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徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第9回:「Left 4 Dead」と「Killing Floor」でFPSのCo-opを考える(後編)
今回の「徳これ」(徳岡正肇の これをやるしかない! の省略形)は,前回に引き続き,Co-op(協力プレイ)について考察してみよう。「Left 4 Dead」の大ヒットで俄然注目を集めているCo-opだが,元をただせば「ほかのプレイヤーと協力する」というフィーチャーを持ったゲームは星の数ほどあり,けっして,新しい考え方ではないのだ。そんな古くて新しいCo-opの将来の姿とは?
ちなみに,前編を読んでいないと論旨が分かりにくいので,「まだである」という人はそっちを先に読むしかない!
さて,8月3日に掲載した前編ではCo-opをメインとする二つのFPS「Left 4 Dead」と「Killing Floor」を紹介したが,実際のところCo-opというアイデアそのものは――ゲーム全般においてはもちろん,シューティングにとってさえ――新しい概念ではない。プレイヤーがオンラインでゲームを始める前の時代から複数人が協力してゲームを進めるというモードは存在したし,本来であれば一人用のゲームを複数人でプレイすることだって珍しくはなかった。
オンラインでゲームが行われるようになって,Co-opはより一般的な形になった。「Diablo」はその黎明期における頂点といえるし,それ以降のMMORPGは要するにCo-opで成り立っている。インスタンスダンジョンに潜むボスに対するRaid(大人数での攻略)といったコンテンツは,Diablo時代に行われたことそのものだ。
結果として,FPSにおけるCo-opもまた,これらのゲームと同じ問題を抱えている。その問題とは……?
多少なりとも複雑な内容を持ったRaidに参加したことがある方であれば,Raidというコンテンツは極論すると
- Raid参加権利の獲得
- 特定時間帯/ボスの特定形態による攻撃/防御特徴の洗い出し
- 上記情報に基づいた最適戦略の構築
- 戦略に基づいた各論的トライ&エラーと,基本戦略の見直し
- 攻略完了
- 戦術の洗練による少人数化
このような手順で消化されていく。ゲームによって,参加に必要なアイテムを集めるために法外な時間が要求されたり,あるいはボスそのものを狩る権利を巡って他プレイヤーとの抗争(PvP,ときには非PvP)があったりもするし,PvPフィールドでRaidが行われるといったケースも見られるが,基本的な流れは変わらない。
この流れは,Left 4 Dead(以下,L4D)でもKilling Floor(以下,KF)でも同様だ。
L4DにはAI Directorが実装されていて,毎回違ったパターンのゲーム展開が用意されている。しかしながら,当然とはいえAI Directorの提供するコンテンツが,「既存のリソースを組み合わせたもの」を越えることはない。
つまりAI Directorという新機軸を持ち込んでもなお,それは2.の段階での検討要素に追加を与える以上の効果を発揮できるわけではないのだ。L4Dにおいてプレイヤーの習熟とは,一定の状況パターンにおいて,出現する敵をどのように効率よく(かつ安全に)撃破できるか,というところに集約される。プレイヤーが蓄積していくノウハウは,例えば
- 視界の通らない曲がり角で敵Aに遭遇した場合,○○という行動をとるべき
- 開けた地形において敵Bに遭遇した場合,△△という行動をとるべき
こういった組み合わせ情報に帰着する。
一見するとこれは物凄いパターンになるので,やはりプレイヤーの臨機応変の措置が要求されるような印象もあるし,ゲームをしていて楽しいのは「いかにも工夫によって克服したように感じられる瞬間」ではあるのだが,場数を踏むにつれ,考えるよりもこの組み合わせパターンが少ないことに気がつく――というか,よく訓練されたプレイヤーは,この組み合わせパターンが少なくなるように,あるいはパターンに収斂させられるような行動様式を備えていく(それを訓練と呼ぶのだ,というトートロジーでもある)。
こういった「カオスな状況を合理化していく」行動様式は,ゲームにおける一つの基本でもある。弾幕シューティングで安定パターンを見つけたり,横スクロール型の格闘ゲームで敵集団を団子にしたり,シングルRPGでレベルと装備をカンストしてAボタン連打ですべての敵を撃破してみたりといった行動は,この合理化に相当する。オンラインゲーム,ましてやFPSのCo-opに限定される話ではない。
KFにおいては,L4Dのような高度な状況設定AIは実装されていない。このため「キャンプゲーである」と断言したようにゲームはより一層パターン化しやすく,現状において最も合理的名な戦術は,キャンプ地とショップとの往復になる。
ショップが短時間しか開いておらず,また比較的広いマップの場合はショップへの移動時間だけで相当の時間をとられてしまうこともあって,必ずしもキャンプ地点を固定できるわけではないが,その場合はいくつかのキャンプ地点をショップの場所に応じて移動していけばいい。
もちろん,どこが最適なキャンプ地点なのか,研究と知識の共有は欠かせない。しかしこれはいうまでもなく2.の類型であり,ゲームwikiが発達している昨今において,真面目にクリアを目指すプレイヤーであればWebで事前に情報収集しているということも珍しくないだろう――Raidの多くがそうであるように。
KFの場合,Perk(スキル)が存在するため,各プレイヤーが今のチームにおける自分の役割をある程度把握するステップも存在する。実際,ショットガンを中心にした重火力の集団は非常に強力だが,DPS(単位時間のダメージ)が小さいアサルトライフル(KFにおいてはSMG的な存在)を主武器としたプレイヤーが一人いると,全体の安定度はぐっと上昇したりする。低DPSでも,それほど強くない敵を掃討する速度において,アサルトライフルの安定度はずば抜けているのだ(火炎放射器でいいじゃんと思う向きは多分にいらっしゃるかと思うが)。
