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剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第108回:八岐大蛇
竜,あるいは龍に関する伝承は世界各地に残されているが,日本にもさまざまな龍伝承がある。その中でも,「日本書紀」や「古事記」に登場する八岐大蛇/八俣遠呂智は,もっとも有名な龍といえるだろう(厳密には龍と呼べないかもしれないが)。
八岐大蛇の一般的なイメージといえば,八つの頭,八つの尾,真紅の目を持つ大蛇である。苔むした身体は八つの峰,八つの谷に相当するほどだったという言い伝えもあるので,その大きさは推して知るべしといったところか。八岐大蛇が登場する際には,暗雲や雨雲を伴うとの記述もあるので,ひょっとしたら竜神のように,天候を操る能力も持っていたのかもしれない。また口からは毒(ブレス?)を吐くとする説もあり,多頭龍で毒を吐くという設定は,ギリシャ神話に登場するヒドラに似ていて興味深いものがある。
日本をテーマにしたRPGであれば,鵺(ぬえ),鬼,天狗,河童,九尾の狐などと並んでメジャーな存在だろう。毒や炎などのさまざまなブレスを吐き,ボスクラスのモンスターとして扱われることも多い。
とくに弱点はないと思われるが,逸話の中には酒を飲ませて酔わせ,寝ている間に倒したというものもあるので,エンカウント方式の戦闘では難しいが,ゲーム内のイベントとして八岐大蛇と戦うようなシチュエーションに出会ったなら,まずは酒を用意しておくことで,ラクに攻略できるかもしれない。
八岐大蛇に関する有名なエピソードといえば,須佐之男命(スサノオノミコト)との戦いは欠かすことができない。
粗野だったことから高天原を追放された須佐之男命が地上に降りると,出雲の国の斐伊川のほとりで悲しみに暮れる足名椎(アシナヅチ)と手名椎(テナヅチ)という老夫婦に出会った。彼らの話ではこれまで,生け贄として7人の娘を八岐大蛇に捧げており,今回は最後に残った奇稲田姫(くしなだひめ)の番だという。須佐之男命は奇稲田姫を妻にもらうという条件で,八岐大蛇を倒すことを約束すると,強い酒の入った酒樽を用意して待ちかまえた。すると現れた八岐大蛇は,酒樽の酒を飲み干して泥酔してしまったのだ。そして須佐之男命は,十握剣(とつかのつるぎ)を振るって八岐大蛇を退治したという。
なお,しっぽを斬り落とそうとした際に,十握剣が何か硬いものに当たって刃が欠けてしまった。不思議に思った須佐之男命が尾を調べると,そこから一振りの剣が出てきたという。そのとき天が曇っていたので,須佐之男命はこの剣に天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)と命名したという。そして,これがのちに日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の手に渡って草薙の剣と改名され,最終的には天皇家の三種の神器の一つになるのだ。
八岐大蛇の正体については,一般的な龍と同じく嵐,土砂崩れ,水害などの荒ぶる自然現象をモンスター化したものといわれることが多い。そのほかには,大和朝廷と出雲地方の民族との戦いを象徴しているという説もある。
上でも説明したように,十握剣で八岐大蛇の尾に斬りつけたとき,(尾の中にあった)天叢雲剣に当たって十握剣の刃が欠けているが,これは十握剣が大和朝廷の青銅器を表し,天叢雲剣は出雲の民が鉄器を使っていたことを示しているというのだ。さらに須佐之男命が八岐大蛇を倒して,天叢雲剣を手に入れたことは,大和朝廷が出雲地方を平定し,その文化を吸収したことを示しているというのである。
英雄と怪物の戦いに,純粋に心躍らせるのもよいが,歴史の表裏を考慮しつつ逸話を読み解いてみると,また違った味わいが楽しめるのではないだろうか。
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