レビュー
DHARMAPOINT初のワイヤレスヘッドセットは,どこを向いた製品なのか
DHARMAPOINT DRTCHD12RFBK
DHARMAPOINTの製品命名法則に従って,形状,スピーカードライバーとも従来製品「DRTCHD12BK」の仕様を引き継ぎつつ,無線伝送方式を採用してきた本作。DHARMAPOINTは無線伝送のレイテンシが小さいことをアピールしているが(関連記事),実際のところはどうなのかも含め,細かく見ていきたい。
USB接続&ステレオ入力のみに割り切った仕様
DRTCHD12BKと変わらぬ筐体はしっかりしたもの
したがっていきなりだが,ゲーム用ヘッドセットに,後方で鳴る音を聞き分けられるようなバーチャルサラウンドヘッドフォン機能を期待する場合,DRTCHD12RFBKは選択肢から外れることになる。
……とは言うものの,冒頭でも述べたとおり,形状はDRTCHD12BKを踏襲しており,ツヤ消し加工された黒を基調とする,こぢんまりした外観は従来製品そのまま。違いは,
- ケーブルの有無
- 密閉式エンクロージャの右耳側に単四形充電池2本を内蔵するため,エンクロージャの一部が電池カバーを兼ねるようになり,結果として左右両方のエンクロージャに溝が入っていること
- 左右エンクロージャ下側の縁(へり)に操作系や充電用端子が設けられたこと
- 「L」「R」の文字が銀色の抜き文字になって目立つようになったこと
くらいだろうか。
ただ,オリジナルのDRTCHD12BK自体がヘッドセットとしてよい設計だったので,目新しさがないのを除き,マイナス要素はない。「実績のある筐体を流用してワイヤレス化してきた」わけだから,筐体設計面ではむしろ安心できるとさえいえるだろう。
本体では赤い開口部がデザイン上のワンポイントとなる。搭載するスピーカードライバーは,高域の伸びを期待できるネオジムマグネットだ |
ヘッドバンドはDHARMAPOINTのロゴ入り |
ヘッドバンドとの接合部はプラスチック製だが,強度は高く,遊びもないため,かっちりした印象。可動範囲は小さめである。
ヘッドバンド長の調整機構は,クリック感があるものになっており,一言でまとめるならやや固めだ。ヘッドバンド部分は合皮製で,表にブランドロゴがプリントされ,頭頂部と接触する裏側には布製のクッションが取り付けられている。
総じて,きつくならない程度に締め付けてくる感じで,頭部を振ってもほとんどズレないのは見事だ。なお,重量はバッテリーとなる充電池2個込みで実測約224g。ワイヤレスヘッドセットとして,少なくとも重すぎたりはしない。
息がノイズにならないよう,割と大きめのウインドスクリーン用スポンジが取り付けられているマイクユニットは,スポンジを抜き取ってみると,単一指向性のモノラルコンデンサ型であることが分かる。マイクの“口”付近を中心に集音されるため,ノイズ対策としては悪くない。
USBアダプタはまずまず小型
接続に難しいところはない
対応OSはWindows XP以降(およびMacOS X 10.7以降)。クラスドライバで動作するUSBアダプタはプラグ&プレイでWindowsから認識されるので,以下の流れで処理を進めていけば,本体とのペアリングは簡単に行える。
- DRTCHD12RFBK本体側の電源ボタンを約3秒間長押しし,起動
- 音量調整ノブが“センタークリック”できるようになっていて,ペアリングスイッチとして機能するため,約2秒長押し。このとき,USBアダプタ側の[LINK]ボタンも同時に約2秒長押しする
- DRTCHD12RFBK本体側の「LINK LED」が点滅から点灯に変わる
- USBアダプタ側のLINK LEDが消灯する
あとは,Windowsのコントロールパネルから「サウンド」を開き,「再生」「録音」タブのそれぞれで「Wireless Gaming」(※WindowsからDRTCHD12RFBKはこう認識される)を選ぶと準備完了だ。
ペアリングが終わって正常に動作する状態になると,本体側のLINK LEDが点灯し,USBアダプタ側のLINK LEDが消灯する |
充電しながら使っているイメージ。充電中はインジケータが赤く光る |
バッテリーは前述のとおり付属の単四形充電池で,バッテリー駆動時間は約10時間。付属のUSBケーブルで本体とPCなどを接続すれば,ヘッドセットを利用しながらの充電が行える。要するに,充電時は一時的にワイヤードとなるわけだ。
また,電池が切れた場合には,それこそエネループなど,好みの単四形(充)電池に交換することも可能。総じて,ワイヤレス製品特有の「バッテリー切れ問題」に,それほど神経質になる必要がない設計になっている。
