レビュー
伝統のデザインを採用しつつDTS Headphone:X対応のワイヤードヘッドセット,その実力に迫る
SteelSeries Siberia 350
SteelSeriesは,製品ラインナップの整理と命名ルールの変更に取り組んでいる。たとえばゲーマー向けマウスの「Rival」だと,製品名を「Rival 300」に変更しつつ,側面のラバーを射出成形タイプに変更するといった「リブランド+α」処理を行っているのだが,ならSiberia 350はどうかというと,新しい命名ルールの下で登場した,完全新作となるUSB接続型ヘッドセットという位置づけになる。
2014年モデルである「Siberia v3 Prism」の後継と紹介したほうがピンとくる読者はいるかもしれない。
日本市場でのごたごたを経て,ようやく流通量も回復しつつあるSteelSeries。その新作には,どういう特徴があり,それはゲーマーにとって魅力的と言えるのか。発売からしばらく経ったタイミングではあるが,じっくり検証した結果をお伝えしようと思う。
これぞ「Siberiaデザイン」。伝統のミニマルさは今回も健在
パイプとエンクロージャ,そして両者をつなぐアームはいずれもプラスチック製と思われるが,非常に頑丈な印象で,ちょっとやそっとで壊れる気配はない。アームはざっくり30度くらいの可動域があり,エンクロージャ(というかイヤーパッド)の下側が装着時に頭から浮かないようにという配慮がある。
ヘッドバンドを支える合繊糸はアーム部から伸びる仕様で,装着時にはこの糸の部分が伸び縮みする。ヘッドバンド自体は非常に薄い合皮素材製だ。
SteelSeriesは2013年モデルの一部ででエンクロージャへのLEDイルミネーション採用へ踏み切ったが,Siberia 350もその仕様を継承している。
ぱっと見だと開放型風ながら,その実は密閉型のエンクロージャ(=ハウジング)もそれほど大きくない。また,装着時に前方へ向かって薄くなる形状になっているため,これがまたすっきり見せる一因になっている印象を受ける。
一方,そのサイズにもかかわらず,スピーカードライバーは50mm径で,周波数特性は10Hz〜28kHzと幅広い。
イヤーパッドはつやのある合皮素材を採用した黒色ながら,内側の一部分だけは橙で,なかなかおしゃれ。厚みは実測約19mmといったところか。柔らかく,装着感は良好だ。筆者が装着した限り,耳たぶがイヤーパッドに当たる感じはしなかった。
マイクブームの長さは,マイク部分が実測約20mmで,ブーム部分が実測約105mm。相変わらず非常に自由度の高いブームパーツで,印象はよい。なお,マイク部分には空気孔らしきものが表裏それぞれ1つずつ見えるが,表側の孔はダミーとなるシングルマイク仕様のようだ。
なお,製品サイトによると,マイクは指向性(unidirectional)を持ち,周波数特性は50Hz〜16kHzとのことである。
Siberia v3 PrismでSteelSeriesはマイクミュートスイッチを左耳用エンクロージャの後ろ側に搭載しつつ,「インラインリモコンは邪魔で,そもそも音量は別のところで調整できる」として,音量コントローラを省いた(関連記事)。これはかなり思い切った決断だったわけだが,フィードバックとしては「やはりリモコンがないと音量調整しにくい」というものが多かったのだろう。
DTS Headphone:Xなど,設定はすべてSteelSeries Engine 3から
本体側の機能がシンプルなのは,より細やかな制御を,統合型アプリケーション「SteelSeries Engine 3」(以下,Engine 3)から行う前提になっているからだ。
というわけで,下がSiberia 350用の設定メニューとなる。
「DTS Headphone:Xとは何か」という話はLogitech G(日本ではLogicool G)製のヘッドセット「G633 Artemis Spectrum Surround Gaming Headset」のレビュー時に,一通り行っているので,興味のある人はそちらを参照してほしい。
ものすごく簡単に要約すると,実際に存在する部屋(やホール)における「音の鳴り方」を計測して,その測定データをリアルタイムに演算し,再生する音に付加することで,実在する空間の残響をサラウンドでシミュレートする技術である「マルチチャネル・コンボルーションリバーブ」(Multi-channel Convolution Reverb)をヘッドフォンおよびヘッドセットで実現するものである。
音響品質の高い,実在する部屋でサラウンドサウンドを聴いている効果を,ヘッドフォンやヘッドセットで得ようとする技術と言い換えてもいいだろう。
その下にあるのは5バンドのグラフィックイコライザで,こちらは7種のプリセット「バランス」「パフォーマンス」「イマージョン」「エンターテインメント」「ミュージック」「ボイス」とは別に,ユーザーが調整した内容を保存できる「カスタム」も利用できる。
イコライザの効果は,「いかにも」な嫌らしい感じではなく,割と自然な印象で,その分,極端な変化はない。変化の幅が極端なイコライザは扱いづらいので,実用的だと言えるだろう。
その下がマイク関連で,「マイク音量」はシステムと連動したマイク入力レベル調整ノブとなる。「マイク自動最適化」は,いわゆるいわゆる自動音量調整を行うAGC (Auto Gain Control)またはDRC (Dynamic Range Control)と呼ばれる機能の有効/無効を切り換える項目だ。
ちなみに,実際の設定は,メニューウインドウの下にある「ライブプレビュー」スライドスイッチを「オン」にして,設定内容をリアルタイムに反映させるよう指定したうえで,音を聞きながら設定していくことになる。
