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AMD,グラフィックス統合チップセット「AMD 690」シリーズを発表
■「AMD」と「ATI Radeon」
■ダブルブランドを持つAMD 690シリーズ
これはもともとATI時代に「RS690」という開発コードネームで呼ばれていたもの。RS690をベースとした製品としては,Intel製CPU向けの「ATI Radeon Xpress 1250(for Intel)」というIGP(Integrated Graphics Processor≒グラフィックス機能統合ノースブリッジ)がすでに発表されているが,AMDによると,AMD 690シリーズにおいてIGPという呼称は用いられず,あくまでチップセットという扱いになるとのことである。
ちなみにATI Radeon Xpress 1250(for Intel)とAMD 690Gの違いは,メモリコントローラとHyperTransportの有無で,グラフィックス機能自体は変わらない。UMAの処理に当たってCPUを介さないぶんだけ,前者のほうがパフォーマンスは高いようだが。
さてAMD 690シリーズには,デジタルYCbCr&RGB出力(HDMI,最大1920×1080ドット)およびデジタル/アナログRGB出力(DVI-I,最大2560×1600ドット)をサポートする「AMD 690G」と,デジタルディスプレイ/ビデオ出力をサポートしないローコスト版「AMD 690V」の,2モデルが用意される。両者の違いはこの1点のみで,そのほかの性能や機能はまったく同じである。
というわけで,AMD 690シリーズのブロックダイアグラムを見てみよう。
先ほど述べたとおり,GPUとしての仕様は共通で,ピクセルシェーダユニット数が4基,頂点シェーダユニット数は0基という構成。動作クロックは400MHzである。ATI Radeon X700は順番に8基,6基,400MHzだったので,動作クロック以外はずいぶんとグレードダウンした印象を受ける。
組み合わせられるディスプレイパイプラインは,ATIブランドの動画再生変換プラットフォーム「Avivo Technology」用。詳細は同技術のレビュー記事を参照してほしいが,簡単にまとめるなら,動画のデコードやエンコード,動画表示のためのいわゆるポストプロセスをGPU側で行い,CPU負荷を低減すると同時に,品質の高い動作再生環境を提供しようというものだ。
また,ディスプレイコントローラを2組内蔵し,標準でデュアルディスプレイ出力をサポートするのも,AMD 690シリーズの特徴だ。さらに,外部PCI Express x16スロットなどにグラフィックスカードを別途用意すれば,クアッドディスプレイ出力もサポートできるという。ただし,4画面同時出力にはBIOS側の対応が必要とのことで,換言すれば,マザーボード側のサポートが必須となる。
■HDMIサポートのため,AMD 690Gにサウンド機能を内蔵
■サウスブリッジは「ATI SB600」
HDMIでは著作権保護されたコンテンツのビデオとサウンドを1本のケーブルで出力するようになっている。だが,これまでオンボードサウンド機能は,これまでサウスブリッジ側に用意されるのが常だったため,「ビデオはノースブリッジから,サウンドはサウスブリッジから」にしてしまうと,HDMI出力時に,ブリッジ間のバスなどへ音声データを流さざるを得ず,完全なHDCP(=著作権保護)が難しい。
この点AMD 690Gでは,サウンド周りの機能もノースブリッジに内蔵するため,この問題を回避できるというわけだ。今のところ,競合他社でこの技術を実装したチップセットは存在しないので,(ゲームとはそれほど関係ないが)HDMI出力を利用したい場合に,ビデオとサウンドのHDCPへ完全に対応したAMD 690Gは非常に価値がある。
もちろんサウンド機能も持ち,High Definition Audio CODECがサポートされるが,これはAMD 690Vチップセット用ということになるだろう。
■「Windows Vista Premium Ready PC」 の基準をクリア
■NVIDIAとの関係は……?
発表会で強調されたのは,AMD 690シリーズが,「Windows Vista Premium Ready PC」の基準を満たしているという点だ。これはMicrosoftのロゴプログラムで,簡単にいえば,AMD 690シリーズを採用したPCは,Windows Vistaがただ動作するだけでなく,Aeroデスクトップを含めて,快適に利用できるという“お墨付き”を得ていることになる。
だが,AMD 690シリーズでは,デュアルチャネルメモリアクセス時はもちろん,シングルチャネル接続時でも基準を満たしていると,AMD 690シリーズの説明に立った信垣氏は強調する。
メインメモリにUMAで確保されるグラフィックメモリ容量は,BIOS側の設定による。もっとも,Windows Vista Premium Ready PCの要件からして,128MB未満が設定されることはまれではないだろうか。ちなみに,Gigabyte Unitedの一部製品など,最大1GB確保できるマザーボードもあるようだ。
なお,ゲーマーが期待する3D性能に関してこれといったデモは行われなかったが,その代わりに会場で日本AMDは「Half-Life 2: Lost Coast」を用いて水の表現を比較するデモを実施。「競合他社の内蔵グラフィックス機能では描画がおかしくなるところも,AMD 690Gでは問題ない」とアピールしていた。
ところで,実際のデモはIntel製チップセット「Intel G965 Express」搭載PCを相手に行われたのだが,AMDが示したスライドには,NVIDIAの「MCP61」の名も刻まれていた。そこで,パートナーであるはずのNVIDIAを競合として紹介する点について確認すると,吉沢氏からは「ユーザーに選択肢を用意することが大切だ。スライドは,ラボで得られた客観的なデータを判断材料として提供しているだけなので問題ない」という回答が得られた。理に適っている一方で,NVIDIAとの微妙な関係を窺わせる発言ともいえそうだ。
■PCメーカーにとっては魅力的なチップセット
■だがゲーマーにとっては?
PCメーカーにとっても魅力的なチップセットだろう。日本AMDによると,AMD 690シリーズを用いれば80ドルで「Windows Vista Premium Ready」なマザーボードが構築できるという(80ドルの根拠は明らかではないが,AMDが予定しているチップセットの単価から算出したものと思われる)。Athlon 64ファミリーの価格も2007年に入って大幅に下がっているので,コストを重視した「Windows Vista Home Premium」搭載PCの屋台骨として,ATI Radeon Xpress 1250(for Intel)ともども,国内PCメーカーの注目を集めそうだ。
AMD 690シリーズは,高機能なチップセットを戦略的な価格で供給し,AMD64プラットフォームを広げようという,AMDの強いメッセージを感じられる製品であり,AMDがチップセットを含めた形でAMD64プラットフォームの価値を高めようとする方向に動きだしたことは注目に値する。ATIを買収した成果が,目に見える形で現れたといえそうだ。
だが,それと「ゲームに向くか」は,また別の話である。発表に合わせて,4Gamerでは検証を行っているので,そちらもぜひ併せてチェックしてほしい。(米田 聡)
- 関連タイトル:
AMD 6
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