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[ゲーム開発者セミナー]ラフ・コスター氏が考えるWeb時代のゲームデザインの答え。ついにベールを脱いだAreaeの「metaplace」とは?
肥大化するコンテンツ,高騰するコストから逃れて
ご存じの読者も多いかと思うが,コスター氏は「Ultima Online」のリードデザイナーを務めたあとSony Online Entertainmentに移り,「EverQuest II」や「Star Wars Galaxies」の開発チームを率いたという,アメリカMMORPG界のキーパーソンの一人ともいうべき経歴の持ち主だ。だが2006年4月にはSOEを退社し,新会社Areaeを興す。また,ゲーム開発者向けの各種カンファレンスでは常連ともいえる講演者であり,近年はWeb 2.0のコンセプトに触発され,重厚長大から脱した小回りの利くゲームやゲームポータル方式の配信,ユーザー参加型のゲーム開発など,新しいゲームとその開発のあり方を精力的に説いている。この日の講演も,その主張の延長線上に位置付けられる内容だった。
話の性格上,話題は具体的なゲームのデザインや販売に留まらず,むしろ「Webの存在を前提にした今後の消費生活」の特徴を論ずるといった体のものだったが,それが直接にゲームのあり方に関わってくるあたりが,この講演のキモなのである。
開発者セッションであることを意識して,氏は「このなかで,ゲーム会社に勤めている人は?」と問い,「プランナー/デザイナーの人は?」「グラフィッカーの人は?」と,それぞれ聴衆に挙手を求める。最後に「営業の人は?」と挙手を求めたあと,おもむろに「その人達は出て行ってください(笑)」。実にウィットに富んだ口調とタイミングで,オープニングジョークを飛ばした。
そして,ごく簡単に自分の経歴を振り返りつつ,「これまで大企業で過ごしてきたが,そこに将来があるとは思えない」と,自説に入っていく。
そして現在の買い手達が,世界全体から見たらごく一部の人々にすぎないことを忘れ,ますますコアなゲームを作っていこうとしている,と述べる。それはゲームの深さや視覚表現の強調,ストーリーの強調,シングルプレイコンセプトの重視となって表れる。
ここで氏は,2006年のAGCで自分が,そうした重厚な欧米型MMORPG開発を絶滅直前の恐竜にたとえたことに触れ,再び進化論のアナロジーで説明する。氏は生物学上の用語と重ねながら「進化とは現在の環境への適応なので,より広い世界に踏み出したときには意味を持たないことがある。この可愛らしいカモノハシみたいにね」と,スライドを指した。
1980年代初頭と比べて,ゲームのコンテンツ量は40〜150倍に増大し,開発予算も22倍に上昇している。この予算を回収するためには映画業界のように「派手なオープン」が必要とされ,莫大なマーケティング支出に依存するハメになる。あげく,斬新なタイトルへの挑戦が不可能になっていくという悪循環に陥る。
映画業界における,こうした問題の存在を端的に説明する例として,氏はニューヨーク・タイムズ2005年11月5日の記事に書かれた言葉を挙げる。いわく「ほとんどの場合,よい映画とそれを見た人々の数との間に関係はない」と。
だが,そうした現実は変わっていく。封切りから1週間で興行収入の半分を稼ぎ出している映画も,携帯電話の普及と,それによって実現した活発な口コミで,内容がつまらなければ最初の10分で客の出足を挫かれてしまうようになる。また,現に若年層は放送メディアの言説に信を置かなくなっているし,老舗ゲームメーカーのWebサイトよりも,ゲームポータルサイトが人を集めるようになっている。
まだまだパッケージゲームが強いアメリカやヨーロッパを,おそらくは念頭に置きつつ,氏はカジュアルゲーム,ダウンロードタイプのゲーム,そしてそこでのアイテム課金の普及などによって,PCゲーム収入の半分をネットワークゲームが占めるようになるという予測を披露した。
そうなると必然的に広まっていくと思われるのが,ユーザー参加型のゲーム制作である。アメリカでは推定5000万人が,blogやWebサイト,サイトへの投稿といった形でWebコンテンツの制作に参加しており,それはオンラインゲーム市場のごく近くで起こっているというのが,氏の見方だ。
