インタビュー
Steamに続々投入される国産STG。その背景や各種ゲーム市場への展望をケイブやグレフ,デジカなど7社に聞いた
アーケード向けの「ゲーム配信」の実情とは
4Gamer:
アーケードは現在苦境に立たされていますが,NESiCAxLive やALL.Net P-ras MULTIといった「配信でのゲーム提供」という新しいスタイルも出てきています。こういったプラットフォームをどのように見ていますか?
丸山氏:
アーケードゲームは,基板を作って製造して販売するという過程でいろいろな“妨害”が入るというところも含めて,ハードルが高いというのは皆さんご存知かと思います。きっとケイブさんは一番分かりますよね?
うちもいろいろなことがあったのですが,そのハードルをNESiCAxLive やALL.Net P-ras MULTIは下げてくれたんですよね。そういった利点はあります。
※NESiCAxLive第1弾タイトルの「BLAZBLUE -CONTINUUM SHIFT II」がリリースされたのは2010年12月9日。
丸山氏:
まだ結論を出してはいけないんですけど,NESiCAxLiveの立ち上げ時にお話をいただいた人間としては,手応えよりも,配信を急がせられなかったことへの後悔を感じました。
4Gamer:
ケイブ様は配信型ですと「赤い刀 真 for NESiCAxLive」を出していますが,どのような経緯で参入されたのでしょうか。
清水氏:
当時の話を聞くと,雰囲気としては今のSteamと同じような,「少人数で試験的にやってみよう」という構想だったそうです。
小倉氏:
試験的な範囲で留まっていますが,基板だったらとっくに店頭から消えている可能性があるので,「ファンのためにはなっているのかな」という気はしています。採算を取るとか売上を得るとか,そういう話だけではないですね。
森岡氏:
モスではNESiCAxLiveに雷電IV,ALL.Net P-ras MULTIに「カラドリウス エル・シエル」をリリースしています。私はコンシューマとアーケードでは広報の担当なので、開発の詳細は分かりかねるのですが,その視点からすると新規層へのPR効果もあると考えています。
カラドリウスはXbox 360とPS3でも出ていますが,Twitterで「友達がゲームセンターでカラドリウスをやっていたので,一緒に初プレイしてみた」というお声を今でも目にすることが多く,そういった友人と共有しての“初めて触れる機会”はアーケードならではですね。
今井氏:
生のソーシャルネットワークみたいな部分はありますよね。トランジションに来ていただいた方の多くは,オフ会みたいなノリだったようです。そういったコアなコミュニティを作るという意味では,やはりゲームセンターというリアルな場所は強力です。
丸山氏:
だからアーケードはなくしたくないですよね。そのライブ感は,関わってきた人間なら誰しも感じているところなので。
うちもケイブさんと似たような感覚で,NESiCAxLive でストラニア,ALL.Net P-ras MULTIで「アンダーディフィートHD+」を出しました。ただ,Steamに関しては「これから育てていくぞ」という意気込みはあるのですが,アーケードに関しては後手後手でしたね。業界全体のリーマンショック以後の動きが鈍すぎましたよ。アレをもっと深刻に受け止めるべきだったんです。
今井氏:
ゲーセンがヤバくなってきた時期にようやく投入された感じでしたよね。僕もNESiCAのゲームをやっていたのですが,通っていた店舗から筐体が撤去されてしまういうことがありました。
丸山氏:
筐体どころか,店ごと消えるとかね。
今井氏:
本当,悲しいことにそういうのがあって。
丸山氏:
地方の土地を持っている人は,みんなリーマンショックで売っちゃいましたから。ゲーセンがなくなったのはそこが一番大きいと思います。東京はまだHey(※)などがありますけど,地方は大変ですね。
※秋葉原にある,ビデオゲームのラインナップが豊富なタイトー系列のゲームセンター。
4Gamer:
藤野さまとしては,ALL.Net P-ras MULTIはいかがですか?
