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男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第674回「枠を壊した『There is No Game』」
私,一応プロレスラーなんだけれども,世間一般ではそんなに認知度が高くないのですよ。それでも20年近く活動させてもらってきて,少なくとも業界内では知る人ぞ知るポジションにいさせていただいております。それはまあいいんです。じゃあ,ここまでなぜこのポジションでヤッてこられたのか。そんなお話をさせていただきましょう。
ところで,今週紹介するゲイムは「There Is No Game: Wrong Dimension」(PC / Nintendo Switch)です。このゲイムは,プレイを始めようとしたらゲイムの側からプレイヤーに対して,ゲイムをさせないように働き掛けてきます。言ってしまえば,ゲイムが「スタートボタン押すなよ! 絶対押すなよ!」って言ってくるんですね。
そりゃまあ押すじゃん。すると,そこから“プログラム”と“プレイヤーである私”の戦いが始まる。で,手を変え品を変え色んな切り口でプレイヤーにゲイムをさせまいと邪魔してくる。プレイヤーはその邪魔をかいくぐる。それがもうゲイムになっている。そんなゲイム。
もうね,身もふたもないことを言えば,このゲイムは推理アドベンチャーゲイムでありパズルゲイムなの。ただ,切り口が素晴らしい。RPGの名作「MOTHER」のラスボス戦みたいな感じ。あれってゲイムがゲイムを超えてプレイヤーに直接語りかけてくる演出なんだけど,まさにあの感じ。心に響くよね。
ゲイムはプレイヤーにどうやって感情移入させるかが大事だと私は思っているし(作ったことはないけど),逆に言えば自分の心が動けばそれは私の中では良いゲイムなのですよ。その意味で,ゲイムを超えて語りかけてくるThere is No Gameには感情移入しちゃうし,良いゲイムだと思うよね。だって主人公は私で,私がゲイムから敵視されているんだから。
具体的に言うとね,プロレスって相手の技を受けるという要素があります。もちろんこれはルールには定められていません。だから,本来は相手の技を受けなくてもいいんだけど,大体のプロレスラーは謎の美学で相手の技を受け止めちゃうんです。
マンガでも,誰かが習得した技は次の戦いで出るでしょ? そんな感じで相手に技を出させて,そのうえで勝ちたくなるんですよ。まあ厳密には技を受ける受けないの駆け引きはあるんだけど,大ざっぱに言えばプロレスって,相手を殴って蹴って投げて極めて,同時に相手のそれらを受けた結果どっちが強いかを競う競技なのですね。
そこに私は別の要素を入れてしまった。ほとんどの選手が対戦相手の技を受けるという前提があるんで,そこに自分の個性を入れてしまった。相手の股間をつかむ攻撃。唇を唇でふさぐ攻撃。相手の顔を生のケツにうずめさせる攻撃。要は,見ている人に「イヤだな,くらいたくないな」と思わせる攻撃。鍛えてる合戦では私は勝てないんですよ。だから,鍛えていようが鍛えていまいが関係ない攻撃をする。今までの枠になかったヤり方でアプローチしたから,私はなんとかここまで業界で生き永らえることができたのです。
ただ,“枠壊し”はただ枠を壊せばいいってもんじゃない点も指摘しとかなきゃね。枠を壊すにあたっては,必ず新しい枠を作らなきゃいけないのですよ。そのためにはこれまでの枠を理解しなければならないし,枠でない部分で勝負しなければならない。
There is No Gameの凄さは枠を壊したことと同じくらい,独自の枠を設定したこと。言っちゃえば,ただ切り口を変えたアドベンチャー&パズルゲイムなんだけど,じゃあ今までその切り口でちゃんとまとめてきたゲイムはありますか? って話なのです。
自分で言うのもなんだけど,私はあんまりプロレスラーとしての評価は高くありません。もちろん,私のことを好きでいてくれて応援してくれる人はいます。ありがたいことに。ただ,プロレスラーとして後世に残る選手か? という問いには「NO」という答えが多いでしょう。あ,いいんです。変な言い方だけど,今まで私は枠壊しでヤってきたんで,その枠前提で評価されようとも思っていないのですよ。そこは,枠を守ってきた人が評価されるべきだとも思っているし。
私,あまり他人に何を言われても響かないんだけど,それはその人の枠を基準とした苦情だからなんですね。なので,頑張っているけど他人の意見が気になってしょうがないって人には,「そこで勝負してないでしょ?」って言葉を送りたい。この言葉は自分を保つのに有用です。
もちろん,自分の中で反省したり改善点を探ったりすることはあります。他人の指摘が芯を食っていたら,自分の中に取り込むことも大切でしょう。でも! 他人からの指摘の多くは,その人が定める枠からのもので,それは必ずしもあなたの枠に当てはまるわけではないのです。そこで勝負しているかどうかを軸にしつつ,他人の意見に耳を傾けたり傾けなかったりすればいいんじゃないかと私は思います。
There is No Gameも,おそらく多数の有識者から評価されたくて作られたタイプのゲイムではないと,勝手に推測している。ただ,プレイする人に楽しんでほしいって気持ちで作られたってことは,ほかのゲイムに負けていないと私は思う。今までの枠にとらわれないで楽しんでいいんだ。ゲイムもプロレスも。そのために枠を壊してるんだから。
勝手な親近感を持ちつつ,これから私も「There is No ProWrestler」として頑張っていこう。そう勇気付けられた今週でした。
今週のハマりゲイム
PC:「METAL DOG」
PlayStation 5:「FIFA 22」
Nintendo Switch:「There Is No Game: Wrong Dimension」
iOS:「ロードモバイル」
iOS:「ウイニングイレブン カードコレクション」
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