業界動向
Access Accepted第615回:ゲーム業界の最重要イベント,「E3 2019」を振り返る
今年で25回目を迎えたゲームの祭典,「E3 2019」が2019年6月13日に幕を閉じた。怒濤の新情報ラッシュだったので,それらをまだ整理し切れていない人も少なくないかもしれない。ソニー・インタラクティブエンタテインメントがE3に参加しなかったのは残念だったが,大きな話題を集めたゲームも多く,20年以上E3の取材を続けている記者としても,かなり楽しめたイベントであり,いつも以上に取材にも力が入った。今週は,そんなE3 2019を振り返ってみたい。
次回のE3 2020も,ロサンゼルスで開催
2019年6月11日〜13日,カリフォルニア州ロサンゼルスのコンベンションセンターでゲームイベント「E3 2019」が開催された。今年で25回目を迎えるE3だが,本連載でも何度かお伝えしたように,第1回から参加しているソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,ソニー)が参加を見合わせるという波乱の展開になった。存在価値の低下が毎年話題になるものの,それでも「北米ゲーム業界あげての祭典」だと見られていたE3に影を落とす出来事であり,華やかさの一部が失われてしまったことは間違いない。
「E3 2019」公式サイト
4Gamer「E3 2019」記事一覧
イベントを主催する業界団体ESA(Electronic Software Association)の発表によれば,E3 2019の来場者数は6万6100人で,昨年に比べて3000人ほど減ったという。しかし,参加した筆者の感覚はいささか異なる。
確かに,「ボーダーランズ 3」のプレイアブルデモや,「サイバーパンク2077」のシアターには長い行列ができていたが,イベント3日目の13日ともなると,エキスポフロアには閑古鳥が鳴いており,個人的には発表された数字より少ないのではないかという気がする。
昨年に引き続き,一般参加が認められた今年のE3だが,ゲーマー視点で見れば「E3の雰囲気を味わう」以外にそれほどメリットがないイベントの対価が,3日間で249ドルというのは法外な値段だろう。ESAに協賛するパブリッシャを見ても,ソニーやElectronic Arts,Activision Blizzardがフロアにブースを出展していないことから分かるとおり,E3の現状には必ずしも満足していない。しかも,1970年代に建設されたコンベンションセンターの老朽化も深刻になってきた。
何度も改修が行われてはいるが,それでもいろいろ無理が来ているようで,今年は筆者が「サイバーパンク2077」のデモを見ている最中に会場の電源が切れるという事故も起きている。
そのため,会場の変更を示唆したこともあるESAと,コンベンションセンターを保有するロサンゼルス市との関係はぎくしゃくしているのだが,使用契約は更新され続けており,本来なら今年で切れる5年契約が延長されることになったという。E3 2019ではロサンゼルス市長を呼んでテープカットが行われ,2020年は再びここを舞台に,6月9日から11日までの開催が発表された。来年ソニーがカムバックするかはどうかは分からないが,Microsoftの新型ハードウェア「Project Scarlett」 が話題になるのは間違いなく,ゲーム業界にとってのビッグイヤーになるはずだ。気がかりは多くても,来年のE3も楽しみではある。
E3 2019で感じた日本の底力
さて,E3 2019で気づいたことが1つある。正確に言えば,ここ数年,なんとなくそうじゃないかという気がしていたのだが,海外メーカーの広報やゲーム開発者に4Gamerを知っている人が増えたのだ。4Gamerに英語版はないし(希に英語の記事はある),取材に協力してくれたメーカーに記事リンクをメールしたりはするが,今のところ記事を翻訳して送るまではやっていない。
ところが最近は自動翻訳の性能がかなり向上し,ちゃんと読んでくれている海外メーカーの人も少なくないようだ。中には自分の名前をエゴサーチして,4Gamerの記事に掲載された自分の写真を見つけたという人もいて,「名前をカタカナにしてくれてありがとう! 必死で書き写しているうちに,日本語の勉強を始めちゃいました」などとも言われたりした。
そのおかげで取材中,事前のアポイントメントがなかったのに融通を利かせてくれる場合が増え,取材がしやすくなった印象だ。3日間という限られたスケジュールの中,メーカーが多数のメディアの取材時間を調整するのは至難の業であり,これまで何度も閉じられたドアの前で涙を呑んできたのだが,今年はいわゆる「独占取材」に成功することが少なくなかった。
海外メーカーがそこまで親切にしてくれるのは,日本のゲーム市場が見直されてきたからだろう。海外メーカーの日本オフィスが日本語版をリリースしたり,日本のパブリッシャがインディーズゲームの販売権を購入したりと活発に活動し,それをゲーム翻訳者達が下支えすることで,「規模の小ささ」を理由に海外パブリッシャに軽視されがちだった日本市場にも再び注目が集まっているのではないだろうか。
さらに,日本のゲーマー達が海外ゲームの情報を積極的に仕入れてSNSでコメントしたり,ゲーム販売サイトのウィッシュリストに入れたりすることも,海外メーカーは気づいているはずだ。
日本のゲーム市場が右肩上がりの急成長を続けているとは残念ながら言えず,見直されていると言ってもまだ限定的かもしれないが,例えばSteamなどでリリースされる新作ソフトが発売時点で日本語に対応しているということもずいぶん増えた印象がある。日本の大手パブリッシャやデベロッパから日本生まれのさまざまな新作が発表されて大きく盛り上がったのも事実で,こうした傾向が今後も続いてくれると嬉しい話だ。
さて,筆者の振り返りはこれくらいにして,最後に,発表されたデータと共にE3 2019を振り返ってみたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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