インタビュー
音色にこだわり,ゲームに寄り添う音楽を作り続ける。「阿保剛KID作品集」発売記念インタビュー
阿保氏は,1992年にスタークラフトのサウンドスタッフとして活動を開始し,スーパーファミコンなどの内蔵音源の時代から生音が当たり前になった現在まで,技術が大きく変化する中でゲーム音楽の作曲を続けてきた大ベテランだ。
今回は「阿保剛KID作品集」の発売を記念し,収録タイトルの中でもとくに人気の高い第2弾の「infinity」シリーズ3作品の聴きどころを中心に,これまでのキャリアやゲーム音楽へのスタンスについて語ってもらった。
●阿保剛KID作品集シリーズ
第1弾:10月28日配信開始
1:阿保剛KID作品集〜夢のつばさ
(2000年/PlayStation)
2:阿保剛KID作品集〜My Merry May
(2002年/ドリームキャスト)
3:阿保剛KID作品集〜My Merry Maybe
(2003年/PlayStation 2)
第2弾:11月25日配信開始
4:阿保剛KID作品集〜Never7 -the end of infinity-
(2003年/PlayStation 2)
5:阿保剛KID作品集〜Ever17 -the out of infinity-
(2002年/ドリームキャスト)
6:阿保剛KID作品集〜Remember11 -the age of infinity-
(2004年/PlayStation 2)
第3弾:12月23日配信開始
7:阿保剛KID作品集〜てんたま2wins
(2004年/PlayStation 2)
8:阿保剛KID作品集〜Iris 〜イリス〜
(2003年/PlayStation 2)
9:阿保剛KID作品集〜想いのかけら -Close to-
(2003年/PlayStation 2)
「阿保剛KID作品集」シリーズ公式サイト
電子音への興味が,ゲーム音楽作曲家としての原点
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
阿保さんは1992年にスタークラフトに入社してゲーム音楽家としてのキャリアをスタートし,1995年にKID,2005年にMAGES.へ移籍して活動を続けられてきました。改めてこれまでを振り返ってみて,どのように感じますか。
阿保 剛氏(以下,阿保氏):
好きなことをやれているという点では今も昔も変わりないですね。いろいろなジャンルのゲームで音楽を作ったり,アニメに携わったりといった夢も叶えられ,充実しています。
4Gamer:
ゲームやアニメの音楽を作りたいと思うようになったきっかけは?
子供の頃に購読していた学研の学習雑誌に,さまざまな音に変化する電子機器の付録があって,そこから電子音に興味を持ちました。1980年代のLSIゲームからファミコン,パソコンへの進化も印象深いですね。最初はただの電子音だったものの音色が増え,ファミコンではそれがメロディ付きの短い小節を繰り返すものに進化していった。当時はそれだけで楽しくて,ずっと口ずさんでいたほどです。
そして,その頃によく聴いていたYMOも電子音であると知って「自分もこんな音楽を作ってみたい」と思うようになったんです。
4Gamer:
当時は何か楽器を習っていたのですか。
阿保氏:
そういうわけではないですね。家にあった小さな鍵盤でYMOの真似事をしていたのが,楽器に触れた最初の思い出です。あとは,電気屋の店頭に置いてあるパソコンに,雑誌のサンプルプログラムを打ち込んで演奏したりしていました。
4Gamer:
昔の電気屋には自由に触れるデモ機が置いてありましたよね。
阿保氏:
電気屋で店員さんが待っていて「今日は,これを入力してごらん」ってプログラムリストを渡してくれるんです。打ち込みを終えて,プログラムを走らせてみても,ちゃんと音が鳴らない……なんてときは,「ここが間違っているんじゃない?」という感じで教えてくれたりして。
4Gamer:
まるでパソコン教室ですね。最初に手に入れたパソコンはどの機種でしたか。
阿保氏:
ファミコンのファミリーベーシックからスタートし,親に頼み込んでシャープのX1を買ってもらいました。1986年に出たX1Gシリーズは本体がたったの6万9800円で,ほかの機種と比べるとかなり安かったんです。X1Gを手に入れてからは「パソコンは何でもできるな!」と感心して,シューティングゲームを作ったり,絵を描いたり,ツールを作ったりといろいろやっていました。
