テストレポート
空冷&常用を想定しつつ,Core i7のオーバークロック耐性を検証する
そんななか,Cooler Masterから,LGA1366用リテンションキット「LGA1366 Socket Retention Bracket Set」(型番:RR-ACC-1366-GP,以下型番表記)が登場予定だ。2008年12月12日に,予想実売価格1450円前後で店頭販売が始まる見込みの本製品。これを利用することで,バックプレートを用いてマザーボードと固定する仕様の同社製CPUクーラーを,“LGA1366対応製品”として利用できるようになる。
そこで今回は,TDP 180W級の発熱にも対応できると謳われる同社製のタワー型CPUクーラー「V8」と組み合わせ,Core i7のオーバークロック耐性を探ってみたいと思う。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
X58マザーボードにも取り付けやすいV8
動作音はファン最高回転時にもリテールクーラー以下
V8(左)とRR-ACC-1366-GP(右),それぞれの製品ボックス |
V8を真横から見たカット。計4ブロックのフィンが,ファンを挟み込むような構造になっている |
V8の本体サイズは128(W)×120(D)×161.1(H)mmで,かなり大きく,とくに背が高い。ユニークなのはその構造で,120mm角ファンを中央に置き,それを二つの放熱フィンブロックが挟み,その外側からさらに別の二つの放熱フィンブロックが挟む仕様だ。計4ブロックの放熱フィンに対しては,銅製のCPU用枕から,ヒートパイプが2本ずつ伸びている。
挟み込まれた120mm角ファンは,付属するダイヤル式ファンコントローラと接続することで,回転数を800〜1800rpmの範囲で無段階に調整できる。公称動作音は17〜21dBAで,実際に動作させてみた筆者の主観では,最高の1800rpmで固定しても,動作音はIntelのCore i7リファレンスクーラーより静かに感じられた。
PCケースに組み付けた後のメンテナンスしやすさはさておき,取り付けやすさ,という観点では,Core i7リファレンスクーラーのプッシュピン方式と比べて,かなり容易になる印象だ。
リテンション金具とバックプレート,ネジ類からなるRR-ACC-1366-GP |
LGA1366用リテンション金具は,こんな感じに取り付ける |
マニュアルに従って,マザーボードの背面からバックプレートをあてがい,ネジ留めする |
最終的な取り付けイメージ。写真右上に見えるのはファンコントローラだ |
Core i7-965 Extreme Editionで
空冷4GHz超えを実現するV8
テストに用いた,製品版Core i7-965 Extreme Edition |
ECLIPSE SLI メーカー:MSI 問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン TEL:03-5817-3389 実勢価格:4万3000円前後(2008年12月9日現在) |
また,マザーボードには「Intel X58 Express」チップセット搭載のMSI製品で,先のNVIDIA SLI&ATI CrossFireX検証にも用いた「ECLIPSE SLI」の同一個体を流用。BIOSには,MSIから提供された,バージョン1.2βを用いる。
バージョン1.2β版BIOSは,CPU温度が高くなりすぎたとき,自動的に動作倍率を落とす「OverSpeed Protection」機能の有効/無効を切り替える機能が追加されたもの。バージョン1.3以降では,CPUの動作倍率を“上方向”にも設定できるようになるとMSIはレビュワーに対して予告しているが,テスト時点でi7-965の動作倍率を25倍以上にする方法はなく(※Enhanced Intel SpeedStep Technologyを無効化すれば,24倍以下には手動設定できる),オーバークロックは基本的に,ベースクロックの引き上げによって試みることとなる。
このほか,テスト環境は表のとおりだ。
オーバークロック動作に当たっては,空冷での常用を想定し,
- 4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠で,GPU負荷が高く,CPUの性能差がスコアに出にくい「標準設定」の1920×1200ドット解像度と「高負荷設定」を省略しつつテストを行い,すべてが完走すること
- CPUとメモリに負荷をかけ続け,システム全体の安定度をチェックするソフト,「Prime95」を12時間連続実行し,その間,エラーが出て停止したりしないこと
をもって,「安定動作」とした。
まずは,CPUコア電圧などの設定をデフォルトのままにしながら,ベースクロックを引き上げていったところ,安定動作の限界は,146MHz×24の3504MHz(約3.5GHz)が限界だった。どうやら,ベースクロックと同期するQPI(QuickPath Interconnect)のクロックが上がってしまうことが原因のようだ。
そこで,BIOSメニューから,定格6.4GT/sのQPIクロックを(Core i7通常モデルと同じ)4.8GT/sに落とし,さらにCPUコア電圧を「+0.3V」設定したところ,この状態では156MHz×24=3744MHz(約3.74GHz)で安定動作。このとき,「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)が有効になると,1コアが156MHz×26=4056MHzで動作しており,まだ“余力”がありそうな感じだ。
今度は,CPU省電力機能であるEnhanced Intel SpeedStep Technology(拡張版インテルSpeedStepテクノロジー,以下EIST)とTurbo BoostをBIOSから無効化。すると,ベースクロック169MHz×24=4056MHz(約4.06GHz)まで伸びた。さらに,「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,HT)を無効化すると,176MHz×24=4224MHz(約4.22GHz)まで上がるのを確認できている。
HTを無効にしたことで,Prime95の負荷が減少したため,より高いクロックへ到達できるようになったと考えるのが妥当だろう。
つまり,より高い動作クロックを実現するためには,EISTやTurbo Boost,HTをすべて無効にすればいいということになるわけだ。
動作クロックを高めるだけでは
パフォーマンスが出ないことも?
