インタビュー
[AOGC2007#03]業界単位の支援でなくITベンチャー振興が本義。経済産業省関東経済産業局 釜田氏が語るオンラインゲームフォーラム
その講演のあらましについて,経済産業省 関東経済産業局の釜田雅樹氏と,「クラスターマネージャー」としてオンラインゲームフォーラムの運営を支える,株式会社コラボ 代表取締役の川口洋司氏にお話を聞いた。
■首都圏地域の経済振興のためのオンラインゲーム支援
本日はよろしくお願いします。まず,オンラインゲームフォーラムの位置付けについて教えてください。オンラインゲームフォーラムは,「首都圏情報ベンチャーフォーラム」の一部である「オンラインゲーム研究会」の一部会という形になっていますよね?
つまり,ベンチャービジネスの一種としてオンラインゲームとその事業を捉える形になっている。ゲーム産業全般があって,PCゲーム業界があって,そのなかにオンラインゲーム業界がある……などという分類と違って,少々分かりにくい部分があると思います。そのあたりからぜひ。
経済産業省 関東経済産業局 経済政策課 地域情報係長 釜田雅樹氏:
そうですね。経済産業省としては,もちろんオンラインゲームだけに取り組んでいるというわけではなく,ITコンテンツベンチャーの育成が出発点にあります。
アニメなどほかの分野も含めたコンテンツの一環としてオンラインゲームがあるというわけです。講演では,こうしたオンラインゲームフォーラムの位置付けについても説明します。
4Gamer:
なるほど,やはり出発点の違いが重要な話題になりそうですね。そのあたりについては,あとでまとめてお聞きするとして,まずAOGC 2007での講演予定全体について,大まかに教えてください。
釜田氏:
はい,一つは昨年のAOGCでも発表させていただいた,「オンラインゲーム市場統計調査報告書」(注:PDFファイルが開きます)についてです。例年AOGCにおいては,集計の中間報告をさせていただいております。
4Gamer:
以前4Gamerでも記事になった,オンラインゲームフォーラム独自の統計についてですね。
釜田氏:
そうです。さらに今回は,オンラインゲームのプレイを「行ったことがある人」「行ったことがない人」に属性分けをした意識調査も行いましたので,その報告を致します。そしてそれに関連して,プレイヤーさんの意識をめぐる話題として,1月23日に電通さんとエンターブレインさんが共同で発表された「オンラインゲームに関する意識調査」データについても,電通さんの協力の下,お話しする予定です。
4Gamer:
携帯電話やコンソール機のプレイヤーさんも対象に含め,1か月のプレイに使う金額などで分類した,あれについてですか。
釜田氏:
ええ。今回お話がまとまって,セッションでやりましょうということになりました。
4Gamer:
では講演の冒頭に来る,オンラインゲームフォーラム自体のお話からお願いします。どういった狙いで,首都圏情報ベンチャーフォーラムの中に設けられているのか,といったあたりですが。
釜田氏:
(資料を示しながら)この話の大本には,まず経済産業省の「産業クラスター計画」があります。これは簡単に言いますと,「IT」「バイオ」「物作り」といった新しい取り組みについて,全国一律でなく,地域の強みに応じた効率的な資源投下を行うという計画です。
4Gamer:
ふむふむ,「クラスタ」リング,つまり分業しようというわけですね?
釜田氏:
そうです。各地域で特徴のあるものに重点特化していこうと。例えば北海道であれば,酪農や農業が大きいですから,応用バイオに集中投下するのが合理的です。
一方九州では,九州大学,九州工業大学を中心にLSIの技術が得意ですので,半導体関係のベンチャービジネスを支援するのがよい,ということになるわけです。
4Gamer:
そして関東の場合……。
釜田氏:
はい,関東で何が強いか考えていった場合,やはりITコンテンツベンチャーが注目されるところで,そこをしっかり押していくのが,我々関東経済産業局のミッションというわけです。
現在全国で17のプロジェクトを推進していますが,その一つが首都圏情報ベンチャーフォーラムなのです。その中には役所関連だけでなく,民間の方も入っています。
今回同席いただいているコラボの川口さんには,クラスターマネージャーという位置付けで,ゲーム産業担当を務めていただいています。
4Gamer:
なるほど,先ほどのお話にもあったように,オンラインゲームだけがITコンテンツベンチャーではないので,首都圏情報ベンチャーフォーラムのなかでもゲームに特化した人,というわけですか。
釜田氏:
そうです。そして資料にもあるとおり,首都圏情報ベンチャーフォーラムには中小企業やベンチャー企業が中心に集まっているのですが,コンテンツビジネスが40%弱,次にソフトウェア開発が約30%,インターネットビジネスが約20%といった属性になっています。
地域としては,東京,神奈川,千葉,埼玉の4都県が中心となりますが,やはり東京が多いですね。
4Gamer:
ははあ,確かに広義のソフトウェア産業が中心なのですね。
釜田氏:
具体的な取り組みとしては,「BEAT Forum」という大手企業の事業部門担当者とITコンテンツベンチャーの経営者が集まる講演会や「東京コンテンツマーケット」という,オリジナルコンテンツのクリエイターが出展する見本市などを通して,人的ネットワークやビジネスチャンスを作るための支援活動をしています。
4Gamer:
うんうん,では,オンラインゲーム分野での取り組みについても教えていただけますか?