楽しいですよ! ALL.Net P-ras MULTIはローンチで「ゲーセンラブ。〜プラス ペンゴ!〜(以下,ゲーセンラブ。)」を出させてもらったので,個人的には「セガハードのローンチだよ!」と嬉しくなりました。
※ハードウェアのRINGEDGE2はALL.Net P-ras MULTI以前にメダルゲームの「STARHORSE3」および体感リズムゲームの「maimai」に用いられているが,汎用筐体向けのビデオゲームとしては「ゲーセンラブ。」ほか2作品がローンチタイトル。
藤野氏:
ALL.Net P-ras MULTI以前のNAOMIはソフト売りで,メーカーの売り上げ的には「売り切り」という感じでしたが,ALL.Net P-ras MULTIの場合は「毎月何回遊ばれたか」という形になっています。
NAOMIの「シューティングラブ。2007」は,100万回くらい遊ばれています。それが,ALL.Net P-ras MULTIで出した「ゲーセンラブ。」だと30万回くらいになりました。数的には減りましたが,それでも1日あたり何百人かは「ゲーセンラブ。」を遊んでいる計算です。この「遊ばれているから収入になる」という感じは面白いですね。
丸山氏:
とくに配信型だと,インカムレポートが届くから詳しく分かるんですよね。
藤野氏:
トップに「GUILTY GEAR Xrd」などの人気ゲームがあって,そこからちょっと離れたところに「ゲーセンラブ。」があって(笑)。そういう感覚は面白くなりましたね。
ゲームセンターの数は一番多いときで6万軒,今のコンビニと同じくらいありましたが,今は6000軒くらいになっちゃいました。昔は通勤や通学の行き帰りにちょっと寄れるゲーセンが何軒かありましたが,今はもう1軒もないという地域が大多数だと思うんですよね。ちょっと悲しいですが,まあ,「NESiCAxLiveには“Live”があって,ALL.Net P-ras MULTIにはありませんが,配信自体には“ライブ感”があって楽しいです!」というところで(笑)。
クラウドゲーミングは時期尚早? 実験は盛んだったが……
4Gamer:
「新しい形でのゲーム提供」という点ではe-AMUSEMENT CLOUDやG-Clusterのようなクラウドゲーミングもありますが,こちらはどのように見ていますか?
丸山氏:
クラウドに関しては,遅延の問題があるので提供できるゲームのジャンルが限られてしまうのが難点ですね。クラウドでリアルタイムのゲームをやるのは無理だし,あえてやる必要もないと思っています。技術のためにゲームシステムをいじるとゲーム本来の面白さが損なわれますし,資料を集めて調べてはみたのですが,「難しいな」というのが正直なところです。実際にゲームを出されている方っていらっしゃいますか?
PS3のソフトをPS4やPS Vitaなどで遊べるPlayStation Nowというサービスがあるのですが、PS3版の雷電IV OverKillは,これに対応しています。内部的には通常のPS3ソフトと同じものなので,SCEに許諾を出しているという形ですね。
ただ、まだ配信されていることをご存知ない方も多いかと思います。国内ではPlayStation Nowが始まっていることもあまり知られていなくて,まだクラウドゲーミングが認知されていないのかなという印象はありますね。
丸山氏:
去年あたりはシンラ・テクノロジーなど実験が盛んだったのですが,お金が尽きて,また夢の技術に戻っちゃいました(関連記事)。まずプレイヤーの飛びつく理由がないですよね。アーカイブが充実すれば,ある程度の可能性はあるのですが。
清水氏:
うちにも話は来たことがあるのですが,検討しようかなと思ったきりですね。
最初は「今あるゲームをクラウドに持っていけば,マルチプラットフォームが簡単にできるんじゃないか?」と思いました。古いハードウェアで作ったものをサーバーにアップして,AndroidやiOSでストリーミングする形式にすれば,作業の軽量化ができそうだと。
ですが技術的な詳細を聞くと,ネットワークの負荷やサーバーの帯域などで膨大なコストがかかっているらしいんですよ。開発する側も遊ぶ側も,今はインストールするのが一番安上がりですね。
今井氏:
マルチプラットフォームと言っても「動く」という意味であって,「ユーザーが楽しめる」という意味にはまだ至っていないですよね。また,大量のライブラリを一挙に入手できるとか遊べるとかだったら,Steamで充分というところが現状ではあります。
清水氏:
10年先はまだ分からないですけどね。
丸山氏:
細かいことを言うと,クラウドだとUnityの使用にハードルがあるというのもあります。クラウドでUnityを実行しようとすると,Unity Proとは別のライセンス料が掛かっちゃうんですよね。他のエンジンもそうなのですが,いろいろと解決しなければならない事情があります。
森岡氏:
プレイヤーさんからすると,まだ費用的に高いというのもありますね。運営のコストがプレイヤーさんのコストに反映されていると思うのですが。レンタルで何時間いくらって考えると,「これは単品で買ったほうが安そうだな」という部分はあります。
丸山氏:
それでもSCEがやっているだけ,PlayStation Nowは今のところ可能性があるとは思っていますよ。
開発のメインにはどのプラットフォームを選びたい?