この「役割分担」は,KFを面白くする一方で,いまさらいうまでもなく2.と3.の範疇に取り込まれるギミックでしかない。以上のように,Co-opメインのFPSはこうした問題を宿命的に内包しているのだ。
誤解してほしくないのだが,これは「だからL4DやKFは面白くない」という話ではない。むしろ双方とも,気軽に楽しめる作品として完成しているし,なぜか不思議と(本当に不思議と)飽きない。筆者としては「こりゃ結構あっさりと飽きそうだ」と思っていたのだが,なかなか飽きないのだ。それどころか,ちょっとした時間ができるとついプレイしたくなってしまう魅力がある。
FPSのCo-opが持つこの奇妙な(失礼)面白さに対してはさまざまな考察が可能だが,鈴木銀一郎氏の講演がおそらく最も効果的な説明となるだろう。驚くほど多くの事項が,氏の講演で語られたゲームデザインの手法と一致するのだ。以下,確認してみよう。
「ゲームをなぜプレイするか? それは勝つためだ。コミュニケーションのためというのは,格好はいいが,お題目であるといっていい。ゲームの本質の一つは,生物として自己のテリトリーを守るという攻撃本能にある。しかし,この本能が実社会で発揮されては困るので,ゲームによって代替することになる」と鈴木氏は言う。
Co-opにおいて,コミュニケーションはあくまでも勝つための手段だ。また従来の対決型FPSが参加者の半数しか(絶対に)勝てないゲームであるのに対し,Co-op型は(バランス次第だが)全員が勝利できる。そしてそのためには,何はともあれ攻撃本能を十分に発揮して敵を撃つことが要求される。
「アナログゲームの設計は,三段階に分かれる。コンセプト,テーマ,そしてテクニックだ。良いコンセプトとテーマが決まれば,あとは他人に任せても問題はない」
この鈴木氏の言葉は,つまりCo-opというコンセプト,サバイバルホラーというテーマまで決まったら,マップや細かな設定はある程度までModderに任せても問題ないということだ。そしてKFでは実際に問題がない。
鈴木は続けて「ゲームデザインにおいて重要なのは,誇張と省略だ。なんでも詰め込もうとするのではなく,むしろ何を削れるかから入り,あとからフレーバーを足す」と語る。
MMORPGから何を削れるのかを考え,面白い部分を誇張し,適度なフレーバーを加えたもの――それはまさにCo-op型のFPSである。
また以前の記事には掲載しなかったが,ゲームデザインの掟として提示された7点についても,ほぼすべてが満たされている。ここに列記してみよう。
- システムは単純なほうがいい
- 選択肢はほどほどに多いほうがいい(多すぎはNGだ)
- 逆転のチャンスはあったほうがいい(軽いゲームではとくに)
- 必勝法があってはいけない
- ルールには説得力がなくてはならない
- コンフリクトは多いほうがいい
- 21世紀のゲームにおいて適切なプレイ時間と人数は1時間以内で,かつ二人か,四人以上
最も驚くべき点は,「21世紀のゲームは,1プレイ1時間を切るべきである」という掟が,L4DでもKFでも守られていることだ。双方とも1プレイは1時間弱で終了する。
同様に,「必勝法があってはならない」という掟は,L4DがAI Directorを搭載しなくてはならなかった理由に直結する。
では,Co-op型のFPSはゲームの進化系として完成しているのか? そうとはいい切れない。少なくとも,必勝法に関する問題は,完全に解決できているとは言い難く,そしてそれはこと「Co-op」というところまで引いて考えると,問題の表層でしかない。
Co-op型FPSは,MMORPGを「省略」していく過程において,「協力して敵と戦い目的を達成する」という部分を抽出している。これは至極もっともな抽出であり,だからゲームとして成功している。
しかしMMORPGは,そのエッセンスとして,「敵と戦う」ことしか持っていないわけではない。例えば「Eve Online」や「Planetside」を見れば分かるように,これらの作品においては「敵と戦う」ことと「敵と戦える状況を構築/維持する」ことが並行している(重みには差があるが)。この,「参加プレイヤーが,それぞれの分野で活躍することで,相互に補完する」というコンセプトは,Co-op型のFPSがあえて切り捨てた部分であると同時に,MMORPGの黎明期において多くの神話が形成された原動力でもあった。
もちろん,こういった職能分化とその協業を,Co-opメインのFPSという文法と合体させることによって良い結果が生まれるとは思わない。けれど,Co-opという文脈に戻っていうならば,「Co-opFPS」がそこを切り捨てて成功したからといって,「Co-opとは,つまりそこを切り捨てることだ」という結論にはならないだろう。
Co-opという概念は,アナログボードゲームの世界でも現在進行形で発展しているデザイン概念である。そしてとても面白いことに,そこにはL4DやKFに見られるものとまったく同じ弱点が根深く残ってもいれば,従来にない新しいスタイルのゲームが生まれる可能性も胎動している。そしてどうやら,その可能性を感じているのは筆者だけではないようで,デジタルゲームのプランナー,デザイナーといった人々もまた,Co-opスタイルのボードゲームを研究している。
期せずしてデジタル,アナログの双方で新境地を開拓しようとしてるCo-opが果たして何を生み出すのか。決定的な結果が出るには時間がまだかかりそうだが,注意深く追っていきたいと思う。
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- 関連タイトル:
Left 4 Dead 日本語版
- 関連タイトル:
レフト 4 デッド
- 関連タイトル:
Killing Floor
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