レビュー
Phenom世代のデュアルコアCPU,“Kumaさん”実力検証
Athlon X2 7750 Black Edition/2.7GHz
» Phenomアーキテクチャをベースとした,初のデュアルコアCPUを,宮崎真一氏が評価する。容量2MBのL3キャッシュを搭載する“Kumaさん”は,低価格化の進むデュアルコアCPU戦線にあって,どれだけの輝きを放つことができるだろうか。
L3キャッシュの存在に注目
オーバークロック設定では3.2GHz動作を実現
今回のレビューに当たって用意したAMD製CPUのスペックは表1にまとめたとおり。Phenomと同じく,2コアで共有される容量2MBのL3キャッシュを搭載する点が,最大のトピックとなるだろう。L2キャッシュ容量はコア当たり512KBなので,ざっくり言えば,「Brisbane」コアの「Athlon 64 X2 5200+/2.7GHz」(以下,X2 5200+)に,L3キャッシュが追加された格好だ。
Black Editionというと,製品ボックスにCPUクーラーが付属しないことで知られているが,X2 7750 BEでは,「TDP 95Wに対応した」(日本AMD)CPUクーラーが同梱されているという。今回,日本AMDから貸し出しを受けたX2 7750 BEはCPU単体なので,どんなクーラーが付属するかは分からないが,TDP 95W対応とされていることからするに,Phenom X3用と同じものではないかと推測される。
倍率を変更できるとなると,オーバークロック耐性は気になるところ。そこで,CPUクーラーとしてCooler Masterの「V8」を用意し,後述する,「AMD 790GX」チップセットベースのテスト環境でどこまで倍率を引き上げられるか試してみた。今回は,動作倍率のみBIOSから変更しつつ,
- 4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠で,GPU負荷が高く,CPUの性能差がスコアに出にくい「標準設定」の1920×1200ドット解像度と「高負荷設定」を省略しつつテストを行い,すべてが完走すること
- CPUとメモリに負荷をかけ続け,システム全体の安定度をチェックするソフト,「Prime95」を12時間連続実行し,その間,エラーが出て停止したりしないこと
高い動作クロックでも,サウスブリッジが追従できるようにする機能で,AMD 790GXからサポートされる「Advanced Clock Calibration Link」だが,今回テストに用いたMSI製マザーボード「DKA790GX Platinum」では,本機能の有効/無効設定が可能で,初期状態では無効化されているが,その場合は3.2GHz設定でOSの起動中にブルースクリーンなってしまう。ただ,有効化すると定格電圧でもOSの起動そのものは問題がなく,その効果のほどを確認できた。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
Athlon X2シリーズ最良の選択肢になるか
WindsorコアやCore 2 Duoと比較
今回のテスト環境は表2のとおり。先ほど紹介したDKA790GX Platinumは,BIOSバージョンが1.0でもX2 7750 BEを認識して起動したが,テストに当たっては最新のバージョン1.3にアップデートしている。Phenomシリーズに対応したマザーボードなら,X2 7750 BEの動作には問題ないと思われるものの,一応は,マザーボードメーカーや販売代理店のサポートページを事前に確認しておいたほうがいいだろう。なお,マザーボード側のメモリアクセス設定は,バス帯域幅が重要なゲームを想定し,Gangedモードに固定している。
比較対象について補足しておくと,まずAMD製CPUは,
- 「Athlon X2 5000+ Black Edition/2.6GHz」を,X2 7750 BEと同じ2.7GHz動作させ,BrisbaneコアのX2 5200+相当にした状態((以下,X2 5200+(Brisbane))
- 一世代前の「Windsor」コアを採用した,L2キャッシュ容量1MB×2版X2 5200+
- 同じくWindsorコアを採用し,キャッシュ構成の点からAMD派ゲーマーの間で根強い人気を持つ「Athlon 64 X2 6000+/3.0GHz」(以下,X2 6000+(Windsor))
になる。さらに,Intelプラットフォームからは,12月15日時点の実勢価格がX2 7750 BEに近い「Pentium Dual-Core E5200/2.50GHz」(以下,PDC E5200)と,X2 7750 BEオーバークロック設定時の比較用に,L2キャッシュ容量3MBの「Core 2 Duo E7300/2.66GHz」(以下,C2D E7300)も用意している。
テストはレギュレーション6.0準拠だが,GPU負荷が高くCPUの性能差が表われ難い「高負荷設定」は省略。同じ理由により,解像度は1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの3パターンに絞っている。また以下,文中,グラフ中ともに,オーバークロックで3.2GHz動作させたX2 7750 BEは「X2 7750 BE@3.2GHz」と表記する。
Athlon 64 X2 6000+を超えるパフォーマンス
Pentium Dual-Core E5200に価格も性能も近い
では,肝心のパフォーマンスを見ていこう。グラフ1は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。X2 7750 BEはPDC E5200を上回るパフォーマンスを見せており,X2 6000+(Brisbane)と比べた場合も,わずかだが確実に上位。オーバークロックによるスコアの向上も著しく,C2D E7300のスコアを安定して上回る。
解像度1280×1024ドット設定時のCPU Scoreのみを抽出したグラフ2では,X2 6000+(Brisbane)に逆転を許すなど,スコアは多少落ちており,X2 7750 BEの優位性は,CPUコアそのものというよりも,HyperTransport 3.0など,プラットフォーム全体によってもたらされていることが窺えよう。
