業界動向
Access Accepted第800回:連載800回記念 〜 変わり続けるゲーム業界
2004年9月にスタートした当連載は,今回で800回となった。2004年というと,まだ"インディーゲーム"などという言葉もなく,「フォートナイト」や「Roblox」のようなゲームビジネスが発展するなど,ほとんどの人は思っていなかったころだ。とくに最近の変化のスピードは早く,ゲーム業界は大きく変わりつつある。今回は,当連載の軌跡を振り返りながら,現在のゲーム市場の動向についてまとめておきたい。
短い期間で豹変するゲーム業界
当連載はついに800回を迎えた。その第1回を掲載したのは2004年9月のことだったので,20年というマイルストーンを達成したことになる。20年で800回なので,年間あたりは40回掲載してきた計算になる。掲載日である月曜日は休日が多いことに加え,この数年は取材のための出張が増えたこともあって休載が増え,2021年10月に掲載した第700回からの100回分だけで2年10か月もかけてしまった。2006年12月にスタートした「男色ディーノのゲイムヒヒョー」に,回数で抜かれるのは時間の問題かもしれない。
そんな話はさておき,巣ごもり需要で活況だった2021年と比べると,この2年ぐらいでゲーム業界の諸事情は大きく変化している。どこまでをゲーム業界と定義するかで経済規模も異なるが,海外では“コロナ明け”となった2022年は屋外に出るアクティビティが好まれたのか-4.3%というかなりの縮小となった。Reutersの記事によると前年比で2023年は0.6%の低成長,そして今年も2.8%ほどになるという。これまでゲーム市場は年間7〜8%の伸びで成長してきたことを考えると,かなり急ブレーキがかかっているのは間違いない。
今後の展望はどうなるか? 日本ではコロナ禍でキャンプがブームになったが,それも急速に冷え込んだので,再び自室で過ごす機会を増やしていくのかもしれない。現在,ゲーム業界でもリストラの波が押し寄せているが,MicrosoftやSony Interactive Entertainment(SIE)のような“開発者にとって最大のサポーター”であるプラットフォームホルダーたちでさえ,人員整理を推進している。彼らも「今後数年は元に戻らない」と考えているようだ。
Xboxを率いるフィル・スペンサー氏も,オンライン配信によってどこでもゲームがプレイできるほどグローバル市場化したゲーム産業には伸び代がなくなっていることを,以前から公言している。
ここから市場を広げるためには,VRやクラウド,メタバースなどの新技術に投資を続けるか,ほかのエンターテイメント市場へと乗り込んでいくしかない。
業界の変遷と企業の戦略転換
当連載の過去100回分の記事を振り返ると,ゲーム業界の大きな変化が見えてくる。特に注目すべきは,主要パブリッシャの大胆な決断だ。過去3年間の動向を象徴する記事をいくつか挙げてみよう。
Access Accepted第701回:EA SportsからFIFAブランドが消える日
EA Sportsのグループを統括するゼネラルマネージャーが,10月の初めに不可解なプレスリリースを発行した。「FIFA」シリーズが,どうやら次回作から名称変更を行うかも知れないという。いったい,その背後で何が起こっているのか。今回は,そんなビッグタイトルの近況をお伝えしていこう。
Access Accepted第712回:「メタバース」を機軸に,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意を考える
MicrosoftがActivision Blizzardを約687億ドル(7兆8742億円)で買収したことが大きな話題となったが,買収に当たって重要な役割りに挙げられたのが“メタバース”だった。メタバースはまだ実現しておらず,多くのゲーマーはピンと来ないかもしれないが,そこへの先行投資は急ピッチで進められているようだ。
Access Accepted第713回:「ライブゲーム」を機軸に,SIEによるBungieの買収を考える
大型買収が続き,業界再編の動きを見せるゲーム業界。今回は,米国時間2022年1月31日に発表されたソニー・インタラクティブエンタテインメントによるBungieの買収について解説する。Bungieは独立したデベロッパとしてマルチプラットフォームでのリリースを継続するとしており,買収したメリットが分かりづらい。キーワードとなっている「ライブゲーム」にその答えがあるようだ。
これらの記事から,ゲーム業界の変化に合わせて主要パブリッシャが大きな決断をくだしてきたことが分かる。ブランド戦略の見直し,大型買収,新しいゲーム形態への注力など,業界の変革期を象徴する動きが顕著であった。
また,コロナ禍でリモートワークや従業員のケアも大きな焦点となり,GDC 2022ではEidos Montrealが週休3日制を取り入れたという話をしたことや,PlayStation StudiosのDEI(Diversity, Equality & Inclusion)への取り組みなどが紹介されたことは,「第719回:GDC 2022で見えてきた,“現実”と直面するゲームデベロッパ」でお伝えした。
企業運営の観点では,こうした直接的に収益に関わらない構造改革は決してプラスに働くわけではないようで,Eidos Montrealは同年5月に親会社のスクウェア・エニックス・ホールディングスからEmbracer Groupへと売却され,さらに今年に入って全従業員の20%が解雇されるというニュースが明るみになり,新作「Deus Ex」がキャンセルされてしまった。
こうした縮小の動きは「第749回:ビッグパブリッシャによるビッグプロジェクトの行方」や「第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表」,「第776回:ゲーム業界にも冬が到来か。欧米メーカーで相次ぐ解雇の波」,さらには「第786回:ゲーム業界の就職氷河期に光を照らす灯火たち」などで記したように,2023年からは非常に顕著なホットトピックとなっており,今後の動向次第ではさらにリストラは続いていくかもしれない。
インディーズシーンの変容
当連載では,日本からは見えづらいインディーズシーンにもスポットライトを当てている。その中で注目すべき出来事があった。
