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印刷2018/05/14 12:00

業界動向

Access Accepted第575回:Facebookが新型VRデバイス「Half Dome」を発表

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 2018年5月に開催されたFacebookの開発者向けカンファレンスは,いろいろな意味で注目に値する内容だった。ゲーマーとは直接関係のない話題がほとんどだったが,そんな中,見落としてしまいそうなほど軽い感じで公開されたのが,Oculus VRの「Rift」に続くVR対応ヘッドマウントディスプレイのプロトタイプ,「Half Dome」だった。今週は,Facebookが開発を進める未来のVR技術を紹介しよう。


さまざまな新機能が発表された,Facebookの開発者向けカンファレンス


個人情報漏洩の問題では,議会の公聴会だけでなく,ユーザーによる反対運動にまで発展したFacebook。今回のイベントでマーク・ザッカーバーグ氏は,プライバシー保護に重点を置いた「履歴のクリア」機能を披露している
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 2018年5月1日と2日,カリフォルニア州サンノゼにあるSan Jose McEnery Convention Centerで,Facebookの開発者向けカンファレンス「Facebook Developer Conference」(以下,「F8」)が開催された。現在,個人情報の漏洩問題の渦中にあるFacebook。4月には会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏が米議会の公聴会に呼ばれ,2日にわたって議員達の質問攻めにあったことは,本連載の第572回「Facebookのユーザー情報流出に見る,デジタル時代のプライバシー保護」で紹介したとおりだ。

 しかし,公聴会の直後からFacebookの株価は上昇に転じ,「F8」での新発表も受けて再び堅調に伸びてきている。ザッカーバーグ氏もそのことに自信を持ったのか,基調講演に集まった開発者に向けて,「我々は,これからも開発を続けていかなければならない」という力強いメッセージを投げかけた。

 「F8」でFacebookは,設立当初から模索してきたという「デート機能」の追加を発表した。既存のプロフィールとは別にデート向けのプロフィールを作ることで,家族や友人に恋人募集中であることを知られることなく,新たな出会いを求めることができるようになった。また,過去にアクセスしたサイトやサービスなどのデータを完全消去できる「履歴のクリア」,そして「WhatsApp」のグループ電話機能や,「Instagram」でのARカメラ機能,Googleなど他企業とAIデータを共有する「PyTorch 2.0」,さらにFacebookを使った災害支援や献血場所のサーチなど,さまざまな新機能を明らかにした。

 我々ゲーマーにとって気になるニュースとしては,5月2日に掲載した記事でもお伝えしたように,スタンドアロンのVR対応ヘッドマウントディスプレイ「Oculus Go」の販売が,日本を含む主要地域で開始されたことが挙げられるだろう。
 発売されたのは,頭部の動きを検出する3軸(3DoF)のヘッドトラッキング機能と,コントローラの動きを同じく3軸で検出するトラッキング機能だけが用意された廉価なモデルで,「Rift」のようなハイエンド製品ではなく,「Gear VR」などと同じターゲット層を狙った製品となる。
 スタンドアロンの手軽さと,32GBモデルで2万3800円(64GBモデルは2万9800円)という,手に入れやすい価格帯で,VRデバイスのエントリーモデルとして市場の一角を占めることになるはずだ。

2017年の「Facebook Developer Conference」でザッカーバーグ氏は,10年後の2026年にはARデバイスが普通の眼鏡と変わらないほど進化し,スマートフォンはすでに姿を消しているかもしれないというビジョンを披露した
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 もっとも,正直な話,本連載の読者なら簡易型の「Oculus Go」より,2019年以降にリリースされると言われていた次世代ハイエンドモデルの「Santa Cruz」(コードネーム)のほうが気になるところだろう。コードレスな環境でどのようなVRタイトルがプレイできるのか,また,一体型になることでの重量増加やフィット感,さらには安全性などを,Facebookがどのようなプロダクトとして仕上げてくるのか,非常に興味深い。
 とはいえ,今回のイベントに登場したのは意外にも「Santa Cruz」ではなく,まったく新しいVRデバイスのプロトタイプだった。


VR HMDのプロトタイプ「Half Dome」がスゴかった


 「F8」には,ジョン・カーマック(John Carmack)氏マイケル・アブラッシュ(Michael Abrash)氏,あるいはネイト・ミッチェル(Nate Mitchell)氏など,Oculus VRのキーパーソンが登壇することはなかった。その代わりに大きな発表を行ったのが,Oculus VRの頭脳中枢であるCore Tech部門のプロダクト管理責任者として,2017年10月にFacebook本部から移籍したばかりのマリア・フェルナンド・グアハルド(Maria Fernandez Guajardo)氏だ。