4Gamer:
最初は音楽ではなくゲームを作っていたんですね。
阿保氏:
そうですね。ただ,やっぱりゲームを作ると音が欲しくなるので,タイトル画面でBGMを鳴らすときは自作の曲っぽいものを付けてみたり,雑誌に掲載されていたほかのゲームのBGMからフレーズを引っ張ってきてみたりと,あれこれ工夫していました。
4Gamer:
ゲーム作りを職業にしたいと考えるようになったきっかけは何でしょうか。
阿保氏:
後にX68000を手に入れてゲームを作るような日々を送っていたんですが,プログラミングから音楽,効果音まで一通り自分で完成させてみて,「これをゲーム会社に持ち込んだら,どんな反応をされるだろう?」と思ってスタークラフトに応募したんです。
4Gamer:
そこから阿保さんのキャリアがスタートしたと。
ええ,プログラマー兼サウンドという形で採用してもらえました。それで最初はゲームのデバッグからやることになったんですが,スタークラフトは仕事を教えてくれないんですよ。
4Gamer:
それは困った状況ですね……。
阿保氏:
中身がまっさらのX68000やPC-9801を渡されたんですが,自分で使っていたX68000はまだしも,PC-9801なんて,どうすればいいのか分からない。周囲の皆は仕事をしているので聞くに聞けず,自分で調べて環境を構築していきました。
あの頃は国産パソコンもたくさんの機種があり,PC-8801が終わりかけで,会社からはX68000よりPC-9801をメインにしてほしいと言われていたような時代でした。
4Gamer:
当時の仕事内容はどのようなものでしたか。
阿保氏:
自分が初めてデバッグしたのは,スーパーファミコンのゲームでしたね。メインの仕事もなかったので,デバッグをしながらサウンドチップの説明書を読んで,音作りやサウンドドライバの使い方について,いろいろと試していました。ただ,開発に使うUNIXは高価な機材で,メインプログラマーの方が占有していたので自由に使えず,分からないところがあってもなかなか調べられなくて困りました。
そのうちPC-9801での開発環境が整い,自由に作曲できるようになって,それを見た人からスーパーファミコン用ゲームへの参加とサウンドへの専任を指示されたんです。
4Gamer:
そこでついにサウンドに専念できるようになったわけですね。
阿保氏:
ゲーム音楽は大好きでしたし,いろいろなゲームの曲を聴いて,音作りの秘密を知りたいとサウンドのことばかり考えるようになっていたので,嬉しかったですね。とくに「アクトレイザー」などは,どうやってもスーパーファミコンで作れるはずのない音が鳴っていたので,不思議で仕方ありませんでした。
4Gamer:
「アクトレイザー」の音楽は今でも人気がありますよね。そのほかに,とくに印象に残っているゲーム音楽はありますか。
阿保氏:
「パラッパラッパー」にはショックを受けました。それまでのゲーム音楽は,音を組み合わせて鳴らすだけの,カラオケに近い感じでした。しかし,「パラッパラッパー」はCDそのもののような音楽が流れているのに,ボタンを押すとインタラクティブに音や曲が変化して,切り替えた瞬間がまったく分からない。音楽をエンターテイメントにしている,こんなゲームの作り方もあるんだと感動しました。
オリジナルから1bitも変えない,こだわりの音を収録
4Gamer:
ここからは,11月25日に配信開始となる「阿保剛KID作品集」第2弾の3作品,「Never7 -the end of infinity-」「Ever17 -the out of infinity-」「Remember11 -the age of infinity-」をメインにお話を聞かせていただきたいと思います。
まず今回のサントラシリーズでは,全体を通じてどのような取り組みをされているのでしょうか。
阿保氏:
通常のサントラでは外部のマスタリングエンジニアさんが音を調整することも多いのですが,このシリーズではすべて自分自身で作業をしています。元のデータは実機からデジタル出力されたもので,これを1bitも変えないというのが基本姿勢です。ノイズ除去はしますが,音の成分を削りたくないので,イコライザーは掛けずに音をフラットにするようにしています。
まさに当時のままの音を収録することにこだわったと。それでは,「Never7」での音作りについて教えてください。
阿保氏:
