連載
ついにこのコアな連載も第8回,最終回とあいなった。なんだか回を追うにつれて担当国がマゾヒスティックになっていったような気もするが,最終回はインカである。歴史的にいうと,いわゆるコンキスタドールに,すごい勢いで叩きのめされてしまった国だ。
インカが少数のスペイン人にあっさり打倒されてしまった理由はいくつも分析されているが,極めて大ざっぱにまとめるなら「お客が来たので応接間に通したら,実は押し込み強盗でした」というところだろうか。そこに内紛やら伝染病やらといった問題が複合的に絡んでいった結果,世界史に残る大虐殺&大略奪は「成功」し,ヨーロッパの歴史は中南米そのものを踏み台にして大きく変動していくことになる。
だがEU3であれば,訪れる“客のようなもの”が客などではないことを,プレイヤーは熟知している。それさえ分かっていれば,もしかして一発逆転もあり得るんじゃなかろうか? 実際ヨーロッパ側でプレイするとき,インカ攻略は無人の野を行くがごとしというわけではない。第二次世界大戦ではフランスだってポーランドだってドイツ軍に結構な損耗を強いたのだから,きっとインカにだって何かできるはずだ。
ああ,まあ,確かにヴェーゼル演習でデンマークは,ドイツ軍にまるで損耗を強いてませんね,ええ。で,でもきっと,デンマークよりは頑張れる……かな……と……。
インカプレイで最初に,そして最後まで問題になるのが宗教の壁である。非常に簡単に言って,EU3におけるキリスト教徒はアニミズムを信仰する人々のことを,対等な交渉相手とみなさない。プロヴィンスを軍事的に占領したら,よくある歴史陣取りストラテジーのように,占領した国がそのままそのプロヴィンスの支配権を持っていってしまう。そこに「和平交渉」という4文字はないのだ。
一方,アニミズム側にとってみると,キリスト教徒もまた同じ人間であり,話し合う余地のある人々である。ゲーム内で防御施設もない村落状態ならともかくとして,城壁が立っていればその内側は,きちんと和平交渉で扱うべき財産なのである。
この食い違いが何を生むかというと,キリスト教徒はインカを攻めに攻め,インカが仮に防御施設を建設していたプロヴィンスであろうとも,何の相談もなく持っていってしまう一方で,インカ側はそうして持っていかれたプロヴィンスを和平交渉で取り返さなくてはならないという痛々しさである。いくらなんでもアンフェアだが,これが現実だ。
そのうえインカは部族社会制をとっており,部族社会には3パターンあるがいずれも技術研究に−50%のペナルティがかかる。また,南米文化圏に属しているためさらに研究は遅くなり,具体的に言うと陸軍技術を0レベル(防御施設も作れない)から1レベル(防御施設が作れる)に上げるためには7万ダカットくらいかかる。1か月に使えるお金が50〜60ダカットとか言ってる段階で7万。なんだかケタが違う。
しかも仮に陸軍技術を上げていったとしても,アメリカ土着文化の陸軍ユニットはとにかく弱い。技術を進化させてもダメ,させなくてもダメ。あからさまに詰んでいるのである。
このデッドエンドっぷりは実に徹底していて,これだけでもうダメダメなのに,さらにダメを加速させる仕掛けが施されている。インフレである。
インカは黄金の国。金山を大量に所有しており,資金は比較的自由に扱える。これは一見して素晴らしい。
だが金山から産出される金は,あまりにもその量が多いと,それだけでインフレの要因となる。インカはゲーム開始直後の段階で,インフレが年+0.1%の自然増状態にある。
年+0.1%くらい……と思うかもしれないが,10年で1%である。陸軍技術を向上させるのに必要な金額が7万ダカットと書いたが,つまりこれは10年で7万700ダカットに膨れ上がる。つまり1年に70ダカット以上を投資しないと,永遠に技術レベルが上がらないのだ! 明らかに「ご利用は計画的に」モードである。
かといって何も手がないわけではない。
インカは海の向こうからお客さんが来るまで,実に平和な国である。逆にいえば,海の向こうから来たお客さんと平和に付き合うことさえできれば,その平和を持続できるということだ。南米大陸にはインカ以外に実質国が存在しないのだから(1国だけあるが,1プロヴィンスの小国なので無視できる)。
