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Hi5澤氏/アドウェイズ松嶋氏がチャレンジする,広告とゲームの本格的な融合。“完全”無料MMORPG「アドクエ」インタビュー
バナー広告をクリックしたり,Web上のアンケートに答えてポイントを溜め,ネットショッピングなどに利用できるというシステム自体は目新しいものではないが,これをオンラインRPGに完全に適用させたのは,アドクエが初の試みだろう。
今回は,完全無料プレイを可能にした「アフィリエイト広告とゲームの融合」という部分について,ハイファイブ・エンターテインメント 代表取締役社長 澤紫臣氏と,アドウェイズ取締役COO 松嶋良治氏のお二人にインタビューした。
■広告とゲームの本格的な融合
本日はよろしくお願いします。まずは,アフィリエイト広告とオンラインゲームの出会いについて,話を聞かせてください。
澤氏:
「アドクエ」誕生のきっかけは,当社でサービスしているMMORPG「ブライトキングダム オンライン」なんです。ブラキンでは,ローディング画面に雑誌「少年ファング」や,プラネックス社のルータの広告を掲載していました。そのほかにも,チョコレートにゲーム内アイテムがもらえる応募券を同梱するタイアップも行いました。
4Gamer:
そういった広告展開やタイアップは,近頃ではずいぶん見かけるようになってきましたね。
澤氏:
そうですね。ただ,ルータにしても雑誌広告にしても,割と深くゲームに関係している商品なので,もう少し違った切り口で展開できないかな,と考えていたんです。時期的には,ちょうど「Second Life」内での企業活動が取り上げられ始めた時期と重なりますかね。
ただ,ご存じのとおりハイファイブは,というか私自身がだいぶへそ曲がりですから(笑),ゲーム内にクライアントの看板を設置するような広告手法は取りたくなかったのです。場合によっては,ゲーム世界の雰囲気を損なうおそれもありますしね。
4Gamer:
そこで,ハイファイブらしい,というか澤さんらしい広告スタイルのアイデアを固めていったわけですか。
澤氏:
はい。手始めに,アドウェイズの松嶋さんに相談してみたんです。その席で,ゲームコンテンツとアフィリエイトを調和させる方法を模索した結果,アドクエのアイデアが形になりました。
4Gamer:
ちなみに,パートナーとしてアドウェイズを選んだ理由として,何か特別な思惑があったのですか?
澤氏:
元々,アドウェイズとは仕事上のお付き合いがあったんです。実は,複数の広告代理店から「最近Second Lifeが流行しているらしいので,アドバイスがほしい」「ゲーム内広告の枠は空いてないか」といった問い合わせが寄せられていたのですが,ゲーム屋として言わせてもらうなら,ゲームは広告を出すためにあるわけじゃありませんし,あんまり商売っ気を出されても困るんですよ。ですので,ブラキンの広告などをすでにお願いしていた経緯もあって,アドウェイズに相談しました。
4Gamer:
ハイファイブから,広告とゲームの融合に関する相談をされたとき,アドウェイズとしてはどう思われましたか?
松嶋氏:
いいタイミングでお話が来たな,と思いました。米国ではゲーム内広告が割とメジャーになってきているという状況は,私も知っていました。Second Lifeはゲームというよりも,自由度の高いオンラインコミュニティといったコンテンツですが,これをきっかけに,今年の夏あたりから「ゲーム内広告」がキーワードとして来るのでは,と感じ始めていた時期だったんです。
昨年はSNSと広告の組み合わせが大きなブームになりましたが,今年はオンラインゲームと広告でしょう。仕事柄,こういった時流に乗らないわけにはいきません。そういう意味で,澤さんからのお話は実にタイムリーでした。
澤氏:
ゲームに広告を絡めるうえで考慮したのは,ゲームの世界観を壊さないことと,広告のためのゲームにならないことの二つでした。そこで,ゲーム内ではなく公式サイトにアフィリエイト広告を表示させ,それを閲覧することで「アドG」というポイントを溜めるシステムにしました。ゲームをプレイするには,アドGをプレイ日数に変換すればいいわけです。
