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新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
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印刷2011/11/07 00:00

レビュー

「夢のヘッドマウントディスプレイ」は結局のところ買いなのか

ソニー HMZ-T1


HMZ-T1
メーカー:ソニー
問い合わせ先:総合サポート・お問い合わせ
実勢価格:5万7000〜6万円(※2011年11月7日現在)
画像集#002のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 いよいよ今週金曜,2011年11月11日に,ソニーの新型ヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」が発売になる。8月末日の発表後,即座に注文し,首を長くして待っていたという読者は少なくないだろうし,使い勝手次第では入手したいと考えている読者もかなりいるのではないだろうか(※さまざまな話を総合すると,初回出荷分を今から購入するのはなかなか難しそうだが)。
 5万円台後半という普及価格帯の実勢価格でありながら1280×720ドットのHD解像度に対応し,HDMI 1.4a準拠で接続機器をあまり選ばず,さらに有機ELパネルによる3D立体視に対応しているのだから,スペック面の持つインパクトは計り知れない。

 ただ,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)というものにこれまで触れたことがない場合,なぜHMZ-T1がそれほど騒がれているのか,ピンと来ない可能性もあるだろう。実際,4Gamerでニュース記事を掲載したときも,「なんで解像度が1920×1080ドットじゃないの?」「今さら720pなんて」などという声が少なくなかった。

オリンパスのEye-Trek
画像集#003のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 では,どうしてHMZ-T1は注目に値するのか。少し昔話をしてみると,普及価格帯の民生用HMDはソニーから1996年に発売された「グラストロン」にまでさかのぼれる(と記憶している)が,当時は640×480ドットにも満たない解像度で8万8000円もした。1998年に市場投入されたオリンパスの「Eye-Trek」は軽量化され,価格も6万5000円まで下がるなど,当時としては革新的な製品だったものの,それでも普及率として考えると無視できるようなレベルだった。

 21世紀を迎えてからも,ぱらぱらと新製品は登場してきている。しかし,数万円クラスの民生用という条件を付けると,解像度は800×600ドットとか852×480ドットあたりが上限。接続インタフェースは未だアナログRGBが主流だったりと,HD全盛の時代にあってスペックは低いままだった。世間的にほとんど認知されていなかったのも,さもありなんといったところである。

 ……と書くと,過去に販売されていた民生用HMDとは比較にならないスペックをHMZ-T1が持っていることが分かってもらえると思う。DVD-Video+α程度の解像度が上限だったところに,同価格帯でいきなり,HD解像度で,3D立体視に対応した製品が登場してきた。しかも,低遅延の有機ELパネルや,バーチャル5.1chサラウンドサウンドといったプラスアルファもあるわけだから,騒がれるのは当たり前である。
 スペックは部分的に数百万円クラスの業務用製品を超えているところもあり,ガンダムで喩えると,「ジムだけど火力はデンドロビウム級」といった感じの,驚愕の製品なのだ。


かなり大型の筐体となるHMZ-T1

何よりも重要なのはその装着法


非常にシンプルな外観のHMZ-T1P。サイズは180(W)×168(D)×36(H)mmで,大きくはないが小さくもない。ファンレスなので音はしないものの,発熱は相応にあるので,熱が籠もりにくいところに設置すべきだ
画像集#004のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 前置きが長くなったが,HMZ-T1のハードウェアを説明していきたい。今回はソニーから貸し出しを受けたサンプルを用いる。
 HMZ-T1には,「HMZ-T1P」という型番が与えられたプロセッサユニットが付属しており,出力機器との接続や電源供給などはこのプロセッサユニット側で行うことになる。もっとも,このプロセッサユニットは,HDMIの入力と出力の両端子が1つずつと,HMZ-T1との接続用端子,そして電源ケーブル用端子が用意されているだけのシンプルなもの。電源のオン/オフはHMZ-T1側で行うため,スイッチ類もない。
 ちなみにHDMI出力が用意されているのはスルー用で,HMZ-T1の電源がオフになっているときは,このHDMI出力から別のディスプレイ出力へ映像を出力できる。同時出力はできないから,切り替えて利用したい人向けの端子ということになるだろう。

本体背面のインタフェース(左)と,PS3との接続イメージ(右)。接続周りはほとんど何も考えなくていい印象だ。HDMI出力端子とディスプレイやテレビを別途つないでおけば,「普段はディスプレイやテレビを用い,ここぞというときにHMZ-T1を投入」といった使い方もできる
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HMZ-T1を本体後方から見たカット。3D立体視に対応するのだから当たり前なのだが,両眼式のHMDである
画像集#008のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
CEATEC JAPAN 2011の会場で展示されていた,HMZ-T1の有機ELパネル。これをレンズで拡大して見せているわけだ
 というわけで,プロセッサボックスとは専用端子によるケーブル1本でつながるHMZ-T1だが,右に示した写真を見れば分かるように,両目それぞれに対して映像を映し出す,いわゆる両眼式のHMDになっている。前述のとおり,映像素子として採用されているのは有機ELパネルだ。

 EL――すなわちエレクトロルミネッセンス(Electro-Luminescence)とは,電気を流すと素材自体が光るモノだ。といっても,白熱電球のフィラメントよろしく白熱化して発光するわけではなく,電子の移動を直接的に光に変換するもので,大変効率がよい。ELにもいろいろあるが(※LEDもELの一種),その原料素材のうち有機物を使った製品が有機ELと呼ばれるものになる。少なくとも現時点では,多色化されてテレビのように使えるものは有機ELだと思ってOKだ。
 有機ELが持つ最大の特徴は,自発光なので,バックライトの光を遮ることで明度を変化させる液晶パネルと比べて,コントラストが圧倒的に高いことだ。また,パネルの応答速度が大きく,動画の表現に適している点もメリットとして挙げられるだろう。材料的な寿命があるなど,欠点がないでもないが,最近では長寿命化も進んでいる。

