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インディーズゲームの小部屋:Room#610「The Wanderer: Frankenstein’s Creature」
近頃は,妖精さんに体術を仕込もうと厳しいトレーニングを課している筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第610回は,La Belle GamesとARTE Franceが共同で開発した「The Wanderer: Frankenstein’s Creature」を紹介する。本作はメアリー・シェリーの古典的小説「フランケンシュタイン」を題材にしたアドベンチャーゲームだ。アスラ先生,お願いします!
フランケンシュタインと聞くと,いかつい顔つきで首やこめかみから太いボルトが突き出し,「フンガー」としかしゃべれず,なんなら電気を使った攻撃もしちゃう怪物を想像しがちだが,これらはすべて後世になって作られたイメージだ。そもそも,この名前は人間の死体をつなぎ合わせて怪物を生み出した科学者,ヴィクター・フランケンシュタインのもので,クリーチャー自身には名前がないというのは有名な話だろう。
メアリー・シェリーが1818年に匿名で出版した原作小説では,このクリーチャーは高い知性と人間の心を持っており,決して生まれつき凶暴というわけではなかった。しかし,あまりに醜悪な容貌のため人間に迫害され,さらにヴィクターから自分の伴侶となる異性の人造人間を作ることを拒まれたことで,彼への憎しみと復讐心を募らせていくという,悲劇的な存在として描かれている。
ゲームに登場するのは,この原作のイメージに近い“フランケンシュタインの怪物”だ。プレイヤーは過去の記憶を持たずに目覚めた純真無垢なクリーチャーとなり,自分の居場所を求めて各地を放浪することになる。一部の設定を除き,ストーリー自体は原作と大きく異なっているが,どこへ行っても誰からも受け入れてもらえないクリーチャーの旅路の過酷さと孤独は,ゲームでも変わらない。
グラフィックスは絵画のような淡いタッチで描かれており,クリーチャーが幸福なときは色鮮やかに,不安や怒りを感じているときはどす黒く変化する。子供達とボール遊びをしているあいだは明るかった世界が,大人達に見つかって追い立てられ,石を投げられることで,たちまちくすんでしまう。そしてこのとき,ただ人間を追い払うか,仕返しをするかでクリーチャーの運命が分岐していく。
本作はマルチストーリー/マルチエンディングを採用しており,クリーチャーが復讐にかられた悪魔となるか,あるいは別の道を歩むのかはプレイヤー次第。一度のプレイでは味わい尽くせない,ロマン主義的で切ない世界観と,それを彩る力強い音楽が大きな魅力で,クリーチャーの悲哀に胸を打たれるゲームに仕上がっている。そんな本作はSteamにて1640円で発売中なので,良質のアドベンチャーゲームを探している人はぜひどうぞ。
■「The Wanderer: Frankenstein’s Creature」公式サイト
http://frankenstein.arte.tv/en/- この記事のURL:
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