業界動向
Access Accepted第774回:スウェーデンの名門デベロッパ,10 Chambersの新プロジェクトが進行中
高難度ながらもコアゲーマーから支持を集めるCo-op型ホラーFPS「GTFO」。開発を手がけた10 Chambersは,Overkill Softwareの創設者の1人であり,クリエイティブディレクターとして開発を主導したウルフ・アンデルソン氏らが2017年に設立した。新たなプロジェクトを始動している彼らへのインタビューから,同社の歴史や新作を紐解いてみよう。
新しくて老舗なスウェーデンの開発チーム
「実際は6人の部屋だったんだけどね」とジョーク混じりに話すのは,スウェーデンのストックホルムを拠点にする10 Chambersを設立し,クリエイティブディレクターを務めるウルフ・アンデルソン(Ulf Andersson)氏だ。Chamberとは部屋や空間を意味する単語だが,創設当初のオフィスには10人分の部屋があったのに,6人しかメンバーが集まらなかったそうだ。
ウルフ・アンデルソン氏とボー・アンデルソン(Bo Andersson)氏の兄弟,そして古くからの仲間であるサイモン・ヴィクルンド(Simon Viklund)氏は,2009年にOverkill Softwareを設立している。彼らが2011年にリリースしたのが「Payday: The Heist」だ。その翌年にStarbreeze Studiosの傘下となり,2013年にはロングセラーとなるヒット作「PAYDAY 2」をローンチした。
ボー氏は「PAYDAY 2」の成功を受けて,Starbreeze StudiosのCEOに就くが,ウルフ氏はいわゆるバーンアウト症候群となり,半年ほど職場に現れないようなこともあったという。
2015年にウルフ氏は自身の保有株をボー氏に譲渡する形で袂を分かち,5人の仲間を集めて立ち上げたのが10 Chambersというわけだ。ウルフ氏よりも早くStarbreeze Studiosを離れていたヴィクルンド氏も,新会社の創設メンバーに加わっている。
ちなみに,Starbreeze Studiosは「PAYDAY 2」「Brothers: A Tale of Two Sons」,そして「Dead by Daylight」というヒット作を生み出したにもかかわらず,経営危機に陥ったことについては,以前に紹介している(連載第597回)。
「GTFO」は売り切り型であり,DLCやアップデートを無料で配信していることから,10 Chambersの9人目の従業員だったというコミュニケーションマネージャーのロビン・ビヨーケル(Robin Björkell)氏は「収益面ではダメだったけどね」と笑いながら語った。
とはいえ,彼らの底力を見せつけたことは間違いない。2020年10月にはTencentが筆頭株主となるパートナー契約が結ばれており,それが「GTFO」のライブサービスを円滑にしたのも事実だろう。
なお,冒頭のアンデルソン氏のジョークに続けて,ビヨーケル氏は「今なら120 Chambersにすべきだね」と話していた。現在,同社は大所帯となっているが,それは新たなプロジェクトが始動しているからだ。
新しい形のCo-op型ハイストゲームの舞台は新未来
10 Chambersの新作はどのようなゲームになるのか。筆者がウルフ・アンデルソン氏ら開発メンバーと顔を合わせたのは,今年8月に開催されたgamescom 2023でのことだ。まだタイトルさえも分からないが,サイモン・ヴィクルンド氏やロビン・ビヨーケル氏を交えて話をうかがった。
4Gamer:
新たなプロジェクトは大きな規模で進められているようですね。
アンデルソン氏:
しばらく前から,新作の開発チームと「GTFO」のライブチームに分かれて活動しています。我々が新しい人材を雇用する際には,「GTFO」のチームで開発現場や我々の方針に馴染んでから,ナラティブデザイン,グラフィックス,武器やクリーチャーのアートデザインなど,新作の開発チームに異動してもらうという仕組みになっています。
「GTFO」はある意味,我々にとってのプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)でしたが,新プロジェクトに取り掛かる前に,すでにライブゲームが存在するのは良いことだ実感しました。
4Gamer:
その新作とはどのようなゲームなのでしょう。
アンデルソン氏:
まだプロトタイプ,もしくはその前段階に過ぎませんが,着実に開発は進展しています。新作は「GTFO」や「PAYDAY」シリーズ,そして我々が手がけたわけではないですが大きな影響を受けた“Co-op型ゲームのゴッドファーザー”「Left 4 Dead」の血脈をしっかりと受け継いだ作品になります。PvP要素も含まれます。
4Gamer:
どのようなテーマでしょうか。
アンデルソン氏:
「ハイスト(強盗)」ですね。一人称視点のシューターを採用し,ハイストをより多くの人が楽しめるようなアイデアがあります。まだ詳しく話せませんが,既存のCo-op型ゲームにはない世界観になります。
4Gamer:
と言いますと?