ソニーのHMZ-T1製品情報ページより,レンズユニットの写真。かなりの奥行きがある
画像集#009のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 HMZ-T1では,そんな有機ELパネルを2枚用い,左右の目,それぞれの先に1枚ずつ配置している。横20mm弱の素子を,レンズで拡大して見せている感じだ。有機ELパネル自体は薄いのだが,その前に奥行きのあるレンズが置かれ,さらに,レンズ部と目の間にも,メガネを装着したまま利用できるようにスペースが設けられていることもあって,エンクロージャ全体は,目の前に大きく飛び出したような形状となっている。
 それを支えるため,ヘッドバンド部は二股になって,後頭部を2か所で支えるような仕様になっている。装着時の雰囲気は,かつてタカラ(現タカラトミー)から販売されていた「ダイノバイザー」に近い。

電源ボタン――というか操作系はHMZ-T1本体底面,装着時に向かって左側にまとまっている。ちまちましている割には押し分けやすい。電源がオンかどうかは,外からだと本体最先端部の青色LEDで確認できる
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 装着の話が出たので続けると,装着にあたってはまずHMZ-T1の電源をオンにしたうえで,左右のつるの部分に用意されたボタンを押してヘッドバンドを引き出して緩め(※完全には引き抜けないようになっている),二股になっているバンドの下側が後頭部の襟足付近にくるよう,本体を“被る”。そのうえで,バンドを押し込んで軽く締めながら,スクリーンが目と水平になる位置へと本体を動かして調整し,最後にバンドをしっかり締めることとなる。

ヘッドバンド部は本体左右上部のボタンで引き出せるようになっている(左,中央)。二股のバンドはいずれも長さ調整可能(右)
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クッション部がセンサーを兼ねている
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 このときHMZ-T1は,二股のバンドだけでなく,額の上に触れるよう用意されたクッション部でも固定されるのだが,面白いのは,このクッション部の可動域がセンサーになっており,電源をオンにした状態で押し込む(=額を当てる)と,有機ELパネルに映像が表示されるようになっていること。有機ELパネルの寿命対策なのだと思われるが,電源をオンにしただけだと何も表示されないので,この点は慌てないようにしておきたい。

マネキンを使った装着イメージ。まず後頭部の襟足付近に引っかけてから,クッション部で挟み込むような感じになる。写真右の矢印で示した部分を使って固定するのを心がけるといいだろう,正直,慣れは必要だが,慣れれば造作もなくできるようになるのも確かだ
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 ともあれ,最終的には,二股バンドの下側と,センサー付きクッションの2点で支えつつ,二股バンドの上側でズレないよう固定するイメージになる。本体の底側が鼻に当たるような状態はアウトなので,最初は,鼻に当たらないようにしながら,うまく水平に固定できるよう設定していくのが肝要だ。起動時には水平に見られているかどうかをチェックする画面が表示されるので,それを使って,とにかく水平に,それでいて頭部の負担の少ないセッティングを探す必要がある。

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電源がオンになると,最初に「WELCOME!」と書かれた画面が開き,ピントを合わせるよう言われるのだが,それよりも水平に被ることのほうが重要だ。その画面を無視して[MENU]ボタンを押そう。すると,片方の画面には「I」が3つ並んだ画像,もう片方には横線が並んだ画像が表示される(※画像はイメージです。細部は実際と異なります)
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両目で見て,「I」と横線が完全に重なった状態が水平なので,ここで“水平感”の微調整を行う。もっとも,左の画像のように,完璧に重なっている必要はない。右に示したとおり,3つの「I」と横線がとにかく重なっていればOKである。なお,「WELCOME!」画面で調整していないため,画面はややボケて見えるかもしれないが,それはこの時点では問題ない(※画像はイメージです。細部は実際と異なります)

 このとき,うまく固定できないと,映像を安定的に見られない。ほんのちょっと上下にズレただけでレンズの歪みやフレアなどが多く出てしまうので,よい場所を見つけて固定しておきたい。最初の数十分,下手すると数時間はこれだけで費やされてしまうかもしれないが,コツさえ掴めばさくっと固定できるようになるので,最初にめげないのがポイントかもしれない。

先ほど無視した「WELCOME!」画面がこれ(※画像はイメージです。細部は実際と異なります)。水平に装着できたところで一度電源をオフにして,再度これを開いて調整しても構わないし,水平の調整を終えたところで表示されたPCやゲーム機のメニュー画面で調整しても別に構わない
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 そして最後に,本体底面のスライドスイッチを親指で操作し,レンズの間隔を調整する。スライドスイッチは左右連動で,幅の選択肢は5段階。そのどれかが,左右の目の幅と視力に合い,画面の文字などがくっきり見えるものになっている――少なくとも編集部の7名+fumio氏の計8名でテストした限り,全員がどれかに落ち着いた――ので,ここはそれほど心配しなくてもよさそうだ。

 ちなみにHMZ-T1の画角は45度で,「大きな映画館の特等席からスクリーンを見たイメージ」という,20m離れた距離から見た750インチ画面相当の大画面が得られるとされているのだが,体感的にはもっと近い。普段23.1インチワイド液晶ディスプレイを持っている人は,それを60cmくらい離れたところから見た感じだと思えばいいだろう。
 意外に小さいと思うかもしれないが,その場合は部屋を真っ暗にしてみることをお勧めする。至近距離で浮かび上がる画面は,視界のかなりの部分を覆い,かなり大きく感じられるはずだ。

スライドスイッチを一番外,中央,一番内に動かしてみたところ。5段階のどこかにベストな位置がある
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本体には,取り付けた状態でも外界を視認できるよう,隙間が設けられているため,部屋の明かりを消しても,ここからPCやゲーム機のLEDなどが目に入ってくる可能性はある。それが気になる場合は,付属する遮光ゴム「ライトシールド」を取り付けるといいだろう。ただ,取り付けるとコントローラやマウス,キーボードの場所も見えなくなるので,その点は要注意
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 最後に,前後にスライドし,上下にも動くオンイヤースピーカーを耳の上から当てるようにセットすれば装着は完了である。

