連載
極私的コンシューマゲームセレクション第2回:「シムシティDS」
» 最近,コンシューマ(家庭用)ゲーム機にPCゲームタイトルが移植されたり,PCゲームの人気シリーズ続編がコンシューマだけで発売されたりといった状況が増えてきた。この状況に歯がゆい思いをし続けていた松本隆一が名乗りを上げ,今回はニンテンドーDSの「シムシティDS」を紹介する。
■ウィル・ライトとシムシティと私(一部無関係)
そんなライト氏は,ルイジアナ工科大学在学中にカリフォルニアに本拠を置くパブリッシャ,ブローダーバンド(Brφderbund)に入社してゲーム開発のキャリアをスタートさせた。まあ,パブリッシャがゲームを作るのは現在でもない話ではないが,1980年代はパブリッシャとデベロッパの区別は今よりもっと曖昧だったのだ。違うパブリッシャから同じゲームが発売される,なんてこともごく普通に行われていた。
ブローダーバンドは,アマチュアゲームプログラマーだったダグとゲイリーのカールストン兄弟(Doug Carlston,Gary Carlston)が1980年に設立したメーカーで,「スペランカー」「ロードランナー」「プリンス・オブ・ペルシャ」などのタイトルでよく知られている。多くのタイトルが日本語化されているのだが,ブローダーバンドとは異なる日本のメーカーから発売されたものも多いため,必ずしもその名前は有名とはいいにくい。でも,知っている人は知っているはずだ。
ライト氏がブローダーバンドでまず手がけたのが,「バンゲリングベイ」(原題 Raid on Bungeling Bay)である。1986年に発売されたバンゲリングベイは,まあなんちゅうか,奇っ怪な操作性とそれなりのグラフィックスが特徴のシューティングだが,日本ではハドソンがファミコンに移植して発売したので,これが意外に有名だったりする。
当時はおおむね「つまらない」という評価が下されていたのだが,ファミコン世代のゲーマーの平均年齢が上がり,人生の機微などに通じてくると,「よく見ると,いいかも」と最近再評価されているようだ。さすがライト氏だ,と言えるんじゃないかと思うが,どうだろう? とはいえ,本人は今も昔も大したゲームだとは思っていないようだが。
ともあれライト氏は,バンゲリングベイそのものより,ゲーム開発に使われた地形エディタに興味を持ち,これをゲームにしたら面白いだろうとそれまで誰も考えなかったことを思いついた。彼はこのアイデアをブローダーバンドに持ち込んだが,同社はあまり興味を示さず,ライト氏は仕方なく新作ゲームを販売するための自分の会社,MAXISを設立したのである(このへんの行ったり来たりはちょっと錯綜しているのだが,おおむねそーゆーこと)。
結果としてブローダーバンドは巨大な利益を逃してしまったことになる。MAXISから発売された「シムシティ」は,ご存じのように大ヒットシリーズとなったが,ゲームに見切りをつけて教育ソフトのジャンルに進んだ(当時,こうした教育ソフトは将来性有望と考えられていたのだ)ブローダーバンドは,やがて業績悪化によりほかの教育ソフトメーカーに買収され,その名前だけがかろうじて残ることになる。
ブローダーバンドのことはともかく,デフォルトでマウスが使えるうえ,グラフィカルなOSを持っているという理由で,初代シムシティはMacintosh用として発売された。その後,PC版,Amiga(というパソコンがあったのだ)版,X68000(というパソコンがあったのだ)版,PC-9801(という……,もういいか)版などがリリースされている。しかし,それらの各バージョン中,最も個性的だったのが実はスーパーファミコン版なのだ。
シミュレーションという雰囲気を崩さなかった各パソコン版に比べ,スーパーファミコン版では当然ながらよりゲームらしさが強調された。詳細は割愛するが,季節ごとにグラフィックスが変化したり,条件をクリアすることで特別な建物が建てられたりと,スーパーファミコン版で導入された多くの要素が,のちのシリーズに引き継がれていった。
■メイド・イン・ジャパンの「シムシティDS」
プラットフォームとしてNDSを選んだのは,目の付けどころが非常にいい。ポインティングデバイスとしてのタッチペンは「更地に建物を置いていく」というゲームシステムによくマッチしており,なんとも快適だ。
