レビュー
「夢のヘッドマウントディスプレイ」は結局のところ買いなのか
ソニー HMZ-T1
5万円台後半という普及価格帯の実勢価格でありながら1280×720ドットのHD解像度に対応し,HDMI 1.4a準拠で接続機器をあまり選ばず,さらに有機ELパネルによる3D立体視に対応しているのだから,スペック面の持つインパクトは計り知れない。
ただ,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)というものにこれまで触れたことがない場合,なぜHMZ-T1がそれほど騒がれているのか,ピンと来ない可能性もあるだろう。実際,4Gamerでニュース記事を掲載したときも,「なんで解像度が1920×1080ドットじゃないの?」「今さら720pなんて」などという声が少なくなかった。
21世紀を迎えてからも,ぱらぱらと新製品は登場してきている。しかし,数万円クラスの民生用という条件を付けると,解像度は800×600ドットとか852×480ドットあたりが上限。接続インタフェースは未だアナログRGBが主流だったりと,HD全盛の時代にあってスペックは低いままだった。世間的にほとんど認知されていなかったのも,さもありなんといったところである。
……と書くと,過去に販売されていた民生用HMDとは比較にならないスペックをHMZ-T1が持っていることが分かってもらえると思う。DVD-Video+α程度の解像度が上限だったところに,同価格帯でいきなり,HD解像度で,3D立体視に対応した製品が登場してきた。しかも,低遅延の有機ELパネルや,バーチャル5.1chサラウンドサウンドといったプラスアルファもあるわけだから,騒がれるのは当たり前である。
スペックは部分的に数百万円クラスの業務用製品を超えているところもあり,ガンダムで喩えると,「ジムだけど火力はデンドロビウム級」といった感じの,驚愕の製品なのだ。
かなり大型の筐体となるHMZ-T1
何よりも重要なのはその装着法
HMZ-T1には,「HMZ-T1P」という型番が与えられたプロセッサユニットが付属しており,出力機器との接続や電源供給などはこのプロセッサユニット側で行うことになる。もっとも,このプロセッサユニットは,HDMIの入力と出力の両端子が1つずつと,HMZ-T1との接続用端子,そして電源ケーブル用端子が用意されているだけのシンプルなもの。電源のオン/オフはHMZ-T1側で行うため,スイッチ類もない。
ちなみにHDMI出力が用意されているのはスルー用で,HMZ-T1の電源がオフになっているときは,このHDMI出力から別のディスプレイ出力へ映像を出力できる。同時出力はできないから,切り替えて利用したい人向けの端子ということになるだろう。
HMZ-T1を本体後方から見たカット。3D立体視に対応するのだから当たり前なのだが,両眼式のHMDである |
CEATEC JAPAN 2011の会場で展示されていた,HMZ-T1の有機ELパネル。これをレンズで拡大して見せているわけだ |
EL――すなわちエレクトロルミネッセンス(Electro-Luminescence)とは,電気を流すと素材自体が光るモノだ。といっても,白熱電球のフィラメントよろしく白熱化して発光するわけではなく,電子の移動を直接的に光に変換するもので,大変効率がよい。ELにもいろいろあるが(※LEDもELの一種),その原料素材のうち有機物を使った製品が有機ELと呼ばれるものになる。少なくとも現時点では,多色化されてテレビのように使えるものは有機ELだと思ってOKだ。
有機ELが持つ最大の特徴は,自発光なので,バックライトの光を遮ることで明度を変化させる液晶パネルと比べて,コントラストが圧倒的に高いことだ。また,パネルの応答速度が大きく,動画の表現に適している点もメリットとして挙げられるだろう。材料的な寿命があるなど,欠点がないでもないが,最近では長寿命化も進んでいる。
それを支えるため,ヘッドバンド部は二股になって,後頭部を2か所で支えるような仕様になっている。装着時の雰囲気は,かつてタカラ(現タカラトミー)から販売されていた「ダイノバイザー」に近い。
ともあれ,最終的には,二股バンドの下側と,センサー付きクッションの2点で支えつつ,二股バンドの上側でズレないよう固定するイメージになる。本体の底側が鼻に当たるような状態はアウトなので,最初は,鼻に当たらないようにしながら,うまく水平に固定できるよう設定していくのが肝要だ。起動時には水平に見られているかどうかをチェックする画面が表示されるので,それを使って,とにかく水平に,それでいて頭部の負担の少ないセッティングを探す必要がある。