オンイヤースピーカーの前後(上)および上下(下)可動域。あまり動かないと思うかもしれないが,実用上,問題はない
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接続は極めて簡単だが

PCでの立体視だけは条件がある


PS3とつないだ状態で,コンパクトデジタルカメラからHMZ-T1のレンズを覗き込むように撮影したところ。撮影環境が環境なので,色ムラやゆがみは無視してほしいと思うが,画面を表示させるにあたって,難しいところは何もない
画像集#031のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 前述のとおり,HMZ-T1はHDMI 1.4a準拠になっているため,HDMI出力に対応したPCやゲーム機とつなげば,映像表示自体は簡単に行える。また,PlayStation 3(以下,PS3)や一部のXbox 360タイトルなら,ゲーム機側から(750インチの)3D立体視対応ディスプレイとして認識させてやるだけで,3D立体視を利用可能だ。

 ただ,「PCゲームを立体視で」という話になると,少々やっかいになる。というのも,NVIDIAの「3D Vision」(というか,3D VisionベースのHDMI出力機能「3DTV Play」)は,ドライバ側に登録済みのディスプレイを自動認識して信号を出す方式であり,そして今のところドライバソフトウェア「GeForce Driver」にHMZ-T1は登録されていないからだ。今後登録されるかはなんとも言えないが,いずれにせよ現時点では「できない」ということになる。

※2011年11月15日11:40追記
北米時間11月14日,NVIDIAは,HMZ-T1から3DTV Playを利用可能にするパッチを公開しました。

画像集#032のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
DDDのWebサイト。TriDef 3Dをダウンロード&購入できる
画像集#033のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
TriDef 3Dをインストールすると,HMZ-T1は自動認識される
 では,PCゲームを立体視させられないのかというと,実はDDD(Dynamic Digital Depth)製の「TriDef 3D」という選択肢がある。最近だとLG Electronics製の3D立体視対応ディスプレイにバンドルされたりして知名度が上がっているTriDef 3Dには,HDMI 1.4a対応の単体版も用意されているため,これを使えばHMZ-T1でもPCから3D立体視表示が可能だ。

 現状,HDMI 1.4aに対応したグラフィックスカードは,3DTV Playを導入したGeForce搭載製品と,「AMD HD3D Technology」に対応したRadeon搭載製品しかないため,現実的には,HDMI 1.4a出力が可能なRadeonを搭載グラフィックスカードが差さっているPCなら,TriDef 3Dの導入により,「TriDef Ignition」と呼ばれるPCゲームの3D立体視表示が可能になる。条件を満たしたPCの場合,HMZ-T1を接続しただけでHDMI 1.4a準拠の立体視対応ディスプレイとして認識されるので,手間はほとんどかからない。
 TriDef 3Dのダウンロード版は49.99ドルで販売中。PayPalなどで決済が可能だ。14日間利用できる体験版もあるので,条件を満たしたPCがあるなら,ひとまず試してみるのも手だろう。

 また,ゲームではないのだが,YouTubeの3D立体視コンテンツなら,ドライバがなくても,全画面表示した映像でサイドバイサイドを選択し,HMZ-T1側でもサイドバイサイドに合わせる指定をすれば立体で楽しめる。
 あえてムービーの埋め込みはしないため,リンク先(YouTube 3D)を見に行ってもらえばと思うが,非常に説得力の高いデモなので(?),立体視のアピールには適したコンテンツといえそうだ。


さまざまなジャンルのタイトルでHMZ-T1を使ってみる

表示遅延がゲーム性に影響しないタイトルならアリ


画像集#034のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 さて,テストである。
 今回は,限られたテスト時間のなかで,できる限り多くのゲームジャンルを試すべく,まず本稿の筆者2名(aueki&佐々山薫郁)が基礎評価を行ったうえで,4Gamerスタッフがそれぞれ,自分の得意ジャンル(もしくは興味を持っているジャンル)のタイトルでHMZ-T1を使い,そのインプレッションをまとめることにした。そして,各自のインプレッションそのものは本稿の最後に示しつつ,本段落では総合評価を述べることにしたい。

 というわけで,今回テストしたゲームタイトルは下記のとおりだ。タイトルはアルファベット順→アイウエオ順。特殊な入力インタフェースを用いた場合は▲,立体視でもテストしたものは■を機種名の後ろに付記してある。


 そして,全テスターのインプレッションをまとめると,おおむね以下のような感じである。

●プラス要素
  • 従来のHMDとは比較にならない高解像度&高コントラスト
  • 非常に品質の高い3D立体視
  • 周囲を遮蔽することによってもたらされる高い没入感
  • 得られるメリットを考えると極めて安価な価格

●マイナス要素
  • プロセッサユニットによるものと思われる表示遅延
  • アクションゲームでの3D酔いしやすさ
  • 情報を追うのには向かない大画面
  • 決して高音質ではなく,かつ取り外せないオンイヤースピーカー

 まず,肝心要の表示遅延だが,結論からいうと「ある」。有機ELパネル自体は,電流を流するとすぐに発光する特性があり,原理上の応答速度も0.01ms以下に留まっているが,根本的な問題として,プロセッサボックスを介さねばならないのが大きいようで,表示は明らかに遅れる。感覚的には2〜3フレーム(最大で約0.05秒)といったところだろうか。少なくとも格闘や弾幕シューティングでは致命的なレベルにあり,目の前に広がる大画面で戦ってみたいとか,大画面で弾幕を堪能したいとかいったニーズに応えるのは厳しい印象だ。

 視点が比較的大きく動くFPSや三人称アクションをプレイしてみると,いわゆる3D酔いしやすいのも気になった。映像素子が目から遠いためか,視点が少し動いただけで画面が大きくブレる感じになってしまうのだ。有機ELの基本画質はよいので,レンズ部がもう少しコンパクトになってくれると,重さの問題も解決して,一石二鳥だと思う(オリンパスのフリーフォームドプリズムは神設計だったなあ……)。
 ただ,レースゲームのコクピットビューだと適度な広がり感があったりもするので,やはり基本的には「20m先の750インチスクリーン」という,映画館をシミュレートした設計方針による仕様的なものと受け取るのが正解かもしれない。

