したという事実そのものはたいへん興味深い。マザーボードや電源ユニットなどの組み合わせ,あるいは今後のドライバアップデート次第で,1GHz設定時に安定動作する可能性は十分ある印象だ。PCパーツを買ったらとりあえずオーバークロックを試してみないと気が済まないという人にとって,HD 4890が“遊べる”GPUであることは間違いない。
一方,せっかくなので試したCrossFireXだが,著しく効果の出るものがあるかと思うと,伸び悩むものもあるなど,いい意味でもそうでない意味でも,従来どおりのCrossFireXという感じのスコアに落ち着いた。アイドル時の消費電力が増大してしまうのもマイナスで,HD 4890を2枚も買ってCFで動作させるメリットは,1920×1200ドット程度の解像度では残念ながらあまり感じられないというのが,正直なところだ。さらに上の解像度やアンチエイリアシング&テクスチャフィルタリング設定で動作させてこそ,ということなのだろう。
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