このとき,うまく固定できないと,映像を安定的に見られない。ほんのちょっと上下にズレただけでレンズの歪みやフレアなどが多く出てしまうので,よい場所を見つけて固定しておきたい。最初の数十分,下手すると数時間はこれだけで費やされてしまうかもしれないが,コツさえ掴めばさくっと固定できるようになるので,最初にめげないのがポイントかもしれない。
ちなみにHMZ-T1の画角は45度で,「大きな映画館の特等席からスクリーンを見たイメージ」という,20m離れた距離から見た750インチ画面相当の大画面が得られるとされているのだが,体感的にはもっと近い。普段23.1インチワイド液晶ディスプレイを持っている人は,それを60cmくらい離れたところから見た感じだと思えばいいだろう。
意外に小さいと思うかもしれないが,その場合は部屋を真っ暗にしてみることをお勧めする。至近距離で浮かび上がる画面は,視界のかなりの部分を覆い,かなり大きく感じられるはずだ。
最後に,前後にスライドし,上下にも動くオンイヤースピーカーを耳の上から当てるようにセットすれば装着は完了である。
接続は極めて簡単だが
PCでの立体視だけは条件がある
ただ,「PCゲームを立体視で」という話になると,少々やっかいになる。というのも,NVIDIAの「3D Vision」(というか,3D VisionベースのHDMI出力機能「3DTV Play」)は,ドライバ側に登録済みのディスプレイを自動認識して信号を出す方式であり,そして今のところドライバソフトウェア「GeForce Driver」にHMZ-T1は登録されていないからだ。今後登録されるかはなんとも言えないが,いずれにせよ現時点では「できない」ということになる。
※2011年11月15日11:40追記
北米時間11月14日,NVIDIAは,HMZ-T1から3DTV Playを利用可能にするパッチを公開しました。
DDDのWebサイト。TriDef 3Dをダウンロード&購入できる |
TriDef 3Dをインストールすると,HMZ-T1は自動認識される |
現状,HDMI 1.4aに対応したグラフィックスカードは,3DTV Playを導入したGeForce搭載製品と,「AMD HD3D Technology」に対応したRadeon搭載製品しかないため,現実的には,HDMI 1.4a出力が可能なRadeonを搭載グラフィックスカードが差さっているPCなら,TriDef 3Dの導入により,「TriDef Ignition」と呼ばれるPCゲームの3D立体視表示が可能になる。条件を満たしたPCの場合,HMZ-T1を接続しただけでHDMI 1.4a準拠の立体視対応ディスプレイとして認識されるので,手間はほとんどかからない。
TriDef 3Dのダウンロード版は49.99ドルで販売中。PayPalなどで決済が可能だ。14日間利用できる体験版もあるので,条件を満たしたPCがあるなら,ひとまず試してみるのも手だろう。
また,ゲームではないのだが,YouTubeの3D立体視コンテンツなら,ドライバがなくても,全画面表示した映像でサイドバイサイドを選択し,HMZ-T1側でもサイドバイサイドに合わせる指定をすれば立体で楽しめる。
あえてムービーの埋め込みはしないため,リンク先(YouTube 3D)を見に行ってもらえばと思うが,非常に説得力の高いデモなので(?),立体視のアピールには適したコンテンツといえそうだ。
さまざまなジャンルのタイトルでHMZ-T1を使ってみる
表示遅延がゲーム性に影響しないタイトルならアリ
今回は,限られたテスト時間のなかで,できる限り多くのゲームジャンルを試すべく,まず本稿の筆者2名(aueki&佐々山薫郁)が基礎評価を行ったうえで,4Gamerスタッフがそれぞれ,自分の得意ジャンル(もしくは興味を持っているジャンル)のタイトルでHMZ-T1を使い,そのインプレッションをまとめることにした。そして,各自のインプレッションそのものは本稿の最後に示しつつ,本段落では総合評価を述べることにしたい。
というわけで,今回テストしたゲームタイトルは下記のとおりだ。タイトルはアルファベット順→アイウエオ順。特殊な入力インタフェースを用いた場合は▲,立体視でもテストしたものは■を機種名の後ろに付記してある。
- Child of Eden(Xbox 360,▲)
- Forza Motorsports 4(Xbox 360)