実際のゲームタイトルではどうだろうか。グラフ3は,FPS「Crysis Warhead」における平均フレームレートをまとめたものだが,ここでは,X2 7750 BEの動作クロックがX2 6000+(Windsor)を下回ることもあり,スコアは低めになっている。また,オーバークロックの恩恵も大きくなく,X2 7750 BE@3.2GHzはやっとPDC E5200に並ぶほどだった。
続いて「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のスコアをまとめたのがグラフ4だが,ここでは少々異なった傾向を見て取れる。
まず,X2 7750 BEはX2 6000+(Windsor)に10%以上もの差を付けており,C2D E7300とほぼ同等レベルに達している。オーバークロックの効果がまるで現れていないこと,そして,Call of Duty 4ではキャッシュ性能が“効く”ことからして,X2 7750 BEの持つL3キャッシュが有効に働いたと考えるのが妥当だろう。
同じくFPSから,「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果がグラフ5となる。同一クロックで比較したとき,X2 7750 BEとX2 5200+(Brisbane)との差は一目瞭然。3DMark06と同じく,X2 6000+より高いスコアを示している点も指摘しておきたい。
一方,オーバークロックによる性能向上はあまり大きくなく,X7 7750 BE@3.2GHzはC2D E7300には大きく溝を空けられてしまっている。
TPS「デビル メイ クライ4」も,UT3と似た傾向になった(グラフ6)。X2 7750 BEのスコアはX2 6000+(Windsor)以上で,PDC E5200と同程度である。
グラフ7に示したRTS,「Company of Heros」でも大勢は変わらない。X2 7750 BEはX2 6000+(Windsor)やPDC E5200とほぼ同じ。X2 7750 BEを3.2GHzにオーバークロックしてもC2D E7300には置いて行かれる。
最後はレースタイトル「Race Driver: GRID」(以下,GRID)だ。グラフ8はCall of Duty 4の結果と比較的同じような傾向を示しており,X2 7750 BEはX2 6000+(Windsor)に対して,大きな差を付けている。対Core 2では,定格動作時にPDC E5200と同等だ。
TDP 95Wは伊達でなく
消費電力は高い結果に
そこで,今回も消費電力をチェックしてみよう。いつものように,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定する。このとき,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,「Prime95」によりすべてのコアに30分間負荷を掛け続けた時点を「高負荷時」とした。AMD製CPUは「Cool’n’Quiet」,Intel製CPUは「Enhanced Intel SpeedStep Technology」と,それぞれ省電力機能を持つので,アイドル時については省電力機能有効時と無効時のそれぞれでテストを行っている。
結果はグラフ9のとおりだ。アイドル時,高負荷時とも,X2 7750 BEの消費電力はかなり大きい。従来のAthlon 64 X2(現Athlon X2)が持つCool’n’Quietがかなり優秀という見方はできるうえ,TDPどおりの結果が出たともいえるが,マザーボードの違いによる消費電力の差異を加味しても,Intelプラットフォームとの差が歴然としてしまっているのは,正直いただけない。
なお,先に述べたとおり,X2 5200+(Brisbane)は,Athlon X2 5000+ Black Editionからの倍率変更で実現しているため,スコアはN/Aとした。
アイドル時と高負荷時におけるCPU温度を測定した結果がグラフ10である。通常,CPU温度は「HWMonitor Pro」(Version 1.02)で測定するのだが,X2 5200+(Brisbane)は,HWMonitor Proでスコアを正常に取得できなかったため,本CPUのみ,CPUクーラー研究室製の温度測定ツール「ぷりぷりてんぷ」を利用している。
テスト環境はPCに組み込まないバラック状態にあり,室温は21℃だ。
ここで注意してほしいのは,X2 7750 BE@3.2GHzのみ,CPUクーラーとしてV8を利用していること。それ以外のAMD製CPUはX2 6000+(Windsor)の製品ボックスに付属するCPUクーラー,Intel製CPUはC2D E7300付属のそれを利用している。また,グラフが大きくなりすぎてしまうため,記事には2コアの平均値を掲載している点もご理解いただきたい。グラフ画像をクリックすると,各コアの詳細を含む完全版を別ウインドウで表示するようになっている。
さて,消費電力の高い傾向にあったX2 7750 BEだが,ことCPUの温度に関してはほかのAthlon 64 X2シリーズと遜色ない。高負荷時も60℃台半ばと,“熱い”という印象は受けない。余談だが,X2 7750 BE@3.2GHz高負荷時のスコアは37℃で,V8が持つ冷却性能の高さを物語っている。
コストパフォーマンスは申し分なし
ネックは消費電力の高さとタイミングか
AMDが公式にコメントしたことはないのだが,マザーボードベンダーから伝え聞く話によると,X2 7750 BEはPhenom X4シリーズから2コア分を無効にしたもので,新設計のプロセッサではないとのこと。どこまで本当かは分からないが,TDPや消費電力の高さから考えると,その情報は概ね間違っていないように思える。もっといえば,45nmプロセスルールを採用した「Phenom II」が登場間近と見られる(関連記事)この時期が,消費電力の高い下位製品を購入するのに適したタイミングかというと,疑問が残る。
市場で入手できるAthlon X2シリーズのCPUとして最速の製品であるということに疑いの余地はなく,1万円以下という手の出しやすさも魅力だ。AM2+対応のSocket AM2マザーボードを持つユーザーが――消費電力をあまり気にしないのであればという前提にはなるが――次世代CPUへのつなぎとして購入するには,悪くないCPUであるといえるだろう。
- 関連タイトル:
Athlon X2
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