すべての設定が終わったら,ライブプレビューを「オフ」にして[保存]ボタンを押す。この流れでやらないと,設定変更内容をリアルタイムでモニタリングできなかったり,プリセットをうまく保存できなかったりするので要注意だ。
やや低弱高強の出力周波数特性。DTS Headphone: Xはマルチチャネルの音の分離がよい
まずは試聴からだが,2016年7月時点だと,PCにインストールしてある「iTunes」を用いた音楽試聴テストと,「Razer Surround」の有効/無効を切り替えながら行う「Fallout 4」および「Project CARS」のインゲーム試聴テストによって,インプレッションを語ることにしているので,今回もそれに倣う。
ただし,Siberia 350は前述のとおりDTS Headphone:Xをサポートするため,ゲームにおけるマルチチャネルサラウンドの試聴ではDTS Headphone:X有効が前提となる。
まずはiTunesでステレオの音楽コンテンツを聞いてみると,高音がきらびやかな一方,低音は「重低域まで存在しているものの,押し出しは強くない」という,開放型ヘッドフォンのような聞こえ方が印象的だ。
どちらかといえば高域重視の音質傾向ながら,「低弱高強」とまではいかない感じで,「バランスとして高域重視」という程度である。
スピーカードライバーと耳との物理的な距離がやや遠く,耳に張り付かないように感じられるのもいい。高域の歪みも(音量を極端に上げない限り)少なく,開放感を感じるため,全体的に上品な音質傾向だと感じられる。
イコライザは前述のとおり,繊細な効き方なので,うまく好みのプリセットが見つかれば,イコライザ処理した音を楽しめるだろう。
Siberia 350の持つ高域特性の優秀性が,DTS Headphone:Xにおけるサラウンドサウンド表現にも奏功しているのだと思われる。
筆者としては,DTS Headphone:Xの持つ大きな優位性の1つに,サブウーファ信号(以下,LFE信号)が入ったときに低音がドンと出てくる挙動があると考えているのだが,これはProject CARSで確認することができた。
Project CARSは,縁石に乗り上げると「ゴリ」っという重低音がLFE信号として付加されるのだが,「ずっと低音鳴りっぱなし」でなく,LFE信号が入ったときだけ重低音が鳴っているのを確認できる。これは,音情報としての縁石乗り上げを聞き分けるのにとても役立つ。
具体的に述べると,Fallout 4だと同じ音量レベルでも音量感が増し,低域が増えた印象を受ける。一方,Project CARSだと,DTS Headphone:Xで感じた「LFE信号の有無による聞こえ方の違い」は大きくなく,重低音が重低音として鳴っているというよりは,重低音も低音として鳴っている印象があった。そもそも低強高弱気味の落ち着いた音なので,好みならこちらを使うのもアリだとは思うが,サラウンドの分離感や開放感,リアの音源の把握はDTS Headphone:Xに軍配が上がる。Project CARSにおける「リアで鳴っている音」の把握は,Razer Surround Proだと難しいのが,DTS Headphone:Xでは容易,というレベルで異なるので,この違いは大きいと言うほかない。FL/FRやセンターのダイアログといった音の定位感は変わらないが,それだけにリアの違いが印象に残る。
マイク入力は,USBマイクらしいざらっとした質感
マイクテストにあたっての計測方法は解説ページを参照してもらえればと思うが,USB接続型ヘッドセットのマイク入力というのは,これまでチェックしてきたほぼすべての製品で「サンプリングレートが低い」傾向が出ており,そしてそれはSiberia 350も同様だ。そもそも公称の周波数特性が50Hz〜16kHzと狭いが,下の波形グラフを見てもらっても分かるように,お世辞ににも「リファレンスに近い」とは言えない周波数特性となっている。
スペックどおりと言えばスペックどおりで,50Hz弱くらいから16kHz付近までは有効だ。ただ,3.5kHz付近を頂点に,50Hzくらいまでダダ下がりとなった「山が大きすぎ,低域がなさすぎ」仕様のため,USB接続型ヘッドセットのマイク入力らしい,ざらっとした音になってしまった。
ただ,よく言えば,低域をカットする一方,3.5kHzのプレゼンス(※)ど真ん中を強調しているため,低ビットレートが前提のゲーム内チャットでも,何を言っているかは分かりやすい。筆者のレビューでよく出てくる,「音質よりも伝わること重視」のマイクというわけだ。
※ 2kHz〜4kHz付近の周波数帯域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。
なお,Engine 3にあるマイク自動最適化機能の有効/無効だが,効果なしということはなく,有効/無効で違いは感じられるものの,小さい声でしゃべったときでも相手に伝わるレベルまで声が大きく補正されるかといえばノーだ。過度の期待は禁物である。
価格を考慮すれば完成度は上々。DTS Headphon:Xの効果も高い
マイク品質は好みが分かれるというか,筆者は好きではないが,USB接続型ヘッドセットのマイクはだいたいこういう音質傾向なので,Siberia 350の音だけ特別に低いというわけでもない。USB接続型ヘッドセットらしいマイク特性だ。
まとめると,Siberia 350は,いい意味でとても無難なワイヤードヘッドセットである。これまでのSiberiaシリーズ主力モデルがそうだったように,Siberia 350も,長くゲーマーから支持される製品になるのではなかろうか。
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SteelSeriesのSiberia 350製品情報ページ(英語)
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