そうなると方針は見えてくる。拡大策と縮小策だ。拡大策とは,結局のところ訪れたヨーロッパ人にどれだけ多くの金を投下し続けられるかが生存のカギなのだから,ヨーロッパ人が来る前にマヤとアステカを制圧,アステカの金山収入も全部ひっくるめてヨーロッパ人に渡し続けることで,暫定的な平和を買い続けようというアイデアである。
では縮小策とは? ヨーロッパ人がこちらに宣戦布告してくるのは,必ず彼らと国境を接したときであるという性質を利用し,できる限り宣戦布告される可能性のあるヨーロッパ人の種類を減らしておこうという方針だ。インカがもともと持っている金山+α程度の収入で,とにかく目の前の1国のみを相手にし続けられるよう,頑張ってみようという作戦である。
でも,そうやって粘るだけで勝ち目はあるの? そも粘る意味なんてあるの? といわれそうだが,実はこれには意味がある。
中南米国家には,独自のイベントとして「西欧化」がある。これによって国家の文化はラテン文化圏に変貌,部族社会による−50%ペナルティは残るが,それでも技術開発は飛躍的に加速するし,なにより強力な陸軍ユニットを雇用できるようになる。
この「西欧化」イベントのためには,ヨーロッパ国家と国境を接していなければならない。なので,国境が接した状態でなるべく長く粘り,イベントが発生するのをいろんな神に祈念しようというわけだ。
なんだか希望が見えてきた,というか,意外と簡単そうじゃない? とか思えてきたところで,実践に入るとしよう。
まずは拡大策でプレイ。マヤ,サポテカ,アステカはこちらよりも国家規模が小さいので,叩き潰すのはいたって簡単だ。アステカがサポテカを飲み込んだあとだと若干面倒になるが,電撃的に進撃,マヤを脱落させてサポテカを食ったあたりで一度講和,しかるのちにアステカと再戦という順番でいけば,ほとんど問題は起こらない。
だが当然ながらこの方法,占領地では反乱が続発する。しかも陸軍レベルが0ということは,反乱対策として防御施設を建てておくことも望めない。
金山収入の拡大はグッドニュースだが,ただでさえインフレの国内経済に,アステカ産の金まで流れ込んだら,「ここはいつのワイマール共和国ですか?」「いいえジンバブエです」とかいう,寂しい問答しかできなくなる。アステカでココアを一杯飲んでいるうちに,お勘定が倍になりかねない勢いだ。
反乱対策に追われて軍隊を増産,各地でモグラ叩きを続けていると,そこにヨーロッパ人登場。イングランドとポルトガル,カスティーリャが国境を接したが,維持しなくてはならない兵隊が多いため,思うように資金が溜まらない。死ぬよりマシということでハイパーインフレ覚悟の資金調達をしてみたが,それでも3か国を同時に接待するのは無理だった。最後は友好度+200まで上げたはずのイングランドから遠慮なく宣戦布告され,ほかの2国も雪崩を打つように押し寄せてきてゲームセット。友好度MAXでも,奴らはまったく容赦しないのである。
結局,拡大策は占領地経営が不可能ということでパス。というか無理。しかしやっぱり金山は欲しい。ならばというわけで折衷案を考える。ブラジルには金山が相当数あるので,これを押さえればアステカに行く必要はほとんどない。植民を繰り返してブラジルまで打通しちゃえば,占領地政策に悶えることなく金が手に入るじゃないか。
これは思うよりうまくいって,インカから見てすぐ南にある金山と,ブラジル方面の金山の確保に成功した。素晴らしい。だが,またもやイングランド,ポルトガル,カスティーリャ様のご登場。いずれの国とも国境を接する前だったのでポルトガルに投資を始めたら,いきなりイングランドが大胆な植民地拡大をして,その勢いでインカに宣戦布告。……勢いって大事ですよね。
考えを改める。問題は拡大云々ではなく,いつかどこかで殴ってくるヨーロッパ人に対して,殴り返せるよう軍隊を集中運用することではないだろうか。戦ったら負けるなどという前提で話を進める,その弱腰っぷりが最大のガンなのであって,そも成功とは勝利の向こうにしかないものだ!
