連載
キャラクターゲーム考現学 / 第34回:暁のアマネカと蒼い巨神
今回取り上げるのは,発売を明日(5月30日)に控えた工画堂スタジオの最新作「暁のアマネカと蒼い巨神」である。駒都えーじ氏のキャラクターデザインと,竹内なおゆき氏のシナリオという組み合わせは「蒼い海のトリスティア」から数えて3作目。最近の売れ筋アニメの作風をよく研究した演出に,いつものとおり竹内氏ならではのちょっとブラックなセリフ回しがスパイスとして加えられた,ある種安定感のある(?)キャラクターゲームとなっている。
「蒼い海のトリスティア」のアニメ作品化が,同社の収益にどの程度貢献したのかは寡聞にして知らないのだが,ストーリー要素をベースに持つオーソドックスなキャラクターゲームが,ますますアニメとの相互交通を密にしていることだけは,確かな傾向に思える。そういえば,今作を元にした『白銀のカル』というライトノベルもすでに上梓されている。三者の市場は,いまのところ歩調を揃えているようだ。
主人公の少女アマネカ・マッハバスターは,帝国ジュニアアカデミーの第二学年所属。学園の支配を目論む,コミンテルンと「シオンの長老」を足して二で割ったような秘密結社的サークル「暁の老人」の一員だったが,彼女の唯一の友人で元軍人である同級生オーギ・カットラスの協力を得てこのサークルから足抜けし,新たに「パシアテ文明研究会」なる遺跡発掘サークルを組織する。
足抜けに伴って,アマネカは偉大な考古学者の研究資料「バルター・ノート」を,暁の老人のもとから盗み出した。本作の世界は「蒼い海のトリスティア」「蒼い空のネオスフィア」と同じく,古代文明が生み出したオーバーテクノロジーである「Eテクノロジー」の解明と応用によって繁栄を謳歌しているのだが,バルター・ノートには未解明のEテクノロジーに関する記述があり,それを解読するためには「古代パシアテ文明」の遺物が,パターンサンプルとして大量に必要とされる。
かくして,互いに敵対しつつ同じバルター・ノートの解読を目指すパシアテ文明研究会と暁の老人による,遺跡探索競争が勃発する……というのが本作のバックグラウンドである。
なかなか“男前”な性格のアマネカ率いるパシアテ文明研究会には,プレイを続けるにつれて人材が集まってくる。前述のオーギのほか,高級百貨店の令嬢でありながら好奇心旺盛,活発な優等生であるリエ・メインステイ,バルター・ノートを綴った大考古学者バルター・コメートのひ孫にして,独自にEテクノロジー遺跡の探索を続けていた,ちょっぴりおっちょこちょいな女の子エアナ・コメート,引っ込み思案な元吹奏楽部員メイル・シーガル,遠い国から留学してきた王族の少年トアラ・ラボアキンなど,いずれもアニメ的美少女/美形キャラである。
キャラクター名が軍用機から取られていることや,巨大メカとしての「ゴーレム」が登場するあたりは前シリーズからの踏襲要素だが,ショタコン好みのトアラと,肉体派のオーギを並べているあたりに,ターゲットプレイヤーを広げんとするメーカーサイドの努力が感じられる。まあ,せっかく女性ゲーマーにも受け入れられやすいパズル的要素&ストーリーゲームなのだから,これは賢明な判断だろう。
そして本作で忘れてはならないのが,最近のライトノベルおよびアニメ作品で多用されるようになった“ちょっぴりエッチ”な演出だ。主人公のアマネカは尋問,テイスティングなどと称して女性キャラクターの胸を触りまくる。女の子同士のベタベタした関係の形をとっているものの,これが男性プレイヤーに向けたサービスシーン的演出であることは言うまでもない。
客層の中心である男性プレイヤーの期待を載せて羽ばたくために,アマネカには権力志向でエネルギッシュ,かつセクハラ好きの“オヤジ”要素が盛り込まれているのであろう。
アマネカ・マッハバスター
権力志向のおチビさん。この組み合わせはナポレオンなどに見られるため,ある意味リアリティがあるものの,少女なのがキャラクターゲームならではの設定か。それでもせっぱ詰まると女の子らしく泣きじゃくったりして,相棒のオーギを困惑させる。Eテクノロジーの自律型ロボットにやたら懐かれるなど,その正体をめぐる謎は随所にちりばめられている。
(CV:神田朱未)
リエ・メインステイ
富豪の令嬢で好奇心が強く,勉学にも運動にも優れるという,非の打ち所のない優等生キャラ。主人公になるために何が足りないかといえば,足りないものが足りないのである。アマネカの良き相談相手ということになっているが,主な仕事は相づちとツッコミのようだ。
(CV:日高のり子)
エアナ・コメート
活発でおっちょこちょいという体力主導型キャラ。アマネカらと「真のパシ研の名を懸けて」対決する「パシアテ探検会」のメンバーだけあって,探検の技能は極めて高いはずなのだが,よけいなことをしては落盤に遭っている印象が濃厚。付与されたポジションよりパーソナリティが優先するのは,キャラゲーの宿命か。
(CV:幡宮かのこ)
メイル・シーガル
けなげなちっちゃい子。パシ研と暁の老人との抗争で,本来属していた吹奏楽部が機能不全に陥り,なんだかんだでパシ研に入ることになったのは,いじめられ役っぽいグラフィックス造形のなせるわざか。オーギとのコンビネーションは,何から何まで対照的な二人を組み合わせるという,これまた据わりのよい配置である。
(CV:落合祐里香)
トアラ・ラボアキン
いやもう,半ズボンですとも。帝国治下の小国の王族という高貴な属性までひっさげた,ショタコン御用達万能型キャラである。頭が切れ,追いつめられた場面でも沈着冷静かつ大胆だという。アカデミーにおける専攻の関係上,Eテクノロジーに詳しい。リエと旧知の関係なのは,「世界お金持ちクラブ」的な何かがあるのだろうか?