4Gamer:
いろいろなプラットフォームについてのお話を伺ってきましたが,「このプラットフォームをメインにしたい」みたいな考えはお持ちでしょうか?
今井氏:
最近は,そこをカッチリ決めていらっしゃるメーカーは少ないと思います。今ではプラットフォームの分化がさらに進みましたし,PCもあればスマートフォンもあるので。
藤野氏:
うちはゲームセンターです(笑)。売上メインではないけれど,志のメインですね。
丸山氏:
数年前だったら「まずここから出します」というのがありましたが,ここ数年は,ある意味「身寄りがない」状態になっています。いろいろなプラットフォームを試したいという意識もあるので,その意味ではメインプラットフォームはないですね。やってないことは,全部やってみたいと思います。
米沢氏:
キュートはちゃんとしたパブリッシャとしてゲーム業界に入ったのがXbox 360でしたし,新作も発表しているので,Xbox Oneがメインですね。ただ,今年はMicrosoftのWindowsに向けたゲーム配信が強化されると聞いているので,プラットフォームの垣根はどんどんなくなっていくんじゃないかなと思います。
丸山氏:
Xbox OneはほぼPCですからね。WindowsやXbox Oneをまとめた“Microsoftプラットフォーム”というカテゴリで考えた方がいいかもしれません。
今井氏:
藤野さんは,以前のBitsummitで「アーケードをメインで出すけれど,コンシューマも同じWindowsプラットフォームだ」というお話をされていましたよね。
アーケード基板(※)も家庭用ゲーム機もSteamも,あとWindows Phoneも,どれもWindowsで網羅できるので,Windowsプラットフォームでの開発技術があると,どれでも対応できるんです。いちいち違いを覚えたくないですしね(笑)。
※アーケードゲーム基板では,タイトーのType XシリーズやセガゲームスのRINGシリーズおよびNu,バンダイナムコエンターテインメントのSYSTEM ESシリーズなどに組み込み系のWindows OSが使われている。
丸山氏:
PS4もすごく開発しやすいですよね。PS2ならPCとは全然違うハードだったのですが,“PCと似ているようで違う”PS3やXbox 360は,その微妙な違いがやりづらかったです。
PS Vitaや3DSは全然違いますが,PS4とXbox Oneに違いはほとんどない気がしますね。ここはピラミッドさんにお聞きしたいのですが,DBCSの互換はどのように実現したのですか?
私はプログラマーではないので詳細は分かりかねるのですが,PS Vitaは最後まで最適化に苦労していました。ただ,Vitaだけ特殊な処理にしてしまうとマルチプラットフォーム開発ができないので,PS Vita用に作った判定ロジックなどはPS4とPCでも使っています。
メインのルーチンに関しては全部共通で作っていて,テクスチャやエフェクトの一部を変えていった形ですね。最初は大変だったのですが,データを作る僕らからすると,動き出してからは同じような感じでした。
丸山氏:
根本はPS Vita,合わないところは作り直すっていう形ですかね。
柏木氏:
プログラマはPS Vita基準で何度も作り直していましたが,データ担当など,ほかのチームメンバーは最適化を信じて作り直しませんでした。とにかくPS Vitaで動くようになるまでじっと待ってました(笑)。
丸山氏:
描画の処理を変えなければいけないPS Vitaは,ドリキャスみたいなものですからね。うちはドリキャスの経験を活かせるので,PS Vitaは得意そうなんですけど。
柏木氏:
DBCSで特殊なのが,PSPの「ダライアスバースト」からエンジンの変えられない部分を使いまわしていることです。その分,動作が軽いので,いろいろなところで「うちのPCでもサクサク動く!」と書かれていて,すごく嬉しかったですね。
僕ら,PC用のゲームとかも作っていたんですけど,作り込みを頑張るほど「重い」とか「起動しない!」とか怒られていたんですよね。今回のDBCSで「すごいグラフィックスじゃないけど、皆に遊んでもらえるものを作った方がゲームとしてよかったんだな」と思いました。
丸山氏:
PS Vitaに対してPCやPS4はスペックが桁違いなので,PS Vitaさえ対応できれば他のプラットフォームも飲み込めるというのはあります。
