レビュー
SteelSeriesの新たなるフラグシップヘッドセットを試す
SteelSeries 7H
SteelSeries 7H USB
SteelSeries製ヘッドセットの上位ラインナップは,アナログ接続の単体モデルとは別にUSBサウンドデバイスの付属したモデルも用意されるのが伝統だが,今回も「SteelSeries 7H USB」としてその伝統は守られている。付属のUSBサウンドデバイスが「USB soundcard」と呼ばれるのもこれまでどおりだ。
当初は2010年7月末の発売が発表されながら,生産が追いつかず,アジア市場向けの在庫が確保できなかったとして発売が9月30日まで延期されていた本製品だが,果たして待たされただけの価値はあるのだろうか。今回はSteelSeriesからSteelSeries 7H USBの貸し出しを受けられたので,アナログ接続とUSB接続の両面で,その実力を検証してみたい。
堅牢かつ軽量・分解可能な本体ユニット
イヤーパッドは2種類付属し,交換可能
テストに先立って,まずはハードウェアをチェックしておこう。
ワイヤードタイプで,オーバーヘッド型を採用する本体の外観は,ツヤ消しの黒でほぼ統一されている。ところどころに,ガンメタルの金属パーツがあしらわれ,アクセントになっているが,一言でまとめるなら「渋い」ルックスだ。渋すぎて地味に感じる人はいるだろうが,ムダに光沢処理ばかり多用した,ケバくて安っぽいデザインよりはよほどいい。
スペックとして公開されていないので実測してみると,本体重量はケーブル抜きで実測約238g。端的に述べて非常に軽い。
装着時の締め付けは絶妙で,しっかりホールドする割に,キツさはなし。頭を振ったくらいではズレないように設計されており,軽量さと相まって,装着感は非常に良好な部類に入る。頂部の分厚いクッションと,装着時に身体の左右方向へ向かって広がるヘッドバンドのおかげもあって,頭部の大きな人でもストレスなく装着可能だ。
エンクロージャとの接続部分はもちろん長さ調整が可能だが,そのカチカチとしたクリック感も硬すぎず柔らかすぎず,レベルが高い印象だ。
これまでもイヤーパッドの交換が可能なヘッドセットはいくつかあったが,SteelSeries 7Hの場合は,イヤーパッド部に用意された6つのツメをエンクロージャ側の穴に差し込むだけの簡単設計。着脱は比較的容易で,これは明らかにメリットといえる。ただ,当然ながら,あまり頻繁に着脱を繰り返すと,ツメの部分が金属疲労を起こす懸念もある。
マイクユニットは,指定した範囲の音を主に集音する単一指向性なので,穴が3つ空いている側を口のほうに向けて使うことになる。念のため述べておくと,マイクは口のすぐ下くらいに配置するのがベスト。口にかかると呼吸時の息まで拾ってしまい,チャット相手に聞き苦しい思いをさせることになるので,注意してほしい。
LANパーティがそれほど普及していない日本だと,メリットを享受できる人は少ないと思われるだけに,むしろ結合部分の遊びが大きすぎて,実用面での不安を覚える人がいるかもしれない。だが,先ほど装着感のところで述べたとおり,作りはかなりしっかりしているため,その点での心配はおそらく無用。経年劣化によって遊びが大きくなるかどうかまでは何ともいえないが,分解と組み立てを意識して繰り返したくらいではびくともしていない。
携帯電話の充電用インタフェースとして標準的に用いられているMicroUSBは,着脱の繰り返しを前提に設計されたインタフェースなので,耐久性という意味での不安が少ない。ただ,着脱を前提にしていることもあってロック機構がないため,ケーブルに少し力を入れるだけで簡単にすぽんと抜けてしまうのは少々気になるところだ。これを「何かあってもすぐケーブルが抜けるので,断線の心配がなく安心」と感じるか,「抜けやすくてイヤだ」と感じるかは人によると思うが,ある程度人を選ぶ仕様になっていることは指摘しておきたいと思う。
短いケーブルには,MicroUSB端子から約0.7mのところに出力ボリューム調整とマイクミュートの有効/無効を切り替えるインラインのリモコンが用意されている。リモコン部は端的に述べて「SteelSeries Siberia v2」とまったく同じで,マイクのミュートスイッチが硬めになっており,加えて爪を引っかけるような突起もないため,少々扱いづらいというのも変わっていない。