基本線はワイヤードモデルを踏襲するも
DSPでやや色づけされたヘッドフォン出力
さて,テストである。
ヘッドフォン出力品質の検証にあたっては,「iTunes」によるステレオ音楽ファイルの再生と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,CoD4)マルチプレイ,「Battlefield 3」(以下,BF3)において操作せずとも自動的に進むシーンの3パターンで評価を行っていく。
序盤で述べたとおり,DRTCHD12RFBKではバーチャルサラウンドヘッドフォン処理を行えないため,ゲームのテストでもステレオ出力の試聴となるが,「慣れたタイトルを音源とすることで,品質をより正確に判断しよう」というわけだ。
なお,テストに用いたPCは表のとおり。今回,比較用としてDRTCHD12BKを用意しているが,DRTCHD12BKのテストにあたって,サウンドカード側のバーチャルサラウンド機能「CMSS-3D」は利用していない。
筐体もスピーカードライバーも同じなので,音質傾向がDRTCHD12BKとよく似ているのは当たり前で,事実,試聴印象もそのとおりなのだが,聞き分けてみると多少異なる。DRTCHD12BKと比べて,重低域が多少弱く,低域が強く,高域は「プレゼンス」と呼ばれる2〜4kHz付近,つまり中高域から高域にかけての部分が強く感じられるのだ。重心が少し高くなってしまっている,とも言い換えられるだろう。
そのため,周波数特性は多少狭くなったように聞こえ,一方でパワー感は増している。
もっとも,一般に,重低域や高域あるいは超高域を伸ばすと,ハイファイ感(≒バランスの良さ)が増す代わりにパワー感が失われ,低域や中低域,中高域を伸ばすとハイファイ感が失われる代わりにパワー感が増すので,DRTCHD12RFBKの音質傾向に,これといっておかしな点はない。また,競合製品でよく見かけるような周波数バランスの悪さはなく,低域から高域まで比較的きれいに出ており,イヤな聞こえ方はしない。あくまでも「DRTCHD12BKと比較した場合は,ハイファイ感よりパワー感が勝っているように感じられる」という話である。
とくに資料や情報があるわけではないので筆者の推測だが,この違いを生んでいるのは,おそらくワイヤレス制御を行うDSP(Digital Signal Processor)であろう。DSP側で軽いEQ(EQualizing,イコライジング)をかけているのではないかと感じられる音質傾向だ。
ゲームサウンドの試聴では,CoD4とBF3でカバーされる周波数帯域が異なるため,面白い違いが見られる。CoD4はご存じのとおり古いタイトルなので,「BF3のほうがより洗練されている」と言ってもいいのだろうが,コンテンツレベルで同時再生される効果音の数が増えているだけでなく,再生周波数の上限下限もCoD4より広いため,DRTCHD12BKとの違い,とくに重低音の再現性における違いが分かりやすいのである。
ただ,CoD4だと,両製品の違いはほとんど分からない。要するに,重低音を多用するタイトルで分かる程度の違いが,DRTCHD12RFBKとDRTCHD12BKの間にはあるわけだ。ゲームにおけるDRTCHD12RFBKの音質傾向はDRTCHD12BKとほぼ同じながら,どちらがより優れるかといえばDRTCHD12BKのほう,ということになる。
最後に伝送周りだが,筆者宅で実験した限り,2.4GHz帯を用いるワイヤレス製品とはちょっと異なる動作をするのが確認できた。ほかの2.4GHz帯対応製品と比べて,部屋の中を動き回ると接続が切れやすい一方,切れた状態で立ち止まったときの復帰が早いのである。
無線は,電波が狭い範囲で乱反射するところを最も苦手とするため,部屋の奥まった場所へ移動するとワイヤレスの電波は届きにくくなるのだが,そういうところでテストしたときはとくに顕著。ちょっと動くとすぐに音が切れるものの,動くのをやめるとすぐまた聞こえるようになる。
要するに「電波状況が悪くなったときには接続が切れやすくなるものの,再接続にかかる時間は短い」ので,室内の電波環境が何かしらの理由で悪化し,接続が切れたときにも,リカバリーまでの時間が短い。また,ちょっと何か用を足しにPCの前を離れても,戻ってきたらすぐボイスチャットやリスニングに戻れるのである。
ただし,装着した状態で音楽を聴きつつ部屋のなかをうろうろ動き回るようなケースだと,かなり無理が出てくる。そういう特性なのだ。