 画面が大きすぎる,というのも,ゲームジャンルによってはマイナスとなる。RTSのように情報が画面端へ散っていたり,弾幕シューティングのように画面全体を常に把握しなければならなかったり,ビジュアルノベルのように文字が画面全体へ表示されたりする場合,情報を追うだけで目が疲れてしまうのだ。

コンパクトデジタルカメラで覗き込み口から中を撮影したところ。文字はくっきりしており,コントラスト感もすばらしい,パネル脇の黒もしっかりしているが,それでも内部反射はわずかにある
画像集#035のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
画像集#036のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 ジャンルを問わないところでは,覗き込み口の縁に内部光が反射するのも気になった。さすがは有機EL,コントラストが高く,ぱりっとした画面で,それ自体は非常にキレイなのだが,視界内で内部反射像が白く重なってしまい,結果的に画質を落としている。低反射材料が使われていることは,パネルの周囲がしっかりと真っ暗になっていることからも分かるのだが,覗き込み口部の素材選定は誤ったか,正しかったが開口部が小さかったのだろう。これは本当にもったいない。
 また,基本的には暗い環境で使うことになると思われるため,それほど大きな問題にはならないと思われるが,明るい環境だと,覗き込み口の前面で側部からの外光が白く反射するのもマイナス材料となるだろう。

HDMIのサウンド出力を切れば,別系統からマルチチャネルスピーカーシステムなどへデジタルサウンド出力できる。あるいは,カナル型イヤフォンなら,HMZ-T1側のスピーカーを避けて装着することも可能だ
画像集#037のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 最後にオンイヤースピーカーだが,オーディオ的にはかなり厳しい。一言でいうと「ぺらい」のだ。バーチャル5.1chサウンドは,安っぽいリバーブがかかっている印象で,これまた褒めるところがない(※サウンド設定から動作モードが選べるようになっていて,そこから「ゲーム」「シネマ」を選択すると多少改善されるが,劇的ではない)。
 もっとも,オーディオマニアの佐々山薫郁以外からは,これといった不満の声が出なかったのも事実。テレビの内蔵スピーカーと比べると十分な音が出ているとも言える。このあたりは「普段使っているスピーカーやヘッドフォン次第」といったところかもしれない。

 ……と,いろいろダメ出しすることになったが,要するにHMZ-T1は完璧な製品ではない。もう少し大きな「もっと」の話をするなら,画角は大きければ大きいほどいいし,長時間プレイしているとどうしても重量が負担として首にかかってくるので,重量ももっと軽いほうがいい。プロセッサユニットには,追加でもう1台くらい接続できてもよかったのではないかとも思う。PC用途を考えると,縦解像度が768ドット欲しかったところでもある。
 まあ,全体としてゲームというより映像のほうを向いた製品なので,ゲームにおいて相応に制限があるのはやむを得ないのだろう。

 ただ,使い方を間違えなければ,十分な「新体験」をもたらしてくれるのもまた確かだ。とくに個人用の3D立体視環境としては完璧に近い。原理上クロストークが存在せず,明るさも申し分なし。周囲が遮蔽されるため没入感も十分であり,2011年の時点では,この価格でこれ以上を求めるのは難しいだろう。

 序盤で述べたように,HMZ-T1の性能は数百万円の業務用機器と比べても遜色ないレベルにある。マイナス要素は明らかだが,それだけに,それらが気にならないなら,購入して損した気分になることはないはずだ。
 人は選ぶが,“選ばれた人”にとっては現時点で考え得る最高の選択肢。それがHMZ-T1なのである。

ソニー公式Webサイト

ソニーのHMZ-T1製品紹介ページ



参考:4Gamerスタッフによるインプレッション


Child of Eden(Ubisoft Entertainment)

(Xbox 360+Kinect,テスター:TeT)

(C)2010 Ubisoft Entertainment. All rights Reserved. Child Of Eden, Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the US and/or other countries
画像集#038のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 目の前に広がる大画面,耳元を直撃してくる硬質かつエモーショナルなBGM&SE,それらと自分の間には若干の空気以外に何も存在しないという事実が,これほどまでにゲームとの一体感を高めてくれるものなのだなぁ……という感慨に浸れる。ちょっと大げさに表現してみると,幾何学的な空間の中に自分の身体が溶け込んでしまったかのような錯覚すら味わえた,といったところか。

 Kinectと普通のテレビなどでプレイした場合でも,上記のような感想を持つ人はいるかもしれないが,Child of Edenの「ゲーム画面を除くと何も視界に入らない状態」は強烈の一言。プレイ中にテレビの脇に積んであるDVDボックスに目を奪われ,「これ,まとめて見る時間は老後までないんじゃなかろうか」みたいなことを考えるようなこともないわけで。外界からの情報をシャットアウトして電脳世界にダイブしたいときには,この組み合わせをオススメしたい。


Forza Motorsports 4(日本マイクロソフト)

(Xbox 360+純正コントローラ,テスター:佐々山薫郁)

(C)2011 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.
画像集#039のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 HMZ-T1はForza Motorsport 4のために作られたのではないか,と思うほど,コクピット視点の臨場感が抜群。100%正しくはないかもしれないが,少なくとも,筆者が実際に運転したことのあるクルマに関していえば,視界に入るステアリングは距離感,サイズとも実車に近い印象だ。しかも,視界がゲーム画面(=コクピット)に限定されることから,本当に運転しているかのような錯覚がある。あまりにも実車に近い感覚のため,つい首を左右に振ってしまい,視界が動かないのに違和感を覚えたほどだ。Kinect買えってことですかね。

 気になったのは,視界がゲーム画面に限定されるためか,もともと目立つジャギーがいっそう目に付いたこと。一方,表示遅延は「言われてみればあるかもしれない」くらいで,プレイ中,気になることはなかった。