しかし,Turbo ModeやHTを無効にして,ただ動作クロックを引き上げるだけでパフォーマンスは上がるのだろうか? ここからは,ベンチマークテストを用いて,その点を明らかにしてみたいと思う。スペースの都合上,グラフ内ではTurbo Boostを「Turbo」,EISTとTurbo ModeやHTの無効化状態を「EIST&Tubroオフ」「HTオフ」とそれぞれ表記する。
グラフ1は,「3DMark06 Build 1.2.0」(以下,3DMark06)の総合スコア,グラフ2グラフ2がそのCPUスコアを抜粋したものだ。
ここで注目したいのは,HT有効時だと,総合スコアとCPUスコアのいずれも動作クロックに比例したスコアの伸びを示しているのに対し,HTを無効化すると,スコアが落ちてしまっている点だ。マルチスレッド対応が図られている3DMark06では,HTの効果が色濃く表れたということになる。
続いてグラフ3は「Crysis Warhead」の結果である。Crysis WarheadはGPU負荷が高いためか,CPUの動作クロックの影響が少なく,オーバークロックを行っても平均フレームレートへの影響がまったく見られない。また,それは同時に,本タイトルではTurbo BoostやHTの恩恵を受けられないことも意味している。
一方,オーバークロックの効果が絶大なのが,グラフ4に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。Call of Duty 4では,Turbo Boostを無効にしても,動作クロックが引き上げられると(わずかだが)パフォーマンスが向上する。しかし,HTを無効化すると,クロック分ほどはパフォーマンスが伸びない印象だ。
Turbo Boostの得手不得手を感じられるのが,グラフ5に示した「デビル メイ クライ 4」だ。負荷の低いテストゆえ,GPUボトルネックが生じがちなので,低解像度を中心に見ていくことにするが,ここではベースクロックを133MHzから146MHzに高めることでスコアが向上しているのに対して,156MHzにすると逆に落ちてしまっている。これは,「TDPの上限値内でオーバークロックを行う」仕組みのTurbo Boostが,TDPの余裕が減ったことで,クロックの引き上げをあまり行っていないことが原因だろう。ベースクロックを169MHzに設定しても,Turbo Boost無効化の影響で,スコアはあまり伸びていないことからも,このことは裏づけられる。
面白いのは,HTを無効化して,ベースクロックを176MHzまで引き上げると,“Turbo Boost無効分”が埋まり,最も高いスコアを示している点だ。
「Company of Heroes」の結果は,Call of Duty 4とデビル メイ クライ 4を“足して2で割った”ようなスコアになっている(グラフ6)。基本的には動作クロックに応じたスコアだが,ベースクロック156MHzでは,TDPの余裕がなくなったためか,スコアを落とす。
グラフ7は,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果だ。一応,動作クロックに応じたスコアを見せてはいるものの,その差はほとんどないに等しく,オーバークロックの恩恵はあまり受けられていない。
CPUコア電圧を高めると,
消費電力も一気に増大
オーバークロックを行ったとき,消費電力がどれだけ増大するのかは気になるところ。そこで今回も,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定した。なお,本テストに当たっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,オーバークロックの安定動作を探る都合上,「Prime95」によりすべてのCPUコアに負荷を掛け続け,12時間経過した時点を「高負荷時」としている。
その結果をまとめたのがグラフ8だが,やはり,コア電圧を+0.3Vすると,消費電力は一気に高くなってしまう。とくに,ベースクロックを169MHzに設定した状態では,定格電圧&ベースクロック時と比べて,130Wも上昇してしまっているのが目を引く。
なお,HTを無効化すると,高負荷時の消費電力が大きく下がっているが,これはPrime95の負荷が8スレッドから4スレッドへと半減しているため。ただ,Prime95を実行していないアイドル時でも消費電力値はわずかながら下がっているので,複数のスレッドが同時に走らない状態においても,HT無効化による消費電力の低減効果は相応にあるようだ。
続いて,V8の冷却性能を確かめるべく,アイドル時と高負荷時におけるCPUの温度を「HWMonitor Pro」(Version 1.02)から測定したものがグラフ9である。4コアすべてのスコアを掲載すると,グラフが大きくなりすぎるため,記事には4コアの平均値を掲載している。グラフの画像をクリックすると,完全版を別ウインドウで開くので,興味のある人はそちらを参照してほしい。
さてスコアは,室温21℃の環境において,PCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で取得したものだが,定格動作時のCPU温度は高負荷時にも60℃以下。Intelのリファレンスクーラーで計測したときは(マザーボードなど,テスト環境が異なるため,あくまで参考値であるものの)70℃台後半だったので,「よく冷却できている」といえるレベルだ。
ただ,そのV8をもってしても,ベースクロックを169MHzに設定すると,CPU温度は90℃近くにまで跳ね上がる。オーバークロック設定時に安定動作を望むのであれば,十分な冷却能力を持ったCPUクーラーが必須となるのは,あらためて指摘するまでもないだろう。
なお,HTを無効にするとCPU温度が下がっているのは,消費電力の検証時と同じく,Prime95の負荷が軽くなったためである。
V8の冷却性能は申し分なし
製品版Core i7のOC耐性もまずまず
もちろん,すべてのCPUがこのクロックで動作すると保証されるわけではないが,V8のようなCPUクーラーを用いれば,Core 2に負けず劣らずのオーバークロック動作を実現できる点に,魅力を感じる人は少なくないと思われる。
プラットフォーム導入コストの問題を抱えるCore i7ではあるが,かなり遊べるCPUであることは間違いない。
- 関連タイトル:
Core i7(LGA1366,クアッドコア)
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