レビュー
ついに発売された「StarCraft II」3部作の第1弾は「Terran」キャンペーンを収録
StarCraft II: Wings of Liberty
「StarCraft II: Wings of Liberty」(以下,StarCraft II)は,Blizzard Entertainmentが7月27日に世界各国でリリースした,リアルタイムストラテジー(RTS)の最新作だ。12年前に登場した前作「StarCraft」は,スポーツタイプの2D RTSとしては,今でも最高傑作との呼び声が高いタイトルである。
本稿では,StarCraft IIのインプレッションをお届けしたい。とはいえ,あまり欲張ることもできないので,今回はStarCraft IIの概要,シングルプレイキャンペーンと,そのほか各種ゲームモード,Battle.netなどをざっとまとめてみよう。対戦プレイの突っ込んだ話については,稿をあらためて近いうちにお届けしたい。
まずStarCraftシリーズの醍醐味を端的に述べると,「Terran」「Zerg」「Protoss」というプレイアブルな宇宙の3種族が,それぞれ別のRTSかと思うほどプレイスタイルが違っているにもかかわらず,ゲームバランス的には見事に均衡していることだ。そしてもう一つは,ほかの多くのRTSとは一線を画す,戦闘のスピード感にある。
世界各国で行われる対戦ゲームのイベント/大会では,前作StarCraftと,同社のもう一つのRTS看板タイトル「Warcraft III」が,e-SportsのRTS部門をほぼ独占しているという事実が,その完成度と競技性の高さを物語っているといえるだろう。
12年ぶりの最新作となるStarCraft IIは,かなり大雑把に言うと,上記のコンセプトはそのままに,あらゆるシステムを3Dグラフィックスをはじめとした最新技術で作り直し,さらに膨大なプラスアルファを盛り込んだタイトルである。
世界中のRTSゲーマーからの期待を一身に背負って登場したStarCraft IIは,リリース初日にパッケージ版が180万本,ダウンロード版が57万本の販売本数を記録。ゲームサーバーのBattle.netは現在,時間帯にもよるが連日100〜125万人前後のプレイヤーで大きく賑わっており(これは同社の他タイトルも含む数字だが),期待に見合った成果を早くも示しつつある。
だが,そんな世界的な盛り上がりをよそに,日本ではさまざまな事情により,StarCraft……というよりRTS全体の人気がイマイチだ。コンシューマゲーム機の人気が高すぎる国であるためか,マウス操作が必須なPCゲームは定着しにくいのかもしれないが,実に嘆かわしいことである。StarCraft IIの世界的な盛り上がりに対して,どこか醒めた目で傍観している日本のゲーマーも少なくないだろう。
お馴染みBlizzardの対戦サーバー「Battle.net」。StarCraft IIのリリースを機にリニューアルされ,大きく進化した |
StarCraft IIにはたくさんのゲームモードが用意されている。初心者から上級者まで,誰にとっても適切なゲーム目標の設定が可能だ |
しかしRTSには興味がないという人も,少し考えてみてほしい。「Diablo」シリーズや「World of Warcraft」といった世界中の誰をも熱狂させた超ヒット作を世に送り出したBlizzardが,コアなRTSゲーマーにしか楽しめないような,ターゲット層の狭い作品を世に出したりはしない。本作はRTSに慣れていないような人が遊んでも,ちゃんと心の底から楽しめるよう作られた作品なのだ。
本稿ではRTSの未経験者でも分かるように,このStarCraft IIのゲーム内容を紹介していきたい。とくにBlizzardの凄さを僅かでも知っているゲーマーなら,騙されたと思って最後まで読み進めてほしい。
シングルキャンペーンはTerranに焦点を当てた内容
これだけでも立派なボリューム
StarCraftが話題に出る場合,対戦ゲームとしての側面が強調されることが多い。確かにそれは事実なのだが,StarCraft IIの醍醐味は他にもたっぷりとある。シングルプレイ用のキャンペーンや,他プレイヤーとチームを組んでの対AI戦,さらにはMODなど,さまざまなプレイ環境が用意されており,いずれもが高いクオリティなのだ。StarCraft IIは「対戦が苦手」という人でも十分に楽しめるRTSなので,この部分での食わず嫌いは本当にもったいない。