メモリの活用法や音色の使い方など,当時できることをすべて詰め込んだのが「Never7」です。この頃から“ピアノの音を綺麗に出す”というテーマがあり,音が鳴った瞬間になるべくノイズが乗らない“丸いピアノ”の音色を目指して,何度も打ち込み直しながら作っていきました。
4Gamer:
阿保さんと言えばピアノ曲に定評がありますが,音色1つにもディープなこだわりがあるわけですね。
阿保氏:
ピアノの単音を使うと,ちょっとしたアラでも目立ってしまうんです。特定の曲のためだけに音色のセットを作れればいいんですが,当時はスペック的な事情でそうもいきませんでした。そのため,ほかの曲でも使えるようなピアノの音にしながら,“丸いピアノ”の音色を目指していったんです。
4Gamer:
そんな「Never7」の曲の中で,ポイントとなる曲を挙げていただけますか。
阿保氏:
とくにお気に入りなのは「Magic of true」ですね。この曲は本来,テーマ曲として作ったのですが,あとから後半のイベント曲に割り振られたという経緯があります。
4Gamer:
しっとりとしたピアノ曲ですよね。
阿保氏:
そうですね。これが先ほどの“丸いピアノ”を目指して作った曲になります。もう1曲のお気に入りが「Beginning of Infinity」で,こちらが新しく作ったテーマ曲です。この曲はPlayStationで発売された「infinity」に始まって,ドリームキャスト版「Never7 -the end of infinity-」とそのPlayStation 2版,合わせて3回作り直しているので,思い入れもひとしおです。
4Gamer:
「Never7」の曲作りにおけるテーマはどういったものでしたか。
阿保氏:
「SFの世界観を崩さないように」ということを意識しました。コミカルな曲も,演出で必要になる最小限に留めています。キャラクターごとのテーマ曲については,設定をベースに作っていきました。最も重要な鍵を握るキャラクターについても,SF方面から攻めつつ,神秘的な要素を曲に取り入れています。
4Gamer:
そうした曲作りのアイデアはどこから得ているのでしょうか。
阿保氏:
シナリオやプロットを読んだときの第一印象がほとんどですね。プロジェクトに参加する際は,キャラクター設定と大まかな物語についての資料をいただきます。これを読みつつ,自分が受けた印象をテキストファイルにメモしていくんです。この印象メモと,曲の発注リストを付き合わせて作曲の作業を進めていく……といった感じです。
4Gamer:
発注の際に「こんな曲が欲しい」という指示があったりもするのですか?
阿保氏:
作曲するうえでは別の曲を参考にしたくないし,自分の印象を大事にしたいので,「○○みたいな感じ」と指定されると,逆に困ります。別の曲を参考にするとしても,聴くのは一度だけですね。
ほかの曲を模倣するのではなく,あくまでもご自身の中にあるものから曲を作っていくと。では,「Ever17」の曲についてもお話を聞かせてください。
阿保氏:
この作品はシナリオが濃厚でスケールも大きいので,企画の中澤 工さんとお話しながら方向性をつかんでいきました。海洋テーマパーク「LeMU」(レミュウ)でとある事件が起こり,事態がどんどん深刻化していく……というストーリーで,物語の段階に沿った曲作りをしています。
4Gamer:
具体的には,どのような工夫をしているのでしょうか。
阿保氏:
まず初めにLeMUの地上部分で流れる能天気な曲を作り,これを第1段階として同じフレーズを使いつつ,事態の変化に合わせたアレンジをしていきました。
第2段階はキャラクター達が日常のやり取りをしている序盤の曲。第3段階はLeMUに事件が起きてパニックになっているときの曲。その次は,さらに深刻な事態が起こった極限状態で,物語のコアに迫っていく第4段階の曲……という感じで,物語の構造自体が曲作りの助けになったとも言えます。
4Gamer:
こちらもイチオシの曲を挙げていただけますか。
阿保氏:
どの曲にも思い入れがあるのですが,2曲ピックアップさせてください。1つは子守歌の「Der Mond Das Meer」ですね。シナリオ担当の打越鋼太郎さんから歌詞をいただき,言葉のイントネーションに合わせて音階を割り振っていきました。普段はベースなどの伴奏を先に作ることが多いんですが,この曲ではメロディを先に作るという,いつもとは逆のアプローチを採っています。
4Gamer:
では,もう1曲は?