アナログケーブルは延長ケーブルも含めて布巻き仕様。取り回しやすさはかなりのレベルに達している |
インラインのリモコン。ボリューム調整はともかく,マイクミュートの切り替えはややしにくい |
ちなみに,製品ボックスなどには記載がないのだが,USBサウンドデバイスのドライバはSteelSeriesの公式Webサイトからダウンロードする必要がある。インストールすると,C-Media Electronics(以下,C-Media)製の標準ユーザーインタフェース(以下,UI)そのままの専用コントロールパネルが利用できるようになるが,使うのはおそらく2chと7.1ch(※表示上は「8CH」)の切り替えくらいで,コントロールパネルから設定を追い込んだりするような必要は基本的にない。
イヤーパッドの選択で出力音質は大きく変化
合皮にも布にもよさがある
さて,毎度毎度同じ説明で恐縮だが,筆者のヘッドセットレビューでは,ヘッドフォン部を試聴で,マイク入力は波形測定と入力した音声の試聴で評価を行っている。
ヘッドフォン出力品質のテストは,「iTunes」によるステレオ音楽ファイルの再生と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)マルチプレイのリプレイ再生が軸。比較対象として,AKG製のヘッドフォン「K240 Studio」を用意しているので,本製品との比較を交えながら述べていく。
一方,マイク入力に関しては,とくに波形測定方法の説明が長くなるため,本稿の最後に別途まとめてある。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだが,興味のある人は合わせて参考にしてもらえれば幸いだ。
テスト環境は表に示したとおりで,SteelSeries 7H USBのUSBサウンドデバイスは,マザーボードのUSB端子と直接接続している。
……と書くと「布のほうがいいのか」と思うかもしれない。とくに,数年前にゲーマー向けヘッドセット業界で流行した低強高弱の製品は,低域が強すぎ,高域が弱すぎるものがほとんどだったので,その記憶が強い人ほど即断しそうになるのではないかと思う。
ただ,SteelSeries 7Hの合皮パッドがもたらしている低強高弱は,そこまで極端なものではない。重低域から低域,中低域までほどほどの強さに落ち着いているため,高域が弱すぎたりすることもなく,ほどほどの強さまで丸まっているのだ。“耳当たり”がいいというか,オーディオ的な表現をあえて使うなら,スイートな音質傾向といったところである。
対して布製イヤーパッドだと,高域のマスキングが減り,結果として澄んだ高域とバランスのよい周波数特性が得られる。非常にタイトでアタックの速い音質傾向だ。
そのため,「合皮か布か」というと,「プレイヤーによる」ということになる。合皮製イヤーパッドの場合,高域が若干抑えられるため,装着して長時間プレイしても疲れにくい。
そして布製イヤーパッドだと,高域の情報量が豊富なため,手榴弾の跳ね返る音など,勝ち抜くために必要な音情報を拾いやすい。ただ,ボリュームを上げすぎると,耳が痛くなる可能性も高まるので,この点は注意が必要だろう。
もう一方の布だと,セミオープン型ヘッドフォンのような「自然の音漏れ」が発生し,低音――人によっては余分な低音――が漏れ,適度に失われることで,よりバランスのよい音になっているものと思われる。
音楽を聴いたときの印象は,まさにこのままだ。個人的には合皮の「長時間の利用に堪える」音質傾向のほうが好みで,下手な音楽鑑賞用ヘッドフォンやイヤフォンよりよほど気持ちのいい音だとも思うが,布製イヤーパッドのバランスも捨てがたい。購入したらまずは,普段よくプレイしている2chステレオサウンドのゲームや,聞き慣れた音楽ソースで,どちらを使うかじっくり比較してみるのが正解だろう。せっかく2種類のイヤーパッドが付属しているのだから,試さないと損だ。