とりあえず,今すぐ遊びたいというプレイヤーの障壁にならないよう,すぐにアドGをもらえるアフィリエイトもあれば,アンケートに答えたり商品を購入したりする代わりに,数日後にはたくさんのアドGがもらえるものまで,さまざまなタイプを用意していく予定です。
4Gamer:
アドGを利用してゲームをプレイするための仕組みを,もう少し詳しく教えてください。
澤氏:
ゲームで遊ぶとき,広告を見なければプレイできないとなると,「さぁ今からプレイするぞ!」という高揚感も薄れてしまいますよね。少しずつでも事前にアドGを溜めておけば,プレイの妨げにならないわけです。週末しか時間が取れない社会人なら,金曜日に3日分のポイントだけ変換すれば,週末はずっと接続できるようになるわけです。
またいずれは,溜めたアドGでゲーム内アイテムの購入ができるようなシステムも導入する予定です。
4Gamer:
なるほど。ゲームをするほどの時間はないけれど,広告をチェックする程度の時間さえあれば,アドGが貯められるというわけですね。そしてアドクエをプレイするには,プレイ時間に応じた分のアドGを変換すればいい。余っているアドGは,さらなるプレイ時間を確保したり,いずれ導入されるアイテム購入システムのためにキープしておいてもいいと。
ちなみに,アドクエを1日プレイするのに必要なアドGは,何ポイントでしょうか。
澤氏:
10ポイントで24時間遊べます。あまりお金の話にはつなげたくないですけれど,例えば1か月の内20日間アドクエに接続してもらうと,月額500〜1000円のゲームに相当するサービスが展開できるかな,という感じです。
4Gamer:
その収益を利用して,プレイ料金無料のサービスを維持しつつ,サーバーの維持費や人件費といったランニングコストを捻出するわけですか。確かに興味深いビジネスモデルですね。
■ゲームのための広告
■広告のためのゲーム
「アドクエ」というゲームそのものについても,詳しい話を聞かせてください。
澤氏:
アドクエは,韓国で6年近くサービスされていた「Forgotten Saga 2」というMMORPGを,ローカライズしたタイトルです。韓国でのサービスは先日終了しましたが,Windows 98のような古いOSでもプレイできる軽さと,クライアントの安定性に注目しました。
4Gamer:
画面写真や動画を見てみると,サービスが長いタイトルだけあって,やや古風なグラフィックスですね。ターゲットプレイヤーなどを限定しないために,動作環境の低いタイトルをあえて選んだと考えてよいのでしょうか。
澤氏:
そうですね。まずはアフィリエイト広告を意味のあるものにするために,より多くのプレイヤーに遊んでもらうことが重要です。その場合,一番の障壁となるのは「グラフィックスカードって何?」「ゲームが起動しないけれど原因が分からない」という根本的な部分なんですよね。より幅広いユーザーさんに触れてもらうには,最新のPCがなくても十分楽しめるタイトルでなければなりません。
4Gamer:
「オンラインゲームに広告を」という話になると,パブリッシャ側としてはどうしても,見栄えのいいフル3Dのタイトルを選びがちですが,より多くの幅広い層にアピールするとなると,話は違ってくる,と。
澤氏:
アドクエはノートPCでも動くので,それこそお父さんのお下がりノートPCしか持っていないという若いユーザーさんでも,十分プレイできます。
3Dゲームにおける広告展開については,当社が準備している「テニクル」を通じて,ゲーム内に設置する看板という形で検討しています。テニスだと,実際のコートにも企業の看板が設置されているので,ごく自然に展開できるでしょう?
4Gamer:
野球ゲームやテニスゲームだと,違和感はないですよね。
澤氏:
でも,野球ゲームの場合は看板のある方向に打たないと,広告が見えないし,レースゲームだとスピードが速すぎて,看板がチラっとしか見えない(笑)。その点テニスゲームなら,画面内に収まる範囲がある程度安定するから,ゲーム中ずっと広告が見られるという利点があるんです。
4Gamer:
アドクエでは,ゲーム内の雰囲気を損なわないという配慮で看板を置かないのは分かりましたが,例えばクエストなどに,特定のメーカー名や商品名が出てくるといったこともないのでしょうか?
