連載
インディーズゲームの小部屋:Room#443「ABZÛ」
現実世界では,もう何年も海に行ってない筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第443回は,Giant Squidの「ABZÛ」を紹介する。本作は,美しい海の中を自由に泳ぎ回れる海中探索アドベンチャーだ。夏と言えば,やっぱり海だね! たまには本物に行きたいけど!
「こちら」の記事でもお伝えしているとおり,本作のクリエイティブディレクターを務めるマット・ナヴァ氏は,thatgamecompanyで「Flowery」や「風ノ旅ビト」などのアートディレクションを担当したという経歴の持ち主。Floweryでは風に乗って花びらが舞う草原,風ノ旅ビトではどこまでも続く砂漠の世界,そして本作では色鮮やかな海中が舞台になっている。
ナヴァ氏ならではの,幻想的でどこか懐かしさを感じさせるアートワークは本作でも健在……というか,これまで以上にその才能が発揮されている。日光が明るく差し込む透き通った海で,無数の熱帯魚の群れに混ざって泳ぐのは純粋に楽しい体験だし,光の届かない深海で巨大なクジラの群れに遭遇したときの恐怖というか畏怖は,海の神秘を感じさせてくれる。
本作では文字や言葉を使った演出は一切なく,プレイヤーは主人公のダイバーを操作して海中を探索し,ひたすら先へ先へと進んでいく。ゲーム進行はほぼ一本道で,たいていの場合,2つ1組になっている仕掛けを起動して扉を開け,その先にあるポータル(のようなもの)から次のエリアへ進むという流れだ。
ダイバーは海中の生物と良好な関係を築いているようで,恐ろしげなホオジロザメであっても襲ってくることはなく,ゲームオーバーは存在しない。プレイヤーは何かに急かされることなく,好きなだけ海中探索を楽しむことができるというわけだ。また,ときおり海流に乗って高速で海中を突き進むシーンもあり,ゆったりした遊泳シーンとのいいコントラストになっている。
海中には,主人公の祖先達が残したと思われる古代遺跡や謎の壁画,何かの機械のようなものも眠っている。しかし,これらが何を意味するのかは説明されない。また,海中神殿のような場所で,主人公が自分の胸から取り出した光る球を捧げることによって新しい生命が芽生えるといった描写もあるが,これまた実に謎めいている。
ゲーム自体は,普通にプレイすれば2時間もかからずにクリアできるボリュームだが,一度最後まで遊んだあとも,次はもっとゆっくりと海中探索を楽しみながらプレイしたいと思わせる作品だ。とにもかくにも見事な海中描写が本作の大きな魅力であり,それらはとても言葉では表現し尽くせないので,興味を持った人はぜひ遊んでみてほしい。そんな本作はSteamにて,1980円で発売中だ。
■「ABZÛ」公式サイト
http://www.abzugame.com/キーワード
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