だいたい,シムシティの遊び方というのはじっくり系で,まなじりを決してプレイする短期集中型ではない。なんかやっちゃ,じっくりと結果を待ち,失敗したら次の手を打つ,という雰囲気。私も以前の職場でシムシティをダラダラと遊び(ほめ言葉),早く原稿を書けと偉い人に怒られたものである。懐かしい。この原稿を書いているときも,ついダラダラと遊んでしまい,原稿を渡すのが遅れて担当者に怒られたのはここだけの秘密だ。
したがって,通勤電車の中でちょっと街を広げ,お昼休みに道路を伸ばし,つまらない会議の最中にこっそり電車の線路を敷設するというプレイスタイルにピッタリと合っている。いや,私がそうしているわけではないのだが。
基本的に「街を発展させる」という目標はあるものの,何かの勝利条件が明確に決まっているわけではない(決まっているモードもあるが)。このあたり,「シムピープル」や「ザ・シムズ2」と似ており,まさに“ウィル・ライト スタンダード”。イヤになったらやめちゃってもいいし,街が思ったとおりに発展しないことを楽しむのものまたオツなもの。何かとあれしろこれしろとうるさい住民に業を煮やし,住宅地区のすぐそばにゴミ捨て場を作って人口減少を招いてみるのも大人っぽいといえば……,そうでもないか。税金が入らなくなっちゃうね。
NDSの2画面構成もうまく使っている。斜め上から自分の育てた街を眺めるのは楽しいが,さまざまなオペレーションは真上から見た画面のほうがやりやすい。上画面で自分の街を愛で,下の画面で操作するというスタイルはNDSならではのメリットだろう。こうした細かな操作性の良さが,メイド・イン・ジャパンたるクオリティなのかもしれない。
問題があるとするとやはり画面の小ささかな。これはまあ,ハードウェア的な制約なのだからどうにもならないのだけど。最近,とみに小さい文字が読みづらくなり,目医者から「老眼ですね」と言われてガーン! とショックを受けた筆者としては,NDSでの長時間プレイはつらいのである。任天堂にはぜひ15インチ液晶二枚を使ったビッグなNDSを作ってもらいたいのだが,いろんな意味で無理だということは分かっているので安心してほしい。
■かつてPCでシムシティを遊んだ人は,ぜひ
「制作者から与えられた問題に挑み,それを解決する」というスタイルを“ゲーム”だと認識している人は,この自由度とプレイヤーによって千変万化するゲーム進行に面食らってしまうかもしれない。だが,しばらくあーでもない,こーでもないと遊んでいれば,じきその奥行きが分かってくるはずだ。
また,クエストをクリアすることによって得られるボーナスが日本各地のお城だったり,すれちがい通信によってそれらのランドマークを手に入れられたりと,プレイのモチベーションを維持する仕掛けもたくさんある。正直に言って,約20年前にMac IIでプレイした初代シムシティよりずっと綺麗だし面白いぞ。画面小さいけど。
エレクロトニック・アーツは,ほかにもピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏の傑作「テーマパーク」をNDSに移植しているし,ザ・シムズ2の任天堂Wii版,「ぼくとシムのまち(仮)」をプロデュースしているのも日本の人。コンシューマゲーム機におけるこれらの動きは興味深く,今後も気にしていきたい。
欧米でシムシティDSやテーマパークDS,そしてぼくとシムのまち(仮)はどのように受け入れられる(あるいは受け入れられない)のだろうか。はたまた,NDSに移植されると伝えられる「Spore」もやっぱりエレクトロニック・アーツが担当しちゃったりするのだろうか。さらには,借りたNDSの調子が悪くなったのを持ち主のTAITAIになんと言えばいいのだろうか,などなど興味は尽きないが,今回はこれくらいで。
ちなみに,最後のレアランドマークとなる「クッパ城」のパスワードが,エレクトロニック・アーツの公式サイトで公開されている。まだ手に入れていない人は,エレクトロニック・アーツの公式サイトへゴー! だ。
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シムシティDS
対応機種:ニンテンドーDS/ニンテンドーDS Lite
メーカー:エレクトロニック・アーツ
発売日:2007年2月22日
価格:4980円(税込)
CEROレーティング:A(全年齢対象)
公式サイト:http://simcity.jp/ds/pc/
(C)2007 Electronic Arts Inc. All rights reserved.
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