阿保氏:
エンディング曲の「Je nach」です。曲名はドイツ語で「未来へ向けて」といった意味ですね。エンディングの絵コンテを元に画面と音楽をシンクロさせていて,出だしは絶望的な状態から静かに始まり,一転して謎めいた希望に転じる画面演出と同時に曲調を変えて,一気にスタッフロールへ移っていく……という流れになっています。
4Gamer:
2部構成的な曲になっているんですね。
阿保氏:
この曲は当時あまり使われていなかった,ソフトウェアシンセを使ったという意味でも印象深いです。使えるメモリの都合上,「ムービーに合わせる形にするなら,ソフトウェアシンセでも大丈夫」ということで許可をもらったんですが,作っているうちにメモリがギリギリになってしまい,曲の前半部分とスタッフロール部分を別々に作ってから,両者を編集で合成しています。
そんな苦労があったとは,当時プレイしていて,まったく気づきませんでした。では,「Remember11」についても教えてください。
阿保氏:
この作品では極限状態のシーンが続くので,SF的でありつつ,ギリギリの精神状態をイメージした曲が多くなっています。設定がこれまで以上に濃厚になり,スタッフからいろいろと話を聞きつつ,まずはキャラクターのテーマ曲から作っていきました。設定を読みながら,自分なりにキャラクターが持つテーマ性を深掘りしていったので,印象メモが普段より長くなってしまいましたね。
4Gamer:
音楽的に工夫した点などはありますか。
阿保氏:
「単体だと音楽的ではないけれど,サウンドトラックに収録すると,ほかの曲とマッチする曲」というテーマを追求しました。不協和音も気にせずに使っていますし,人の声や効果音など,普通は“楽器”として使わない音色も積極的に取り入れて,少し変わった音の世界を作っています。おかげで波形編集は楽しかったのですが,いつもより時間がかかってしまいました。
4Gamer:
では,イチオシの曲は?
阿保氏:
「Anima」と「Animus」ですね。男性的な女性,女性的な男性という組み合わせの曲になっていますし,2編のシナリオをそれぞれ象徴するテーマ曲ですから。「Anima」は明るい日常曲なんですが,こういう曲はゲームの前半でしか流れないんですよ。後半はドロドロした曲ばっかりで(笑)。でも,自分はこのゲームの世界観が大好きです。
4Gamer:
これらの曲にも,普通は楽器として使わない音色が使われているのですか。
阿保氏:
「Anima」の中盤には人の声を使っています。“Oh my god”という叫びの“god”の部分がそれにあたるので,注意して聴いてみてください。「Animus」はいくつかのシーケンスが並行して演奏されていて,表に来るシーケンスが順に変化していく曲です。「Remember11」のPVに“3つのリングが重なる”というシーンがあり,それがすごく格好良かったので,フレーズとして表現したいと考えて作っていきました。
4Gamer:
どちらの曲も,ヘッドフォンでじっくり聴いてみたいですね。
すでに配信されている第1弾の「夢のつばさ」「My Merry May」「My Merry Maybe」と,第3弾の「てんたま2wins」「Iris 〜イリス〜」「想いのかけら -Close to-」についても,それぞれ簡単にご紹介いただけますか。
阿保氏:
「夢のつばさ」は「Memories Off」で覚えたマルチサンプリングの技法を用い,“自分が使ったことのない音階を使う”という実験的な試みをしています。ほかのタイトルとはちょっと毛色が違う曲になっているので,そこに注目してほしいですね。