サラウンドの“回り方”を比較してみると,X-Fi Titanium HDとアナログ接続したときのほうが,前方のサラウンド感を強く得られる印象を受けた。ただ,高域が相対的に強いためか,バーチャルサラウンドヘッドフォンのアルゴリズムが持つ特有の変調感(=モジュレーション)も大きい。
後方でのサラウンド感はUSBサウンドデバイスを用いるSteelSeries 7H USBのほうが上で,後方での音源移動は,X-Fi Titanium HDとのアナログ接続時よりもはっきりと分かる。低域がより強く感じられるが,これはUSBサウンドデバイス側のアルゴリズム的に,各チャネルのミックス量設定がX-Fi Titanium HDと異なるためだろう。
ゲームで再生された5.1chなり7.1chなりのオーディオ信号を2chにまとめるにあたって「どうやるか」は,バーチャルヘッドフォンのアルゴリズムによって違いがある。SteelSeries 7H USBに付属するUSBサウンドデバイスのアルゴリズムは,CMSS-3Dheadphoneよりサブウーファの割合が多いバランスのほうがベターだと考えて設定されている,というわけである。
マイクは低域が少ない高域強調型
情報としての声を伝える方向性
ここでは,X-Fi Titanium HDとアナログ接続した状態,付属USBサウンドデバイスと接続した状態の2パターンで検証することにするが,実際に収録してみると,いずれも見事なまでの低弱高強型。低域成分が少ないため迫力には欠けるが,情報として何を言っているかは分かりやすい。
下に示したのはX-Fi Titanium HDのマイク入力端子とアナログ接続したときの周波数特性をまとめたもの。公称の周波数特性は50Hz〜16kHzなので,18〜125Hzと16kHz以上で大きく落ち込んでいるのは,ほぼ仕様どおりと言っていいだろう。1.5kHzから8kHzくらいまでがリファレンス波形と比べて最大10dB以上大きなっているのが,上で示した音質傾向を生んでいるものと思われる。
SteelSeries 7H USBに付属するUSBサウンドデバイスを用いた場合の結果は下に示したとおりだが,傾向そのものはアナログ接続時と変わっていない。18〜125Hzの落ち込みがアナログ接続時と比べると明らかに小さいが,試聴上,大きな差はなかった。
ただ,今回のテスト環境だと,USBサウンドデバイスを介したマイク入力時に,「キーン」という高周波ノイズ(ヒスノイズ)が乗ったことは指摘しておきたい。このノイズは常に一定で変調しないため,気にならない人はならないかもしれないが,いずれにせよ,X-Fi Titanium HDとのアナログ接続時には発生しないので,USBサウンドデバイス側のアナログ−デジタル変換以降にある問題だろう。SteelSeries 7H USBを利用するときは,インラインリモコンからマイクミュートをこまめにオン/オフで切り替える必要があるかもしれない。
1万円台中盤のヘッドセットにおける
1つの到達点か。総合点は高い
最近試してきた1万円前後のゲーマー向け製品は,「基本的に良好なのだが,残念な点もある」というものが多かった。それだけに,さしたる欠点もなく,純粋に「いい音」,そして「ゲームで使える音」を再生可能で,作りがしっかりしており,軽量で使い勝手も良好なSteelSeries 7Hは,希有な存在であるといえる。1万円台中盤のヘッドセット製品というのを安価とはお世辞にもいえないが,ゲームのBGMや音楽鑑賞用としても利用できるヘッドフォン出力品質を持っていて,しかもリスニング用として使うときはブームを収納することも可能な本機の価値を損なうものではない。
USBサウンドデバイスの取捨選択は人によるが,「せっかくだから長く使えるものを手に入れたい」というプレイヤーに勧められる,よい製品だ。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium HD」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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