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[AOGC2007#05]現時点ではパブリシティ目的がメイン。デジタルハリウッドの大槻透世二氏が語るSecond Lifeのビジネス展開
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印刷2007/02/21 23:34

インタビュー

[AOGC2007#05]現時点ではパブリシティ目的がメイン。デジタルハリウッドの大槻透世二氏が語るSecond Lifeのビジネス展開

 2月22日と23日の両日に,「Asia Online Game Conference 2007」(AOGC 2007)が開催される。先立って2月2日に行われたプレイベントでは,「Second Life」(以下,SL)と実際の会場をリンクさせた講演が行われた(関連記事)が,本開催である23日にもSLに関連する講演が予定されている。
 講演を行うのは,デジタルハリウッド大学院SL研究室の大槻透世二氏。大槻氏は,デジタルハリウッドが監修するSLトレーニング講座の講師も務めており,SLに関する造詣が深い人物だ。
 4Gamerでは,そんな大槻氏にインタビューを実施。講演のテーマが「SLの世界観とビジネスの可能性」ということで,今回は主にSLのビジネス面について話を伺った。



■3次元空間であることを生かしたモノ作り,コミュニケーションが最大のメリット

4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは大槻さんが所属する「Second Life研究室」について聞かせてください。

大槻氏:
 デジタルハリウッドでは昨年の9月ぐらいにSLでの活動をスタートさせたのですが,日本でSLが普及していくうえで文化的な面やシステム的な面でネックになる部分,とくに円とゲーム内通貨であるリンデンドルの換金問題や,企業が参入していくときにリスク管理をどうするか,といった問題を研究しています。

4Gamer:
 研究室はどれくらいの規模の組織なのですか?

大槻氏:
 5人です。それぞれ専門は異なりますが,各自がテーマを持って研究しています。私自身はバーチャル・リアリティ(VR)が専門なので,VRを現実のビジネスでどのように展開していくかがメインです。

4Gamer:
 大槻さんはLinden Lab社が行ったSLカリキュラムに参加され,Linden Lab本社で直接指導を受けられたということですが,それはどのような内容だったのでしょうか。

大槻氏:
 まずはSLとはどういったものかという説明を受け,一通りのプレイ方法を習得しました。カリキュラムとしてはあらかじめ決められたものがすべて用意されているというわけではなく,基本的な事項を学んだあとは担当者がマンツーマンでついてくれて,個別の興味に沿ってプレイし,質問したり議論したりできるといった環境でした。

4Gamer:
 そもそも大槻さん自身がそのカリキュラムに参加するきっかけはなんだったのでしょうか?

大槻氏:
 私自身はずっとVRを専門分野として取り組んでいました。SLとの出会いは,デジタルハリウッドの学長から「こういう面白いものがあるよ」と直接紹介されたのがきっかけです。SLは2006年の中頃くらいから世界展開が本格化して注目が高まりましたが,その時点で私がSL講座の講師を務めることが決まっていたこともあり,本当のところはどうなんだというのを見に行ったのです。

4Gamer:
 そのSL講座を受講されるのは,どんな人達なのでしょうか。

大槻氏:
 主に二つのタイプに分けられると思います。一つは企業としてSLに参入しようと考えておられる方達で,経営企画系の人と制作系の人がペアで受講されるケースが多いようです。もう一つは個人として参加されるケースで,個人的に興味があったり,新たな企業チャンスとしてとらえておられるようです。

4Gamer:
 やはりビジネス系の方がほとんどなのですね。具体的なビジネスプランまで考えておられる方も多いのでしょうか。

大槻氏:
 最近ではSL自体が注目されていますので,現時点ではパブリシティ効果目的がメインになるかと思います。ある程度有名な企業でないとあまり効果が見込めないというのはありますが,大企業以外にも数社〜数十社の単位で日本でもSLに参入されています。

4Gamer:
 SLでビジネスを展開していくうえでポイントになることは何でしょうか。

大槻氏:
 SLは,3次元で構成される世界ですので,3Dでリアルにモノを作ることができるというのがまずポイントではないかと思います。その点ではサービス業よりはメーカーのほうが有利ですね。3Dモデルで作られた製品を使えば具体的なイメージを持ってもらいやすいですし,営業もやりやすいのではないかと思います。
 また,コマースの面でプッシュができるというのもSLの大きなメリットとして挙げられます。既存のマーケティング手法だと,実際に相手と対面していない場合,迷っている顧客に対してこちらからアクションを起こしにくいのですね。SLであれば3Dのアバターとして目の前にいるわけですから,迷っている方は分かりますし,直接コミュニケーションを取ることも容易です。

4Gamer:
 「Skype」を使った営業をしている企業もありますが,その発展形というイメージでしょうか。

大槻氏:
 そうですね。SLでもボイスチャットが年内には導入される見通しですし,音声を使ったコミュニケーションもこれから発展してくるのではないでしょうか。
 もちろんデメリットもあります。3次元の空間であるということで,現時点ではグラフィックス関連のPCスペックがかなりのネックになっています。そこはWindowsVistaの普及が進んでくるにつれて改善してくるのを期待したいところです。

4Gamer:
 デジタルハリウッドとしては,SL内にSIMを持っていて,建物の建設などが進んでいますね。あそこはどういった形で利用していこうと考えていますか?

