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[CJ 2007#47]中国ゲーム運営者に聞く,最新中国オンラインゲーム事情と日本の関係
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印刷2007/07/15 23:59

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[CJ 2007#47]中国ゲーム運営者に聞く,最新中国オンラインゲーム事情と日本の関係

上海寄趣網絡科技CEO陳功氏(左)とVice Presidentの張暁丞氏(右)
 上海寄趣網絡科技は,中国国内でオンラインゲームの運営を行う一方,日本のゲームを買い付けて中国市場に紹介したり,投資をするといった事業を行っている会社である。それだけに,日本のゲームメーカーの事情も中国市場の事情もすべて精通していることを要求される。
 たまたま縁があって知っている会社なのだが,今回はChinaJoyの会場でばったり会ったので,CEOである陳功氏とVice Presidentの張暁丞氏に,ChinaJoy会場で中国のオンラインゲーム市場と日本メーカーの状況などについて少し話を聞いてみた(以下,文中には日本語の達者な陳氏しか登場しないが会場では2人にインタビューを行っている)。


4Gamer:最近の中国のオンラインゲーム市場と,日本メーカーの関わりなどについて,日本の読者と日本のメーカーのために少しお話を聞かせていただきたいのですが。

陳氏:中国メーカーのゲームも非常に増えてきていますね。マーケットから見てもかなり拡大しています。日本のメーカーは,残念ながら一部撤退してしまったところもあります。日本のメーカーが,今後中国で展開していくには,地元マーケットと協力していくことが重要ではないかと思います。

4Gamer:といいますと。

陳氏:日本のメーカーは昔から,漫画文化といいますか,アニメ関係では強いものを持っています。ゲームについても輸出No.1ではあるのですが,オンラインゲームについて見てみると,まだ韓国より全然弱いです。これには,日本の市場の問題もあるのでしょう。コンシューマゲームと比べると日本のオンラインゲームは,まだ市場が小さいですし。しかし,日本,韓国,中国,台湾といったアジア規模で考えると,オンラインゲーム市場はそうとう大きなものになります。

4Gamer:では外から見て,今後日本のメーカーはどうするべきだと考えますか?

陳氏:私の知っているメーカーの中にも,日本のゲームをそのまま持ってくるようなところが多いのですが,これはよくないですね。何十億円もの資金を投入して開発した作品もあるわけですから,そんな適当なことをせず,必ず成功するように全力を尽くすべきです。そしてそれには,市場のニーズを取り入れることが必要です。とくにオンラインゲームの場合,マーケットと一緒に作り上げていくことが重要だと思います。

4Gamer:それは各地にあったローカライズが必要だという意味ですか?

陳氏:そうです。だいたい50%くらいの完成度の時点でゲームを見せていただければ,それに対して中国で成功するためにはどのようにしなければならないかをアドバイスできますし。しかし日本の場合は,完成した作品を持ってくることが多く,手を加えようと思っても難しい場合が多くあります。これはコンシューマゲームなどでの古いやり方を引きずっているのだと思いますが,これではよりよいものを作ることができません。

4Gamer:なるほど。

陳氏:日本のメーカーさんは,80%以上の完成度にならないと見せてくれないので非常に困っています。まあ逆に,韓国メーカーの場合は20%くらいの完成度で売り込んでくるので,これはこれで非常に困るのですが(笑)。



日本でのサービスは終了してしまうが,中国では絶大な人気を誇っていたクロスゲート。公式には2300万人という数字が一般的だが,一説には3000万人とも4000万人といわれるプレイヤー数を集めた作品だ。ある日サーバー丸ごと盗まれたという噂も聞かれるのだが,その差1000万人以上はもしかして……
■セキュリティ周りが甘すぎる日本の開発

4Gamer:確かに日本のコンシューマメーカーは,情報規制には厳しいところが多いです。それ以外に,日本のメーカーにとって障害となるようなものはありますか?

陳氏:セキュリティ関係ですね。

4Gamer:セキュリティといいますと?

陳氏:ハッキング対策です。コンシューマゲームではハッキング対策をする必要がなかったのかもしれませんが,日本のオンラインゲームはセキュリティが十分ではないので,サービスを開始してもいろいろなトラブルが多くなっています。みんな期待していたゲームだったのに,ハッキングによって大打撃を受けてしまったものもあります。オンラインゲームはバランスが重要ですが,ハッキングによって大きくバランスが崩れてしまいゲームが崩壊してしまいます。

4Gamer:セキュリティの問題に関して,なにかアドバイスはないですか?

陳氏:中国ではハッキングに対してまだ法律の整備ができていません。たいていはグループによるハッキングで,かなり執拗に狙われますので,それに対するノウハウや競争力が必要です。

4Gamer:具体的に何か教えてください。

陳氏:日本ではコンシューマゲームが強かったためか,ゲームクライアントで多くの処理を行う傾向があります。しかし,これはハッキングに非常に弱い構成だといえます。クライアントを少しいじるだけでアイテムが増えたり,能力値が上がったりすることもあります。かといって,サーバーサイドで全部の処理をやろうとすると通信量が膨大となり,ゲームの運営が破綻してしまいます。そのあたりのバランスが重要で,これはノウハウを必要とする部分です。日本では,そのあたりのノウハウを持つ会社はほとんどありません。

4Gamer:中国はその執拗な攻撃にさらされているんですね。

陳氏:そうです。ハッキングと大量アクセスの本場(?)で揉まれた中国の運営会社は,そのあたりのノウハウを豊富に持っています。シングルゲームのノウハウだけでは,オンラインゲーム,とくにMMOゲームは制作できません。逆に,そのあたりのノウハウは持っていても,魅力的なコンテンツを作り出せなければ競争には打ち勝てません。先日発表されたテクモとShandaの提携などは,補完しあうには最高の組み合わせといえるのかもしれません。

ChinaJoy 2005会場風景より。韓国NCsoftは大々的にリネージュIIの中国サービス開始をアピールしていたが,翌年および今年のChinaJoyにはまったく参加していない。これまた中国語版の怪しいコピーサーバーがあふれたとも聞くが……。5万人の会員を集めていた不正サーバー運営組織をFBIが摘発したのは,まだ記憶に新しいところだ
4Gamer:今まで見てきた日本のタイトルで,ハッキング対策ができているなと思える作品はありましたか?

陳氏:特定のタイトル名を挙げるのは勘弁してほしいのですが,ちゃんと対策されている作品ももちろんありました。以前腕のよいハッカーを雇って,いくつかのタイトルをチェックしてもらったことがあったのですが,クライアントの処理比重が高いタイトルでは,簡単にパラメータをいじったり,移動速度を速くすることができました。しかし,なかにはちゃんと対策を取られているものもいくつかありました。

4Gamer:日本から見た場合,中国にゲームを持ち込むと,サーバーを含めてあらゆるものが盗まれると思ってしまいがちですが,そういったものも,事前に対策を行うことで防げるとお考えでしょうか?

陳氏:そうです。かなり防げる問題だと思います。

陳氏らの運営する上海寄趣網絡科技のWebサイト。なにやら,上で極端な例を挙げてしまったので警戒する人もいそうだが,ちゃんとした運営をしているところなら大丈夫(なはず)
■政府の規制も,実質的に市場拡大のさまたげにはなっていない

4Gamer:なるほど。事前に作品を見せたり,ハッキング対策をしたりと,いろいろ手間が必要になってくるわけですが,そうまでして中国市場に乗り込むメリットはあると思われますか?

陳氏:やはり,中国の人口は魅力ですよね。

4Gamer:最近の,中国ではオンラインゲームユーザー数はどれくらいですか?

陳氏:ハッキリした数字は誰にも分かりませんが,数千万人というところでしょうか。

4Gamer:やはりかなりすごい数ですね……。

陳氏:中国では,市場がMMORPGからカジュアルゲームに重点が移行しつつあり,これもユーザー数を増やす要因となっているようです。これには政策的な問題もあって,MMORPGのような長時間の連続的なプレイを要求されるゲームよりも,短時間で楽しめるものが推奨されているわけです。

4Gamer:ログイン時間の規制などですね。

陳氏:そうです。現在では,すべてのゲームでログイン時間が規制されているか,長時間ログインしていると,経験値が入らないなどのペナルティが科されるようになっています。ゲームにのめり込みすぎる人が続出している状況では,ゲームをするために学校を辞めたりといった社会問題をなくすためには,法的規制もやむをえないと思います。

4Gamer:その法律は,MMORPGの運営会社に大きな影響を与えているのでしょうか?

陳氏:影響はあるにはありますが,基本的には以前と変わっていません。マーケットはまだまだ拡大しているので,時間制限によるビジネスへの影響などというものは,さほど問題になっていないのです。

4Gamer:中国では,ユーザー一人当たりの収益はどれくらいでしょうか?

陳氏:それも,正しい数字は簡単には分かりませんね……。以前は定額制がほとんどだったので,月に30元〜60元くらいというのははっきり分かったのですが,アイテム課金が主流になって,大きく変わっています。現在では,おそらく60元〜100元くらいではないかと思われます。

4Gamer:中国でもアイテム課金のほうがARPUが上がるんですね。

陳氏:そうですね。

■RMTの本場におけるRMTの意味とは?

4Gamer:RMT問題は,中国ではどのように認識されているのでしょうか?

