業界動向
Access Accepted第798回:リストラ対象になったドイツの古豪メーカーと再起を図るクリエイター
「Gothic」「Risen」「ELEX」など,小粒ながら多くのファンに愛されてきたシリーズで知られるドイツのPirannha Bytesが困難な状況にある。スタジオを率いてきたクリエイティブディレクターのビョーン・パンクラツ氏はPithead Studioを設立し,新たな船出へと舵取りを始めたようだ。おそらく新作もダークファンタジー系のアクションRPGになると思われるが,これまでの彼らの軌跡を紹介しておこう。
四半世紀の歴史を持つドイツの古豪もリストラ対象に
当連載の読者には説明不要かもしれないが,スウェーデンのEmbracer Groupと言えば,ここ10年の欧米経済の好況と凋落を体現したような大手パブリッシャだ。
2008年にNordic Gamesとして創設されて以降,さまざまな企業を買収しながら肥大化。最盛期の2022年には,世界40か国に13レーベル,138のパブリッシャ,約1万6600人の従業員を抱えるほどに成長し,Ubisoft Entertainmentとヨーロッパの双璧を成すまでになった。
ところが,2023年6月にサウジアラビアのSavvy Games Groupから20億ドルの追加融資を受ける交渉が決裂したことで,この1年にわたって急激なリストラを進めている。
「ボーダーランズ」シリーズのGearbox SoftwareをTake-Two Interactiveに売却,「World War Z」などを開発したSaber Interactiveも,その創業者が新たに興したBeacon Interactiveに譲渡するといったように,名の知れた傘下企業を次々に手を放している状況だ。今年4月に大きな組織改革が行われたことは,以前にもお伝えしている。
Embracer Groupがボードゲームや版権管理,インディーゲームを担当する3つの会社に分社化へ。それぞれがスウェーデンで再上場を予定
経営再建中のEmbracer Groupが,Asmodee Group,Coffee Stain & Friends,Middle-earth Enterprises & Friendsという3つの会社に分社化し,それぞれがスウェーデンのNasdaq Stockholmに再上場する予定であることが発表された。取締役会と経営幹部により株主に提案され,承認されているという。
そんなEmbracer Groupだが,2019年5月に買収したドイツのPiranha Bytesは実質的な閉鎖状態にあるようだ。クリエイティブディレクターとしてスタジオを率いていたビョーン・パンクラツ(Bjorn Pankratz)氏は,脚本家でありプロダクトマネージャーとして長らくゲーム開発を行ってきたジェニー・パンクラツ(Jenny Pankratz)氏と共に,新たなスタジオとなるPithead Studioの設立を発表している。
THQ Nordicブランドの傘下にあったPiranha Bytesは,2023年末から公式サイトのアップデートなどが滞り,年が明けてからもリストラの噂が絶えなかった。2022年にアクションRPG「ELEX II」をリリースして以降,その続編と思われるプロジェクトを進めていたが,ドイツ連邦経済エネルギー省によるゲーム企業への投資リスト(※リンク)から消えていたことも噂に拍車をかけ,Piranha Bytesは公式Xの声明で困難な状況を認めつつも,「まだ諦めないでほしい」として再起を目指していた。
— Piranha Bytes (@Piranha_Bytes) January 22, 2024
Pithead Studioとして再起を図る
THQ Nordicレーベルでは「ELEX II」のみをリリースするに留まったPiranha Bytesだが,日本の古参ゲーマーにとってはパッケージ版が発売された「Gothic」シリーズや「Risen」シリーズなどでお馴染みだろう。現在,THQ Nordicは別のメーカーに委託する形で「Gothic 1 Remake」を開発中であり,同IPを生かしたフランチャイズ化を狙っていた中でのリストラだったのかもしれない。
ドイツと言えば,小規模なメーカーが多く,ゲーム産業の育成に余念がない。Embracer Group時代の開発メンバーは30人程度だったが,それでも国内トップ40のリストに名を連ねていたようだ。
Piranha Bytesは,1997年にドルトムント近郊のエッセンに設立された。ドイツでも古豪に属するメーカーだ。1999年にはアーケードシューター「クレイジーチキン」で大成功していたPhenomediaに買収されたが,スタジオ名を変更することなく,2001年に独自ゲームエンジンによる「Gothic」をリリースした。
同作はパフォーマンスの未調整などが目立っていたような記憶はあるが,ダークファンタジーの世界観やストーリーに惹かれたゲーマーは少なくなかった。2002年に「Gothic II」,2006年には「Gothic 3」がリリースされ,2011年には自社開発ではなかったが「ArcaniA Gothic 4」も登場している。
また,2009年から2014年にかけて「Risen」三部作を,2019年には武器と魔法が混在するSF系アクションRPG「ELEX」を世に送り出している。ビョーン・パンクラツ氏はPiranha Bytesの全作品に関わり,ジェーン・パンクラツ氏は「Risen 2: Dark Waters」から脚本チームにクレジットされている。
2019年のEmbracer Groupによる買収以降は,ロック好きなオシドリ夫婦が開発チームのリーダーとしてPiranha Bytesを率いていた。
彼らが新たなスタートを切るPithead Studioの由来は,拠点となるエッセンの産業遺産として知られるツォルフェアアイン炭鉱業遺産群,その鉱山の入り口から名付けられている。引き続き,ドイツのエッセンに根差したメーカーであり続けるようだ。
これまで個人として利用していたYouTubeアカウントを社用に変更し,この7か月近くコミュニケーションができていなかったことをファンに謝罪すると共に,Q&Aセッションを頻繁に行っていくと伝えている。
Pithead Studioの新作については,1点のアートワークが公開されている。ドクロが置かれた洞窟のような場所に,帽子や食器などの鉱山や砂金取りを彷彿とさせるアイテムが見られ,ダークファンタジー系のアクションRPGになることを予想させる。
Gearbox Publishingは売却にあたり,すべての自社IPを所有するほどの待遇を受けていたが,THQ Nordicの「Gothic 1 Remake」に関するアップデートは行われていないため,そのIPの所在はそのままなのだろう。また,「Risen」シリーズや「ELEX」シリーズはどうなるのだろうか。
昨今,欧米のゲーム企業ではリストラや廃業のニュースが目立つが,そんな荒波の中に船出したPithead Studioはどんな新しいゲームを作り出してくれるのか。彼らの今後に期待したいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※次回の更新は2024年7月29日の予定です
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