大槻氏:
 あのSIM自体は研究室の前身のような位置づけでした。研究室を設立したころは日本人コミュニティがまだほとんどなかったので,日本人ポータル的なものを作ろうというのが当初の目標でした。現在でもやや遅れながらも建設が進んでいます。また,SIMの一画にあるサンドボックスはモノ作りの講習にも利用しています。

4Gamer:
 授業や講座の一環としても利用されているのですね。

大槻氏:
 はい。実はこの前,授業中に銃を持った人達が乱入するというような騒ぎもありました。撃たれるとSIMの隅に飛ばされてしまったり,移動できなくなってしまったりして。

4Gamer:
 SLをやっていると少なからず遭遇する場面ですね。講習を受けるような方々の中にはそうしたことに慣れていない人も多いと思うのですが,面食らったりしないのでしょうか。

大槻氏:
 していると思いますよ。ただSLでビジネスとしてやっていくうえでは,こういうことも問題としてあるんだということは理解していく必要があるのではないかと思います。



■Second Lifeはあらゆるビジネスステージで利用できる

4Gamer:
 AOGCでの講演のテーマが「SLのビジネスの可能性」ということで,ビジネス系の話についてもう少し詳しくお話を聞かせてください。
 現実世界とSLの関係という面に注目すると,SLでのビジネスは
(1)現実世界からSLに参入していくもの
(2)SLで始まったビジネスがSLで発展していくもの
(3)SLで生まれたものが現実世界に出て行くもの
という三つのパターンに分けられると思います。大槻さんはどれに注目されていますか?

大槻氏:
 やはり,(1)が一番大きなお金が動く分野になると思います。
ベンチャーキャピタルが資金を入れるにしても,現実世界からどれだけ参入があったかで市場規模が測られるという現実があります。そうなるとやはり,SLからスタートしたものより,現実世界の企業が参入していくほうが自ずと規模が大きくなるのではないでしょうか。

4Gamer:
 現時点ではパブリシティがメインとさきほどお伺いしましたが,今後の展開についてはどのように予想されていますか。

大槻氏:
 ビジネスには企画,開発などさまざまなステージがありますが,SLで現在メインなのは,プロモーションのところのパブリシティ効果のみです。しかし今後はビジネスのすべてのステージで展開していく可能性があると思います。例えばIBMによる事例でいうと,会議,コマース,トレーニングと三つの用途を想定していると聞きましたが,会議などはまさに典型的な例です。新製品を開発するときの在宅勤務の社員同士のコミュニケーションのツールとして活用されているようです。
 また,流通センターで物流をどれだけ効率的に行うかをシミュレートしているといった事例や,映画のワンシーンをSLでまず視覚化し,企画やプロモーションに活用したという事例もあります。

4Gamer:
 SLが日本では受け入れられるか,といった点についてはどうでしょう?

大槻氏:
私がSLに対して持った第一印象は,雰囲気がアメリカンすぎるということでした。日本で普及する際にネックとして予想される要素としては,グラフィカルな問題と言語的な問題があります。グラフィカルな面でいうと,アピアランスのパラメータ設定にしてもアメリカナイズされていて,ビルドツールの時点ですでに限界があると思っているんです。
 ただ,ビューワはすでにオープンソースになりました。今後サーバー自体もオープンソースになると思いますので,そうなればグラフィックスを日本人にも親しみやすいように変更した「グラフィカルバージョン」も登場すると予想しています。その段階になればグラフィックスの問題も解決するでしょう。

4Gamer:
 日本ならではのSLの展開の仕方は何か考えられますか?

大槻氏:
 企業の参入によって全体的な質の底上げは考えられます。日本ならではというと,やはり日本人は3Dモデルにしてもテクスチャにしても細かいところまでこだわりますので,既存のものよりも質が高いものができるのではないかという気はします。
 また,海外でのSLビジネスの先行例では個人を中心として下から盛り上がっていったというボトムアップ型のものが多いのですが,日本ではそうした動きがほとんど見られないという点は気になりますね。Web2.0は本来ボトムアップのものなのに,日本でそれをトップダウンでやってしまった場合,どう文化が発展していくのかは注目されるところです。

4Gamer:
 日本では一般論としてもそういう傾向はあるかもしれませんね。
 さて,時間もそろそろ尽きてきたので最後にお聞きしますが,大槻さんの専門はVRであるとのことですけれど,SLはVRという分野の中でどのような位置づけになるのでしょうか。SLはVRの究極的な姿として発展していくと考えていいのですか?

大槻氏:
 SLはVRの一分野でしかありません。ただ,VR全体を牽引する力は秘めていると思います。VRとはサイバースペースの中に構築されるコンテンツと,それを人間が感知するインタフェースを総称したものです。五感で臨場感を持って体験するというのがVRなので,その点ではSLをVRそのものとはいえません。

4Gamer:
 なるほど,確かにSLはほとんどが視覚情報で,聴覚が少しという程度ですね。

大槻氏:
 ボイスチャット関連が導入されれば3Dの立体音響が実現しますので,聴覚に関しては飛躍的に発展します。将来的には触覚嗅覚あたりも可能になるでしょう。味覚はさすがに難しいですが,今後可能性はあると思います。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


SLへの企業の参入が話題になっている昨今だが,現実の成功事例がまだ少ないこともあり,今後どのようにビジネスが展開していくのか,あるいは日本でどう受け入れられていくのかなどなど,SLには未だ不透明な部分が多い。ただ今回のインタビューの中でも触れられていたように,3Dの仮想世界というメリットを生かした「SLならではの可能性」には,期待できる点が多いのも確かだ。今後,各企業ともにテスト的な段階を経つつも,徐々に具体的なプロジェクトが動き出していくのかもしれない。(Interview by Sluta&TAITAI / Photo by kiki)

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