釜田氏:
オンラインゲームは新しい事業者さんが次々と入ってきている注目のマーケットです。例えばガンホーさんはソフトバンク系ですし,ジークレストさんはサイバーエージェント系であるなど,新たな分野に着手する事業者の方が多いわけです。
そうした新規事業育成をお手伝いするのが,一つの大きなミッションであると考えています。
4Gamer:
オンラインゲーム分野での取り組みが始まったのは,いつごろなのでしょうか?
釜田氏:
2001年,森総理在任時代に遡るのですが,「e-Japan戦略」として,2005年末までに日本をITで世界最先端の国にしようという構想が立てられました。
これに政府を挙げて取り組みまして,最初にインフラ整備が行われます。ブロードバンド接続コストの国際比較などが話題に上ったのがこの時期です。
それを受けて2003年7月に中間発表が行われ,インフラ関係は順調に伸びているという認識が示される一方,そのインフラが活用されているかというと,まだ弱いという結論になりました。そこから,しっかり利用/活用していきましょうという「e-Japan II期計画」が始まります。
4Gamer:
な,なるほど。国による産業振興そのものですね。
釜田氏:
そうした活用の具体的な形として,厚生労働省であれば電子カルテといった取り組みがありますし,文部科学省による公立学校ホームページの開設推進などもあります。
経済産業省としては,やはりビジネスの視点で何ができるか考えていく必要があります。そこで動画や音楽と並んで,非常に元気なベンチャー産業が集まっているのが,ゲームの分野だったのです。 オンラインゲームパブリッシャの8〜9割が関東近県にいますので,それを支援していくのが関東経済産業局としてのミッションと考えました。
4Gamer:
あくまで,関東を基盤としたITベンチャー振興策の一環であるというわけですね。
釜田氏:
そうです。2003年に始めまして,そのときはまず,オンラインゲーム業界の動向を把握しましょうということで「オンラインゲーム研究会」として取り組みがスタートします。
そこでは中国,韓国のオンラインゲーム市場に関する講演が行われ,パブリッシャや開発者,インターネットカフェ事業者など,オンラインゲームに関連する一通りの分野の人が揃う形で,多くの人が集まりました。研究会はオープンな形で随時行われており,直近では2006年7月に開催されています。
4Gamer:
そこからどういった経緯で,オンラインゲームフォーラムが分岐してくるのでしょうか?
釜田氏:
2004年に入ってから,日本のオンラインゲームビジネスの中心であるパブリッシャが集まって,共通の問題解決などに努めましょうという動きが起こります。これがオンラインゲームフォーラムの始まりで,そうした動きのなかで,市場動向調査やガイドライン策定をやってきたわけです。
アライアンス活動については2005年から始めまして,国内の開発会社と国内の運営会社のマッチングなども行っています。
4Gamer:
そうした活動を行うときの,実働部隊はどういった形でどのくらいいるのでしょうか?
釜田氏:
具体的な活動の取りまとめはクラスターマネージャーである川口さんが行って,関東経済産業局は周知(宣伝)活動などオブザーバー的なポジションとなります。
講演会などを開くときには,首都圏情報ベンチャーフォーラムの事務局である財団法人デジタルコンテンツ協会のスタッフや,我々関東経済産業局のスタッフも入って手伝います。
4Gamer:
専従職員さんがいるわけではないのですね?
釜田氏:
ええ,いません。そしてプロジェクト自体は国の補助金で賄われています。ただし,最終的に国や財団法人が関わらない方向で,プレイヤーさん(注:ここでは市場参加者,つまり主に事業者のこと)同士で自主的にやっていただく形を目指しています。
4Gamer:
実際的な予算規模はどのくらいなのでしょうか?