「My Merry May」の音楽作りにおけるテーマは“色”で,曲をすべて色に例えて制作を進めていきました。続編の「My Merry Maybe」ではシナリオ優先のアプローチを採り,シーンに合ったサウンドトラックを作るという意識で曲を作っています。自分はこのシリーズの世界観やテーマが大好きなので,まずは物語を楽しんでいただき,そのあとに音の流れを意識して聴いてほしいです。
4Gamer:
第3弾の3タイトルについてはいかがでしょうか。
阿保氏:
「てんたま2wins」は肩の力を抜いて曲を作っています。物語のテーマに合わせ,前半は明るく,後半はダークな感じにしていきました。
「Iris 〜イリス〜」は優しくマイルドな時間を表現した作品なので,曲もイージーリスニング的なものにしています。音色も鋭いものはあまり使わず,キラキラした感じの音や鐘の音,鈴の音などをフィーチャーしています。
「想いのかけら -Close to-」は「Close to 〜祈りの丘〜」のリマスターで,メモリをギリギリまで使って音色の質を高めたうえで,同じ曲をもう一度作り直しています。過去にサントラも出ていますが,音質はこちらのほうが高いです。
4Gamer:
なるほど。さらに高い音質を求める人は必聴ですね。
ゲームを引き立てる曲を,自分なりの音で作りたい
4Gamer:
今回,過去に作った自分の曲を改めて聴いてみて,いかがでしたか?
阿保氏:
過去の音楽を聴いていたら,当時の出来事や開発環境といった思い出が音とリンクして浮かんできました。懐かしさと同時に,詰めの甘さを感じましたね。恥ずかしさはありますけれど,そのときの完成品ではあるので,子供を見る親のような目線で見ています。
4Gamer:
音楽と思い出はリンクしやすいですよね。阿保さんが作られたゲーム音楽にも,そうした力があると思います。
阿保氏:
物語あっての曲,演出効果としての曲なので,そうしたものとして思い出していただけると嬉しいです。
4Gamer:
曲作りの際はいつも,どこから作業を始めるのでしょうか。
阿保氏:
作品を特徴づけるのは“音色”なので,まずはそれを作ってから曲を制作していきます。今回のアルバムに収録されているPS2やドリームキャストの時代ですと,1タイトルあたりの作業期間は3か月ほどで,その半分くらいを音色作りや波形編集に使っていました。
当時の家庭用ゲーム機はいろいろと癖が強くて,片方の機種では音が鳴るのに,もう片方の機種では無理,なんてこともありました。そのため,音色のデータを1バイトでも小さくするように工夫していましたね。
4Gamer:
音が鳴らないなんてこともあったんですね。
阿保氏:
当時,それが一番困った問題でしたね。音が鳴ることを確認してからROMを焼いたのに,開発機でプレイするとなぜか鳴らなかったり。逆に,それまで鳴らなかった音が,数マイクロ秒ずらすと問題なく鳴ったりと,結構デリケートなんです。機種ごとの癖は経験を積むと分かってくるんですが,どこまでギリギリを攻めていいかは悩みどころでした。
4Gamer:
作曲家であると同時に,エンジニアでもあったと。
阿保氏:
もう,ギリギリまでメモリを使い切るのが楽しかったですね(笑)。他社さんのゲームを遊んでいるときも,サウンドドライバの挙動を意識しながら曲を聴いているような感じでした。ここでは何音が同時に鳴っていて,割込にはどういう処理が入っているのか……とか,もう職業病ですね。
4Gamer:
この時期で思い出に残っている機種はありますか?