陳氏:法律的にはまだなにも対策はされていませんし,そもそもRMTをやっている業者は広告を打ったりもしてますし,一般的に考えて社会的な問題とはみなされていません。

4Gamer:なるほど。よそで聞く話と同じですね。

陳氏:またゲーム会社としても,RMTは「禁止することはできない」というのが大方の考え方です。RMTがゲームアイテムの売り上げに多少の影響を与えることはあるにしても,ごく小さなものでしかないと考えています。ゲームに重大な影響を与えるハッキングツールさえ使わなければ,とくに問題にされていないというのが実情ですね。

4Gamer:昨日ほかの会社の人に,中国では,RMTを利用するような富裕層は海外産のゲームをプレイするので,国内メーカーではRMT対策などまったく必要としていないと聞いたのですが,これは正しそうですね。

陳氏:正しいと思います。RMT,つまりバーチャルマネーをリアルマネーに変換できるというのは,……なんといいますか,そのゲームにとってはむしろ誇るべきことなんですよ。もともと価値などないはずのバーチャルマネーが,リアルマネーで取引されるほどに価値を持つというのは,そのゲームの評価がいかに高いかを示すものですから。

4Gamer:なるほど……。

陳氏:中国では,ゲームをやっている人はあまりお金を持っていないんですよ。お金持ちの人は忙しくてゲームなどをしている余裕はありませんから。

4Gamer:それはどういった層の人たちですか?

陳氏:主流は若者ですね。「1元持っていれば2元使ってしまう」といった金銭感覚の人たちです。日本にもいるんじゃないですか? クレジットカードを持って給料以上にお金を使っちゃう人が(笑)。

4Gamer:身につまされますね……。年代的にはどのあたりでしょう?

陳氏:1980年代以降の生まれですね。この世代は苦労というものを知らずに育っていますので,収入はなくても親からお金をもらって遊んで暮らしているような感じです。一人っ子政策もあって,大事に大事に育てられた世代ですので,苦労というものをまったく知りません。それ以前の世代とはまったく考え方が違うようです。

4Gamer:どこの国も同じみたいですね(笑)。いつもなら読者に向けてひと言もらうのですが,御社の業務から考えて,日本の会社にひと言,のほうがよさそうですね。

陳氏:日本のよいゲームがあったらぜひ紹介してください。うちで運営させていただいです(笑)。

4Gamer:本日はありがとうございました。

 中国では,30年間一人っ子政策が続けられてきている。以前別の人に,PCゲームを楽しめるような高性能なPCを持っている子供がどれくらいいるのかを聞いたことがあったのだが,一人の子供には,親の財布が二つ,親の親の財布が四つ,計六つの財布があるといわれているのだそうだ。加えて,PCは勉強の道具とみなされているようで,高性能PCを持っている子供は意外と多いのだという。また,中国では,キーボードでのゲーム操作を苦にする人はまったくいない。歴史的にコンシューマゲーム機が入ってこなかったということも,PCゲームの文化を支える要因となっている。
 日本では,コンシューマゲームの隆盛により,PCを使ったゲームは爆発的な伸びは見せていない。PCでは10年以上前からオンラインゲームの流れができてきているのだが,コンシューマではまだネットワークは始まったばかりで,必要なノウハウを蓄積するには時間がかかりすぎる。韓国についても同じことがいえるが,こういった日本が不得手な分野で協力関係を築き上げることがなにより重要となるだろう。

 RMT問題では,日本と中国ではまったく考え方が違うことも見せつけられる。著作権問題もそうだが,一方的にこちらの尺度で良いとか悪いとかを議論したところで,まったく始まらない。それぞれの考え方の根本にあるものを互いに理解していくこともまた必要ではないか,と改めて感じた次第だ。

 日本/欧米を問わず,昨今のゲームメーカーにとっては,避けては通れない国となりつつある中国。失敗のリスクはまだまだ高いが,それは日本のゲームメーカーだけに限った話ではない。中国という国は,Yahoo!もGoogleもeBayも寄せ付けない独自の進化を遂げているのだ。
 中国に限った話でも,そしてまたビジネスに限った話でもないが,人はいつも気付かずに自分の尺度で物事を判断するものだ。自由経済の歴史がまだ浅いせいもあるのか,我々が知らずにコモンセンスとして認識していることの中には,中国という国では「まったく通用しない」ことがいくつもある。自分たちの常識をすべて捨てて,中国という国にキチンと入り込めるのはどの会社なのか。ここ2,3年の動向から目が離せなくなりそうだ。(Kazuhisa/aueki)

ついに大手ポータルサイトに売却された,eBayの中国部門(右)。英語版のページ(左)と比べると,「中国特化型」のトップページになっていることがひと目で伺える。世界のインターネットオークションの雄も,中国マーケットでは成功できなかった
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