 グアハルド氏は,「VRをよりナチュラルに表現するためには,2mよりも近い対象にもフォーカスが合うようにしなければならない」と発言した。現在のVR向けソフトウェアのほとんどがオブジェクトを2mあたりに配置しており,それより近くなると焦点を合わせづらくなるのだという。

 そして,グアハルド氏がその発言に続いて披露したのが,現在Oculus VRが開発中の次世代VR対応ヘッドマウントディスプレイのプロトタイプだった。前面にセンサーのようなものが11個ついているが,形状そのものは「Oculus Go」に似ており,おそらくワイヤレスデバイスだろう。その名称は開発が伝えられていた「Santa Cruz」ではなく,「Half Dome」(ハーフドーム)だった。

「F8」で公開されたOculus VRの新型プロトタイプ「Half Dome」。「Santa Cruz」と同じコードレスのデバイスだと思われるが,驚くような新技術が投入されている
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 「Half Dome」にはOculus VRの最新技術が搭載されている。その1つが,「Varifocal」と呼ばれる仕掛けだ。スクリーンを前後に動かすメカニズムが内部に装備され,利用者がどのオブジェクトにフォーカスしているのかをセンサーで認識して,自動的にスクリーンの位置を変え焦点を合わせやすくするという。最近の機器では,落下に対して脆く,調整の難しいメカニカルパーツは敬遠される傾向にあるが,そうしたトレンドに逆行するユニークな発想で,グアハルド氏は「現時点で振動や稼働音はまったく気にならない」と自信を見せていた。

現在のVRタイトルでは,近くのものを手に取ろうとしたときに,自分の手がヒュン! と伸びるような感じを覚えたり,近くのオブジェクトが完全にぼやけている場合があったりするが,Oculus VRが開発した新技術,「Varifocal」がその問題を解決するという
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「Varifocal」の基本技術である可動式のスクリーン。メカニカルパーツが敬遠されがちな時代においては,思い切った取り組みだ
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 また,VR体験の向上に欠かせないのが視野の広さだ。人間の視界の範囲が180〜200°程度であるのに対して,現在の単一パネル式VR HMDは100〜110°程度しか表示できない。視野の端をじっくり見るわけではないものの,現在のVRデバイスでは,その視角を超える部分は黒くなっており,それを不自然に感じる人もいるかもしれない。
 しかし,「Half Dome」では140°までの視野を可能にしており,グアハルド氏は「30°の違いは明白に感じられる」と話す。採用された技術の詳細は語られなかったものの,「Rift」や「Oculus Go」と同じようなサイズで,広い視野をどのように実現しているのか,気になるところだ。

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 さらにグアハルド氏は,新しいハンドトラッキングシステムを紹介した。Oculus VRが「Deep Marker Lebeling」と呼んでいるこのシステムは,手のひらや指のすべての関節にマーカーを付け,考えられる限りのさまざまな手の動きを収録して,それをデータベース化するという手法だ。
 使用者の手の動きをカメラでトラッキングし,あらかじめ用意したデータを参照することで,VR世界における動きをより正確に表現する。さらに,予想外の手の動きにも対応するためにAIを使い,例えばオルゴールの蓋を開けて側面のねじを回すなどの非常に複雑な指の動きを,スムーズに表現することが可能になる。これは,ハードウェアというよりは,ソフトウェア的なイノベーションと言えるだろう。

まるで実写かと思えるような3Dアバターでコミュニケーションできる日は,それほど遠くないのかもしれない
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 別の基調講演では,上記に類似した技術を活用していると思われるユーザーの3Dアバター映像が公開された。現時点ではカートゥーン風のキャラクターが精いっぱいだが,ビデオチャットと変わらないほどのレベルになる日は,それほど遠くないのかもしれないと思わせる内容でもあり,AR/VRデバイスや関連技術の目覚ましい進歩を感じさせる。
 果たして「Half Dome」は無事に製品化されることになるのだろうか。革新を続けるFacebookとOculus VRから,今後も目を離せないようだ。

ゲームとは直接関係ないものの,FacebookおよびOculus VRの一押し最新技術っぽかったのが,AIを使ってポイントクラウドの解析を行う「3D Reconstruction」だ。詳細は分からないものの,1枚の写真を元に,その情景がVR世界の中で簡単に再現されるというものらしい。個人的には,今はもうなくなってしまった,生家の写真をもっと残しておけば良かったと思っている
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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