- RISE OF NIGHTMARES(Xbox 360,▲)
- StarCraft II: Wings of Liberty(PC,■)
- The Tower of AION(PC,■)
- ToHeart2 DX PLUS(PS3)
- アイドルマスター2(Xbox 360)
- 電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム ver.5.66(Xbox 360,▲)
- スーパーストリートファイターIV アーケードエディション(PS3,▲)
- 鉄拳6(PS3,▲)
- 東方神霊廟(PC,▲)
- バトルフィールド 3(PC)
- メルルのアトリエ〜アーランドの錬金術士3〜(PS3)
- ワンダと巨像(PS3,■)
そして,全テスターのインプレッションをまとめると,おおむね以下のような感じである。
●プラス要素
- 従来のHMDとは比較にならない高解像度&高コントラスト
- 非常に品質の高い3D立体視
- 周囲を遮蔽することによってもたらされる高い没入感
- 得られるメリットを考えると極めて安価な価格
●マイナス要素
- プロセッサユニットによるものと思われる表示遅延
- アクションゲームでの3D酔いしやすさ
- 情報を追うのには向かない大画面
- 決して高音質ではなく,かつ取り外せないオンイヤースピーカー
まず,肝心要の表示遅延だが,結論からいうと「ある」。有機ELパネル自体は,電流を流するとすぐに発光する特性があり,原理上の応答速度も0.01ms以下に留まっているが,根本的な問題として,プロセッサボックスを介さねばならないのが大きいようで,表示は明らかに遅れる。感覚的には2〜3フレーム(最大で約0.05秒)といったところだろうか。少なくとも格闘や弾幕シューティングでは致命的なレベルにあり,目の前に広がる大画面で戦ってみたいとか,大画面で弾幕を堪能したいとかいったニーズに応えるのは厳しい印象だ。
視点が比較的大きく動くFPSや三人称アクションをプレイしてみると,いわゆる3D酔いしやすいのも気になった。映像素子が目から遠いためか,視点が少し動いただけで画面が大きくブレる感じになってしまうのだ。有機ELの基本画質はよいので,レンズ部がもう少しコンパクトになってくれると,重さの問題も解決して,一石二鳥だと思う(オリンパスのフリーフォームドプリズムは神設計だったなあ……)。
ただ,レースゲームのコクピットビューだと適度な広がり感があったりもするので,やはり基本的には「20m先の750インチスクリーン」という,映画館をシミュレートした設計方針による仕様的なものと受け取るのが正解かもしれない。
画面が大きすぎる,というのも,ゲームジャンルによってはマイナスとなる。RTSのように情報が画面端へ散っていたり,弾幕シューティングのように画面全体を常に把握しなければならなかったり,ビジュアルノベルのように文字が画面全体へ表示されたりする場合,情報を追うだけで目が疲れてしまうのだ。
また,基本的には暗い環境で使うことになると思われるため,それほど大きな問題にはならないと思われるが,明るい環境だと,覗き込み口の前面で側部からの外光が白く反射するのもマイナス材料となるだろう。
もっとも,オーディオマニアの佐々山薫郁以外からは,これといった不満の声が出なかったのも事実。テレビの内蔵スピーカーと比べると十分な音が出ているとも言える。このあたりは「普段使っているスピーカーやヘッドフォン次第」といったところかもしれない。
……と,いろいろダメ出しすることになったが,要するにHMZ-T1は完璧な製品ではない。もう少し大きな「もっと」の話をするなら,画角は大きければ大きいほどいいし,長時間プレイしているとどうしても重量が負担として首にかかってくるので,重量ももっと軽いほうがいい。プロセッサユニットには,追加でもう1台くらい接続できてもよかったのではないかとも思う。PC用途を考えると,縦解像度が768ドット欲しかったところでもある。
まあ,全体としてゲームというより映像のほうを向いた製品なので,ゲームにおいて相応に制限があるのはやむを得ないのだろう。
ただ,使い方を間違えなければ,十分な「新体験」をもたらしてくれるのもまた確かだ。とくに個人用の3D立体視環境としては完璧に近い。原理上クロストークが存在せず,明るさも申し分なし。周囲が遮蔽されるため没入感も十分であり,2011年の時点では,この価格でこれ以上を求めるのは難しいだろう。
