テストレポート
「Hybrid SLI」は消費電力を気にするゲーマーに向けた最終回答となるか?
- HybridPower:アプリケーションに合わせて,マザーボード側のグラフィックス機能(Motherboard GPU,以下mGPU)と単体グラフィックスカード(Discrete GPU,以下dGPU)を切り替え,dGPUを使うときにだけ電源をオンにする機能。例えば3DゲームをプレイするときだけdGPUを使い,それ以外ではdGPUの電源をオフにしてmGPUを使うことで,3D性能が求められないときの消費電力を大幅に低減する
- GeForce Boost:mGPUと対応するdGPUによるNVIDIA SLI(以下,SLI)を構築する機能。AMD 780Gの「Hybrid Graphics」とほぼ同じ
対応するmGPU(=グラフィックス機能統合型チップセット)とdGPUは表1のとおりだ。本稿では,Hybrid SLIの2機能が,ゲーマーにとってどういう意味を持つのかを,レビュワー向けバージョンのBIOSとドライバでチェックしてみたいと思う。
なお,ドライバは前述のとおりNVIDIAがレビュワー向けに配布したもの。BIOSはASUSからマザーボードとセットで提供を受けたものだ。
HybridPowerによる消費電力の低減は目を見張るが
現時点では制約が非常に多い
さっそくHybridPowerから見ていこう。
テスト環境。グラフィックスカードにディスプレイケーブルを接続していない点に注目してほしい |
Hybrid SLIを有効化するには,まずチップセット側で有効化する必要がある |
なぜこんなことをするかというと,Hybrid SLIが有効なシステムでは,マザーボード側のグラフィックスインタフェースからディスプレイ出力を行う仕様になっているからである。M3N-HT Deluxe/Mempipeの場合,「Hybrid Support」という項目がBIOS 0701で用意されており,Hybrid SLI対応グラフィックスカードを差した状態でこれを「Auto」に変更するとマザーボード側(=mGPU)のみ,「Disabled」に指定するとグラフィックスカード(=dGPU)からディスプレイ出力が行われる。
さて,無事グラフィックスドライバのインストールが完了すると,タスクトレイにHybridPowerの動作モード変更ユーティリティが常駐した。動作モードは
- Save power:dGPUの電源をオフにし,mGPUでディスプレイ出力を行う
- Boost performance:dGPUを用いる
- Additional displays:複数台のディスプレイを用いる(※従来のマルチディスプレイモード)
実際,GeForce 9800 GTXリファレンスカードを装着した状態で「Save power」を選択すると,すぐにGPUクーラーのファンが停止し,グラフィックスカードへの電力供給が完全に停止。また,システムを放置していると,4分程度で自動的に「Save power」モードへ移行することも確認できた。
今回,NVIDIAはHybridPowerのアピールに並々ならぬ決意をもって臨んでいるようで,システムの消費電力推移をロギングできるワットチェッカー「Watts up? PRO」がレビュワーに貸し出された。そこで,「OS起動後しばらく放置。それから『3DMark06』を実行し,終了させてから今度は『Save power』モードへ手動で切り替える」という一連の流れを追い,同チェッカー用のログビューワ「Watts up USB Data Logger」でグラフ化を試みた。その結果が下のスクリーンショットだ。
グラフは縦軸が消費電力(W),横軸が経過時間(分)を示しているが,システムのアイドル状態で消費電力は220W前後。3DMark06を実行すると270〜300W程度まで上がる。終了後はまた220W前後で落ち着くが,「Save power」モードに切り替えることで,160Wまで低下するのが見て取れよう。一般的なPCにおけるアイドル状態から,60W程度も消費電力が下がっているわけだ。
また,SLI構成を構築している場合,いちいちNVIDIAコントロールパネルからシングルGPUモードに切り替えてからでないと「Save power」モードへ移行できないのは不便極まりないし,さらにいえば,mGPUがSingle-Link TMDSのサポートに留まるため,最大解像度が1920×1200ドットに制限されるのもいただけない。HybridPowerを利用する場合,NVIDIAが3-way/Quad SLI環境と関連してアピールし続けている,2560×1600ドットなどの超高解像度環境「XHD」は利用できないわけで,このあたりはいかがなものかと思う。
なお,細かい点だが,GeForce 9800 GTXとGeForce 8800 GTXといった,HybridPower対応GPUと非対応のGPUが混在する環境では,HybridPowerが利用できなくなったことも付記しておきたい。
対応GPUを差すと自動的に有効化されるGeForce Boost
パフォーマンス向上率は最大30%強か
一方のGeForce Boostは,利用可能な環境が揃えば,自動的に有効化される。HybridPowerのようにタスクトレイから切り替え可能だったり,NVIDIAコントロールパネルにそれっぽい項目が用意されたりは(少なくとも導入当初は)しないようだ。
まずグラフ1は「3DMark06」(build 1.1.0)の総合スコアである。ご覧のとおり,GeForce Boostの有効化によってGeForce 8500 GT単体動作時よりもパフォーマンスが伸びている。その割合は7〜12%程度だ。
なお,追加テストとして,nForce 780a SLIマザーボードでの利用が想定されるGeForce 9800 GTXでもスコアを取得してみると,スコアは伸びるどころか若干低下した(グラフ2)。NVIDIAはGeForce Boostをローエンド環境向けの機能と位置づけており,「nForce 780a SLIにおいて,GeForce Boostはキーになる新機能ではない」と明言しているが,これを裏付ける結果が出たといえる。
続いてグラフ3は,TPSの「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下ロスト プラネット)から,実ゲームに近いフレームレートを取得できる「Snow」のテスト結果をまとめたもの。ロスト プラネットでも,GeForce Boostの効果のほどがはっきりと見て取れる。パフォーマンス向上率は27〜35%と,かなり高い。
もっとも,レギュレーション5.2の設定がローエンドGPUには厳しいという点を差し引いても,1024×768ドットでさえHybrid SLIを有効化しても14fpsしか出ていないのは,いささか苦しいのも確かだ。
一方,FPS「Crysis」とRTS「Company of Heroes」では,GeForce Boostの結果がほとんどない(グラフ4,5)。両タイトルともSLIではパフォーマンスが大きく伸びるだけに,GeForce Boostへの最適化という点で,グラフィックスドライバの完成度はまだまだと見るべきだろう。
最後にSLI非対応タイトルで,SLI構成時にパフォーマンスが低下することで知られるVana'diel Bench 3の結果をグラフ6に示すが,やはりSLIと同様に,GeForce Boostでスコアが大きく低下している。SLI非対応タイトルでパフォーマンスを得たいのであれば,BIOSから無効化する必要があるわけで,これは少々面倒だ。
GeForce BoostはHybrid Graphicsと同じ
HybridPowerは完成度の向上が急務
そんなGeForce Boostはともかくとして,HybridPowerは,実現できることそれ自体は大いに魅力的なのだが,現時点ではあまりにも完成度が低く,制約が多すぎる。最低限,動作モードの自動切り替えと,解像度制限の問題がクリアされれば,ゲーマーにとってもかなり意味のある機能となるだけに,今後,さらなる実装レベルの向上に期待したい。
- 関連タイトル:
nForce 700
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