RISE OF NIGHTMARES(セガ)

(Xbox 360+Kinect,テスター:ginger)

(C) SEGA
画像集#040のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 HMZ-T1をKinectと組み合わせて使用する場合,どこにKinectセンサーを設置すればいいのかが最初に気になるところだが,これは通常どおり2メートルほど離れた位置に置くだけで大丈夫。すでにKinectを使用している人であれば特別な準備は必要ないだろう。
 というわけで肝心のゲームプレイだが,視界全体がゲーム画面に覆われるため,臨場感は抜群。ご存じのように,本作では手を伸ばしてオブジェクトに触れたり,腕を振ってクリーチャーと戦ったりするのだが,周囲の風景が一切見えないぶん,画面内の腕がまるで本物の自分の腕のように感じられて,ちょっと怖いくらいだ。

 しかし,「これはいける! HMZ-T1と相性ぴったり!」と喜んだのも束の間,10分ほどプレイしたところで激しい画面酔いが……。個人差はあると思うが,HMZ-T1で本作を長時間遊ぶのは少々つらいかもしれない。
 また,実際のゲーム内で何が起こっているのか周囲からはさっぱり分からないため,本人としてはクリーチャーに襲われて必死に応戦している姿が,端からは「薄暗い部屋でおかしな機械を頭につけて,わたわたと両手を振り回しているちょっと残念な人」にしか見えないというのが,大きな精神的ダメージになる。HMDの特性上,家族や友人と一緒に遊びづらいのはもちろんだが,とはいえ部屋で一人,HMZ-T1を装着してKinectを遊ぶのもちょっとねえ……ということで,物心両面でなかなかにハードルの高い組み合わせと言えそうだ。


StarCraft II: Wings of Liberty(Blizzard Entertainment)

(PC+マウス&キーボード,テスター:fumio)

(C)2007 Blizzard Entertainment. All rights reserved.
画像集#041のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 RTSというジャンル自体に言えることだが,画面左下のミニマップや右上のリソース残量など,ゲーム中に視線を向けなければならない部分が画面全体に散らばっているため,そもそも大画面でのプレイには向いていない。さらに,通常の大画面モニタであれば首と眼を同時に同じ方向へ向けることができるのに対し,HMDの場合,画面が首の傾きに追従してしまうため,長い距離の視点移動を目だけで行わなければならなくなり,これが非常にしんどいのである。

 一方,大画面の有機ELディスプレイによる映像は精細の一言。TriDef 3Dを用いた立体視の効果もなかなかのもので,イベントシーンなどは,映画のような迫力で楽しめるうえ,ゲーム中も,ユニットが地表に立って動いている様子をリアルに感じ取れる。キャンペーンを楽しむ場合に限り,メリットが得られるといえそうだ。


The Tower of AION(エヌ・シー・ジャパン)

(PC+マウス&キーボード,テスター:aueki)

 4Gamerで立体視担当(?)を務める私としては,「3D立体視はHMDが本命」というのが持論なのだが,立体視で使えるような製品は民生用には存在せず,業務用は非常に高価だった。それが普及価格で登場するというのだから期待せざるをえない。というわけで今回は,空間の広がりを感じられるオープンフィールドタイプのほうが没入感が高いだろうということで,「ATI Radeon HD 5870」搭載グラフィックスカードを差したPCで,いくつかMMORPGを試してみた。

 で,その結果だが,意外な障害となったのが「1280×720ドット」という解像度だ。オンラインゲームはいまでもアスペクト比4:3の1024×768ドットを最低解像度として規定しているものが結構あり,縦解像度720ドットのHMZ-T1だと,解像度不足でそもそもゲームが起動しかったり,起動したとしてもエラーが発生して立体視に切り替えられなかったりするのである。
 一方,TriDef 3Dの知名度が上がり,そして導入例も増えてきているためか,TriDef 3Dが「外部ソフトウェア」としてアンチチートツールに弾かれるという不具合は,少なくとも今回試した限り一例もなかった(※すべてそうだとは断言できないが)。
 テスト結果は下記のとおりとなる。

  • TERA The Exiled Realm of Arborea:立体視が有効にならず
  • The Tower of AION:動作良好
  • Perfect World -完美世界-:立体視は動作するも,立体視関連の操作を行うためのファンクションキーが機能せず
  • グラナド・エスパダ ルネッサンス:なぜか1024×768ドットとして起動するも,Direct3Dエラーが発生
  • DIVINA:縦解像度が足りないとして起動せず

 限られた時間のなかでテストした限り,正常に動作したのはThe Tower of AION(以下,AION)のみ。MMORPGを3D立体視でプレイするのに重要なのは移動の自由度で,あちこち登れたり,空を飛べたりしたほうが楽しめる。戦闘などをせず,ぼけーっと探検できるタイプが最も向いており,その意味だとPerfect Worldのほうがよかったのだが,立体視との相性ではAIONが抜群である。
 オンラインゲームというと,ポリゴンの粗いものが多く,そういうものを立体視させると,木や草の表現など,平面視でごまかせていたところがごまかせなくなる場合が多い。その点,AIONはモデリングも高精度であるうえ,Episode 2.5のグラフィックスアップデートにより,MMORPGとしてはほぼトップクラスの映像美となった。HMZ-T1は相手にとって不足なしといったところだ。