序盤で述べたように,HMZ-T1の性能は数百万円の業務用機器と比べても遜色ないレベルにある。マイナス要素は明らかだが,それだけに,それらが気にならないなら,購入して損した気分になることはないはずだ。
人は選ぶが,“選ばれた人”にとっては現時点で考え得る最高の選択肢。それがHMZ-T1なのである。
ソニー公式Webサイト
ソニーのHMZ-T1製品紹介ページ
参考:4Gamerスタッフによるインプレッション
Child of Eden(Ubisoft Entertainment)
(Xbox 360+Kinect,テスター:TeT)Kinectと普通のテレビなどでプレイした場合でも,上記のような感想を持つ人はいるかもしれないが,Child of Edenの「ゲーム画面を除くと何も視界に入らない状態」は強烈の一言。プレイ中にテレビの脇に積んであるDVDボックスに目を奪われ,「これ,まとめて見る時間は老後までないんじゃなかろうか」みたいなことを考えるようなこともないわけで。外界からの情報をシャットアウトして電脳世界にダイブしたいときには,この組み合わせをオススメしたい。
Forza Motorsports 4(日本マイクロソフト)
(Xbox 360+純正コントローラ,テスター:佐々山薫郁)気になったのは,視界がゲーム画面に限定されるためか,もともと目立つジャギーがいっそう目に付いたこと。一方,表示遅延は「言われてみればあるかもしれない」くらいで,プレイ中,気になることはなかった。
RISE OF NIGHTMARES(セガ)
(Xbox 360+Kinect,テスター:ginger)というわけで肝心のゲームプレイだが,視界全体がゲーム画面に覆われるため,臨場感は抜群。ご存じのように,本作では手を伸ばしてオブジェクトに触れたり,腕を振ってクリーチャーと戦ったりするのだが,周囲の風景が一切見えないぶん,画面内の腕がまるで本物の自分の腕のように感じられて,ちょっと怖いくらいだ。
しかし,「これはいける! HMZ-T1と相性ぴったり!」と喜んだのも束の間,10分ほどプレイしたところで激しい画面酔いが……。個人差はあると思うが,HMZ-T1で本作を長時間遊ぶのは少々つらいかもしれない。
また,実際のゲーム内で何が起こっているのか周囲からはさっぱり分からないため,本人としてはクリーチャーに襲われて必死に応戦している姿が,端からは「薄暗い部屋でおかしな機械を頭につけて,わたわたと両手を振り回しているちょっと残念な人」にしか見えないというのが,大きな精神的ダメージになる。HMDの特性上,家族や友人と一緒に遊びづらいのはもちろんだが,とはいえ部屋で一人,HMZ-T1を装着してKinectを遊ぶのもちょっとねえ……ということで,物心両面でなかなかにハードルの高い組み合わせと言えそうだ。
StarCraft II: Wings of Liberty(Blizzard Entertainment)
(PC+マウス&キーボード,テスター:fumio)一方,大画面の有機ELディスプレイによる映像は精細の一言。TriDef 3Dを用いた立体視の効果もなかなかのもので,イベントシーンなどは,映画のような迫力で楽しめるうえ,ゲーム中も,ユニットが地表に立って動いている様子をリアルに感じ取れる。キャンペーンを楽しむ場合に限り,メリットが得られるといえそうだ。
The Tower of AION(エヌ・シー・ジャパン)
(PC+マウス&キーボード,テスター:aueki)4Gamerで立体視担当(?)を務める私としては,「3D立体視はHMDが本命」というのが持論なのだが,立体視で使えるような製品は民生用には存在せず,業務用は非常に高価だった。それが普及価格で登場するというのだから期待せざるをえない。というわけで今回は,空間の広がりを感じられるオープンフィールドタイプのほうが没入感が高いだろうということで,「ATI Radeon HD 5870」搭載グラフィックスカードを差したPCで,いくつかMMORPGを試してみた。
で,その結果だが,意外な障害となったのが「1280×720ドット」という解像度だ。オンラインゲームはいまでもアスペクト比4:3の1024×768ドットを最低解像度として規定しているものが結構あり,縦解像度720ドットのHMZ-T1だと,解像度不足でそもそもゲームが起動しかったり,起動したとしてもエラーが発生して立体視に切り替えられなかったりするのである。
一方,TriDef 3Dの知名度が上がり,そして導入例も増えてきているためか,TriDef 3Dが「外部ソフトウェア」としてアンチチートツールに弾かれるという不具合は,少なくとも今回試した限り一例もなかった(※すべてそうだとは断言できないが)。