しかし,このマイルストーン的な作品の再リリースにもかかわらず,セールスは芳しくなかったようだ。開発者のジョナサン・ブロウ氏は,「売り上げは犬のク○のようだった」と配信し,Eurogamerなどで話題となった。状況は深刻で,開発を委託したサードパーティに支払う余裕もなく,ブロウ氏が率いるTheklaのチーム存続も危ぶまれるほどだという。
この事態は,かつて注目を集めたインディーゲームでさえ,現在の市場で苦戦している現状を浮き彫りにしている。インディーゲーム業界の厳しい現実と,市場の変化を示す象徴的な出来事と言えるだろう。
「Braid」のHD版リリースの苦戦には,複合的な要因がある。旧版が現行のプラットフォームの多くでプレイ可能な状態であることから,HD版を新たに購入しようというゲーマーが少ないことは想像に難くない。
しかし,この事例は業界全体に警鐘を鳴らしている。これまで業界を率いてきた著名なクリエイターでさえ,その経営の舵取りを慎重に行わなければならない現状を示しているのだ。
もちろん失敗だけでなく,インディーゲーム業界の成功例にも注目してきた。例えば以下の記事がある。
Access Accepted第730回:Steamで猫フィーバーを巻き起こした「Stray」。発売直前からバズるまでの過程を紹介
サイバーパンクな世界に迷い込んだ猫を操作するアドベンチャーゲーム「Stray」が,Steamで“猫フィーバー”を巻き起こしている。これまで8年ほど活動してきたパブリッシャの記録を塗り替えるほど,評価も売り上げも順調な本作。発売直前からSNSでバズっていくまでの過程を紹介しよう。
Access Accepted第744回:兄弟が情熱を注ぎ込んだ都市開発シム「Dwarf Fortress」20年の歩み
20年もの間,開発され続けてきたファンタジー系都市建設/マネージメントシミュレーター「Dwarf Fortress」が,2022年12月6日ついに正式リリースを迎えた。今回は“マインクラフトの元ネタ”と言われるほど影響力があり,カルト的な人気を誇る本作を紹介してみたい。
Access Accepted第794回:2023年の名作「Baldur's Gate 3」を生んだLarian Studiosの苦悩と成功
海外ゲームに詳しい人であれば,Larian Studiosの名前を知らない人はいないだろう。1996年の設立以降,RPGファンには評価されつつも,ブレイクスルーまでには苦節を味わっていたメーカーだ。今回はポーランドで開催されたDigital Dragons 2024の同社にまつわるセッションを紹介しよう。
これらの記事では,インディーズの中でも大きく輝く作品や開発チームに焦点を当ててきた。今後もこうした記事を増やし,インディーゲーム業界の多様な側面を探っていきたい。成功例と困難な事例の両方を取り上げることで,インディーゲーム業界の現状をより深く理解し,その未来を考察する一助となるのではないだろうか。
また当連載では,ゲーム業界の未来を形作る重要なトレンドに注目してきた。以下に,特に注目すべき記事をいくつか挙げよう。
Access Accepted第722回:ゲーム内広告に向き合うプラットフォームホルダーたち
Free-to-Play,サブスクリプションサービス,ライブゲーム,クラウドゲーム――。ここしばらくの間にゲーム業界のビジネスモデルやその構造は大きく変化しているが,マイクロソフトやSIEが「ゲーム内広告」の研究開発を行っているという情報が伝えられ始めており,今世代中にはゲームビジネスは新たな局面を迎えることになるのかもしれない。
Access Accepted第728回:静かに,そして急速に展開するメタバース市場
IT業界におけるニューフロンティアと目されているメタバース。Metaのようにビジネスの主軸をメタバースに完全に切り替えてしまう企業だけでなく,メタバースを使って生き残りを図る地方自治体までが登場している。そうした,メタバースのある未来に向けて動き出している現状をまとめておこう。
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Access Accepted第757回:自由な二次創作で「くまのプーさん」がホラーな存在に
「くまのプーさん」を題材にしたホラー映画やゲームに注目が集まっている。くまのプーさんといえば,ほのぼのとしたイメージが強いが,原作小説が2021年末をもってパブリックドメインとなったことで起きた現象だ。今回は二次創作物の商業展開や,今後パブリックドメイン化するキャラクターについて紹介する。
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Access Accepted第773回:他界した声優のボイスをAIで復活させた「サイバーパンク2077」。進化を続ける生成系AIはゲーム業界にどのような変化をもたらすか
ハリウッドでは,AI利用への危機感を含めた待遇改善に向けたストライキが続いているが,その一方で生成系AIの進化を歓迎するドラマ制作者は少なくないようだ。また,ゲームビジネスにおいても,亡くなった声優の声を蘇らせたり,膨大な時間が掛かるアセットのHD化を行ったりと,ポジティブに活用されている。
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Access Accepted第777回:「Games as a Service(GaaS)」――サービスとしてのゲームというトレンドとその逆流
GaaS(Game as a Service / サービスとしてのゲーム)という業界用語も使われ始めて久しいが,「フォートナイト」「Apex Legends」などのタイトルが長期的なヒット作になる一方で,それらに割り込んでいくタイトルを作り出すのは相当に難しい。GaaSの歴史や最近のトレンドを振り返りつつ考察してみよう。
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これらのトレンドは,今後のゲーム業界の流れを大きく変える可能性がある。広告,メタバース,AI,新しいビジネスモデルなど,多岐にわたる分野での変化が予想される。
今後も当連載では,これらのトレンドをしっかりと注視していく。果たして,次の100回が載る頃には,ゲーム業界はどのように様変わりしているだろうか。その変化を見届け,分析していきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※次回の更新は2024年8月19日の予定です
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