レビュー
こなれたシステムで,シナリオの展開を深化させた
現代大戦略2008〜自衛隊参戦・激震のアジア崩壊!〜
» システムソフト・アルファーの年末定番商品の最新作「現代大戦略2008〜自衛隊参戦・激震のアジア崩壊!〜」のレビューをお届けする。前作と比べて,とくに目立ったシステム的進化は見られないものの,大戦略シリーズ全般に詳しい虹川 瞬氏が着目したのは,分岐型シナリオの可能性についてである。
センセーショナルな状況設定で今年も登場
これら新作シナリオは,自部隊を引き継いで連戦するキャンペーン形式は取っていない。時間的な前後関係/因果関係を持つ2〜3本の連作シナリオも多く含まれるものの,いずれも単独でプレイできる。また,連作シナリオでもプレイヤーが担当する陣営(国家であり,生産型でもある)は切り替わることがある。例えばシナリオ「タリバーン駆逐戦」では,1本目はドイツ軍,2本目は自衛隊として参加することになる。
こうした特徴を持つシナリオに加え,シリーズ従来作品のシナリオをリメイクした10本のシナリオ,さらにキャンペーンや単発マップも150点以上が含まれる。また,製品登録すれば会員制のダウンロードサービスにより,メーカーや他プレイヤーの作った追加マップも入手できるため,ボリュームはたっぷりだ。
システム的な変更点は少なめだが,期待の新機軸も
ただし,変更点の第一である「分岐型勝利条件」は,シナリオ制のゲームとして新たな可能性につながるように思える。これは,前作から導入されたシナリオ進行中のイベント発生機能を,発展させたものだ。進行中に一定の条件が満たされると(例えば日中間の海戦シナリオの場合,規定された大型艦を撃沈する/されるといったことがトリガーになる),状況の変化を表すポップアップが出た後,勝利条件が追加されたり変更されたりするのである。
今回プレイできた範囲では,劇的な演出を見せてくれるというまでには至らなかったが,臨場感を盛り上げる効果はあったと思う。半面,規定された勝利条件を満たしてシナリオ終了,と思ったら,新たな目標を設定されて,「延長戦を強いられる」ような気分になることもあった。ゲームを面白くする潜在的な可能性は高い手法だと思うので,次作や追加シナリオでの使いこなしに期待すべきところだろう。
任務概要を説明するブリーフィング画面。この画面で示される「カルザイ大統領一行を保護,指定した場所に移送する」という任務を果たすと…… |
さらに戦果を拡大せよ,という新しい任務が下る,という流れになるわけだ。状況の流動性を表現できるという意味で,システム面における大きな進歩だ |
もう一つの変更点は,前作から追加された「転戦モード」の機能強化だ。このモードは一言で言えば,プレイヤー率いる独自勢力が,シナリオに乱入するもの。既存勢力のいずれかと同盟を結び,基地などを借りる形で手持ち部隊を配備することになる。
部隊を増やす方法として,従来はシナリオで同盟を組んだ相手の生存ユニットを加える方法が用意されていた。今回これに加え,プレイヤー部隊の活躍に応じて得た報酬ポイントを消費して,自由にユニットを買うことが可能になった。また,最初に参戦するときの部隊として,フランスとイスラエルのタイプが用意されたのも,細かいが重要な変更点だ。なお,このモードではシナリオを本来の設定の敵側の立場からプレイすることも可能だ。
このほか,新兵器も47種類が追加されている。自衛隊装備でいえば,目玉となるのは海上自衛隊の新イージス艦「あたご」と,全通甲板を装備した(実質的な)ヘリ空母「ひゅうが」だろう。ちなみに自衛隊装備として,F-86やF-104Jといった旧型機もデータとして収録されている。注目すべき新要素というわけではないが,単体マップなどであれば,新旧の兵器を自由に選んで「生産型」を編集し,プレイすることも可能だ。
エキセントリックさが減り,シナリオの方向性は微妙に変化
ただし本作では,シリーズ従来作品から微妙に方向性が変化したような印象を受けた。従来作品で主要な“敵役”を割り振られていた北朝鮮にしても,本作の新作シナリオで登場するのは朝鮮半島動乱モノの2本だけで,自衛隊とは交戦しない。
もう一つの“敵役”千両役者である中国は,本作でも野心を露に大活躍しており,新作シナリオ22本中9本に登場するが,日本の領土でその脅威が及ぶのは沖縄周辺だけである。「こんなに凶悪な国家に囲まれて日本は危ないぞ」という煽りのトーンが,だいぶ落ちた感じがするのだ。また,本作独自のシナリオには,あまりに極端なif性を持つもの,例えば日本の首都圏が独立し,国内で「内戦」が起きるといったものは含まれない。
これに代わって,増加したシチュエーションが,海外派兵された自衛隊が,南アジアや中東で戦闘するシナリオだ。これには,2007年の国内政治シーンで,日本の軍事的海外貢献が取りざたされたことが影響しているのだろう。ISAFへの参加や,イラク戦争時の積極的な派兵といった,ある意味で北朝鮮の派手なテロ以上に「現実味を帯びてきた状況」に合わせてシフトしているようにも思える。まさにサブタイトルに掲げられている「自衛隊参戦」に焦点が移っているわけだ。
「2007」シナリオの真の意図はゲーム性向上にある?
そしてこの点も含めて「ゲームとしての楽しさ」が膨らんでいるように感じられた。本シリーズの(少なくとも表向きの)ウリは,現実世界に取材した状況設定だ。しかし肝心のマップ上では,状況や兵力を緻密に再現するより,「ゲームとしての面白さ」を優先したほうが,プレイしていて楽しい。そうであればリアリティが欠けていることは欠点にならないのだ。
例えば中国潜水艦の日本領海侵犯事件が武力衝突に発展するという設定のシナリオがある。領海侵犯艦を撃沈したあと,プレイヤーに課される勝利条件は,この紛争に投入された中国軍艦艇の文字どおりの殲滅(1隻たりとて残してはいけない)だ。
この目標設定には(自衛隊の戦闘だということを抜きにしても),軍事的リアリズムはまるで感じられない。だが,ゲームとして見た場合に,限られたターン数でいかに索敵を行い,捕捉した艦を沈めていくかを考える必要が出てくる。設定のリアルさに対する興味を超えて,ゲームとして課された課題の面白さが前面に出てきている例といえる。
また,言ってしまえば転戦モードにリアリティは皆無だ。しかし,精鋭部隊を育て上げるのは,やはりゲーム的な立場から楽しめる。そもそも部隊が経験値を積んで強くなるというゲームデザインは,長きにわたる大戦略シリーズの伝統であった。それを存分に楽しむ設定が,転戦モードやマイ部隊(生産可能な設定でのキャンペーンや単独マップに,他マップで経験を積んだユニットを登場させられるシステム)とも考えられるだろう。
こうした「興味を惹くために派手な設定のシナリオを用意する一方で,その実装には,ゲーム的なテーマを潜ませる」という方針が,制作側で明確に意図されているかどうか,聞いてみたことはないし,筆者の勝手な思い込みかもしれない。けれど,本作はそうした視点からの評価に,ある程度応えてくれるものになっていたのは確かだ。そして,その点では「楽しくプレイできるゲーム」であり,好印象を持てた。情報提示の仕方やAIの質などには注文もあるけれど,レビュー記事執筆終了後ももうちょっとプレイを続けてみたい,と思わせる仕上がりになっているのだ。
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現代大戦略2008〜自衛隊参戦・激震のアジア崩壊!〜
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