「StarCraft II」は全3部作となる予定で,今回リリースされた第1弾「Starcraft II: Wings of Liberty」には,3種族のうち「Terran」(テラン)のシングルキャンペーンが収録されている。なお,マルチプレイなどキャンペーン以外の各ゲームモードでは,すでに3種族とも使用可能だ。
RTSが不慣れだったり,初代StarCraftが未経験だったりという人は,まずシングルキャンペーンに挑戦するのが無難といえるだろう。
Terranは,発達した科学技術を持つ“人類”の末裔という設定の種族で,容姿は我々人間と同じだ。操作ユニットはパワードスーツや戦闘機などで,3種族の中では直感的に理解しやすく,感情移入もしやすい。「Protoss」(プロトス)が超能力をも操る高度な知的種族,「Zerg」(ザーグ)が凶暴なエイリアンそのものの種族であることを踏まえると,最初にプレイする種族としてもTerranはうってつけといえよう。
ロボット系のユニットのなかには,変形できるものがチラホラ。また建築物の多くは,空を飛ぶことができる |
キャンペーンの主人公は,前作にも登場したJim Raynor。彼にもいろいろあったようで,今作ではややワイルドな風貌 |
キャンペーンのストーリーは,前作の拡張パック「StarCraft: Brood War」の続きとなっており,Terranの英雄Jim Raynorの視点で繰り広げられていく。
StarCraft IIのJimは,とある事情によりTerranから追われる身で,過去のトラウマを引きずり酒びたりの毎日を送っている。そんななか,Jimは相棒Tychusと共に反乱軍を率いて再起を図ろうとするが,絶妙のタイミングで敵対種族のZergおよびProtossが介入。3種族入り乱れての激戦となり,最終的にJimが再びTerranを導いていくというストーリーが,全26のミッションを通じて描かれていく。
RTSの基本的なゲーム展開をざっくりと説明すると,「資源を採集」「ユニットを生産」「敵との交戦」の三つに大別できる。数多くのユニットを操って,これら三つの作業を並行して行いながら,敵を殲滅するというのが,RTS(StarCraft IIの対戦モード含む)におけるゲーム目的である。
ところがStarCraft IIのシングルキャンペーンでは,そういったオーソドックスな流れが当てはまるミッションはそう多くない。ミッション内容の一例を挙げると,採集/生産を一切行わずに手持ちのユニットだけで戦闘を繰り広げたり,逆に一定量の資源を採集するのが目的だったり,敵からの猛攻を一定時間しのいだり,一騎当千のヒーローユニットだけで戦ったり,はたまたタワーディフェンスを行ったりと,とにかく多岐にわたる。
あまり詳しく説明するとネタバレになってしまうので割愛するが,26あるミッションは,クリア目的がすべて違っているのだ。
キャンペーンが進んで新たなユニットが登場する際には,必ずといっていいほど,その見せ場がミッション内容に盛り込まれている。操作範囲をある程度絞ることで,プレイヤーが覚えなければならない情報が一気に広がることを防ぐという,綿密な計算の元にミッションが構成されているのだろう。
つまり,StarCraft IIのキャンペーンを通してプレイすることで,Terranという種族全体を無理なく理解できる仕組みとなっているのだ。初心者にまずキャンペーンを薦める理由も,ここにある。
キャンペーンでは永続的なアップグレードが可能
キャンペーンにおける,もう一つの大きな特徴は,Terranに対する永続的なアップグレードが行えることだ。
本キャンペーンは基本的に,旗艦Hyperion号からさまざまな星へと攻める形で展開するが,この戦艦の中には「Armory」「Cantina」「Laboratory」という三つの施設が設けられている。これらの3施設でアップグレードを行うことで,RTS定番のアップグレードとはまた別の強化が可能で,キャンペーン中は常時その恩恵が受けられるのである。
各施設についてだが,Armoryでは各ユニットの攻撃力や防御力などを強化できる。これには「Credit」が必要で,ミッションクリア時の報酬として得られる仕組みだ。自分がよく使うユニットを強化させることで愛着が深まり,よりミッションを攻略しやすくなるだろう。
Cantinaでは,同じくCreditを支払うことで,“傭兵”との雇用契約が結べる。契約した傭兵は「Mercenary Compound」という建築物を通じてユニットとして,生産時間不要で即座に現れるのが最大のポイント。次に呼び出せるようになるまでのクールダウンタイムが長く,一つのミッションで呼び出せる回数には限りがあるものの,例えば手早く自軍を増強したくなったときや,ピンチの際などには大いに頼りになる。
Hyperionをさまざまな星へ向かわせて,ミッションを遂行する。クリア時にCreditやResearchが獲得できるのに注目 |
Armoryでは,新たに獲得したユニットをじっくり堪能できる。3Dで細かく描かれたStarCraft IIのユニットは,アップで見ると迫力たっぷり |
Laboratoryでは,ユニットではなく建築物を強化できる。これを行うには「Research」と呼ばれる特別なポイントが必要で,これはミッションマップ内のところどころにさりげなく隠されている。ミッションクリアだけを目指してプレイすると,Researchを見落とすことも多いので,ときには遊び心も必要だ。
Researchには,対Protossのミッションで得られるものと,対Zergで得られるものがあり,それぞれアップグレードできる内容が異なる。また,アップグレードは常に二者択一となっており,どちらを獲得するかが非常に悩ましい。
これらの3施設が登場したことで,StarCraft IIのキャンペーンは,個々のミッションよりも一回り大きな視点でのプレイが求められるようになった。また,キャンペーンを通じてのプレイスタイルの受け皿が,より広くなった印象だ。
例えば,仮に途中のミッションで行き詰っても,過去のミッションを再度プレイしてResearchの取りこぼしを回収し,Laboratoryのアップグレードを経て再挑戦,ということが可能だ。ちなみにCreditを無限に稼ぎ続ける,といったことは残念ながらできない。
なお,これらのアップグレードはキャンペーンモードのみのもので,例えばマルチプレイでは,Armoryのアップグレードはないし,傭兵を呼び出すMerc Compoundも存在しない。さらには,キャンペーンに登場する一部のユニットも登場しない。つまり,マルチプレイはいつでも全員同じ条件での対戦となるので,安心してほしい。
ちなみにキャンペーン中は一部でシナリオの分岐があり,各ミッションでは難度選択も行える。今回の執筆にあたり,とりあえずキャンペーンを最後までクリアしてみたが,まだ隅々までは遊び尽くせてはいないようだ。RTSのシングルプレイには珍しく,リプレイアビリティが非常に高い印象を受ける。
完全にリニューアルされたbattle.net
シングルプレイでもネット接続が必要
同社のゲームサーバー「Battle.net」は,StarCraft IIのリリースを機に大きな変化を遂げている。12年前のStarCraftの頃からはもちろんのこと,Warcraft IIIと比べてもまったく違っている。
StarCraft IIではシングルキャンペーンや対戦プレイを含め,すべてのゲームモードをBattle.netにログインした上で行うことになる。各ゲームモードを簡単に説明すると,以下のとおりだ。
◎シングルプレイ
・キャンペーン
全26種類のミッションをプレイ
・バーサスA.I.
コンピュータとの対戦プレイ
・チャレンジミッション
ステージクリア型の特殊ミッションをプレイ
◎マルチプレイ
・クイックマッチ(1対1〜4対4,及びFFA)
敵味方のプレイヤー全員をランダムで選出して対戦プレイ
・パーティーマッチ(2対2〜4対4)
味方チームは知人,敵チームはランダムで選出して対戦プレイ
・Co-op(Cooperative)
味方チームは知人,敵チームはコンピュータ操作で対戦プレイ
・カスタムゲーム
カスタム設定で対戦プレイ。MODのプレイも含む
RTSで,シングルプレイでもネットを介するというのは珍しいが,これには理由がある。実はStarCraft IIには,今や定番となった「実績」が採用されており,ゲーム内に用意された膨大な数のフラグを達成することで,「Achievements」(業績/実績)と呼ばれるポイントを獲得していけるのだ。この情報はBattle.net上にあるマイキャラのプロフィールに随時反映される。
プロフィール画面にはAchievementsのほかにも,マルチプレイの対戦成績やランキングなどの詳細が記されており,しかも他プレイヤーがこれを自由に参照できる。その人のプレイスタイルが一目瞭然というわけだ。
メッセンジャーにフレンド登録を行い,そこからパーティーを編成する。この段階でチャットが行えるようになる |
従来のBattle.netと同様,自分の実力に応じた対戦相手が瞬時に見つかる。待ち時間は短くて数秒,長くてもだいたい1分未満だ |
もう一つ驚いたのが,StarCraft IIではいわゆるロビーチャットの機能が存在しないことだ。その代わりメッセンジャーの機能が搭載されており,任意のプレイヤーと一緒に遊ぶ際は,これを通じてパーティーを編成する形となる。このメッセンジャーへの登録は,Twitterのフォローに近い“ゆるい”感覚で行える。注目しているプレイヤーは,気軽に登録してみるのがよいだろう。
では,最初にどのようにして他プレイヤーと知り合うかだが,これがなかなか難しい。現在のところ,FacebookやIRCチャット,そして攻略サイトなどといった,ゲーム外のコミュニティを利用するのが一般的のようだ。
もう初代「StarCraft」には戻れない技術の進化
日々作られる「MOD」のおかげで一人でも遊び続けられる
本稿の執筆時点で,筆者はまだStarCraft IIを5日間しかプレイできていない。StarCraft IIクラスのタイトルを,この段階で評価するのは割と無茶な話ではあるが,とりあえず現時点でのまとめに入りたい。
それがStarCraft IIでは,画面内にユニットが何体いようが,とりあえず全部まとめてグルーピング可能だ。3Dで描かれた数十から100体以上のユニットを意のままに操り,スピーディなゲーム展開を繰り広げるというのは,実にスリリングな体験である。当時のコンセプトはそのままに,現代のプレイ環境で一から作り直したStarCraft IIは,それだけでも十分に意義がある感じだ。
なんといってもユニットを管理しやすくなったのが良い。さすがに,もう初代StarCraftに戻ることはできないだろう |
新たなユニットが登場する際は,必ずといっていいほど見せ場がある。RTSが苦手な人にこそ,キャンペーンを強くお薦めしたい |
しかもStarCraft IIではBattle.netのリニューアルや,3種族それぞれに対してシステム/ユニットの変更を加えており,それに伴う膨大なバランス調整が行われている。前作StarCraftを単にパワーアップさせたというより,まさに“完全新作”のタイトルといったほうがよい。
また繰り返しになるが,StarCraft IIはもちろん対戦が大いに盛り上がってはいるものの,決してただの対戦ツールではない。本稿で述べたようにシングルキャンペーンの出来は素晴らしく,また繰り返し遊べる作りになっている。「バーサスA.I.」や「チャレンジミッション」といったソロプレイ用のゲームモードもある。さらに,「MOD」の存在を忘れてはならない。
MODとは,世界の有志達が制作する拡張パックのようなもので,新マップや新シナリオだけではなく,RTSのルールから大きく離れた“新ゲーム”と呼べるようなものまで存在する。
BlizzardのRTSとしては前作にあたるWarcraft IIIでは,MODばかりプレイし続けている人もいるほどだ。知らない人もいるかもしれないが,現在さまざまな形でアレンジされ人気を博している,「タワーディフェンス」や「Defence of the Ancients」(DotA)といったジャンルは,もとはといえばWarcraft IIIのMODでブームに火が付いたものである。すでにStarCraft IIでも,日夜多数のMODが登場してきており,今後どのようなブームが巻き起こるのか,今からとても楽しみだ。
今回ピックアップされたTerranは,とにかくユニットのギミックが豊富で,見ていてまったく飽きなった。フィギュアとか発売してくれないかなぁ |
StarCraft IIの対戦関連については,またいずれ別の機会で紹介したい。RTSファンのみならず,すべてのPCゲーマーに触れてもらいたいタイトルだ |
確かに,英語が苦手な人や,所有PCのスペックが低めの人,あるいは過去にちょっとRTSに手を出して痛い目をみた人などにとっては,StarCraft IIのハードルが高く感じられるだろう。それでも,ちょっと勇気を出してトライしてみれば,Diabloなどに並ぶような名作を,新たに楽しめるのである。どうか一人でも多くのゲーマーに,この素晴らしいタイトルを体験してほしいと,心の底から願っている。
本稿では,キャンペーンとTerranを中心に,StarCraft IIのゲームの全体像をざっと紹介してみた。ZergやProtossを含めたStarCraft IIの対戦プレイの詳細については,もし別の機会があれば,そこで詳しく触れてみたいと思う。
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