TriDef 3Dのキャプチャツールからスクリーンショットを撮ると,こんな感じの画像が得られる。なお,Radeonを用いた今回のテストでは,画面がオーバースキャンになってしまった。スタートアイコンの縦が6割,横が4割くらい欠けたので,ざっくり24ドットくらいずつ欠けている印象。ゲーム中でも画面端のアイコンやメニューは使いづらくなる。また,右に示したとおり,TriDef 3Dのスクリーンショット機能が上手く機能しないことがあり,タイミングが悪いと,立体視映像のキャプチャで,片目用の映像がちゃんとレンダリングされないことがあった
The Tower of AION(TM) is a trademark of NCsoft Corporation.Copyright (C) 2009 Ncsoft Corporation.NCJapan K.K. was granted by NCsoft Corporation the right to publish, distribute and transmit The Tower of AION(TM) in Japan. All rights reserved.
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 さて,AIONの立体視で何ができるかだが,前述のとおり,ぼけーっと歩き回るのに向いている。というか,普通にプレイできるとはあまり思わないほうがいい。ライトシールドを外せばキーボードを見ることもできなくはないのだが,相当に下を見なければならなくなるのであまりお勧めできない。マウスと[W]キーだけ使うと割り切れば,いつもと違った体験が楽しめるだろう。


ToHeart2 DX PLUS(アクアプラス)

(PS3+純正コントローラ,テスター:Ky)

2004,2011 AQUAPLUS
画像集#044のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 背景イラストとキャラクターの立ち絵,そして要所でのイベントグラフィックスを交えつつ進行していくビジュアルノベル。ToHeart2 DX PLUSの場合,テキストは画面全体に表示されるようになっており,画面下部のみで会話が進行していくアドベンチャータイプの作品よりも,読み物としての性格が強くなっている。

 HMDを装着してプレイして最初に気づかされるのは,頭を動かしても視界に広がる映像は常に正面を向くため,画面の端から端までを目の動きだけでカバーしなければならないということ。画面左上から右下に向かって広がる文字を目の動きのみで追っていくのは,はっきり言って疲れる。とくに長時間プレイしようと思うと,慣れと心構えが必要だ。

2004,2011 AQUAPLUS
画像集#045のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 ただ,激しい動きもなく,瞬発力や反射神経を要求されないこの手の作品と,HMDとの相性は悪くない,とも思う。どんな体勢でも画面が正面を向く利点を活かし,だらだらとプレイできるところなどは,ごろ寝しながら本を読んでいる感覚に通じるものがある。

 何よりも素晴らしいのは,周囲を遮って自分だけの空間でプレイできること。目の前で動く羽根崎美緒(CV:斎藤千和)は,その瞬間,間違いなく自分のためだけのクラスメイトで友達で恋人で天使だった。彼女がボソボソっと恨み言をこぼす場面なんかは……正直,たまりません。


アイドルマスター2(バンダイナムコゲームス)

(Xbox 360+純正コントローラ,テスター:松本隆一)

 最近老眼が進み,遠くの物も近くの物も見えにくくなっている私は,いろいろ不便でしょうがない。具体的には,アイドルマスター2のレッスンやオーディション,フェスが始まると,それまでいた場所から移動して,テレビ画面にうんと近づき,正座しながらコントローラを操作することになる。

 普段はしないので,正座するとたまに足がつり,しかしフルチェーン達成寸前なのでテレビ画面から目が離せず,あわてて中腰になり屈伸運動しながらボタンを押すわけで,そんなときに限ってテレビ台のヘリに足の小指をぶつけて悶絶したりすることになる。春香,キミは知らなくていいけど,おじさんはキミ達の笑顔を見るため,こんなに苦労しているんだ。ああ,ゴロゴロしたままアイマスがプレイできないかなと願っていたときに登場したのが,HMZ-T1というわけである。まるで,たった今作った話のようにいい流れだが,ほんとなんですよ,ほ・ん・と。オレの目を見てくれ。

「プロデューサー立ち」と言ってポーズを取った52歳
画像集#046のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 というわけで,かぶってみた。テストスケジュールの都合から,自分のではなく編集部のXbox 360を使ったため,ゲームは本当に最初っからだ。今は立派なオフィスに移ってしまったが,そのため,765プロがあるのは一階にお食事処「たるき亭」の入った雑居ビル。室内の雑然としたたたずまいも懐かしい。もちろん,リーダーとして選んだのは天海春香で,メンバーは我那覇 響と菊地 真に努めてもらおう。
 これは,私がダンスレッスンしかちゃんとできないため,どうしてもダンサーの出番が多くなるからだ。とくに響はバーストアピールも強力なキャラクターであり,性格も魅力的な使い勝手のよいキャラクターだ。彼女に敬意を表して,最初の曲は「shiny smile」を選んだ。というわけで,さっそくオーディションに挑戦しよう。しかし,お守りもなけりゃ,ハーツイーズアメシストもまだ買えないのか。うーん,徳島でお仕事がないかなあ……って,なんですか? ゲームのことはそんなに詳しく書かなくてもいい? うーむ,なんというか,HMDのことをすっかり忘れて,ゲームに熱中していたような気がするが,それほど自然な使用感のデバイスであるのだと強引な展開に持ち込んでみよう。

画像集#047のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
天海春香と目の高さが合うようかがむ52歳
画像集#048のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
ついには寝転がってプレイし始めた52歳
 私は,ご存じのようにメガネっ子なのだが,メガネをかけたまま装着できるのが嬉しいところだ。ただ,見やすい位置に調節するのがちょっと面倒かな。ただ見ればいい普通のディスプレイとはちょっと違う。20m先に約750インチのディスプレイが見えるという設計になっているそうだが,頭を動かせば画面のほうがついてくるので,強いてそう思えばそう見えないこともないといった程度。したがって,「おお,でかい」という感じはそんなにはしない。とはいえ,周囲に余計なものが見えないので,没入感はなかなかある。

 最初は,1280×720ドットということで,画面の荒さが心配されたが,実際にはまったく気にならず,キレイなものだ。これは,両目それぞれに有機ELパネルがついているためで,二つを合わせると2560×1440ドット相当になるからだ。これが「松本理論」と呼ばれるものだが,ただの思いつきなので信じないでほしい。
 画質的には自宅のハイビジョンテレビと比べてまったく遜色はない印象だが,ゲームに関しては「ビジュアルレッスン」でちょっと違和感を覚えた。日本中の人が知っていると思うが,アイドルマスター2のビジュアルレッスンとは,画面上を飛び交うパネルをキャッチするミニゲーム。私はもとから苦手なうえ,動くパネルを目じゃなくて頭を動かして追ってしまうので,画面がそれについてきて,だんだん気持ちが悪くなってきた。ううう。まあ,このへんは慣れじゃないかとは思うが。
 アイドルマスター2は,オブジェクトがハイスピードで移動し,F1マシンが唸りをあげて駆け抜けるようなゲームではないので,応答速度がどうこうということはなく,春香達のステージも相変わらず魅力的であり,オーディションなどのミニゲームでも表示の遅れを感じることはなかった。