(CV:友永朱音)
オーギ・カットラス
アマネカのなだめ役だったり,腕っ節自慢で一の子分だったりする大塚明夫。ええとほかには……元特殊部隊の隊員ながら,一念発起してアカデミーに入学し,学年はアマネカと同じながら公称20歳の大塚明夫で,ゲームスタート時点でアマネカ唯一の友人である大塚明夫。たばこも喫う。
(CV:大塚明夫)
本作のプレイアブル部分は,「帝都」のマップを核に機能する。マップ上の各所に出かけて「情報収集」し,そこで聞きつけた噂に従って有望そうな街区に向かう。その街区を“発見”したあと,地下に設定された遺跡に潜って敵を倒しながら進み,奥に隠された宝箱を開ければ,なにがしかのEテクノロジー遺物や宝物を手にできる。
発掘した遺物/宝物を「帝国文化局」に登録すれば,お金が増え,サークルの名声が上がる。ゲームシステム上のプレイ目標は,パシアテ文明研究会の名声を上げることであり,お金は探索手段を充実させるのに使われる形だ。なお,遺物/宝物を帝国文化局でなく「ブラックマーケット」に流せば,はるかに多額のお金が手に入るものの,名声は下がる。また,概して遺物/宝物の探索よりもささやかな名声と資金にしかならないが,街の各所で「ボランティア」に参加するという選択肢も用意されている。
遺跡の探索は競争であり,敵対集団に先駆けて探索しないと遺物/宝物は手に入らない。本作では複数のチームを編成して情報収集や探索が可能なので,ボランティアという選択肢も含めて,効率の良い分業/協業のパターンを確立するのが肝要である。
遺跡内部には凶暴な動物や,Eテクノロジーによるセキュリティシステム(主にゴーレム)が待ち受けており,探索を進めるためにはこれらを倒したり,うまく迂回したりする必要がある。
このゲームで編成できる探索チームは3人が上限で,「編成」画面で配置したとおり一列になって移動する。キャラクター各自が持つ武器には射程が設定されていて,その範囲に入った敵には自動で攻撃をかける。このとき,チームメンバーの並び順が意味を持つわけだ。
射程の短い武器しか持てない/持っていないメンバーを後衛に回しても,効率の良い戦闘はできない。また最後尾のキャラともなると,前衛より前にいる敵にはまず攻撃が届かない。そこで,前衛以外が狙われないよう注意しつつ,後衛が敵を攻撃できる距離を測る必要がある。また,チームは最も足が遅いメンバーの速度に合わせて移動する。このあたりで,どのキャラとどのキャラを組み合わせるのが良いかといった工夫の余地が生じるのだ。
主人公アマネカは「レンザン」という強力なゴーレムを持っており,これを伴えばかなりの強敵が潜む遺跡でも探索可能だ。ただし,ゴーレム用の燃料と回復アイテム(リペアパーツ)はなかなか高価であり,その出費を抑えるには,どうにか遺跡内での移動距離を縮めるパズル的思考が必要となってくる。また,ゲームを進めるにつれて別のゴーレムを入手したりレンタルしたりも可能となって探索の柔軟性が増すものの,基本的に同様の問題を抱えることになる。
ゴーレムの運用に見合った収益をどう上げるかが課題ではあるが,そもそもゴーレムが必要なくらいがっちり守られた遺跡には,お宝ががっぽり眠っているので,それほど心配する必要はない。
遺跡内で複数チームをまとめて操作できない,マップ上で一度指示した行動をキャンセルできないといった,やや洗練されていない操作性(例えばマップ上で「他チームを待つ」というコマンドが用意されていたら,より快適に操作できると思う)が気になる本作だが,それらの制約も含めてパズルとして楽しめる側面は十分にある。とくに敵対組織との競争要素は,概して相手方有利のハンディキャップマッチとなるため,適度な焦燥感が演出され,ときに慌ただしい操作を求められるのは,これはこれで面白い。
章立てごとの勝利条件が明かされず,プレイがストーリー要素でぶつ切りになって,あまり最適化ゲームの体を成していないあたりは評価が難しいものの,一方でキャラクターの織り成すドラマが魅力でもあるのだから,ここは大きく構えて,こまめなセーブを心がけつつ,キャラ同士の掛け合いを楽しむのが正しい姿勢だろう。
ちょっぴり深いところから論評してみると,「トリスティア」「ネオスフィア」における“発明”というモチーフは,高度成長期以降(もっと言えば明治以降)日本が発揮してきた,近代工業による国際競争力が,コスト的側面から全般に失われつつある段階を,なおも独自の製品開発で乗りきろうとする「物づくり」信仰を背景に持つ動きだった。
それと同様に「アマネカ」を捉えるなら,準拠すべき枠組みは“立身出世”であろう。ソフト化,ポストモダン化がより進展した社会で,若者が青雲の志を抱くことは,ますます難しくなっている。そうした世相を背景としつつ,強烈な個性とリーダーシップ,野望と正義感に燃えて成り上がろうとするアマネカの姿はおそらく,同じように時代の“喪失感”を埋め,新たな夢を掻き立てるメッセージ性を持っているのだ。
まあそんな,的を射ているか分からない分析はともかく。本作はパズル的試行錯誤を含むストーリーゲームとして,ほどよくまとまっている。かなりデフォルメの利いた絵柄でのキャラクター描写も含むアニメ的演出が好きな人なら,小ネタのちりばめられたセリフ回しも含めて,大いに楽しめるだろう。
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