テスト結果は下記のとおりとなる。
- TERA The Exiled Realm of Arborea:立体視が有効にならず
- The Tower of AION:動作良好
- Perfect World -完美世界-:立体視は動作するも,立体視関連の操作を行うためのファンクションキーが機能せず
- グラナド・エスパダ ルネッサンス:なぜか1024×768ドットとして起動するも,Direct3Dエラーが発生
- DIVINA:縦解像度が足りないとして起動せず
限られた時間のなかでテストした限り,正常に動作したのはThe Tower of AION(以下,AION)のみ。MMORPGを3D立体視でプレイするのに重要なのは移動の自由度で,あちこち登れたり,空を飛べたりしたほうが楽しめる。戦闘などをせず,ぼけーっと探検できるタイプが最も向いており,その意味だとPerfect Worldのほうがよかったのだが,立体視との相性ではAIONが抜群である。
オンラインゲームというと,ポリゴンの粗いものが多く,そういうものを立体視させると,木や草の表現など,平面視でごまかせていたところがごまかせなくなる場合が多い。その点,AIONはモデリングも高精度であるうえ,Episode 2.5のグラフィックスアップデートにより,MMORPGとしてはほぼトップクラスの映像美となった。HMZ-T1は相手にとって不足なしといったところだ。
さて,AIONの立体視で何ができるかだが,前述のとおり,ぼけーっと歩き回るのに向いている。というか,普通にプレイできるとはあまり思わないほうがいい。ライトシールドを外せばキーボードを見ることもできなくはないのだが,相当に下を見なければならなくなるのであまりお勧めできない。マウスと[W]キーだけ使うと割り切れば,いつもと違った体験が楽しめるだろう。
ToHeart2 DX PLUS(アクアプラス)
(PS3+純正コントローラ,テスター:Ky)HMDを装着してプレイして最初に気づかされるのは,頭を動かしても視界に広がる映像は常に正面を向くため,画面の端から端までを目の動きだけでカバーしなければならないということ。画面左上から右下に向かって広がる文字を目の動きのみで追っていくのは,はっきり言って疲れる。とくに長時間プレイしようと思うと,慣れと心構えが必要だ。
何よりも素晴らしいのは,周囲を遮って自分だけの空間でプレイできること。目の前で動く羽根崎美緒(CV:斎藤千和)は,その瞬間,間違いなく自分のためだけのクラスメイトで友達で恋人で天使だった。彼女がボソボソっと恨み言をこぼす場面なんかは……正直,たまりません。
アイドルマスター2(バンダイナムコゲームス)
(Xbox 360+純正コントローラ,テスター:松本隆一)最近老眼が進み,遠くの物も近くの物も見えにくくなっている私は,いろいろ不便でしょうがない。具体的には,アイドルマスター2のレッスンやオーディション,フェスが始まると,それまでいた場所から移動して,テレビ画面にうんと近づき,正座しながらコントローラを操作することになる。
普段はしないので,正座するとたまに足がつり,しかしフルチェーン達成寸前なのでテレビ画面から目が離せず,あわてて中腰になり屈伸運動しながらボタンを押すわけで,そんなときに限ってテレビ台のヘリに足の小指をぶつけて悶絶したりすることになる。春香,キミは知らなくていいけど,おじさんはキミ達の笑顔を見るため,こんなに苦労しているんだ。ああ,ゴロゴロしたままアイマスがプレイできないかなと願っていたときに登場したのが,HMZ-T1というわけである。まるで,たった今作った話のようにいい流れだが,ほんとなんですよ,ほ・ん・と。オレの目を見てくれ。
これは,私がダンスレッスンしかちゃんとできないため,どうしてもダンサーの出番が多くなるからだ。とくに響はバーストアピールも強力なキャラクターであり,性格も魅力的な使い勝手のよいキャラクターだ。彼女に敬意を表して,最初の曲は「shiny smile」を選んだ。というわけで,さっそくオーディションに挑戦しよう。しかし,お守りもなけりゃ,ハーツイーズアメシストもまだ買えないのか。うーん,徳島でお仕事がないかなあ……って,なんですか? ゲームのことはそんなに詳しく書かなくてもいい? うーむ,なんというか,HMDのことをすっかり忘れて,ゲームに熱中していたような気がするが,それほど自然な使用感のデバイスであるのだと強引な展開に持ち込んでみよう。
