ブラックジョークさながら。台湾版「ハーツ オブ アイアン」のウリとは？

　過去の取材記事で何度となく触れているので，Taipei Game Showでは多くのメーカーブースに物販コーナーがあるほかに，ゲームソフト屋さんのブースがあることは，ご記憶の読者もいることだろう。「光譜資迅」「広路資迅」といったお店がそうなのだが，例によって取材最終日に，ここでちょっとした買い物をしてきた。
　台湾在来タイトルにもなかなか捨てがたい味があるものの，今回取り上げるのはParadox InteractiveのWWII戦略級ゲーム新旧2作，「Hearts of Iron」および「ハーツ オブ アイアンII」の，台湾ローカライズ版である。

　さて「Hearts of Iron」のほうからご覧（ろう）じろ。いきなりタイトルが「国共秘辛之鋼鉄雄心」。ええとこれは，国民党と共産党，隠された苦闘のHearts of Ironとでも，訳せばよいのだろうか。第二次世界大戦ってそういう戦いでしたっけ？ と思い返す暇もなく，次に目に入るのは「全球唯一中共禁売之遊戯軟体」（地球上で唯一，中国共産党が販売禁止にしたゲームソフト）なるキャッチフレーズである。……いやその，そこを強調されるとせっかくの「国際中文版」という表示が泣くような気もするのですが。確かにいまや中国人は世界中にいるから，香港が返還されようが大陸中国で売れなかろうが，意味はあるんだろうけどさ……。

　大陸中国の文化省が「Hearts of Iron」を販売禁止にしたという話自体は，新華社通信も伝えている事実である。ただ，それがまさかゲームソフトの売り口上に使われていようとは。ドイツやソ連（ロシア）そしてよく見えないもののイタリアの旗が，交戦当時のものと違うじゃないかなどという問題なぞ，このキャッチフレーズの前では実に些細なことである。……やるなあ，台湾。


　「ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ」のパッケージも見つけたので，続いて紹介しよう。こちらのタイトルはほぼ直訳で，パッケージも見慣れたデザインを基調にしている。しかし，パッケージ下部には交戦各国の首脳が並び，その中央に大きくあしらわれているのは国民党の蒋介石である。
　往年の北京放送の聴き方ではないが，この席次では中央に近いほど重要な人物と見るべきだろう。蒋介石のすぐ“左”には，宿敵である共産党の毛沢東，右には台湾をバックアップし続けたアメリカの，マッカーサー将軍。続いてヒトラー，チャーチル，スターリンと大立者が並び，左右の末席にムッソリーニと東条英機が置かれる。
　ここでもやはり，国共内戦が主たる関心事であって，抗日戦争ではないようだ。これはおそらく，戦後に蒋介石が弄した政治的言辞である「以徳報怨」（怨みに報ゆるに徳を以ってす）つまりラスボスは中国共産党だから，国民党に協力する限り日本には寛大になろうじゃないかという，国民党中国の基本姿勢と対応している。
　また，やや深読みがすぎるかもしれないが，アメリカの代表者が，ルーズベルトでもトルーマンでもなく，大統領になったこともないマッカーサーである点にも注目したい。つまりここに置きたいアメリカの像は合衆国全体ではなく，アジア太平洋方面におけるアメリカ軍のプレゼンスであり，その象徴は朝鮮戦争で人民志願軍という名の大陸中国軍と戦った，マッカーサーその人なのだ。

　いやはや，たかだかローカライズ版ゲームのパッケージデザインを解説するだけで，こんな長話になろうとは。ちなみに今回買ってきたソフトの中には，どう見てもカプコンのアーケードゲーム「1941」の自機を，中華民国に供与されたソ連製複葉機I-15に置き換えただけに思えるパッケージの，縦スクロールシューティングもあった。
　中華民国の空軍が日本軍と戦うのはよいとして，確か当時台湾は日本統治下で……いやいや，ナショナルアイデンティティの問題とは，かようにPCゲームにおいても複雑なのである。