阿保氏:
ドリームキャストはとくに曲を作りやすかったですね。ほかの機種では「波形が28の倍数でないと,ループした際に音にノイズが入る」という仕様があったり,音を制御するのにプログラマーさんにお願いしなくてはいけなかったりといったこともありました。
しかし,ドリームキャストではそうした制限がなく,好きな音色を自由にループさせられ,サウンド開発者が最後まで曲の面倒を見ることができました。また,フィルター的な機能で音色をアレンジすることもでき,シンセサイザーとしての機能も優れていたんです。
4Gamer:
音作りについても,時代と共に変化していったと思いますが。
阿保氏:
昔はシンセサイザーや生楽器など,いろいろな音源を組み合わせていて,何十本というケーブルをつなげて音作りをするような状態でした。でも,今は楽器の音をすべてソフトウェアで再現できますから,使っているのはほぼMacと鍵盤くらいです。小さなミキサーもありますが,Macで音をミックスできるので使い道もないような状態ですね。ノイズの元になるので,できるだけケーブルは増やしたくありませんし。
4Gamer:
現在はメモリ容量の心配などもなくなりましたが,かえって困るようなことはあるのでしょうか。
阿保氏:
細かいところにこだわり出すときりがなく,いくらでも上を目指せるところですね。オーケストラなどの生音を志向することもできるんですが,自分が作りたいのは電子音をベースとしたゲーム音楽なので,両者のあいだで葛藤があったりもします。今はリアルな音が主流になっていますが,「ゲームを引き立てる曲を,自分なりの音で作りたい」という気持ちは変わっていません。
4Gamer:
作品に合わせた曲作りを大事にしていると。
阿保氏:
そうですね。自分はゲームのために,映像やキャラクター,世界観やストーリーに寄り添った,“演出としてのサウンドトラック”を作りたいんです。まあ一度,自分をもっと出した曲を作ってみたいという気持ちもありますが(笑)。
4Gamer:
ちなみに阿保さんは,明るい曲と暗めの曲のどちらが得意なのでしょう?
個人的に好きなのは,暗くてアンビエントな曲でしょうか。メロディがなく,ずっと伴奏が続いているような感じですね。
4Gamer:
「Memories Off」以降は,ピアノ曲に人気が集まっているように感じますが。
阿保氏:
ピアノはサントラに適した楽器で,どんなシーンにも合いますし,なんなら1つのゲームで使う曲をすべてピアノだけで作れるくらいの表現力があります。未だに可能性の限界が見えないくらいに奥が深いですね。ただ,何でもできてしまう楽器なので,最近はあまり頼りすぎないようにしているんです。
4Gamer:
そうだったんですか。
阿保氏:
自分的には曲よりも音色なんです。例えば,FM音源なんかはパラメータが1つ違うだけでまったく違う音になったりしますから,いろいろな音を掛け合わせたり,ずらしたりと,いかにうまく音色を使うかを工夫するのが楽しいところなんですよ(笑)。
4Gamer:
そういえば,「この素晴らしい世界に祝福を!〜この欲望の衣装に寵愛を!〜」の初回特典DLCとして用意されたレトロ風のゲーム「カズマの飛び出せ大冒険!」でも,ファミコン風のBGMを作曲されていましたね。
阿保氏:
あのときはファミコンの実機環境で曲作りができたのが楽しかったです。聴かせる曲作りと,技術的に鳴っただけで楽しい音色作りの両方を追求する,こういったお仕事をいただくと水を得た魚のようになります(笑)。
4Gamer:
まさに筋金入りの音色マニアですね(笑)。今後の活動についての抱負はありますか?
阿保氏:
ゲームのための曲を作るのはもちろんですが,今後はアドベンチャーゲーム以外のジャンルにもチャレンジしていきたいですし,アニメの曲もどんどん作っていきたいですね。
4Gamer:
では,最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
阿保氏:
自分が作った音楽で,感動したり作品に興味を持っていただけたりすることがとても嬉しいです。今回の音楽集はKIDから発売された作品から,内蔵音源を使ってプログラムで音楽を作っていた時代のものを収録しています。当時はCDとの差が出ないように音質にこだわって作っていたんですが,今となってはちょっとチープなCDくらいに聴いてもらえれば嬉しいですし,あの頃に苦労した甲斐があったというものです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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- MAGES.
- ライター:箭本進一
- カメラマン:増田雄介
(C)MAGES.