天海春香と目の高さが合うようかがむ52歳 |
ついには寝転がってプレイし始めた52歳 |
最初は,1280×720ドットということで,画面の荒さが心配されたが,実際にはまったく気にならず,キレイなものだ。これは,両目それぞれに有機ELパネルがついているためで,二つを合わせると2560×1440ドット相当になるからだ。これが「松本理論」と呼ばれるものだが,ただの思いつきなので信じないでほしい。
画質的には自宅のハイビジョンテレビと比べてまったく遜色はない印象だが,ゲームに関しては「ビジュアルレッスン」でちょっと違和感を覚えた。日本中の人が知っていると思うが,アイドルマスター2のビジュアルレッスンとは,画面上を飛び交うパネルをキャッチするミニゲーム。私はもとから苦手なうえ,動くパネルを目じゃなくて頭を動かして追ってしまうので,画面がそれについてきて,だんだん気持ちが悪くなってきた。ううう。まあ,このへんは慣れじゃないかとは思うが。
アイドルマスター2は,オブジェクトがハイスピードで移動し,F1マシンが唸りをあげて駆け抜けるようなゲームではないので,応答速度がどうこうということはなく,春香達のステージも相変わらず魅力的であり,オーディションなどのミニゲームでも表示の遅れを感じることはなかった。
困ったのは,頭からスッポリかぶることになるため,あわてて日本地図をさがすときに,ちょっと苦労したことと,私のアパートは冷房が壊れているため,夏場が暑いんじゃないかと思ったことだ。結論としては,まあ,買いですかね。これで,こむら返りを気にすることなく,ゴロゴロとアイドル育成に力を注げると思うと,やはり手に入れないわけにはいかなそうな気配だ。うーん,年末はいろいろと物いりなのになあ。PlayStation 3とか。
電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム ver.5.66(セガ)
(Xbox 360+ツインスティックEX,テスター:佐々山薫郁)ひとまずシングルプレイしてみると,なんというか,バーチャロイドを遠隔操作している雰囲気が抜群である。「O.M.G.で,自分でも知らぬ間に『オペレーション・ムーンゲート』へ参加させられていた若者達は,こんなHMDを付けていたのではなかろうか」と,なぜか過去形で振り返って悦に入ってしまうおっさん誕生の瞬間とでも言おうか。
ただ,マルチプレイだと,時折,表示遅延のようなものも感じられた。回避できると思ったタイミングから被弾することが何度かあったのだ。個人的にはHMDがもたらす「バーチャロン世界における現実感」のようなものを買いたいが,シビアな戦いには向かない可能性もある。
スーパーストリートファイターIV アーケードエディション(カプコン)
(PS3+Street Fighter IV Arcade FightStick Tournament Edition S,テスター:touge)致命的なのは表示の遅延。有機ELなので表示遅延は少ないのだが,猶予0フレームの目押しコンボなどは明らかにつなげにくい。あくまで体感だけれども,3フレーム前後の遅延があると思われる。おそらくプロセッサボックス内での画像処理で遅延が発生しているのだろう。
また,画面が近すぎて,画面全体を見渡すのが難しいのも欠点。各種ゲージに目が行きづらく,ゲージ管理に支障があるほか,上を見るのが困難なので,とっさの対空も出しづらい。慣れが解決する部分はあるだろうが,ヒット確認などは明らかに難しくて,ガチな対戦には向かないだろう。
鉄拳6(バンダイナムコゲームス)
(PS3+Street Fighter IV Arcade FightStick Tournament Edition S,テスター:touge)スーパーストリートファイターIV アーケードエディションと同じく,厳しい評価をすることとなった。というか,より速いレスポンスが求められる鉄拳では遅延感がさらに顕著で,ヒットや浮きを確認してコンボの構成を変えるなどは不可能に近い。吹っ飛びダウンした相手を目で追ったり,体力ゲージを確認したりするときも,視線のみを動かす必要があってストレスになる。
またアーケードスティックだとプレイ時に前傾姿勢を強いられるため,長時間のプレイでは,HMZ-T1自体の重量が気になってくる欠点もあった。寝っ転がってパッドでプレイするならまた違うのだろうが……。
鉄拳ファンなら「鉄拳 ハイブリッド」を買って,映画「鉄拳ブラッド・ベンジェンス」を立体視で楽しむのが,いまのところ一番のオススメだ。