アンデルソン氏:
舞台は70年後の未来です。決して予想できない未来ではありませんので,SFとは表現したくありません。「テクノスリラー」と呼ぶべきでしょうね。
皆が宇宙に進出してジェットパックで飛び回っているような未来ではなく,我々の生活の利便性やコミュニケーションの水準が上がっているという程度の風景を思い描いてください。それほど突拍子もない未来像ではないということです。
ヴィクルンド氏:
例えば1930年代の人は,70年後の21世紀に空飛ぶ車が飛び回っているような世界を想像していましたが,実際にはそうなりませんでした。それでも実現に向けてテクノロジーは進化し続けていて,空飛ぶ車も現実的なものに近づいています。
我々の作品では,プレイヤーの皆さんが想像できる範囲の未来を描きつつ,既存のゲームではあまり描かれない世界のハイストを楽しんでもらいたいと思います。
4Gamer:
お話を聞いていると,映画「マイノリティ・リポート」のような世界を連想しました。現代でも未来でも警察権力は一般よりハイテクな機器を使っていますが,銀行強盗が成功する可能性は低いのでしょうか。
アンデルソン氏:
我々の作品が「マイノリティ・リポート」のような世界になるとも,銀行強盗のミッションがあるとも考えないでください(笑)。我々もまだ話せないことがもどかしいですが,その映画では主人公が“抜け穴”を利用するという内容でしたよね。どの世界にも,どのテクノロジーにも抜け穴はありますから,それを利用してハイストを楽しむゲームにしたいですね。
4Gamer:
ハードコア路線は継続して貫く予定ですか。
アンデルソン氏:
「GTFO」では数十分もステルス行動をしていたのに死んでしまうことがあります。そのような無慈悲なゲームを好むプレイヤーもいることは確かですから,さまざまな層にアピールできるように努力します。
4Gamer:
相当な野心作になりそうですが,現在の10 Chambersが抱えている懸念はありますか。
ヴィクルンド氏:
多くのデベロッパが同じ問題を抱えていると思いますが,最適な人材となかなか巡り合えないことですね。若い人にも才能がある人はたくさんいますし,作品に愛着を持ち,オーナーシップを持ってほしいのですが,あまり定着せずに次の機会を求める傾向があるようです。我々も前の会社を飛び出している身ではありますが,120人規模にもなると統制を取るのが難しくなります。
ゲームのテクニカルな部分では,年齢や立場,国籍や文化が違う人が共通の面白さを感じるにはどうすればいいのか。気軽にサーバーに参加して,ほかのプレイヤーと楽しめるようにするにはどうすればいいのか。そしてミッションを正確に理解して,苦痛に感じずプレイしてもらうためには必要なものは何か,といったチャレンジを認識しています。
「GTFO」はまったく逆で,暗闇に放り込まれてとにかくサバイバルするというものでしたが,新プロジェクトとは大きく異なります。
4Gamer:
正式発表はいつ頃になりますか。
ビヨーケル氏:
なるべく早く,としか言えません。我々も早く発表したくてウズウズしているんですが(笑)。
4Gamer:
アンデルソン氏とヴィクルンド氏は縁が深いですが,これまでの経緯を教えていただけますか。
アンデルソン氏:
ええ,同じ高校に通っていましたからね。でも,彼は途中で辞めちゃったんですよ。
ヴィクルンド氏:
1年半ほど通っていましたが,ゲームに関わることをしたくて学校に失望してしまったんです。まだゲームデザインを教えてくれる学校なんてなかったので,独学でやっていたんですが,そのうちにウルフとボーが会社を設立することになったんです。
4Gamer:
卒業後,いきなり会社を起こしたんですか。
アンデルソン氏:
はい,1997年のことですね。社名はGrinでした。最初はウェブデザインなどをやっていましたが,2001年頃にゲームを作るようになり,2006年には「Tom Clancy's Ghost Recon Advanced Warfighter」とその続編を開発するまでになりました。
その後は2009年にカプコンから発売された「バイオニックコマンドー」や,スクウェア・エニックスと提携して「Fortress」というコードネームのゲーム(のちにプロジェクトは消滅)を開発していました。
そのGrinを閉鎖してから,一緒にOverkill Softwareを立ち上げたんです。
ヴィクルンド氏:
最初は資金がなかったから,ほかの会社の地下室を借りて,8人でスタートしたんです。空調もないから,PCの放熱で夏は本当に暑かったし,昼食を温めようと電子レンジを使った途端にビルのブレーカーが落ちてしまったこともあります(笑)。
しかし,そこから生まれたのが「Payday: The Heist」です。
4Gamer:
Payday(給料日)というタイトルはキャッチーですよね。
ヴィクルンド氏:
最初は「Stone Cold」にしようと考えていました。でも,当時人気だったアメリカのプロレスラーに訴えられるかもしれないということで,発表の直前にタイトルを変更を余儀なくされました。
アンデルソン氏:
オフィスに集合して話し合ったものの,なかなか決まらなくて息詰まっていたときに,通路の向こう側のドアから顔を出した誰かが「Payday!」と叫んだんです。顔の半分しか見えなくて,もう誰かも覚えていないくらいですが,結局はそれを採用しました(笑)。
4Gamer:
新作でもキャッチ―なタイトルを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
現在,スウェーデンはゲーム開発の重要なポジションを確立している。その礎を築いたのは,まだ片手で数えられるほどしか開発会社がなかった1990年代から活動を続けてきたベテランたちだ。「GTFO」のアップデートも気になるところだが,Co-op型ゲームに情熱を注ぐ10 Chambersの新たなプロジェクトに期待したい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
GTFO
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