マイク入力の周波数特性は良好
ただし,明瞭度はやや乏しい
なお,PCにおける波形測定方法の説明は長くなるため,本稿の最後にテスト方法を別途まとめてある。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだが,興味のある人は合わせて参考にしてほしい。
というわけでさっそく周波数特性と位相特性のグラフから見てみるが,仕様上の入力周波数特性は70Hz〜16kHzで,実際のところ,低い帯域では50Hz以下で落ち込み,高い帯域では8kHzあたりから弱くなって,13kHz強くらいから大きく落ち込んでいく。
テストに用いているスピーカーのクロスオーバー周波数たる1.4kHz付近の落ち込みを別として,200〜2kHzが下がり気味になのも目を引くところで,全体としては,「ドン」の強いドンシャリ(=低域と高域が強い周波数特性)だと分かる。
位相特性は良好。モノラルマイクなので,当たり前といえば当たり前の結果だ。
実際に音を録って聞いてみると,少々張りを欠いた,ボワッとした音質傾向が気になる。周波数特性上,プレゼンス帯域の2kHz〜4kHzに破綻はないことからすると,優れた低域の周波数特性がより高い周波数帯域に被り,相対的にプレゼンス帯域を弱くしてしまっているのだろう。もう少し明瞭度の高いマイク特性であるほうがよかったように思う。
もう1つ気になったのは,優れた周波数特性がための,フロアノイズの多さ。要するに,低音をたくさん集音する設計のため,「ゴー」といった室内の低周波ノイズが結構多く乗ってしまうのである。
その結果は,「レイテンシ自体はある。が,よくあるBluetoothヘッドセットのような数10msといった大きなものではない」といったところ。あくまで予測値であることを断ったうえで書き進めると,おおむね3〜6msといったところだろうか。48kHzでストリーミングを行っていることを考えると,低レイテンシといっていいように思う。「遅れは感じられるが,遅いと感じるほどではない」ので,よほどのことがない限り,レイテンシが実プレイ上の違和感につながることはないだろう。
ちなみにアナログヘッドセットだと,原理上,このレイテンシは生じない(※サウンドカードによっては発生することもあるが)。
簡単に使えるワイヤレスヘッドセットとしては良好
ゲームジャンル次第では快適に使える
以上,レビューを終えてみたわけだが,結論としては「冒頭で答えが出ていた」ということになりそうである。
USB接続のステレオヘッドセットなので,その本質は,言ってしまえば「Skype用」などとして量販店の店頭で販売されているヘッドセットと同じ。バーチャルサラウンド機能に期待して購入するような製品ではなく,その時点で人は選ぶ。しかし,サラウンド定位がゲーム性を左右しないタイトルを長時間プレイするにはよい製品なのも確かだ。
また,初期設定が面倒でなかったり,充電周りに手間がかからなかったり,音質が極端に犠牲となったり,マイクにやたらレイテンシがあったりといった,“目に見える”弱点がないのも,DRTCHD12RFBKの強みだ。DHARMAPOINTらしい,筐体のかちっとした完成度もプラス評価されてしかるべきだろう。
ワイヤレスヘッドセットで同等以上の音質傾向を実現できている競合製品は存在するが,「なぜぱっと使えないのか」と思うことが多かったので,この簡便さは心地よい。もちろん,簡単に使える理由の1つはバーチャルサラウンドヘッドフォン機能を搭載しないからなのだが,FPS以外,それこそオンラインRPGなどに広く使えるゲーマー向けヘッドセットという製品が1台あってもいいのではないか,と思わせてくれるだけの完成度が,DRTCHD12RFBKにはある。
ただ,マイクの,少しぼんやりした音と,フロアノイズの拾い方は,ボイスチャット時の音声品質が良好な環境だと気になるかもしれない。この点は最後にもう一度繰り返しておく必要も感じた。
DHARMAPOINT公式Webサイト
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■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。それをヘッドセットと接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
- 関連タイトル:
DHARMAPOINT
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