というわけで,ブラジルの金山は諦めて,南方の金山だけを確保,1万を超える大部隊を創設し,ヨーロッパの侵攻に備えることにする。
今回はポルトガル様のご来訪。陸軍レベルは6。いつものように敵の奇襲攻撃で始まった戦争は,最初こそポルトガル歩兵1000だの騎兵1000だのを蹂躙して対処できたものの,相手が分散浸透を図るようになってくると,対応が間に合わない。
とくによろしくないのが,こちらには騎兵がいなくて敵軍にはいるという,その差だ。敵のほうが足が速く,かつ敵は前述のようにこちらのプロヴィンスに踏み込んだだけで,自領に変換できる。こちらは相手の3倍くらい数を持っていなくてはならないだけでなく,その人らは全部歩兵である。結果,速度を活かした浸透作戦に対して十分な縦深防御が展開しきれなかったことにより,戦勝点こそこちらにプラスだが,なぜだか領土をごっそり持っていかれるという不思議な戦争に。……いや,こりゃダメだ。
感触からいえば絶対に勝てないとは思わないが,勝てるだけの戦争準備と,ヨーロッパ人慰撫政策は両立しない。負けない軍備を維持し続けられれば慰撫政策は不要という見方もあるが,相手は年を追って強化され,こちらはずっと槍と盾。どうみても絶望的だ。
これ,何とかなるんかね……?
万策尽きたので,思いきりコンパクトに領土をまとめ,可能な限り1国としか接しないような国境デザインに専念してみる。
これはなかなかうまくいって,相当長生きできた。いままではどうしても2国くらいから連続的に宣戦されて詰むことが多かった(ヨーロッパ勢のいずれかから宣戦布告されると,南米にいるすべてのヨーロッパ勢との関係が悪化するため)が,慎重な植民計画を実践すると,ちゃんと正面を1か国だけに絞り込める。
相手が1か国であれば,戦争になっても意外と耐えられる。水際で敵上陸軍を撃退し続けた結果,戦勝点が溜まって痛み分けに応じてくれることすらあった。
だが,それも結局は運でしかなくて,ヨーロッパ勢が本気で侵攻して来たらひとたまりもない。理論上,あとはこれで防衛ラインをどううまくコントロールするかくらいしか,できることはないわけだが……
とまあ,いろいろと防衛ラインのパターンを研究し,研究しては滅んでを繰り返していたところ,あるとき突然イベント窓が開いた。そこに書かれた「西欧文化」の文字のまばゆいこと。喜んで「ラテン文化の一員になる」を選択,かくしてインカは「ヨーロッパ化」の第一歩を踏み出したのである。
いやあ,何度もチャレンジできる歴史っていいですね。
ともあれ,これで技術は急速に発展,一時的にではあるが陸軍のレベルが隣国ポルトガルを追い抜く。あくまで一過性にすぎないリードではあるが,ここでリードしていれば,当面ポルトガル相手にうなされる心配はない。相変わらず騎兵は使えないが,陸軍の質が対等になったということは,いままでと同じ数で,より深い縦深陣地を組めるというわけだ。
そして何より,陸軍レベルが1を超えた。つまり防御施設が作れるようになった。これまでのように通過→占領とは一味違い,敵軍は一定期間プロヴィンスに拘束されるようになったわけで,これはもう全然話が変わってくる。
かくして,インカは歴史の表舞台に立つ資格を得た。だが,それは別の問題の始まりでもあった。
インカは間違いなくずば抜けた国家になった。しかしそれはアメリカにおいてであって,ヨーロッパスタンダードからみれば技術開発補正−50%のペナルティを負った劣等国である。資金繰りは素晴らしいが,国土の広さに比べると,無条件で素晴らしいとも言い難い。南米は人口が少なく,税収も低くなる。黄金によるインフレは中央銀行の政策で相殺したとはいえ,このまま黄金頼みで国家運営を続けても,先の見通しは暗い。なにしろ文化こそラテンになったが,社会体制は部族制のままだし,宗教はアニミズムだ。キリスト教世界に住む国家と,アニミズム国家の間では,まず間違いなく同盟関係が成立しないし,友好度が最大でも突然宣戦布告してくる悪辣さは何一つ変わらない。