 困ったのは,頭からスッポリかぶることになるため,あわてて日本地図をさがすときに,ちょっと苦労したことと,私のアパートは冷房が壊れているため,夏場が暑いんじゃないかと思ったことだ。結論としては,まあ,買いですかね。これで,こむら返りを気にすることなく,ゴロゴロとアイドル育成に力を注げると思うと,やはり手に入れないわけにはいかなそうな気配だ。うーん,年末はいろいろと物いりなのになあ。PlayStation 3とか。


電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム ver.5.66(セガ)

(Xbox 360+ツインスティックEX,テスター:佐々山薫郁)

(C)SEGA CHARACTERS (C)SEGA/AUTOMUSS CHARACTER DESIGN:KATOKI HAJIME
画像集#049のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 「ツインスティックEXを握る腕が激しく動くため,いきおい頭が揺れて,視野にマイナスの影響が出るのではないか」と想像していたのだが,ツインスティックEXを握る時点で体勢はある程度固まるためか,プレイ中にHMZ-T1がズリ落ちてくるようなことはなかった。ツインスティックEXがらみで気になったのは,視界が限られるなかで[START][A]ボタンを押すのに少々難儀したことくらいだ。

 ひとまずシングルプレイしてみると,なんというか,バーチャロイドを遠隔操作している雰囲気が抜群である。「O.M.G.で,自分でも知らぬ間に『オペレーション・ムーンゲート』へ参加させられていた若者達は,こんなHMDを付けていたのではなかろうか」と,なぜか過去形で振り返って悦に入ってしまうおっさん誕生の瞬間とでも言おうか。
 ただ,マルチプレイだと,時折,表示遅延のようなものも感じられた。回避できると思ったタイミングから被弾することが何度かあったのだ。個人的にはHMDがもたらす「バーチャロン世界における現実感」のようなものを買いたいが,シビアな戦いには向かない可能性もある。


スーパーストリートファイターIV アーケードエディション(カプコン)

(PS3+Street Fighter IV Arcade FightStick Tournament Edition S,テスター:touge)

(C)CAPCOM U.S.A., INC.2010, 2011 ALL RIGHTS RESERVED.
画像集#050のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 「格闘ゲームには向かない」と言わざるを得ない。
 致命的なのは表示の遅延。有機ELなので表示遅延は少ないのだが,猶予0フレームの目押しコンボなどは明らかにつなげにくい。あくまで体感だけれども,3フレーム前後の遅延があると思われる。おそらくプロセッサボックス内での画像処理で遅延が発生しているのだろう。

 また,画面が近すぎて,画面全体を見渡すのが難しいのも欠点。各種ゲージに目が行きづらく,ゲージ管理に支障があるほか,上を見るのが困難なので,とっさの対空も出しづらい。慣れが解決する部分はあるだろうが,ヒット確認などは明らかに難しくて,ガチな対戦には向かないだろう。


鉄拳6(バンダイナムコゲームス)

(PS3+Street Fighter IV Arcade FightStick Tournament Edition S,テスター:touge)

 スーパーストリートファイターIV アーケードエディションと同じく,厳しい評価をすることとなった。というか,より速いレスポンスが求められる鉄拳では遅延感がさらに顕著で,ヒットや浮きを確認してコンボの構成を変えるなどは不可能に近い。吹っ飛びダウンした相手を目で追ったり,体力ゲージを確認したりするときも,視線のみを動かす必要があってストレスになる。

 またアーケードスティックだとプレイ時に前傾姿勢を強いられるため,長時間のプレイでは,HMZ-T1自体の重量が気になってくる欠点もあった。寝っ転がってパッドでプレイするならまた違うのだろうが……。
 鉄拳ファンなら「鉄拳 ハイブリッド」を買って,映画「鉄拳ブラッド・ベンジェンス」を立体視で楽しむのが,いまのところ一番のオススメだ。


東方神霊廟(上海アリス幻樂団)

(PC+リアルアーケードPro. VX-SE,テスター:佐々山薫郁)

 2Dの縦スクロール弾幕STGだと,画面内でかなりの部分を常に把握し続けねばならないが,HMZ-T1の広い視野にあって,そのすべてを目の動きだけで追うのはかなり難しい。最大の問題は,フルスクリーン表示すると,目の動きを大きくしなければならなくなって,疲労感が大きいこと。加えて,視界全体を追い切れないため,自分なりの攻略法が確立されていたはずの弾幕で,想定外のところから敵弾が現れ,いつの間にか“詰んで”いたというケースが頻発する。

 ならウインドウモードで実行すればいいのかというと,話はそう簡単ではない。確かに画面サイズの問題はいくらかの解決を見るのだが,今度は「画面サイズ問題で隠蔽されていた遅延問題」が顕現するのだ。もっとはっきり言うと,遅延が大きすぎて,フルスクリーンモードだろうがウインドウモードだろうがゲームにならない。弾幕シューティングは,HMZ-T1に最も不向きなゲームジャンルの1つと言う印象である。


バトルフィールド 3(エレクトロニック・アーツ)

(PC+マウス&キーボード,テスター:御月亜希)