米沢氏:
PCと据え置きゲーム機の間は「ひとつのプラットフォームで作ったら,ちょっと手間は掛かるけどほかのどれでも出せるな」みたいな感じにはなっていますよね。PS4とXbox OneのCPUやグラフィックスはAPUの拡張版ですし,パフォーマンスも「STGを作るにはこのくらいあったら足りるよね」というくらいにはあるので。
森岡氏:
Xbox Oneだと,クラウドのユーザーデータをリアルタイムで取得して表示する機能があり,弊社が2月25日に発売する雷電Vではそれを利用しています。開発の垣根とは別に,それぞれのハードでしかできないこともあるので,プラットフォームによってどう作るかは変えていく必要はあるのかなと思いますね。
柏木氏:
雷電Vのスコアグラフ,かっこいいですよね。
森岡氏:
ぜひプレイしてみてください(笑)。
丸山氏:
移植が容易なのは,ゲームエンジンを自作するのが面倒臭くなってしまったからというところもあります。うちも今まで頑固にゲームエンジンを自作していたんですけど,PS4になってからはUnityやUnreal Engineなどを使うほうが賢いと感じています。
清水氏:
虫姫さまの移植は,頑固な「エンジンから自分で作る」というのを受け継いでいるので,凄くキツかったですね。
4Gamer:
虫姫さまは基板売りでリリースされて,PS2やiOSなどさまざまなプラットフォームに移植されてきましたが,その作業はどのような形で行われているのでしょうか?
清水氏:
オリジナルのベースはCで書いています。先ほどのピラミッドさんと同じように,下層部(※)を作った後に上層部(※)を作るのですが,移植のときはプラットフォームに合わせて下層部をチューニングして,上層部を移してくるという感じですね。
※ここではグラフィックスやサウンドなどを下層部と呼び,ゲーム全体のロジックや敵のアルゴリズムに関する部分を上層部と呼んでいる。
清水氏:
今回もそれに近い感じでやったんですけど,下層部の設計に難解なところがあって大変でした。
誰も言及されないので紹介させていただきますと,オルタナティブなプラットフォームで,LinuxベースのSteam OSというものがあります。これはValveがコンソールゲーム機のようにSteamのゲームを遊んでもらいたいと展開しているもので,海外ではプリインストールしたSteam Machineというハードも出ています。LinuxということでSteam OS向けに開発しているデベロッパは少ないのですが,皆さんはLinuxで作るのを考えたことはありますか?
清水氏:
あのハードの何の縛りもなく自由に作れるという考え方は,個人的には大好きです。ただ,OSとしてはマイナーだと思います。
今井氏:
デベロッパとしてもプレイヤーとしても,「Linuxなんて誰も使ってないよ」とか「わざわざLinuxマシンを買わなきゃいけないの?」って感想はあると思うんですよ。ただ,巷にはWindowsのグラフィックスAPIとかライセンスとかが今のような状態で保たれるかは心配だという意見もあります。それに対してSteam Machineは,より自由な開発やソフトの提供を実現できる可能性があると思います。まだまだ浸透していませんが,そういった意味では1つの伏線としてはあるかなと思います。
丸山氏:
実際,ライセンスの問題からLinuxの方が有利だということで,セガなどからLinux基板が出ていた(※)こともありましたからね。
※セガ(現セガゲームス)が2005年にリリースしたLINDBERGHや,バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)が同年にリリースしたSystem N2など。
清水氏:
あのときはすごく流行っていましたね。
丸山氏:
当時,開発者はLinux基板に対応できていたので,普通にちゃんとしたゲーム開発ができる人なら問題はないんですよ。今はゲームエンジンが進化しているので,さらにハードルが低くなっています。
自分たちはUNIXでのアーケード基板開発からスタートしましたので,古株の連中がいる限りはLinuxにも対応できます。ですが,今Linuxで作るならUnityを使ったほうが早いし,選択としては賢いでしょうね。Unityは旧作の移植などには向いていませんが,新作の選択肢としては十分に可能性があると思います。
汎用ゲームエンジンはSTG開発に使えるか?