ただ,インカはいまやその悪辣さに対抗できる軍事力を持った。客のふりをして母屋を根こそぎ奪う押し込み強盗を,自力で撃退できる力を手に入れたのだ。となればこの先に考えるべきは,押し込み強盗候補生が二人になっても三人になっても,耐えられる国家作りである。インカが西欧の侵略者に比べ,さまざまな点で出遅れているのは変わりないし,今後もその差はまず埋まらない。なんとしても,その差が致命的な差にならないようにする方策が必要なのだ。そしてその方策は,できる限り迅速に効果をあげねばならない。
……でまあ……その方策って,つまり,一つしかないんですよ。ええ。早い,旨い,簡単だなんて,そんなムシのいい話が世界のあちこちに転がっていたりはしないんですね。
というわけで西欧式の陸軍に,傭兵として雇った騎兵を付けた,合計2万程度の部隊を北に向かわせる。攻撃目標はもちろんマヤとアステカ。この発展途上国は国内に金山を大量に持っていて,かつポルトガルが虎視眈々と侵攻機会をうかがっているという,それは難しい国際状況に置かれている。そうなるとインカとしては「ポルトガルに食われるくらいなら俺が食う」しかない。こちらがアステカの金山を押さえることは,つまりポルトガルからアステカの金山を奪うことなわけだから,一種の防衛戦争と言える。言わせて。
大義名分はともあれ,西欧式で世界最新型の陸軍に押し寄せられたマヤとアステカは,瞬く間に領土を寸断されていった。もっとも,一度の戦争でアステカ全土を獲りに行くのは苦しかったので,マヤを併合したところで,一度アステカと講和。アステカ併合戦争は5年後に開始することにした。
だが,ヨーロッパ人はしたたかだった。
ポルトガルは,インカと講和直後のアステカに宣戦。金山エリアのほぼ半数を占領するとともに,インカ領マヤと,アステカとの接触を切ってしまった。アステカにはまだ相当数の金山が残っているものの,これでは船を出さないとアステカに戦争を仕掛けられない。ポルトガル領を軍隊が通行する請願など,キリスト教徒たるポルトガル人はまるで無視である。
これはまずい。本当にまずい。マヤはアステカに比べると,実質何もない土地といってよい。経済的価値はそこそこだが,それを直接的な収入に結びつけるとなったら,いまのインカではだいぶ先の話になってしまう。
このままインカはアステカと共倒れの道を歩むしかないのか,なんと因果な世界よと思っていたところ,歴史はさらに二転三転し始める。
きっかけはポルトガル対カスティーリャ連合軍の戦争だった。カスティーリャはポルトガルをヨーロッパからほぼ駆逐し,全戦域で敗北を重ねたポルトガルは屈辱的な講和を結ぶことになった。
この講和のなかに,ポルトガルが,サポテカをブルゴーニュの影響下で再独立させるという条項が入っていたのである。さらに,サポテカはかつての同盟国であったアステカとの同盟も受け入れる。
これはインカにとって千載一遇のチャンスであった。サポテカは,ちょうどアステカとインカをつなぐ回廊状の国家になっており,しかもアステカとサポテカは同盟している。ここでインカがアステカに宣戦布告すれば,この同盟によって,高確率でサポテカも対インカ戦に巻き込まれる。
ブルゴーニュとサポテカの同盟は存在しているが,ブルゴーニュはサポテカがブルゴーニュと無関係な戦争に勝手に介入したことを理由として,「サポテカを守る」戦争を起こすことはできない。もちろんここでインカが直接サポテカに宣戦してしまうと,事態はインカにとっての大惨事になるが,アステカに宣戦するならばブルゴーニュには話に噛むチャンスがない。
マヤ国内にはなお不安定要素があったものの,これ以上のチャンスはあり得ないので即刻アステカに宣戦布告。予想通りサポテカがこの宣戦に反応したが,ブルゴーニュはカヤの外だ。
勇敢なるサポテカ軍を一蹴して併合する。回廊国家を襲う不幸とは,いつの世もこんな形だ。そのままアステカ領になだれ込んだインカ軍は,もともと「次に行うべきアステカ戦」に備えて調整しておいた軍勢だけに,何の問題もなくアステカ全土を占領。アステカ皇帝は身代金として1000ダカットまで出せるようだったが,そんなはした金のせいでメキシコをポルトガルに持っていかれてはかなわないので,即刻併合となった。
かくして,アステカ防衛戦争は,ポルトガルとインカが金山をほぼ二分(ややアステカが多い)という結果に終わった。これが痛み分けというやつですかね。痛いのを受け持つのが,インカでもポルトガルでもないあたりに無理があるが。
