業界動向
Access Accepted第575回:Facebookが新型VRデバイス「Half Dome」を発表
2018年5月に開催されたFacebookの開発者向けカンファレンスは,いろいろな意味で注目に値する内容だった。ゲーマーとは直接関係のない話題がほとんどだったが,そんな中,見落としてしまいそうなほど軽い感じで公開されたのが,Oculus VRの「Rift」に続くVR対応ヘッドマウントディスプレイのプロトタイプ,「Half Dome」だった。今週は,Facebookが開発を進める未来のVR技術を紹介しよう。
さまざまな新機能が発表された,Facebookの開発者向けカンファレンス
しかし,公聴会の直後からFacebookの株価は上昇に転じ,「F8」での新発表も受けて再び堅調に伸びてきている。ザッカーバーグ氏もそのことに自信を持ったのか,基調講演に集まった開発者に向けて,「我々は,これからも開発を続けていかなければならない」という力強いメッセージを投げかけた。
「F8」でFacebookは,設立当初から模索してきたという「デート機能」の追加を発表した。既存のプロフィールとは別にデート向けのプロフィールを作ることで,家族や友人に恋人募集中であることを知られることなく,新たな出会いを求めることができるようになった。また,過去にアクセスしたサイトやサービスなどのデータを完全消去できる「履歴のクリア」,そして「WhatsApp」のグループ電話機能や,「Instagram」でのARカメラ機能,Googleなど他企業とAIデータを共有する「PyTorch 2.0」,さらにFacebookを使った災害支援や献血場所のサーチなど,さまざまな新機能を明らかにした。
我々ゲーマーにとって気になるニュースとしては,5月2日に掲載した記事でもお伝えしたように,スタンドアロンのVR対応ヘッドマウントディスプレイ「Oculus Go」の販売が,日本を含む主要地域で開始されたことが挙げられるだろう。
発売されたのは,頭部の動きを検出する3軸(3DoF)のヘッドトラッキング機能と,コントローラの動きを同じく3軸で検出するトラッキング機能だけが用意された廉価なモデルで,「Rift」のようなハイエンド製品ではなく,「Gear VR」などと同じターゲット層を狙った製品となる。
スタンドアロンの手軽さと,32GBモデルで2万3800円(64GBモデルは2万9800円)という,手に入れやすい価格帯で,VRデバイスのエントリーモデルとして市場の一角を占めることになるはずだ。
もっとも,正直な話,本連載の読者なら簡易型の「Oculus Go」より,2019年以降にリリースされると言われていた次世代ハイエンドモデルの「Santa Cruz」(コードネーム)のほうが気になるところだろう。コードレスな環境でどのようなVRタイトルがプレイできるのか,また,一体型になることでの重量増加やフィット感,さらには安全性などを,Facebookがどのようなプロダクトとして仕上げてくるのか,非常に興味深い。
とはいえ,今回のイベントに登場したのは意外にも「Santa Cruz」ではなく,まったく新しいVRデバイスのプロトタイプだった。
VR HMDのプロトタイプ「Half Dome」がスゴかった
「F8」には,ジョン・カーマック(John Carmack)氏やマイケル・アブラッシュ(Michael Abrash)氏,あるいはネイト・ミッチェル(Nate Mitchell)氏など,Oculus VRのキーパーソンが登壇することはなかった。その代わりに大きな発表を行ったのが,Oculus VRの頭脳中枢であるCore Tech部門のプロダクト管理責任者として,2017年10月にFacebook本部から移籍したばかりのマリア・フェルナンド・グアハルド(Maria Fernandez Guajardo)氏だ。
グアハルド氏は,「VRをよりナチュラルに表現するためには,2mよりも近い対象にもフォーカスが合うようにしなければならない」と発言した。現在のVR向けソフトウェアのほとんどがオブジェクトを2mあたりに配置しており,それより近くなると焦点を合わせづらくなるのだという。
そして,グアハルド氏がその発言に続いて披露したのが,現在Oculus VRが開発中の次世代VR対応ヘッドマウントディスプレイのプロトタイプだった。前面にセンサーのようなものが11個ついているが,形状そのものは「Oculus Go」に似ており,おそらくワイヤレスデバイスだろう。その名称は開発が伝えられていた「Santa Cruz」ではなく,「Half Dome」(ハーフドーム)だった。
「Half Dome」にはOculus VRの最新技術が搭載されている。その1つが,「Varifocal」と呼ばれる仕掛けだ。スクリーンを前後に動かすメカニズムが内部に装備され,利用者がどのオブジェクトにフォーカスしているのかをセンサーで認識して,自動的にスクリーンの位置を変え焦点を合わせやすくするという。最近の機器では,落下に対して脆く,調整の難しいメカニカルパーツは敬遠される傾向にあるが,そうしたトレンドに逆行するユニークな発想で,グアハルド氏は「現時点で振動や稼働音はまったく気にならない」と自信を見せていた。
また,VR体験の向上に欠かせないのが視野の広さだ。人間の視界の範囲が180〜200°程度であるのに対して,現在の単一パネル式VR HMDは100〜110°程度しか表示できない。視野の端をじっくり見るわけではないものの,現在のVRデバイスでは,その視角を超える部分は黒くなっており,それを不自然に感じる人もいるかもしれない。
しかし,「Half Dome」では140°までの視野を可能にしており,グアハルド氏は「30°の違いは明白に感じられる」と話す。採用された技術の詳細は語られなかったものの,「Rift」や「Oculus Go」と同じようなサイズで,広い視野をどのように実現しているのか,気になるところだ。
さらにグアハルド氏は,新しいハンドトラッキングシステムを紹介した。Oculus VRが「Deep Marker Lebeling」と呼んでいるこのシステムは,手のひらや指のすべての関節にマーカーを付け,考えられる限りのさまざまな手の動きを収録して,それをデータベース化するという手法だ。
使用者の手の動きをカメラでトラッキングし,あらかじめ用意したデータを参照することで,VR世界における動きをより正確に表現する。さらに,予想外の手の動きにも対応するためにAIを使い,例えばオルゴールの蓋を開けて側面のねじを回すなどの非常に複雑な指の動きを,スムーズに表現することが可能になる。これは,ハードウェアというよりは,ソフトウェア的なイノベーションと言えるだろう。
別の基調講演では,上記に類似した技術を活用していると思われるユーザーの3Dアバター映像が公開された。現時点ではカートゥーン風のキャラクターが精いっぱいだが,ビデオチャットと変わらないほどのレベルになる日は,それほど遠くないのかもしれないと思わせる内容でもあり,AR/VRデバイスや関連技術の目覚ましい進歩を感じさせる。
果たして「Half Dome」は無事に製品化されることになるのだろうか。革新を続けるFacebookとOculus VRから,今後も目を離せないようだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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