4Gamer:
もしUnityやUnreal EngineでSTGを作るとしたら,エンジンとシステムの相性という点ではいかがでしょうか。
丸山氏:
自分は今のところ,相性の良し悪しをあまり感じていないですね。でも結局,ベースの部分はUnityを使ってもヒット(当たり判定)とか描画とかをかなり表に出す(自動で処理されているパラメータを任意に処理できるようにする)感じかな。
Unityは処理の流れを意識しないことを美徳としていますが,STGは処理にキッチリとしたルールがないといけないので,そこに関して全部表に出しちゃいます。開発というよりカスタマイズに近いですが,うちではそんな感じで検証をやっています。
清水氏:
実際,UnityでSTGを作っている会社もありますよね。
今井氏:
海外では多いです。
丸山氏:
でも,そうすると「もっさり」とは言わないまでも,ちょっと違うものができますよね。
今井氏:
ええ,ネイティブで作った「アーケードっぽい挙動」とは別のものになりがちです。
丸山氏:
「このフレームでこの処理をする」みたいな部分が隠されているUnityの仕様は,ある意味邪魔なんです(笑)。大掛かりなFPSだったら,弾が見えないので「誰に弾が当たったのが先か」の処理をエンジンに任せてもいいのですが,STGのようなプレイヤーが全部の状況を把握できるゲームというのは,作り方に気をつけないと,いきなり素人っぽさが強く出るゲームになってしまいますから。
米沢氏:
STGは1フレームごとが大事なジャンルなので,適当にフレームスキップされてプレイヤーに見えないっていうのは厳しいですね。
今井氏:
そもそもモダンなゲームエンジンがベースとしているゲームジャンルはFPSやTPSなどであって,オブジェクトを描画して,挙動に関しては物理ベースというエンジンの思想は,アーケード用STGとは正反対なんじゃないかと思いますし。
小倉氏:
うちがライセンスを出して,韓国のメーカーから一昨年の秋に出た「虫姫さま【究極バトル】」(iOS/Android)は,Unityを使っていました。メーカーの意気込みは良かったのですが,挙動や同期にはやっぱり問題がありましたね。
「虫姫さま ふたり」のステージをそのまま使っているので,スマートフォン用にしては1ステージが長すぎるという問題もありました。あと5年後に会いたかったタイトルですね(笑)。
清水氏:
いや,Unityの使い方の問題じゃないですか?
(一同爆笑)
清水氏:
使い方が甘いんじゃないですかね。「甘くていい」ことこそエンジンの存在理由なので,海外の人はそれに頼るのだと思います。チューニングに力を注ぐべきでした。
丸山氏:
見た目はすぐにできるんだよね。でも,そこからどうするかは設定をまったく変えないといけない。
今井氏:
「怒首領蜂 一面番長」は,矢川さんとしては意外ですがCocos2d-x(以下,Cocos)で作っていますよね。Cocosを使っているならAndroid版も出してほしいのですが(笑)。
清水氏:
Cocosは比較的ネイティブに近いんですよね。Android版が出ないのは,ハードの特性を活かそうとCocosをチューニングしているからです。ただ,Android版も無理ではないので,そのうち矢川が検討するかと思います。
小倉氏:
そのほか,弊社の売り切りアプリはiOS向けにネイティブで作っています。去年,外部業者のテストも兼ねて「これをそのままAndroid用にしてくれ」と1つお願いしたのですが,やっぱり動作の遅いものになってしまい,お金だけ支払って終わりにしました。
今井氏:
移植を考えると,UnityでもネイティブでもAndroid版からやった方がいいんでしょうか。
柏木氏:
うちは大体Android版を先に作っています。そちらで安定したらiOS版は楽勝という考え方です。
丸山氏:
Androidが,家庭用の話で言うところのPS Vitaに当たりますね(笑)。
小倉氏:
よく池田がiPhoneを指して「ハード・ソフト一体設計,素晴らしい……それに比べてAndroidは!」と言っています。自分も,ゴ魔乙をやるならiPhoneが好きですね。Android版は,古い端末だと挙動が遅いので避けやすかったりスコアを出しやすかったりしますが(笑)。
(一同爆笑)
日本ではまだ発展途上のSteam。各社の今後のアプローチを聞く
最後に,Steamという市場に関して,今後の展望をお聞かせください。
