業界動向
Access Accepted第764回:発売時の低評価を覆すゲームが増えてきた気がする件
低評価が続く状況から,頻繁なアップデートを行いコミュニティをサポートしたことで高評価を得た作品といえば,「No Man’s Sky」が挙げられる。また,「サイバーパンク 2077」はリリースから2年8か月を経た2023年7月になって,PC版のSteamでの評価が「非常に好評」になった。長く遊べるゲームが飽和状態にある昨今だが,発売当初の評価を逆転するパターンが,徐々に増えてきているようだ。
いまだにアップデートが続けられている「No Man’s Sky」の成功のレシピ
最近発売されるゲームは,シングルプレイ専用でも頻繁なアップデートによって徐々にゲームプレイやゲーム体験が向上していくことが増えてきた。リリース直後はバグが多い“並”なゲームであっても,コミュニティに支えられる形でゲームが大きく改善するというケースも珍しくない。また,「アーリーアクセス」という未完成なゲームに先行投資することを躊躇するゲーマーも減ってきているように感じる。
もっとも,発売前の期待が高かったり,有名なメーカーであったりするほど,その期待に応えられなかった場合の反動も大きい。その不満は低いレビュー評価やSNSでの辛辣なコメントという形で表面化するケースを何度も見てきた。
そうなると,上層部や投資家のプレッシャーによって次の作品や続編の開発へと社内リソースを切り替えたり,「Lord of the Rings: Gollum」のように,チームごと解散したりするようなこともある。
たった4人でスタートしたプロジェクトだが,開発終了時点でも16人ほどのメンバーしかいなかったHello Gamesは,2016年で最も注目されるスタジオになった。
しかし,発売前の宣伝で利用されていたような巨大なサンドワームや竜脚類風の生物などが生成されることはほとんどなく,どの天体に行っても殺伐とした風景が広がり,似たようなクリーチャーしかいなかったのだ。明確な目的の提示もなく,オープン過ぎるゲームデザインが間延びしたゲームプレイとなってしまったことや,インディゲームとしては今でも珍しいフルプライス(59.99ドル)という価格も影響して,大きな批判を受けた。
その顛末は,Hello Gamesのフロントマンとしてさらされ続けたショーン・マレー(Sean Murray)氏による講演「[GDC 2019]「No Man’s Sky」を生み出したHello Gamesのショーン・マレー氏が明かす,大炎上を乗り切ったプログラマーらしい思考法」に詳しく語られているとおりだ。
「毒気のあるゲーマー達のうち80〜90%はゲームを購入してさえいなかった」というデータ的事実はともかく,「なぜ自分はゲームを作るのか」という自問に対して,「自分のゲームを楽しんでいる人を見ることが好きだから」という信念によって,その後も地道な改良やアップデートを続けている。
「Destiny 2」は2度目の起死回生を起こせるか?
