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[AGC 2006#03]MMORPG界の賢人,ラフ・コスター氏が語る 「恐竜とMMORPGの関係」
もともとテーブルトークゲームに熱中してテキストMUD(マルチユーザー・ダンジョン)を開発し,それを見たRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏によって,Origin Systems(当時)が開発していた「Ultima Online」のリードデザイナーに抜擢された。「Ultima Online: The Second Age」の後にはSony Online Entertainmentに移り,そこで「EverQuest II」や「Star Wars Galaxies」の開発チームを総括した。しかし,今年4月には退社しており,今は静かに時が熟すのを待っているといった様子である。
一貫してオンラインゲーム畑を歩んできたコスター氏は,GDCでは“MMORPG 2.0”という表現を使って既存のゲームシステムやビジネスモデルからの脱却を説いていたが,その半年後のこのAGCでは,さらに自分の考えを推し進めている。MMORPGを絶滅直前の恐竜になぞらえ,「滅亡の危機に瀕したとき,進化を遂げた者だけが生き残る」と言い放ったのである。
確かに,北米市場の55%近くを1作で握る「World of Warcraft」の一人勝ちにより「MMORPG市場は停滞期に入った」と言われて久しい。実際,コスター氏のようにハッキリとした言葉は用いないまでも,AGC会場内は「何か変革を起こさなくてはMMORPGは潰れてしまう」という危機感で満ちているように感じられる。当然ながら,コスター氏は「ダメっぽいから(MMORPGを)諦めよう」と提言しているのではなく,「この状況に果敢に適応してこそ,新しい時代を迎えられる」と言っているわけである。
彼が説明するところによると,恐竜の誕生から滅亡までと同じように,この世のおおよその文化は,「発生 → 成長 → 成熟 → 衰退 → ニッチ化」という経路をたどる。今,MMORPGというジャンルが衰退期にあるとすれば,何か抜本的な改革を施さない限り,やがて税法の規制が及ばないのをいいことに,RMT(リアルマネートレード)で短期間に荒稼ぎするか,「お客をプレイヤーから広告主に変えて」薄い利益を得るといった,ニッチなことになってしまうのである。
「市場の50%がたったの1作で占められるMMORPGなんて,まだマシなほう」と,コスター氏は続ける。彼は,例えばリリースから8年近くがたった「Counter-Strike」が,GameSpyなどの統計によると,依然として80%以上のプレイヤーを得ていることから,すでにFPSはニッチなのであると断言する。
では,恐竜の時代から存在し,やがて恐竜を押しのけて繁栄するに至ったほ乳類は,いったいどこにいるのだろう? 「皆さんは知っているけど,ずっと気付かないふりをしていたのです」とコスター氏は語る。ゲーム雑誌にこそ載らないが,World of Warcraft以上に人気があるとされる「NeoPets」や「Runescape」,そして「Habbo Online」といった,Web系オンラインゲームを挙げ,今は恐竜の足元でウロウロしているに過ぎないといえ,そのフレキシブルな姿に将来性を見出す。彼は,「Web 2.0革命を無視してはいけません。いまや門番はいなくなり,新世代の扉は誰でも開くことができる時代になっているのです」と締めくくった。
今回の講義でも語られていたが,デジタル・ディストリビューションやWeb2.0的なユーザー参加型のシステムに,現在の流通モデルは当てはまらない。すなわち,開発者ばかりでなくゲーム産業そのものが変革を迎えるときに来ているのかも知れない。(ライター:奥谷海人)
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