東方神霊廟(上海アリス幻樂団)
(PC+リアルアーケードPro. VX-SE,テスター:佐々山薫郁)2Dの縦スクロール弾幕STGだと,画面内でかなりの部分を常に把握し続けねばならないが,HMZ-T1の広い視野にあって,そのすべてを目の動きだけで追うのはかなり難しい。最大の問題は,フルスクリーン表示すると,目の動きを大きくしなければならなくなって,疲労感が大きいこと。加えて,視界全体を追い切れないため,自分なりの攻略法が確立されていたはずの弾幕で,想定外のところから敵弾が現れ,いつの間にか“詰んで”いたというケースが頻発する。
ならウインドウモードで実行すればいいのかというと,話はそう簡単ではない。確かに画面サイズの問題はいくらかの解決を見るのだが,今度は「画面サイズ問題で隠蔽されていた遅延問題」が顕現するのだ。もっとはっきり言うと,遅延が大きすぎて,フルスクリーンモードだろうがウインドウモードだろうがゲームにならない。弾幕シューティングは,HMZ-T1に最も不向きなゲームジャンルの1つと言う印象である。
バトルフィールド 3(エレクトロニック・アーツ)
(PC+マウス&キーボード,テスター:御月亜希)とくに面白いと感じたのは,スナイパーライフルでの狙撃。じっくりスコープを覗いて,見事敵にヘッドショットをぶちかましたときの“してやったり感”は,一般的なディスプレイと接続したときには味わったことのないものだった。
ただ,かなり3D酔いしやすい点は,欠点として指摘しておくべきだろう。筆者はFPSを日頃から遊んでいるが,3D酔いを体験したのは今回が初めてのことだ。没入しすぎるあまり,プレイ中についつい首を動かして索敵したり,スコープを覗きこもうとしたりして,動きと視点に齟齬が生じているのが原因ではなかろうかと思う。いくら過酷な戦場が目の前に広がっているとはいえ,体調の悪化までは体験したくないところである。
メルルのアトリエ〜アーランドの錬金術士3〜(ガスト)
(PS3+純正コントローラ,テスター:Ky)本作のようなジャンルのゲームをプレイしていて最も素晴らしいのは,HMZ-T1だと,周りに気をとられず没入できること。買い物に行ったときのフアナさんの笑顔は確実に自分だけに向けられているし,戦闘中のミミの麗しい姿を見られるのも自分だけ。メルルやトトリのアイテム攻撃シーンを,大画面で独占できるのも極上の喜びだ。うにー!
ワンダと巨像(ソニー・コンピュータエンタテインメント)
(PS3+純正コントローラ,テスター:TAITAI)想像以上にクリアな映像にまずびっくり。一昔前のHMDというと,同じソニーのグラストロンなどが思い出されるが,当時のおぼろげな記憶と比較しても,その技術的な進歩には感嘆せざるを得ない。
ちなみに本作での立体視表示は,手前に飛び出してくるような見え方というよりは,奥行きを重視した方向。大きな巨像を立体視で見たらいったいどんなに迫力があるだろうと,プレイ前はワクワクしていたのだが,思ったほどの立体感は実感できなかったのは少し残念だ。このあたり,やはり立体視を前提に作られた作品の登場を待たないと,真の意味での感動は得られない気がした。
ただ,広大な草原を疾走するときの奥行き感は格別だ。とくに愛馬アグロを駆っての移動は,それだけでひたすら楽しいと思えるほどであった。崖下を覗いてみたり,あるいは神殿を見上げてみたり……。世界への没入感という点では,一般的なテレビやディスプレイではなく,HMDに軍配が上がる。
細かい検証はもう少し使ってみないとなんとも言えないが,自分が座った状態で視点だけが「見上げた状態」というのは,なんとも妙な感覚だった。……まぁ,それだけ映像への没入感が高いということでもあるのだが。
とはいえ,本機が非常に興味深い製品であるのは確か。装着しているだけで疲れるため,長時間のプレイには向かないかもしれないが,ゲームに限らず,映画やライブ映像など,「いろいろな映像ソースで試してみたい!」と思わせるだけの魅力は持っている製品だ。すでに予約済みの筆者としては,製品の到着が待ち遠しい限りである。
※お詫びと訂正
初出時,表示遅延の表記を「0.33〜0.5秒」としていましたが,小数点以下の0が1つ抜けていました。お詫びして訂正いたします。
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HMZ
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