そうしたHello Gamesの活動については,当連載「第684回:地の底から這い上がってきたゲーム。開発者の愛とファンの期待」でも触れているが,「No Man’ Sky」の凄いところは,ローンチから7年,名前が付けられているものだけで37作にもなるDLCがリリースされているが,すべて無料なうえにゲーム内でのアイテム課金も行われていないことだ。
Nintendo Switch版やMac版をリリースすることで販路を広げることはあれど,定期的なコンテンツアップデートを真摯に続けることで,自分たちの創作物を“生きたゲーム”として扱っている。こいうった職人気質な開発者達を応援しているファンも少なくないだろう。
同じような起死回生は,Bungieの「Destiny 2」でもあった。「[GDC 2022]「Destiny 2」が不振からカムバックできた背景には,ゲーム開発に関する根本的な意識改革があった」で,Bungieのゼネラルマネージャーであるジャスティン・トゥルーマン(Justin Truman)氏によって解説されているように,「Destiny 2」は2018年2月にローンチしてから15週間ほど経過した時期を境に,WAU(週間アクティブユーザー数)が減り始めたという。
評価は”悪評“と呼ばれるようなものではなかったが,「あと5週間もこの状態が続けば,サービスを終了する決断をしなければならない」というほどだったそうだ。
Bungieは,Hello Gamesの10倍にもなる1550人という規模の組織であり,経営に対する決断も迅速でなければならなかったはずだ。結果として,“ライブゲームの運営”という意識改革を社内で行うことで乗り切り,Sony Interactive Entertainmentに買収されるほど,その経営方針が注目されることになった。
「Destiny 2」については後日譚があり,2023年3月の「光の終焉」(Lightfall)のリリース以降,アクティブプレイヤー数が急激に下降線をたどり毎月10%以上の減少を続けている。サーバーの不安定性というテクニカルな問題がその背景にあるようだが,6月末に公開された公式ブログエントリーで,近日中に修正を行うとともに,今後のロードマップを公開する予定と発表された。その手腕が再び試されることになりそうだ。
大型作品から個人プロジェクトまで,諦めない開発者の態度
また,2020年12月にリリースされたCD PROJEKT REDの「サイバーパンク 2077」も,テクニカルな問題でローンチ当初から揺れた作品だ。「ウィッチャー」シリーズの開発チームの新作というだけあって,E3やgamescomなどのイベントを中心にした2年以上にわたるプロモーションでコミュニティは盛り上がったが,PlayStation 4やXbox Oneの旧世代版は不具合で溢れたままリリースされ,平均以下の評価を得た。さらに,リリース前から社内の雇用問題が同時期に発覚し,株価を大きく落とすことになる。
CD PROJEKTの設立者はローンチからの数日間で10億ドルもの資産を失うことがBloombergなどで報じられるなど,ゲーム業界内外での評判も低下させた。
そんな「サイバーパンク 2077」は,発売から2年8か月が経過した今月(2023年7月),Steamでのレビュー評価が「非常に好評」に到達した。もちろん,再び下がるかもしれないが,90%以上がポジティブな評価をつけた「圧倒的に好評」まで進化する可能性も十分にあるだろう。筆者も先日,久々にアクセスしてみたが,現時点においても現世代の最高峰作品の1つであるのは間違いない。
「No Man’s Sky」「Destiny 2」,そして「サイバーパンク 2077」ほど有名なゲームではないが,2020年11月にリリースされた,イギリスのSteel Arts SoftwareによるアクションADV「Grey Skies: A War of the Worlds Story」は,H.G.ウェルズのSF小説「宇宙戦争」をテーマにしながらも発売当初のセールスが低迷。リリース後は何度かホットフィックスがリリースされるも最後のアップデートは2021年1月と,ほぼ“忘れられた作品”となっていた。その評価は,111人から「やや不評」という程度だ。
それが7月16日になって突然,ソロデベロッパであるネイサン・スティードハウス(Nathan Steedhouse)氏によるメッセージがSteamニュースに公開された。スティードハウス氏は,これまで「ゲーム開発を続けられない個人的な理由」によってアップデートもできない状態であったことを謝罪し,新たなゲームエンジンでのリマスター版の開発を宣言。現行版を購入済みの人は無料でアップグレードされると発表した。
ローンチ当初の不評理由は様々だが,ゲーマーの期待を裏切るような内容で完成度が著しく低いことが大きな要因になる傾向がある。そこからどのように自分の作品と向き合い,ライブサービスとして向上させていくのか,どんな修正を加えて顧客を納得させるかというという開発者の姿勢によって,そのゲームが多くの人の心に刻まれるものになるのかどうかが変わってくる。
大量のゲームが市場に投下されるだけでなく,長く遊べるゲームが飽和状態にある昨今だが,こうした開発者の愛によって評価が好転していくパターンも,徐々に増えてきている。最初から好評得るに越したことはないが,一度失敗しても,そこから這い上がってくる開発者達には,すなおにエールを送りたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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