澤氏:
ネーミングライツという形で今は検討中です。プレイヤーが最初に降り立つ街は「ザリゴンド」という名前なのですが,例えばこれが,ある日メーカーや商品の名前になっていたり,街の中の宿屋が実在するホテルの名前に変わったりとかね。
松嶋氏:
広告会社の立場でお話しすると,我々にとって「インターネットユーザー」という言葉は,なんでも無料で楽しむユーザーを指しています。しかしゲームは月額にせよアイテム課金にせよお金がかかるため,無料でサービスを受けるのが当たり前と思っている層にアピールするのが大変難しいんですよ。
私はアドクエによってプレイヤーの裾野を広げたいと考えています。裾野が広がらなければマスのメディアとは言えず,広告としては,ハッキリ言って価値がありません。
インターネットユーザーがいくらいても,無料サービスと有料サービスの差は大きい。さらに,要求されるPCスペックが高くなれば,その差はさらに開きます。アドクエは,この二つの問題をクリアしてくれるコンテンツだと考えています。
■古くて新しい「アドクエ」の可能性
ところで,アドGはプレイ料金の代わりになるほかに,いずれはゲーム内アイテムを購入できるようになるというお話でしたね。アドGで買えるゲーム内アイテムは,通常のアイテムよりも性能が良いなどのメリットを付与するつもりですか?
澤氏:
属性値や攻撃力が高いといった,特殊なオプションをつけてもいいですけど,アドGでアイテムを買うと未鑑定状態のものが出て,それをゲーム内の鑑定屋に持っていくと初めてどんなアイテムか分かる。そんな遊び心があってもいいかもしれませんね。
「リネージュ」や「ウルティマ オンライン」といったゲームにずっと“住んでいる”プレイヤーも多いでしょうが,今のオンラインゲーム市場を見ると,基本無料をうたったタイトルが100も200も存在していて,一人のユーザーが一つのタイトルに費やす時間は,平均的に短くなっています。
4Gamer:
確かに,ある程度コンテンツを消費したら次のタイトルで遊ぶ,というプレイスタイルが目立ってきている印象があります。
澤氏:
そうですね。月額課金のMMORPGだったら,プレイヤーの接続時間を増やす目的で,レアアイテムのドロップ率を少し低めに調整したり,プレイヤーが離席していても機能するコンテンツを導入するなどの方法も有効でしょう。
しかし,基本無料のゲームにおいては,プレイヤーはいち早くレベルを上げて,それなりにいい武器を手に入れたいものでしょうし,レアアイテムが出るまでじっくり,何か月も何年も待つというプレイスタイルはちょっと想像しづらい時期にきたかなと考えています。
4Gamer:
アドクエが定着すれば,オンラインゲームのビジネスモデルに新しい流れが生まれるかもしれませんね。
澤氏:
オンライン決済サービスを行っているある会社の方からは,「このアドGシステムが,今後最大のライバルになるかもしれない」なんて冗談めかして言われてしまいましたよ(笑)。無料のゲームはアフィリエイト広告で。月額やアイテム課金のゲームはオンライン決済で,という住み分けがあってもいいと思うんですよね。
■サービスを受けるには対価が必要ということを
■「アドクエ」を通じて意識してほしい
答えにくいことを承知のうえで,あえて聞いてみたいのですが,どれだけの会員数を集められれば,アドクエを軸とするアドGシステムは成功と言えるのでしょうか。
澤氏:
確かに答えにくいですね(笑)。プレイヤー一人あたりの滞在時間やポイント消費数にもよるので,あまり細かいことはお話しできませんが,会員数だけで言うならば,約3万人といったところでしょうか。これはアクティブアカウントや同時接続者数ではなく,あくまでユニークユーザーの数字です。
先ほどもお話ししたように,アドクエのベースは少し昔のゲームなので,サーバー周りのランニングコストはほかのタイトルに比べて安上がりです。なので,この数字でもペイできるんですよ。とはいえ初期投資費用はかかりますから……,ビジネスとしては4か月ぐらいで軌道に乗ってくるのではないかと。
松嶋氏:
コンシューマのゲームならば誰も無料だとは思わないのですが,それがオンラインゲーム,つまりインターネットとつながった瞬間に,ユーザーは何でも無料でサービスを受けられる,という意識に切り替わるのが難しいところです。たとえ数百円だとしても,お金を払うという行為が,とても大きな壁になるんですね。むしろ有料だと驚かれるという(笑)。
澤氏:
ゲームメーカーさんの中には,基本無料を前面に打ち出しているため,公式サイトのデザインを工夫し,課金アイテムショップをわざと見つけにくい位置に配置しているところもあるくらいです。少しでも商売っ気のあるところを見せただけで,引いてしまうユーザーが少なくないんですね。
