インタビュー
[GDC2008#30]MMOに大金をかけてはいけない。少ない人数でサクサク作れ!「Jumpgate Evolution」のNetdevil式MMO開発法とは
Scott Brown氏(左)とProducerのHermann Peterscheck氏(右) |
このレクチャーは,同社CEOのScott Brown氏と,ProducerのHermann Peterscheck氏によって行なわれた。そもそもこういった考えに至ったのは,MMORPG界の巨人「World of Warcraft」(以下,WoW)の成功以降,欧米では同タイトルの一人勝ち状態が続いていることに起因しているという。各方面で「MMORPGの売り上げは右肩上がり」といわれることが多いが,実際にはそのほとんどがWoWのもので,ほかのMMORPGは決して景気のいい状況ではないと考えているのだ。これは最近になってサービスが終了したり,そもそもサービスイン前にキャンセルされるタイトルが増えてきたことから,そういった考えに至ったという。というわけで,大きなリスクを負わないために,あえて少ない予算でMMORPGを開発する必要が生じてきたと彼らは語る。
とはいえ,安易に予算を削り,作品のクオリティを落として誰にも遊んでもらえないのでは,そもそも作る意味がない。費用を抑えつつ,いいものを作り,利益を上げるという流れが理想になる。そのために同社が行っている/心がけていることを説明しようというのが,このレクチャーの主旨だ。
実際に彼らが行なっていることは,まず一にも二にもプロトタイプを早く完成させることだという。これは,バグがあろうが,とりあえずゲームっぽいものを基本コンセプトに基づき作り上げ,早めにプロジェクトの判断を行なうためだ。また,コンセプトに沿ったものを作り上げる過程で,メンバー間の意識の統一を図るという目的もある。それぞれが違った方向を向いていては,共同作業をする意味がなく,効率の悪化にもつながりかねないということだろう。
次に税金の計算や契約の事務的な処理など,開発に直接関係しないものは,すべてアウトソーシングしてしまい,ゲーム作りに集中できる環境を作る。さらにオフィスも,なるべく安いところを借りるなど,削れるものはすべて削るくらいのスタンスで開発に取り組むというのだ。実際にNetDevilは,家賃の高いオフィス街を去り,小さな銀行と同じ建物に移ったそうだ。
とはいえ,スタッフの気晴らしができるように,最低限の娯楽施設などは維持することを守っていた。やはりモチベーションを維持するためには,削りっぱなしではいけないということだろう。
作り上げるゲームのセールスポイントにも注意が必要だと,彼らは語る。最新の技術を使ってそれをウリにしてしまうと,長期間のサービスを行なうMMOの場合は,一定時間が経過するととたんに古くさくなり,結果としてウリが消えてしまう。とくに,そのような(最新の○○をウリにする)MMOが遊べるハイスペックのPCを持っている人は,技術的な新しさを求める傾向が強いため,長い間ゲームを遊んでくれる可能性は低いという。また,単純に多くの人に遊んでもらうため,ロースペックのPCで遊べるよう設計することも,MMORPGにおいては重要だと考えているそうだ。
そもそも,なぜMMOの開発に莫大な資金がかかるのかというと,専門的な知識を持った技術者が多く必要になり,彼らを雇うための費用がパッケージゲームよりもかさみやすいためだ。また,コンテンツの量も多く,運営が行なわれている限り作り続けるということも負担が大きい。さらに,作った以上はデバッグ作業なども発生するので,人件費はかさむ一方ということになる。
では,実際に少人数/低予算で,どのように開発を進めていけばいいのか。その具体例は,現在彼らが開発しているJumpgate Evolutionをもとに説明された。本作は,スペースシップを操縦して宇宙を飛び回り,交易や戦闘を行うという,話だけを聞いていると重厚長大なMMORPGだ。だが,開発に携わっているのは5名だという。この5名はいわゆる専門家ではなく,さまざまな業務を複数こなせる「ゼネラリストタイプ」の人材で,各自が業務を兼任し,無駄を省いているというのだ。ただし,コンセプトの決定とコンセプトアートの製作には時間を割いており,徹底した意識統一が図られている。少ない人数で作業を行なうので,各自がコンセプトをしっかりと把握していないと,大きな損害につながる可能性が高いのだという。
次にゲーム全体の限界,たとえば解像度であったり,ポリゴン数といったものを早めに決定してしまい,決定後は,それをくつがえすような議論は一切行わず,完成に向けて作業を続けていく。また,「自由度」を売り文句とするMMOタイトルが多いが,その自由度には当然限りがあるので,逆に「できること」を明確にし,それらを楽しめるように設計/アピールすることが重要なのだという。事実,Jumpgateでプレイヤーができることは,大ざっぱにいうと,
・宇宙を飛ぶこと
・戦闘
・障害物の回避
に絞られるという。ただし,減らすことが大切なのではなく,これらをすべて楽しめるように設計することが重要だ。MMOではないが,「Diablo 2」はクリック操作で敵と戦って,アイテムを拾い集めるだけで,楽しかった。理想は「あんな感じ」なのだという。
また,アイテムなどは,性能に微妙な差をつけるといった差別化にとどめ,コンテンツ制作から開発者を解放することも必要で,言い方は悪いが,手を抜けるところは徹底的に手を抜く必要があると語る。というのも,プレイヤーが遊ぶ時間も限られているので,三つの優れたキーフィーチャーがあるゲームは,30の中途半端なフィーチャーがあるゲームに勝ると考えているのだ。
そのゲームの製作にどれほどの資金がかかったのかなど,それを実際に遊ぶプレイヤーにとっては関係がない。だが,少ない人数/少ない予算で作れるのであれば,ゲームを作っているデベロッパのリスクが低減するのは確かだ。多くのデベロッパがきちんと生き残れれば,世の中に出てくるゲームも増えるので,面白いゲームが生まれる可能性もアップする。さらに,開発に携わる人数が少なければ,意思決定も早く,コンセプトから大きく外れてしまう危険性も少ないだろう。もちろん,Jumpgateはまだサービスが始まっていないので,この方法が正しいのかどうかは誰にも分からない。日本でのサービスは予定されていないが,たった5人で作っているという本作が,どのように市場に受け入れられるのかを見守ってみるのも興味深いだろう。
- 関連タイトル:
Jumpgate Evolution
- この記事のURL: