インタビュー
[CJ 2007#14]上海で暮らす“奇才”アメリカン・マギー氏を訪問。彼が語る中国の魅力と,期待の新作「American McGee’s Grimm Tales」
■作りたいものが作れる場所,それが上海
こんにちは。今日は仕事中にわざわざ時間を割いていただきありがとうございます。今回は,新作の話を聞きたいのはもちろんですが,ちょっと遡っていろいろと聞かせてください。
American McGee氏(以下,マギー氏):
ええ,どうぞ。
4Gamer:
ではだいぶ古いところから。American McGee's Aliceの発売後にElectronic Artsを辞めて独立されましたが,そのときに設立したCarbon 6はどうなったのでしょうか?
マギー氏:
実は,Electronic Artsを辞めたあとに作った会社は,このSpicy Horseをいれると三つあるんで,それぞれ説明しますね。
4Gamer:
三つですか! まだ辞めてから6年ぐらいですよね?
マギー氏:
ええ,気が付いたらそうなってました(笑)。最初に作ったCarbon 6はゲームの開発会社で,ある一つのプロジェクトを終了させたと同時に閉鎖しました。これはハリウッドの映画制作システムに似た手法ですね。一つのプロジェクトのために,一つの会社を作る。普通によくある話です。そして,次に作った会社がThe Mauretaniaです。
この会社はまだ存続していて,ゲーム開発関連の仕事を請け負っています。ちなみに,本当はThe Mauretania Import Export Companyっていう名前なのですが,長いのでみんなMauretaniaとしか呼びません。
4Gamer:
どちらの会社も,拠点はアメリカですか?
マギー氏:
ええ,どちらもロサンゼルスです。
4Gamer:
では,なぜ三つめの会社であるSpicy Horseを上海に設立したのでしょうか? アメリカで名を馳せた有名なゲームクリエイターが,わざわざ慣れ親しんだ国を離れなくてもよかったと思うのですが。
ゲーム作りに関して,確かにアメリカという国は一定の成功を収めたと思っています。でもそのせいで,みんな同じような方法でゲーム開発を行うようになり,似たようなゲームばかりが市場にあふれています。そしてさらに悪いことに,そういったものを求める人も多くなってきているとも感じています。
4Gamer:
それはアメリカのゲーム事情というよりは,世界的なゲーム事情にも思えます。
マギー氏:
そうかもしれませんね。一方中国は,ゲームの開発が始まってから年数がそれほど経っていません。なので,ゲーム開発の手法というのも確立されておらず,さまざまな方法を試しながらゲームを開発できる環境にあるのです。
4Gamer:
それはつまり,アメリカという国やElectronic Artsのような大きな会社があなたの作りたいものを作りづらい環境になってしまい,それを打破するために中国に来た,という解釈で合ってますか?
マギー氏:
そう思ってもらって間違いありません。
大きい会社にはもちろんさまざまな利点がありますが,一つのプロジェクトに関わる人や会社が多く,常に商業的な成功が求められます。まぁ当たり前ですよね。なので,なるべく失敗しないようにゲームを開発するようなります。
すなわちそれは,本当に私が作りたいものは作れないようになってしまったというわけで,大きな会社ではありますが“窮屈”になってしまったのです。
4Gamer:
おそらくあなたが窮屈を感じ始めていたと思われるころに,初めてお会いしましたよね。7年近く前ですが。そのときとは雰囲気が変わりましたよね。一瞬,別人かと思いました。
マギー氏:
ええ,ええ,覚えていますよ。東京で会いましたよね,アリスのとき。多分,歳をとっただけですよ(笑)。まあ,あの頃はただゲームを作っていればよかったのですが,いまは会社の代表としての仕事が増えたので,ちょっとは大人になったのかもしれません。
4Gamer:
6年前は,ホントにシャイなゲームクリエイターといった感じでしたよ。
マギー氏:
ご存じのように,中国にいたらシャイではいられないですからね! いまはとっても仕事もしやすくてハッピーなので,きっと雰囲気が変わったんだと思いますよ。
■24個のエピソードでつづられる新作「American McGee’s Grimm」
ではあまり時間もないことですし,本題に進ませてください。
いま開発が進行している「American McGee’s Grimm」についてです。まず,Grimmはプロジェクトとしていつ頃動き出したのですか?
マギー氏:
大まかなストーリーやキャラクターを考え始めたのは,2年ぐらい前になります。ただ,この作業は思っていた以上に時間がかかり,実は3か月前までやっていました。つまりGrimmは,開発に入ったばかりなんですよ。
4Gamer:
ということは,本当に始まったばかりだったんですね。あまり情報が出てこないわけがわかりました。では,ゲームの概要を教えてください。
マギー氏:
一言でいうと,“奇抜”なゲームです。
4Gamer:
あなたのゲームはいつも“奇抜”なゲームじゃないですか!
マギー氏:
(笑)。確かにそうかもしれませんが,Grimmはとくに変わっているんですよ。2年かけて15時間ぐらい遊べるゲームを作るというのが,最近のゲーム業界の傾向なのですが,Grimmは24のエピソードに分かれており,1エピソードは30分くらいでクリアできます。
4Gamer:
では,やろうと思えば12時間でクリアできてしまうわけですか?
マギー氏:
そういうことになりますね。でも実はパッケージ販売ではなくて,毎週1エピソードずつダウンロード形式で提供していきます。ですので,総合プレイ時間自体はそうなりますが,一気にプレイはできないんですよ。なんというか,連続TVドラマのような感じです。
4Gamer:
そうだったんですね。熱中したらあっという間にクリアしてしまうなぁと思っていたのですが,そういう心配はないわけですね。各エピソードは独立しているのでしょうか?
1エピソードで1本分のグリム童話がベースになったゲームになっています。ゲームの主人公はGrimmで,どのエピソードからでもプレイでき,24エピソードすべて遊ぶと,より深く物語を楽しめるように設計しています。
4Gamer:
確かグリム童話は200編ほどあると思いますが,ゲーム化する24話はどのような基準で選んだのですか?
マギー氏:
私の好みも入ってはいますが,お話自体の知名度やゲームとして面白くできるかなどを考慮して決めました。
4Gamer:
では,主人公の目的はなんでしょうか?
マギー氏:
明るくてハッピーになってしまった世の中を,再び暗くて不幸な世界にすることです。例えば病気が治った人がいるのですが,その人を再び病気にするというのが主人公に与えられるミッションです。各エピソードには,五つのミッションが用意されています。
4Gamer:
また,すごい設定ですね……。雰囲気的なものは「Alice」(アリス イン ナイトメア)に似ていると考えていいでしょうか?
マギー氏:
ストーリーは似ているかもしれませんね。なにしろAliceのシナリオを書いたR.J. Bergが担当していますからね。アメリカから連れてきちゃいました。ただし,ゲームプレイに関しては,Aliceほど複雑ではありませんよ。
4Gamer:
Aliceもそれほど難しくなかった気はするのですが。
マギー氏:
そんなことを言ってるのはコアプレイヤーだけですよ(笑)。
■マギー氏自身は,日本語版にも興味あり
そ,そうですかね……。しかしお話を聞いていると,確かに「Aliceの再来」といった感じの作品に思えてきますね。
マギー氏:
確かに似ている部分もありますが,それはプレイヤーがゲームを進めたあとでしょうね。はじめは,コンシューマゲームのようにポップなカラーが使われた明るい世界ですが,ゲームを進めていくと,ドンドン暗い世界になっていくんですよ。
4Gamer:
普通は逆ですよね(笑)。確かに先ほど「奇抜だ」とおっしゃっていましたが……。うーん,やはりAlice好きには強く響きそうな作品ですね。
ところで話はちょっと変わりますが,7年前のAliceのインタビューのときに,Aliceには「ありきたりなFPSや普通のアクションゲームを否定する」目的もあると言っていましたが,Grimmでは何を否定するおつもりですか?
マギー氏:
Grimmは,24エピソードに分かれており,すべてをダウンロード配信するなど,存在そのものが,いままでのゲームとは違います。まぁだからといって,すべてのゲームを否定している訳ではないですが。
あと,AliceではQuake3エンジンでしたが,GrimmはUnreal Engine 3.0を採用しています。でもゲーム自体はものすごくシンプルですよ! ものすごいハイテクを使って,シンプルなゲームを作るというちょっと皮肉めいたことをやってみたかったんです。もちろんエンジンの特徴は生かしますよ。
4Gamer:
……しかしそういえば,グリム童話は全200話。“Grimm”は全24話。残り176話残ってますよね?
マギー氏:
言いたいことはよく分かります。やってやれないことはないと思いますが,いまそれを考えたくはないんですよ!(笑)
4Gamer:
確かにそうかもしれませんね。しかし日本でのあなたはAliceのイメージが強く,ファンが大勢いますよ。
マギー氏:
そうらしいですね。たくさんパッケージが売れたと聞いて,素直にすごく嬉しかった。日本でパッケージゲームを売るのは難しいらしいですから。
4Gamer:
そんなアメリカン・マギーファンに,現段階で日本での展開についてなにか言えることはありますか?
まだ英語版の制作を始めたばかり,という段階なので別言語のバージョンについては,考えてないです。まずは,英語版を完成させないといけないですからね。もちろん,可能性はありますよ。
詳しくはまだ語れませんが,実はGrimmでは,“単語”が重要なキーファクターになっています。例えば“Burn”という単語を敵にぶつけると,その敵が燃え上がります。Burnという単語が,燃えるという意味だということが分かるようになっています。もちろん決してメインのフィーチャーではありませんが,“教える”という要素も持っているわけです。英単語の変わりに漢字を使えば,漢字を学べるゲームとなりますよね。この要素を考えると英語以外のバージョンの開発に,とても興味があります。
4Gamer:
おや,ダークな雰囲気なのに,そんな教育的な要素もあったのですね。ちょっと意外でした。
マギー氏:
音声を変えることは非常に簡単なので,その国の言語の声をつけるという方法で対応はできます。日本語版の可能性も十分にあると思いますよ。
4Gamer:
デジタルディストリビューションのみということは,先頃契約を結んだGameTapが,事実上ワールドワイドの版権を持っているということですね。
マギー氏:
ええ,そのとおりです。
4Gamer:
ぜひ日本語版も作ってくれるようお願いしておいてください。今日はありがとうございました。
また,エピソードの順番を気にせず楽しめるようになっており,24話すべてクリアすると,全体のストーリーがつかめるというしかけになっている。主人公であるグリムが世界をどんどん不幸にしてき,最後はどうなってしまうのか? 各童話の登場人物達とゲームでどう絡んでいくのか? など頭の中には,大きなクエスチョンマークがいくつも浮かんでいる。そして,これらのクエスチョンマークを消すには,24話すべてをクリアする必要がありそうだ。また,このクエスチョンマークを消していくということ自体がゲームの楽しみの一つとなるだろう。
発売/配信開始は約1年後ということなので,この疑問が解決するには,少なくとも後1年半はかかる。まだ先の話ではあるが,活動の拠点をアメリカから中国に移してまでも,マギー氏が作りあげようとしている本作の発売を,ゲーマーとして楽しみに待ちたい。(Kazuhisa/noguchi,photo by kiki)
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