釜田氏:
オンラインゲームフォーラムにかかるお金はそれほどなくて,実は参加メンバーで意見交換を行うときの会場費くらいなんですね。それが1回1万円程度です。
■資金調達のための資料,ビジネス支援としての市場統計
外から見えるオンラインゲームフォーラムの活動というと,市場統計とガイドライン(注:PDFファイルが開きます)があります。これらについて順にお聞きしたいのですが,市場統計調査が始まった経緯を教えてください。
釜田氏:
いまでこそ,いろいろなところから統計資料が出ていますが,調査が必要となった2003年時点では,ほとんどない状況でした。そこで,これだけ多くのパブリッシャが集まったんだし,数字を出すことでマーケットサイズを外に知らせていきましょう,ということで始まりました。昨年度(2006年度)も5月25日に総額約820億円という数字で発表しています。
4Gamer:
ふむふむ,ガイドラインについてはいかがですか?
釜田氏:
市場が順調に伸びているからこそ,良い面も悪い面もいろいろ出てきます。そこで市場を健全に成長させるという意味で,社会問題にも取り組んでいかなければなりません。
もちろん,各社での取り組みもあるわけですが,業界として対応すべき事柄もある。そうした部分をしっかりアピールする必要がありますので,集まった事業者でガイドラインとしてまとめることになり,2006年に初めて出来たわけです。
4Gamer:
うーん,企業同士のマッチングなどですと,産業振興として分かりやすいのですが,オンラインゲームフォーラムが市場統計に取り組む理由はどこにあるのでしょうか。
釜田氏:
例えばIPOやそのほかの資金調達に当たって「市場規模はこれくらいあります」という,公表できる市場統計が説明として必要になります。取り組みを始めた当初,そうしたことに使える数字がなかったのです。
市場統計を作りたくて始めたわけでなく,参加メンバーの間で,ビジネス展開に当たって必要だという意見が出たからこそ取り組んだというのが実情です。
4Gamer:
なるほど,これもれっきとした振興策というわけですか。
釜田氏:
最初に公表したときにはインパクトがありましたし,翌年も続けて出すことで,市場として伸びていることが示せました。
4Gamer:
必ずしも,厳密な産業統計にする必要があるわけではないのですね?
釜田氏:
そうです。例えば投資家の方への説明資料として役立てば,それで意義は果たしていることになりますし,資料提供についても,強制したりする立場にはありません。業界に対して意識のある事業者さんと一緒にやっていければよい。そう思っています。
ただし,数字は独り歩きしがちなものですから,その厳密性を上げていくことも重要だと思っています。現在でも,オンラインゲームフォーラム参加企業以外からも資料の提供を受けて,可能な限りの情報を反映させていますが,今後さらに厳密性は上げていくつもりです。
釜田氏:
数字として明らかにしたい指標や,社会的メッセージに関しては,参加している事業者さんの考えに沿って充実させていきたいという思いも,もう一方であります。必要性や意義についても,事業者さん自身で作っていってもらいたいですし,それがベンチャー振興というものだと考えています。
4Gamer:
「公的」というよりは「共同」というスタンスなわけですね。統計とガイドライン,どちらも事業者の実際的な必要性に基づいているという。
釜田氏:
ええ。統計は市場の成長を説明し,ガイドラインは成長を妨げる要素への対策であり,そのアピールなのです。
4Gamer:
統計とガイドラインそれぞれについてですが,どこかの事業者さんの具体的な発議に基づくものですか?
釜田氏:
どちらも2003年当時にはなかったものなので,いろいろと話し合う過程で課題として浮かび上がってきました。その意味では自発的な動きといえます。
ガイドラインの中身についても,各社で思うところを盛り込み,そのうえで具体的な文言を各社で見て直したりと,そういう手順で作っていきました。
4Gamer:
そうした作業や話し合いは,どういった会合で行われるのでしょうか? 参加企業さんが集まって定期的に会合を持っているとか,そうした形ですか?
釜田氏:
オンラインゲームフォーラムとしての会合は,2004年に始まって,これまでに20回くらい開催しています。話し合う内容次第で開催するので,定期ではないのですが,そこで意見を出し合う形になっています。
4Gamer:
会議としての“オンラインゲームフォーラム”は,そこで出た意見を外部に報告/発表したりしていますか?
釜田氏:
意見交換の途中経過は特段公開していませんが,最終的な結論は市場統計やガイドラインとして報告/発表させていただいています。
4Gamer:
なるほど。固まった成果を発表するのであって,会合そのものの経過を直接発表する性格のものではないわけですね。おおまかなイメージとして会合には参加企業すべてが顔を揃える形でしょうか?
釜田氏:
基本的には集まっていますが,話題によって関わりがあるときとないときがありますから,それによって顔ぶれが変わることはあります。強制しているわけではありませんので。
■広義と狭義,「オンラインゲーム」市場とは?