GeFoce GTX 460環境でテストした限り,オーバースキャンやアンダースキャンはなし。フルスクリーン,ウインドウモードとも問題なく表示できている
(C) 2011 EA, EA SPORTS, EA Mobile and POGO are trademarks of Electronic Arts Inc. Battlefield: Bad Company, Battlefield 2, Battlefield 3 and Frostbite are trademarks of EA Digital Illusions CE AB. Xbox and Xbox 360 are trademarks of the Microsoft group of companies and are used under license from Microsoft. “PlayStation” is a registered trademark of Sony Computer Entertainment Inc. All other trademarks are the property of their respective owners.
画像集#051のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 テストスケジュールの都合で,テストしたのはPC版「バトルフィールド 3」のオープンβテストになるが,HMZ-T1とFPSは非常に親和性が高く,予想以上に没頭できた。目の前に一人称視点のゲーム画面が広がるので,通常の液晶ディスプレイでプレイするのとは,没入感,臨場感が段違いなのだ。まさに,戦場へ出撃したかのような感覚と言っていいだろう。実際に出撃したことはないけど。
 とくに面白いと感じたのは,スナイパーライフルでの狙撃。じっくりスコープを覗いて,見事敵にヘッドショットをぶちかましたときの“してやったり感”は,一般的なディスプレイと接続したときには味わったことのないものだった。

 ただ,かなり3D酔いしやすい点は,欠点として指摘しておくべきだろう。筆者はFPSを日頃から遊んでいるが,3D酔いを体験したのは今回が初めてのことだ。没入しすぎるあまり,プレイ中についつい首を動かして索敵したり,スコープを覗きこもうとしたりして,動きと視点に齟齬が生じているのが原因ではなかろうかと思う。いくら過酷な戦場が目の前に広がっているとはいえ,体調の悪化までは体験したくないところである。


メルルのアトリエ〜アーランドの錬金術士3〜(ガスト)

(PS3+純正コントローラ,テスター:Ky)

画面設定もさることながら音声設定も結構大事。スタンダードだとキャラクターボイスがBGMよりも少し強めに感じた。設定をミュージックに変えると,BGMとボイスが程よいバランスになり,やかましい印象が消える
(C) GUST CO.,LTD. 2011
画像集#052のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 戦闘や合成を繰り返すRPG+キャラクターの会話劇で進む本作。会話部分はイラストと立ち絵,そしてイベントグラフィックスで構成され,テキストは画面下部のみに表示されるアドベンチャーゲームライクなものとなっている。テキストの表示範囲が限られており,目を動かす範囲が狭くて済むうえ,ゲームのプレイにあたって瞬発力や反射神経はあまり要求されないので,プレイしていてつらさのようなものは感じない。

 本作のようなジャンルのゲームをプレイしていて最も素晴らしいのは,HMZ-T1だと,周りに気をとられず没入できること。買い物に行ったときのフアナさんの笑顔は確実に自分だけに向けられているし,戦闘中のミミの麗しい姿を見られるのも自分だけ。メルルやトトリのアイテム攻撃シーンを,大画面で独占できるのも極上の喜びだ。うにー!


ワンダと巨像(ソニー・コンピュータエンタテインメント)

(PS3+純正コントローラ,テスター:TAITAI)

 想像以上にクリアな映像にまずびっくり。一昔前のHMDというと,同じソニーのグラストロンなどが思い出されるが,当時のおぼろげな記憶と比較しても,その技術的な進歩には感嘆せざるを得ない。

(C)2005 Sony Computer Entertainment Inc.
画像集#053のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 有機ELパネルが採用されていることもあって,画面の彩色は非常に鮮やか。本作が持つ独特の空気感を過不足なく表現しているところは評価できるところだ。視界を完全に覆うことで得られる没入感というか,視界いっぱいに幻想世界の広がりを体感できるのは,大きな液晶テレビ――自宅では,52インチのテレビを使っている――などでは絶対に味わえない感覚である。心配していた残像感もほぼなく,ゲーム側で対応している立体視表示も,映画館で見た立体視対応映画に近い感覚で,プレイし始めの最初の第一印象は「パーフェクト」の一言であった。

 ちなみに本作での立体視表示は,手前に飛び出してくるような見え方というよりは,奥行きを重視した方向。大きな巨像を立体視で見たらいったいどんなに迫力があるだろうと,プレイ前はワクワクしていたのだが,思ったほどの立体感は実感できなかったのは少し残念だ。このあたり,やはり立体視を前提に作られた作品の登場を待たないと,真の意味での感動は得られない気がした。
 ただ,広大な草原を疾走するときの奥行き感は格別だ。とくに愛馬アグロを駆っての移動は,それだけでひたすら楽しいと思えるほどであった。崖下を覗いてみたり,あるいは神殿を見上げてみたり……。世界への没入感という点では,一般的なテレビやディスプレイではなく,HMDに軍配が上がる。

(C)2005 Sony Computer Entertainment Inc.
画像集#054のサムネイル/新世代のヘッドマウントディスプレイは買いか? ソニー「HMZ-T1」徹底検証
 しかし,プレイが進むにつれて,次第に「疲労」と「酔い」が大きな問題として立ちはだかってきた。ワンダと巨像の場合,大きな巨像を見上げながら戦うのが常だし,視点がシチュエーションによってぐるぐると変化する。そして,巨像を見上げながら移動するなど,目の前で展開される映像の傾きと自分の姿勢が一致しないという状況が多々発生するのだが,どうやらそのあたりが酔いの一因になっているのかもしれない。
 細かい検証はもう少し使ってみないとなんとも言えないが,自分が座った状態で視点だけが「見上げた状態」というのは,なんとも妙な感覚だった。……まぁ,それだけ映像への没入感が高いということでもあるのだが。

 とはいえ,本機が非常に興味深い製品であるのは確か。装着しているだけで疲れるため,長時間のプレイには向かないかもしれないが,ゲームに限らず,映画やライブ映像など,「いろいろな映像ソースで試してみたい!」と思わせるだけの魅力は持っている製品だ。すでに予約済みの筆者としては,製品の到着が待ち遠しい限りである。



※お詫びと訂正
初出時,表示遅延の表記を「0.33〜0.5秒」としていましたが,小数点以下の0が1つ抜けていました。お詫びして訂正いたします。
  • 関連タイトル:

    HMZ

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