ユーザー参加型で開発される,小さなゲームの理想
■カテゴリではなく,タグ
■出版ではなく,参加
■権威ではなく,ユーザーを信じる
■コードではなく,データ
■製品ではなく,サービス
■大ヒットではなく,ニッチ
■完全無欠ではなく,急ぎの仕事
また,ティム・オライリーの発言を引いて「自身の利己的関心を追求するユーザーが,その副産物として集団価値を構築する」と述べ,そのキーとなる技術が,レーティング/ランキング/評判であるとした。あらゆる意味で手数勝負であり,作り出された玉石混淆のアイデア群,データ群,作品群の中から,卓越したものが残っていけばよいとする,Web 2.0っぽい考え方だ。
そこでユーザーは共同開発者の役割を果たす。Googleはしばしば2週間で試作品を仕上げて展開し,ブラッシュアップしていく。そしてテストした機能の80%を捨てるといった行動様式を例に挙げて,「集合による創造性」の概念を説明する。
また同様にWeb 2.0と論点を共有する考え方として,携帯電話でも閲覧できるWebサイトの部品が,一つ一つは小さくて再利用可能である点,その緩やかな結合によって全体が構成されている点こそが大きな特徴であり,今後の開発モデルであると見なす。そしてオンラインでの作品供給が生み出す低コストが,在庫切れもストックコストもない市場を実現し,ニッチなタイトルを長時間かけて売る「ロングテール」のビジネスを作り出すとした。いままでのようなマスヒットは,必ずしも目標とされないのだ。
このように「集合による創造性」を強調する氏だが,そこで「目立つ個人」が要らなくなるというわけではないという。新しい消費の中ではライフスタイルがブランド化され,そこでの有名人は,特定のライフスタイルを代表する存在として機能する。ゲームサービスもまた,顧客のライフスタイルを意識して,集積していくものとしてデザインされねばならないという。
かくして今後のゲーム会社が採用すべき哲学は,我々がしばしば耳にするオンラインゲーム論にも似た,次のような形になるというのがコスター氏の見解だ。
■ヒットではなく,ニッチタイトル
■価値は「再生」ではなく「パフォーマンス」に
■ゲームは製品ではなくサービス
■出版社ではなく,ポータル
そして氏は「私達はゲームをコンテンツだと思っているがそうではない。コンテンツが住むシステムでありモデルである」と述べる。ゲームデザインのルールが,ユーザーを交えた手数勝負に変わる以上,コンテンツの直接の数は,ゲームデザイン側の課題ではない。そうした認識を踏まえつつも,あらためてゲームデザインの原理に迫った分析といえようか。
説明のまとめとして,氏からゲームデザイナーへのアドバイスとして列挙されたのは,次のような事柄だ。数年前のオンラインゲーム開発議論の核が,大型化する開発プロジェクトをどう動かすかであったことと比べたとき,まさしく隔世の感であろう。
■小さいことは美しいこと。大きいことは高くつき,失敗しやすい
■計測の繰り返し
■設計文書はほとんど時間の無駄
■ニッチへのデジタル配布を利用
■ユーザー生成コンテンツ
■ライフスタイルのブランド化と有名人
■オープンなプラットフォーム
手軽に世界を作るプラットフォーム「metaplace」
それはコスター氏率いるAreaeが開発した,ゲーム/仮想世界を作るための共有プラットフォーム「metaplace」だった。ユーザーはプログラムモジュールをドラッグ&ドロップで利用でき,すべて高級言語でコーディング可能なうえ,あらゆるプラットフォーム向けにクライアントプログラムが書ける。作り出した世界はほかの人に渡すことも可能で,1分とかからずにコピーもできる。そして,サウンドやグラフィックスなどすべての有用物は,Webにリンクされている……。
UOのデザインを手がけ,EQ IIとStar Wars Galaxyをまとめてきた重鎮が,新たに手がけたユーザー参加型の開発環境は,どれだけのポテンシャルを持ち,どんな作品を生み出す母胎になるのか。ぜひとも注目しておきたい。
- 関連タイトル:
metaplace
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