連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第103回:ガルーダ(Garuda)
日本におけるインド神話の認知度は,それほど高いとはいえないが,それでも破壊神シヴァや維持/発展の神ヴィシュヌ,創造神ブラフマー,像顔の商業神ガネーシャといった神々の名前くらいは聞いたことがあるだろう。また,ゲームにしばしば登場する蛇の怪物であるナーガも,インド神話を起源とするモンスターである。
今回は,そんなインド神話出身のモンスターとしては比較的メジャーで,ヴィシュヌ神の乗り物だったり,日本に伝わってあるモノになったといわれるガルーダ(Garuda)を紹介してみよう。
インド神話におけるガルーダは,鳥類の王ともいうべき存在。ゲームなどでは鳥形のモンスターとして描かれがちだが,鳥の頭を持ち,背中に翼を備えたヒト型で描かれることも多い。色については諸説あるが,全身が金色に輝いているという説が多く,金翅鳥(こんしちょう)や,美しい翼を持つ者という意味のスパルナ(Suparna)と呼ばれることもある(赤い翼を持つともいわれている)。
ガルーダはかなり強い力を持っているらしく,神話では,ナーガ達に捕らわれた母親のために天界に乗り込み,幾多の神々を打ち倒したり,罠を切り抜けたりしたという(詳しくは後述)。最終的にはその勇気を神に認められて,母親を救出し,さらにいくつかの要求を通している。このエピソードを見る限り,ガルーダの戦闘能力は極めて高そうだ。
なおガルーダは,ドラゴンクエストシリーズやファイナルファンタジーシリーズなど,意外と多くのRPGに登場している。ちょっと変わったところでは,MMORPG「TANTRA」に,ガルーダと呼ばれるクラスが存在する。
インド神話によれば,ガルーダとナーガ族はライバル関係にあるとされている。神話では,ガルーダの母ヴィナター(Vinata)とナーガ族の母であるカドゥルーが,「敗者は勝者のしもべとなる」というルールで,太陽を牽引する馬ウッチャイヒシュラヴァス(Uccaihsravas)の色を当てる賭けをしている。
実際,ウッチャイヒシュラヴァスは白馬であり,ヴィナターは全身が白いと宣言したのだが,カドゥルーはウッチャイヒシュラヴァスの尾に蛇を紛れ込ませるという不正を行ったうえで,「体は白いが尾は黒い」と答えた。結果,ヴィナターはカドゥルーの下僕となってしまったのだ。
それから500年が経過し,ヴィナターにはガルーダという子供が誕生する。成長したガルーダは,母親の解放条件についてナーガ達に交渉をした。ナーガ達は,神々から不死の霊薬アムリタを奪ってくれば母親を解放してやろうと言い,ガルーダはこの挑戦を受けることにした。
ガルーダは天界に行くと,多くの神々と戦った。風神ヴァーユ(Vayu)の手勢を退け,雷神インドラ(Indra)との戦いでも勝利したうえ,彼と友情を結んだとされる。
アムリタの番をしていたのは,見るものすべてを燃やし尽くすという二匹の蛇だったが,ガルーダは風を巻き起こして蛇達の視界を奪い,撃破。見事アムリタを手にしたガルーダを,最高神の一人ヴィシュヌは高く評価して,ヴァーハナ(騎乗動物)にならないかと提案した。ガルーダはこれを受け入れ,ヴィシュヌからさまざまな恩恵を得た。ちなみに天界の大冒険でガルーダが得たものは,数々の勝利,不死の能力,不死の霊薬アムリタ,そしてナーガを食べてもいいという権利だった。
ガルーダはアムリタを持ってナーガのもとへと向かい,母親を解放してもらうと,アムリタには特殊な飲み方が必要だとウソを教え,飲み方に注文をつけた。そしてウソとは知らないナーガがその準備をしている間に,どこからともなく雷帝インドラが現れ,アムリタを手に天界へと帰ってしまった。ナーガが気がついた時には,アムリタはなくなっていたのである。こうしてガルーダとナーガのライバル関係は深まり,未来永劫争うことになるのだ。
さて最後にちょっとだけ興味深い話を。ガルーダはインド神話だけではなく,仏教圏にも伝わって活躍しているのだ。仏教では仏法を守護する八部衆の一人,迦楼羅(かるら)という神がいるが,このルーツはガルーダだといわれている。一説によれば,こうしたイメージが日本でさらに変化し,カラス天狗になったのではとも考えられているのだ。たしかに,ヒト型でクチバシを持ち,背中に翼を生やし,風を巻き起こす姿は天狗そのものである。
|
- この記事のURL: