レビュー
女子校での友情物語をフィーチャーしたミュージックアクションADV「ソルフェージュ」のレビューを掲載
ストーリーというより,場面作りが秀逸なミュージックアクション/アドベンチャー
ソルフェージュ
» 工画堂スタジオのミュージックアクション/アドベンチャー「ソルフェージュ」を,キャラクターゲームとアニメ/声優事情にも通じた田村眞治がレビューする。氏によれば,場面場面のインパクトと起用声優の話題性が,本作の語られざるポイントだという。
榊原ゆいさんの曲をフィーチャーした最新作
シリーズ従来作品がファンタジー寄りの世界設定のなかで展開したのに対し,今作では現実にごく近い世界が舞台になっている。従来作品との共通点は,ミュージックアクションのゲーム性と,「エンジェリックコンサート」や「シンフォニック=レイン」などに登場した魔導楽器「フォルテール」が出てくることだろうか。
ソルフェージュの中ではフォルテールの音が「心を写す鏡」と表現される。この概念自体は従来の作品でも言われたことがあるものの,キャラクターの心情表現の一つとして利用されているのが,特徴といえば特徴である。
ミュージックアクションパートはシリーズ従来作品のものを踏襲しており,流れてくる音符に書かれたキーを押してゆくというもの。ゲームの難易度が上がるにつれて操作するキーが増えていき,例えば「EASY」ではホームポジションのキー1列の人差し指と中指のキーだけなのに対し,「HARD」では数字キー列を除く3列すべてのキーを使用する形になる。数々の作品を通して練り上げられたシステムだけあって,操作感は良好である。
フリープレイでは,本編でのプレイに出てきた曲に対し個別に挑戦できる。また高スコアを残したら,インターネットランキングへの登録も可能だ |
インターネットランキングはミュージックアクションパートのハイスコアをインターネット上で競うもの。難易度/曲別にスコアが登録される形だ |
「マリみて」に始まるムーブメントを汲んだストーリー
アドベンチャー作品はストーリーが大きな魅力だけに,細かなところに分け入るのは避けるが,ストーリーのアウトラインは以下のとおりだ。主人公の宮藤かぐらが,親の都合で離れていた学園(音楽学校)に戻ってきて,以前は実の姉のように慕っていた高屋すくねと再開する。だがすくねはなぜか,まるで初対面のように振る舞う。かぐらとすくねが,以前のような間柄に戻れるのかどうかを主軸として,さまざまなエピソードが展開する。
周囲を取り巻く登場人物として,かぐらの親友にして小柄で活発な女の子である幸村ちほや,生徒会の先輩である天野まりなどがストーリーに絡んでくる。もちろんルート選択によっては,ちほとの友情や,まりとの間柄が話の中心に来る。
ストーリー中で地の文(かぐらのモノローグ)はこのように画面全体にわたって配置される |
ゲーム中の行動選択はところどころで入る移動先選択のみ。感情移入の観点でいうと,やや微妙かも |
少々気になるところといえば,ストーリー分岐にもつながる選択肢が,かぐらの“行き先”のみで,心情や会話の受け答えがいっさい含まれていない点であろうか。一貫性のあるゲームデザインとして見ると,これはこれで美しいのだが,主人公への感情移入という意味では,インパクトが薄まるほうに出てしまっている気がする。ストーリーラインのシンプルさ,やや控えめなボリュームについても同様で,作品としての統一感を醸し出している半面,やや押し出しが弱いかな,と思わせる。個々のシーンの出来,ちょっと背中がむずがゆくなるセリフ回しなど,この手の作品としての楽しみどころはしっかり押さえているだけに,惜しまれる部分だ。
異性愛の前駆段階として(?)少女が示す若干の同性愛傾向そのものは,少女小説で長らく愛用されているポピュラーなモチーフである。それをうまく取り込みつつ,椋本夏夜さんのやわらかいタッチのグラフィックスで包み込んだ本作は,キャラクターゲームの第一ターゲットである男性だけでなく,女性プレイヤーにも十分アピールできるだろう。
その一方で高屋すくね役のたかはし智秋さんや天野まり役の今井麻美さんといった,脇を固める声優陣も,キャラクターゲーム的歌唱力において高く評価されていることは,「アイドルマスター」の流行を通して広く知られている。そしてそのあたりの事情は,昨年末のコミックマーケットでこの二人がサイン会を行ったことから見て,制作サイドも先刻承知のことだろう。ファンディスクの形でもよいので,上記2名のボーカル曲を,という,たいへん偏った要望を出してみつつ,この原稿を締めることにしよう。
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