さてここから先,インカにはさまざまな選択があり得る。財政的基盤はもう十分に固まったので,これ以上金山を求めてさまよう必要はない。むしろ,できれば交易と植民地拡大を優先したいところだ。とはいえ最大の課題は,対ポルトガル政策をどう舵取りするか,である。
ポルトガルとアラゴンは,西ヨーロッパ独立国のなかではほぼ最弱といってよい。で,アラゴンはどこにいるかもう分からないのでどうでもよいのだが,ポルトガルは新大陸に割と大きな地歩を持っている。首都を新大陸に移転させているのを見ても,その覚悟のほどが分かる。
とはいえ,やっぱりポルトガルはそんなに強くない。しかも首都を新大陸に移転させてしまったということは,仮にインカとポルトガルが全面戦争を始めた場合,ポルトガルは海という最大最強の障壁を利用できないということだ。時間はかかるかもしれないが,ポルトガルは確実に新大陸の領地を失っていくだろう。インカは技術的にポルトガルの後塵を拝しているとはいえ,北米と南米に分断されたポルトガルでは,いまのインカには勝てまい。
ならば「いまこそ,インカの戦士を駆ってポルトガルを駆逐すべし」……ということになるかというと,これは下策と考える。
ポルトガルは弱く,常にカスティーリャ(もうスペインになっているが)連合軍の圧迫下にある。スペイン・オーストリア・ブルゴーニュがレギュラーメンバーとなったこの同盟は,世界最強の軍事同盟(「幸運」持ちが2国入っているんだから推して知るべし)であり,ポルトガルの政治的/外交的命運はすでに絶たれている。
ということは,ここでインカが喜び勇んでポルトガルを食いに行けば,やがては幸運連合軍もポルトガルにラッシュをかけてくるだろう。そしてそこで待っているのは,インカと連合軍が織り成すホットな国境線である。
確かにインカは南米でブルゴーニュおよびスペインと直接国境を接しており,いままでも小競り合いは数回あった。だが彼らにとってこれらの地域が辺境中の辺境ということもあって,インカは戦勝点を積み上げ,また彼らの植民都市を焼き払い,実質彼らがマイナスになる「痛み分け」を実現してきた。
これが北米大陸の真ん中での遭遇だったらどうなるか? 北米にはイングランドも進出しており,ちょっとダメな子であるイングランドは,そのときそのときにおける最強の同盟に便乗する傾向を示している。インカにとって,そんな戦争はとても耐えられるものではない。
であるからこそ,ポルトガルには生きてもらわねばならない。インカにとって,やる気になれば潰せる程度の力のまま,インカと「ヨーロッパ」の間の緩衝国家になってもらわねば,インカは破綻するだろう。
というわけで,インカは大規模な軍事行動を慎み(といっても,南米では頻繁にブルゴーニュから宣戦布告されたり,オーストリアから宣戦布告されたりと,非常に忙しいのだが),植民地を拡大しつつ交易規模を拡大していく方策を採った。
最終的にインカの植民地はアメリカ西海岸を越え,ハワイから南洋に渡って,ニュージーランドにまで進出。本当はアフリカ経由でインドおよび東南アジアの人的資源を刈り取りたかったのだが,列強によるアフリカ分割がほぼ完了していたこともあって,やむなく太平洋回りでアジアに接近することになったのだ。なにしろ月間300ダカットの税収で運営される大資本国家の割に,兵役人口は3万ちょっと。大戦争をやるとあっという間に疲弊しきってしまう体質を,なんとかする必要があった。
また,あり余る資金を利用し,世界各国の市場を解放させることに成功。インカの商人は各地で大活躍し,月あたり100ダカット近い税収を交易のみでもたらすことに成功した。
ブルゴーニュとは,一度だけ南米で本格的な大規模戦争になったが,ブルゴーニュの同盟者にちょっとしたお車代を包んで(お一人様500ダカット程度。500ダカットは,インカにとって税収1年分)みたところ次々に脱落,最終的にはブルゴーニュとも痛み分け(インカの戦勝点が一時的に20%を超えたので領土割譲も狙えたが,相手に宣戦布告の口実を作ってあげるのもバカらしい)で講和に至った。