4Gamer:
まあ,どんな形であれサービスを受けるなら,それなりの対価を払うのが当然ではありますが,基本プレイ料金無料のタイトルが主流になりつつある状況を鑑みると,なかなか難しいでしょうね……。
澤氏:
アドクエは確かに無料で遊べますが,お金を払うという行為がアドGシステムに形を変えているわけです。サービスを受けるということはタダではないんだな,という世の中の仕組みを,少しでも多くの人に感じ取ってもらえると嬉しいです。
4Gamerさんを前にして言うことでもありませんが,ゲーム業界は今,再編の嵐といった状況です。大手のコンシューマメーカーが参入し始め,韓国系の大企業がポータルサイトを引っさげて……と,大資本同士の消耗戦の様相を呈してきています。
その原因の一つは,「オンラインゲームは儲かりそう」という漠然としたイメージに飛びついた企業が多かったことですね。また,基本無料のオンラインゲームが主流になってきたことも大きい。
4Gamer:
たとえアイテム課金制が取られていても,とことん無料で楽しみ続ける,あるいは課金アイテムを買う余裕がない,というプレイヤーさんは,決して少なくないですしね。
澤氏:
ええ。その結果として,業界の再編が行われたのは当然の流れともいえます。長期戦で収益を出していくしかないとなれば,地力のある大企業とは勝負になりませんからね。
そういった中でこのアドクエを打ち出したのは,ベンチャー魂というか,第三のパワーとしてありたいという意志によるところが大きいです。
4Gamer:
逆に,既存のオンラインゲームメーカーさんは,なぜこの広告スタイルを取り入れなかったんでしょうね。多くのプレイヤーを擁するポータルサイトを運営していれば,どこがやってもおかしくない仕組みだとは思うのですが。
澤氏:
誰かが始めるまで,様子を見ていたんでしょうかね?
松嶋氏:
ゲームメーカーさんの意識もあるのではないでしょうか。無料で人ばかり集めてもしょうがない,どこかで有料化してお金を取りたいという気持ちが,この広告スタイルを導入することを拒否させてたのでは,と私は思いますね。
私たち広告会社は逆に,これだけ人が集められるなら……という発想が働くんです。誰かがこのスタイルで結果を出すのを見届ければ,一気に動き出すと思いますけどね(笑)。
澤氏:
先ほど話に出たSecond Lifeは,確かに新しい広告の形なんです。ただ,あまりにハードルが高いんですよ。推奨スペックの問題だけではなく,メニューがやたら多いし,知識がないと起動すらできなかったりしますから。
4Gamer:
今はまだ,Second Life内に看板を出したりビルを建てたりしさえすれば,それだけでニュースにしてもらえるという話題性だけが,企業にとっての実質的なメリットと言えますね。
松嶋氏:
先進性がある企業であることをアピールするには最適なんでしょう。オンラインコミュニティに広告を出すスタイルが形になりつつありますので,Second Lifeがもっと盛り上がってくれば,アドクエにも良い意味で影響が出てくるでしょう。
4Gamer:
アドクエの今後が非常に楽しみですね。では最後に,アドクエに関心を抱いているプレイヤーに向けて,一言お願いします。
澤氏:
アドGとアドクエは,ゲームだけでなく,ビジネスモデルにもハイファイブらしさを出したいという挑戦です。プレイヤーがゲーム世界に違和感を憶えたり,興ざめしてしまうようなことはやりたくないという,「ゲーム屋の意地」を守りつつ,さらに新しいことに挑戦していきたいです。
松嶋氏:
私自身,かなりのゲーム好きなので,広告ビジネスを通じてオンラインゲームの裾野を広げるお手伝いができれば嬉しい限りです。またそれが事業としても成功するように,ハイファイブと共に頑張っていきたいです。
4Gamer:
本日は,長時間ありがとうございました。
“基本”プレイ無料ではなく,アフィリエイト広告による“完全”無料を実現したMMORPGアドクエの正式サービスは,すでにスタートしている。本文でも触れているように,1日のプレイには10アドGあればOKなので,ちょっとした空き時間を利用して,ポイントを溜めたり,ゲームをプレイしたりできるだろう。
言うまでもなく,この新しいビジネスモデルの是非を判断するのは,あくまでユーザーだ。アドクエだけでなく,オンラインゲームビジネスの可能性に興味がある人は,ハイファイブ/アドウェイズのチャレンジに,奮って参加してほしい。(ライター:麻生ちはや)
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