参加しようと思えば,全社参加できるわけですね。では,現在までの成果についてかなり具体的な話に入ってしまうのですが,統計が対象としている「オンラインゲーム」の範囲と,ガイドラインが対象としている「オンラインゲーム」の範囲が,大きく異なっていることが気になります。
そこでさらに参加企業さんの顔ぶれを見ると,どうもガイドラインにおけるオンラインゲーム定義のほうが,その担い手の立場に合致している気がします。これは,どういった理由に基づいているのでしょうか?
川口氏:
それは,コンソールゲームが入っているか,いないかという点ですか?
4Gamer:
ええ,一つはそれです。そしてもう一つ,ピア・ツー・ピア接続のネットワーク対戦対応FPSやRTSについてです。統計のほうでは,これもオンラインゲームと扱われていますよね。
釜田氏:
そうですね,最初に統計を作るときから議論のあった問題なのですが,2003年当時においては,どこまでを「オンラインゲーム」と呼ぶべきかについて,現在ほど明確に分けられなかったという事情があります。
まだ日本でどういったゲームが「オンラインゲーム」と呼ばれるべきかというガイドラインもありませんでしたから,とりあえず二人以上でプレイできるものと決めて,対象を広く取ったのです。
4Gamer:
なるほど,対象を広く,ですか。
釜田氏:
統計の対象が「広義」のオンラインゲームで,参加している事業者さんは「狭義」の範囲に収まっているというのはそのとおりで,今年に入ってから調査対象を「狭義」にしましょうかという議論もあったのですが,逆にいろいろな事業者さんから,「オンラインゲームはこれから広義のほうに向かう」という意見が出まして。これはニンテンドーDSなどの動向を踏まえてのお話なのですが。
ゲームとコミュニティのあり方が,ますます広がってきていますから,そこですっぱり分けてしまったのでは弊害が出てくる。そうした議論がありまして,今年も広義で取ることになりました。
4Gamer:
しかし,そもそも各部の数字を細かく公開して,セグメントごとに集計できる形にすれば,はじめからそうした問題は起きないはずですよね。それは難しいのでしょうか?
釜田氏:
それは今後の課題ですね。費用的な問題と,調査方法の問題が出てきてしまいますから。もちろん,細かく分かるに越したことはないのですが,データの用途を考えたとき,そこまでの費用をかけられるかどうか,ということです。
4Gamer:
ふーむ。調査そのものの規模や精度を上げるとなればそのとおりだと思います。ただし,ゲームジャンルやプラットフォームの別など,集めた生データがおそらく持っていたはずの関連性を,公開に当たって丸めている部分が残念だなあと思うのです。
釜田氏:
そこが二つめの,調査方法の問題になってきます。統計資料の中身とともに明らかにしているとおり,この統計の調査は,各事業者さんとのNDA(Non Disclosure Agreement:非開示契約)が前提になっています。データを詳細に公開しようとすると,今度はご協力いただける事業者さんが減ってしまう可能性があり,精度の問題にもなりかねません。
川口氏:
詳細な内訳を明かさない条件で,細かなデータをもらっている部分がありますから,公開しようと思うとどうしても,元データのとおりには切り分けられない部分が出てしまいます。それが,現状のようになっている理由です。
4Gamer:
なるほど……。公開条件に関わるのでは,確かに仕方ない部分ですね。
釜田氏:
もちろん,オンラインゲームに関する統計の厳密性を上げていく必要については,みなさん認識しています。
川口氏:
ええ,そうした点の強化に努めているのですが,すべてにわたって強化できるかというと,なかなか。
4Gamer:
今年のAOGCでお話しする予定の,中間集計での傾向といったものを2,3教えていただくことは可能ですか。
川口氏:
まだ細かく分析してはいないのですが,昨年と同じく韓国産タイトルの増加と,今年はカジュアルゲームが増加したことでしょうか。
4Gamer:
では最後に,AOGCの会場に足を運んでくれる方に向けて,セッションの見どころをあらためてお願いします。
釜田氏:
ITベンチャー支援としてのオンラインゲームフォーラムの活動と,現在のオンラインゲーム市場の伸び,また,電通さんからはプレイヤーさんの動向に関してのお話もありますので,現在の市場を知るための参考になると思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
釜田氏が端々で強調するのは,事業者からの自発的な動きの重要性だ。市場統計にせよガイドラインにせよ,事業者自身の考えから生じた取り組みであるという。
団体の性格が性格だけに,今後に向けた明確なビジョンといったものは聞けなかったが,変化のスピードが速いオンラインゲーム業界だけに,今後とも,大仰な組織でないからこそできる有意義な取り組みは出てくるだろう。さしあたってはガイドラインの更新や,必要とされる市場統計の中身などをめぐって,事業者の動向,消費者の動向を今後どういった形で反映していくのかが,注目されるところだ。(Guevarista)
(※2007年2月15日収録)
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