その後,インカは大量の資金をブルゴーニュに投下。インカによる南米の平和は,あやういものではあったが,保たれ続けた。インカは近代の扉を抜けることに成功したのである。
今回のプレイは,「ヨーロッパ化したら,そこはもう何もかもヨーロッパ」という基本姿勢をとりつつも,同時に「技術的にはヨーロッパの仲間に入れてもらえない国」の苦しみも味わうという,いささか複雑なものとなった。
少なくともNA(拡張パック「ナポレオンの野望」)以前のEU3だと,インカの国教がキリスト教になるイベントがあって,今回もそれを期待していたのだが,残念ながらこちらは最後まで発動しなかった。もしかすると,NAで省かれたのかもしれない。もともとランダム要素が強いので,正確なところはイベント管理ファイルを探してみないと分からないが。いずれにしても,ヨーロッパは果てしなく遠かったのである。
EU3という作品の毛色が,EU2と大きく違うのは間違いない。また,EU2よりもぐっとゲーム的だという指摘も,相当程度正しいと思う。今回の連載にしても,EU2なら完全に“終わっている”国が,奇跡の大逆転を果たすような展開が多かった。ゲーム的な操作とノウハウに,史実の枷を打ち砕けるだけの力が与えられているともいえる。
だがその一方,EU3を遊ぶなかで「結局,ヨーロッパ近代とは何であったのか?」という問いを突きつけられ続けているような印象が非常に強かった。そしてそこにおいて,コンスタンティノープルの陥落――このままではヨーロッパはイスラームに飲み込まれるという恐怖の実体化――からゲームが始まるEU3は,「ヨーロッパ近代とはつまり,追いつき追い越すことだ」と描いているように思われる。
その発想はプレイヤーを必然的な問いへと誘導する……国家の目標が「追いつき追い越すこと」であるならば,追い越してしまったとき,そこからどうすればよいのか?
EU3は,その過程すべてにおいてプレイヤーのフリーハンドを大幅に許しながら,同時に「万人の万人に対する闘争」という世界を,かなりデフォルメしつつも導入している。EU3ではプレイヤーに与えられた自由度が高いのではなく,世界に与えられた自由度が高いのである。
だからEU3世界に安心はない。EU3で誰かを追い越してしまうこと,世界の先頭に立ってしまうことは,デメリットであってメリットではない。実際,技術開発の隣国修正が来なくなるわけだし。追い越した瞬間に,発展ペースという意味ではもっと深刻に追い越されているにもかかわらず,いままで追われていた側にとって「追い越された」という現実は変わらない。互いに脅威と被害妄想を抱きつつ,恐怖に駆られて走り続ける世界。それがEU3の描き出す近代だ。
ホッブズ的なこの発想が真実だとするならば,EU3はその全体的な原理において非常にヒストリカルな作品ということになる。むしろ「一定条件で一定の歴史イベントが発生する」「国家によって絶対に行うことと行わないことがある」世界は,実はヒストリカルではないわけだ。一般的に後者のほうがずっと歴史的に見えるのは確かだけれど,あえていえば前者は「体験的な歴史性」,後者は「観測的な歴史性」ということになるだろうか。
もちろん,「万人の万人に対する闘争」という思想自体が,非常にヨーロッパ近代ローカルなものであるのは間違いない。全世界がそんな闘争をしていたわけじゃないだろ,という指摘は,たぶん正しい。でも,結局ヨーロッパ近代が世界に広がっていったのは,この,いささか横紙破りな思想を根底に据えつつ攻めて来る人々の群れの前に,世界はそのマーシャルな精強さを認めるほかなかったということではないだろうか? それこそが「ヨーロッパ・ユニバーサリス」の正体なのだという見解が,EU3をEU3たらしめているように思う。
識者によって見解はさまざまだが,ヨーロッパ的普遍性がどうも普遍性のままではいられないと思われる現代に,あらためて近代とは何だったのか,また,近代を近代たらしめたのは結局何だったのかを考えつつ,この弱肉強食のゲームに身を投じるのも一興だろう。
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- 関連タイトル:
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