丸山氏:
自分はまだ市場として弱いと思っていますし,これからのやりようだと思っています。今後も長い目でゆっくり見ていきますよ。日本のSteam市場をもっとよくしたいというのは夢としてありますし,それがアーケードにつながればいいですよね。プラットフォーム自体は,Windowsベースで広がるのが幸せな形だと思います。
清水氏:
今後,日本市場はもっと広がると思います。現在,うちの会社としてはモバイルやネットワークがメインとなっていますが,注目はしているんですよ。いずれは新作も出しやすくなるんじゃないかと思います。
ラグ氏:
Steamはアカウント数が多いのでポテンシャルはありますね。それに,ここ数年で国内のユーザー数も増えています。パッケージと違って市場に置き続けられますし,リリースから時間が経っても新作とのバンドルにしてお客さんの目に届けることもできます。
いかんせんSTGはグローバルでもプレイヤー人口の規模は大きくないんですが,最近SNSで子どもや嫁と一緒にDBCSをしている写真を見かけることがあり,驚いています。今後は,家族や友達など横のつながりでの広がりも考えるといいのかなと思っています。
今井氏:
PCゲームってアダルトゲームなどもありましたし,プライベートなニュアンスが強かったんですよね。ですが,今はSteam Linkを用いればTVでのプレイも可能なので,リビングでPCゲームをするのもおかしいものではなくなってきています。また,他のプラットフォームに対してSteamの有利な点が,圧倒的なライブラリです。
「自分が昔やっていたゲームを子どもに遊ばせる」という面白いブログがあって,そこで遊ばせているゲームの大半はSteamで販売されているゲームでした。そういう遊び方も可能なので,Steam自体をコミュニケーションのハブとして機能させるのもいいかなと考えています。
清水氏:
Steam MachineもSteam Linkも,キャッチコピーで「リビングルーム向け」を掲げていますよね。
丸山氏:
ただ,認知が上がるほど,今の自由さが失われていくのではないかという懸念はあります。
うちは,さっき藤野さんが言った「どきどきアイドルスターシーカー」という脱衣パズルをアーケード向けに作ったのですが,それをドリキャスに移植するときはCERO:Cぐらいで収まる表現にしました。これをSteamで出すとしたら,胸を露出させるのはよくないにしても,ドリキャス以上のことはできます。
理想論としては自主規制で済ませたいですが,それはレーティング機構の全否定にもつながるんですよね。Steamが発展していくと,どこかでレーティングの問題にぶつかると思います。
今井氏:
レーティング機構とは別に,管理者権限を持つ親が子どものアカウントでプレイできるゲームを制限するような,ペアレンタルコントロール機能には落とし込めると思うんですよね。
丸山氏:
でも,それはそれで「ライブラリは誰が選定するの?」という話になりますよね。Steamが発達していくうえで,そういった表現規制の問題が妨げになるのかどうかは,当事者として注視したいと思います。風営法も同様で,規制がないのは居心地いいですが必要性はあるんですよ。
今井氏:
Valveさんに働きかけて変えていくことはできると思うので,それも含めてこれからSteamを盛り上げられたらいいと思っています。
丸山氏:
Valveさんは人が少ないですが,反応はいいですよね。
森岡氏:
市場の展望というところでは,私も皆さまと同じですね。もうちょっと範囲が狭いところで話すと,先日のトランジションで私は試遊コーナーにいたのですが,「Steamをどうインストールしたらいいのか分からない」という方や「スマホではゲームをするけど据置機ではやったことがない」という方がけっこういらっしゃいました。
ですので,ライトな方には,まだ周知しきれていないのかなと思います。Steamの可能性は高いと思うのですが,あまりゲームをやらない方にはスタートのハードルが据置ゲーム機よりも高いですからね。
清水氏:
「ゲームを安く買えるよ」とか「こんなコアなゲームがあるよ」とかじゃなく,もっと向いた勧め方があると思うんですよ。
今井氏:
「FINAL FANTASYできるよ」とかですかね。
丸山氏:
極めてライトユーザー寄りにした,「今,日本語で気楽に遊べるPCゲーム一覧」みたいなSteamへの入り口が必要なのかもしれないですね。
今井氏:
実際,カジュアルなゲームはかなり増えているんですけどね。それこそ「Cookie Clicker」(※)みたいな単純なゲームもいっぱいありますし。
※ブラウザゲームサイト「DashNet」で公開されている,反物質やババアなどを駆使してクッキーを生産するフリーゲーム。リリースから約2年半を経た2月9日,悪魔との契約やドラゴンの育成などを追加する初のメジャーアップデートが行われた。
丸山氏:
トランジションはSTGにフォーカスしたイベントでしたが,次は「日本語のゲーム」にフォーカスした展示会があってもいいですよね。
米沢氏:
もともとSteamはValveさんの自社ゲーム用ランチャーだったのに,よくこんなライブラリになったなと感心します。最近は「AppStoreと同じようなもの」くらいには言えるようになって,誘導はしやすくなりました。アカウントを作るのもスマートフォンなどの影響で普通のことになったので,ハードルはだいぶ下がっていると思います。ここから頑張ってアピールして,もっとSteamの認知を広げていきたいですね。
小倉氏:
トランジションには多くのゴ魔乙プレイヤーさんが来場されましたが,多分Steamをあまり知らなかったんじゃないかと思います。ゴ魔乙をかなり気に入ってくれている方が来場されて,それをフックにSteamに流れてくれたならば,我々にとってはいい流れですね。
また,何となくHeyから上がって(※)きて,「PCでこれだけ動くんだ」と思った方もいらっしゃると思うんですよね。記憶の中でのPC用STGって,例えば「シルフィード」の……。
※トランジションの会場となった廣瀬無線電機ホールは廣瀬本社ビルの5階。その下,1〜4階はHeyのフロアとなっている。
丸山氏:
えらく古いのが出てきましたね!!
小倉氏:
あの記憶があるので,「やっぱり現代ってすごいな」と思いますよ。
清水氏:
高スペックのPCが必要と思っている方は多いですよね。
丸山氏:
その点,最新のDBCSでもグラフィックスがオンボードのPCで動かせるということはアピールしたいですね。
今井氏:
トランジションでは,PCメーカーさんに出展してもらっていろいろな環境での動作を見てもらえたのはよかったですね。ほとんど活用できなくて申し訳ないのですが,Razerさんには超カッコいいキーボードとマウスを用意してもらっていました。今後は,そういったカッコよさもショールーム的にお伝えできればと思っています。
丸山氏:
ショールーム的な意味では,もし次回があるなら展示PCに値札がほしいですね。「このカッコいいPCは25万円します!」や「でも2万円のPCでも動いてますよ!」というのを見せることで,「今のPCなら十分に動くし,もっと豪華にもできるんだ」というのを見ていただきたいです。
藤野氏:
次があったら,タブレットPCを並べたいな(笑)。
25年くらい前の秋葉原って,メガドライブやPCエンジンがあるし,アーケードの基板屋もあるし,FM TOWNSとかMSXとかX68000とかのホビーパソコンで遊べるし,同人ゲームや輸入ゲームを売っている店もあったという場所でした。今のSteamはそんな感じで,AAA級があれば100円しない何と言ったらいいか分からないようなものもあるので,ゲームの時代が1周した気がしています。その感じが楽しいので,ちょっと楽しんでいこうかなと僕は思っています。
清水氏:
Steamを見てると,Valveの人って本当にゲーム好きなんだなって感じますよね。
藤野氏:
家庭用は大きくなりすぎちゃたし,ゲーセンは減っちゃったし,そんなSteamにみんな集まってきていますよね。
柏木氏:
Steamは現代版のTAKERU(※)ですから。
(一同爆笑)
※1985〜1997年にかけて稼動(テスト段階含む)していた,世界最初のPCソフト自動販売機「ソフトベンダーTAKERU」。PC用ゲームソフト向けの配信プラットフォームという意味では,Steamの先祖にあたるかもしれない。
4Gamer:
本日はありがとうございました。皆さまの今後のSteamでの展開,いちプレイヤーとして楽しみにしています。
- 関連タイトル:
Steam
- 関連タイトル:
ESCHATOS
- 関連タイトル:
星霜鋼機ストラニア
- 関連タイトル:
虫姫さま
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