連載
極私的コンシューマゲームセレクション:第23回「アサシン クリード」
» 本連載で今回紹介するのは,Xbox 360の三人称視点型のアクションアドベンチャーゲーム「アサシン クリード」。そのキャラクターアニメーションに関する技術は“新世代”を標榜するにふさわしいと評判の本作を,4Gamerの“旧世代”代表こと松本隆一が紹介する。
次世代のゲームプレイを謳う
「アサシン クリード」がついに登場
のっけから唐突だが,隣の芝生は青く見えるという。それが芝生ではなく若い美人プロデューサーとなればなおさらだ。2006年のE3(Electronic Entertainment Expo)で華々しく公開されたUbisoft Entertainmentの「Assassin's Creed」は大きな拍手をもって世界のゲームメディアに迎えられ,同年E3のベスト・アクションアドベンチャー賞に選出されたほか,さまざまなアワードを受賞した。だが,なにせそのときもらったプレス向け資料にでっかく「対応機種:PLAYSTATION 3」と書いてあって,残念ながら我々としては指をくわえて見て見ぬふりをするしかなかったのである。
2007年の第1四半期にはリリースされる予定だったAssassin's Creedだが,案の定というか織り込み済みというか順調に遅れ,ようやく2007年11月29日,Xbox 360版の「アサシン クリード」がユービーアイソフトからリリースされた。もちろん完全日本語版だ。途中,PC版が同時発売されるというアナウンスもあったのだが(関連記事),結局のところそれは遅れて2008年にズレ込んでしまった。最初の対応機種だったPLAYSTATION 3版だって2008年1月31日発売予定になっているのだから,PC版はいつになるやらという気もする。
とはいえ,とうとう発売されたアサシン クリードはなかなか評判もよく,鬼が笑うような来年を待っていられない……というわけで,今回私がさらっと紹介するのがXbox 360版のアサシン クリードである。とはいえ,のっけっからなんだけど,なんで日本語版のタイトルが「アサシンズ クリード」じゃないのかしら? これじゃ,“殺し屋クリード”になっちゃいますね。主人公はアルタイルだっていうのに。
本編の主人公,アルタイル。驚異的な身体能力と戦闘力でアサシン教団の敵を次々と亡き者にしていく,考えようによってはアブナイ男 |
アサシン教団の大導師アル・ムアリム。ほとんどのミッションは彼の指示によるもの。アルタイルを見習いアサシンに格下げする |
リチャード獅子心王の側近にしてテンプル騎士団の団長,ロベール。襲いかかったアルタイルを苦もなくはねのけるかなりの強敵 |
ゲームの舞台となるのは1191年の中近東で,第3次十字軍の遠征で聖地エルサレムを中心とする一帯は大混乱に陥っている。主人公は「アサシン教団」所属の暗殺者,アルタイル(25歳)。若いながらも奥義を究めた暗殺者中の暗殺者「マスター・アサシン」である。
と・は・い・え。これはスタート直後にあっさり分かることなのだが,ゲームにはさらにもう一つ,驚きの設定が用意されているのである。これまで公式のお知らせはなく,あちらのメディアなどにもあまり書かれていない裏設定だ(気がつかなかっただけという可能性も拭い去れないが)。そんでもって,今もあんまり書かれていないようなのでやっぱりここにも書かないのだけど,実はそういう話だったので,いやー,知らなかったなあ。
この設定,熱烈なゲームオタクだというジェイド氏(非公式情報ながら,「EverQuest」中毒になった経験ありとのこと)は,もしかしたら1980年代後半にリリースされた,日本テレネットの「XZR」(エグザイル)シリーズのファンなのかも。舞台は中近東だし,主人公はアサシンつながりだし。
さて,「アサシン教団」もしくは「暗殺者教団」とは,もともとイスラム教のシーア派のイスマイール派のニザール派(長い!)がハシシ(麻薬)を使って若者をたぶらかし,アラブの王朝や十字軍の要人を片っ端から暗殺していったことで有名になった怪しい教団だ。
暗殺者候補の男子を山上の砦に連れ込んで酒池肉林のごちそう責めにし,正気に戻った相手に,今のは天国であり,誰それを殺せばふたたび天国に行けると騙して狂信的暗殺者に仕立て上げるのである。自慢じゃございませんが,私がそんな目にあったら間違いなく騙されるだろうし,その点についてはかなりの自信がある。まあ,どうでもいいですが。もっとも,近年の研究ではニザール派にそういった事実はなく,おおむね19世紀頃に作られたロマンチックな伝説らしいとされている。
家の屋根でも塔でもなんでも,かなり場所に好きなように行けるアルタイル。ハシゴいらずである |
アサシンであるアルタイルは斬り合いも得意。コンボ技まで使えるので,普通の敵ならあっさりバッサリ |
ゲームはそうしたアサシン教団の伝説を巧みに使っている。「マシャフ」と呼ばれる土地にある教団本部は険しい山の上に築かれており,大導師アル・ムアリムがアサシン達に命令を下す。教団には厳しい掟があり,ちょっとうろ覚えで申し訳ないが「罪なき人を殺してはいけない」「仲間を窮地に陥れてはいけない」「夜,自転車に乗るときはライトを点けよう」と,なかなか立派な心がけだが,やっていることは有無を言わせぬ暗殺に違いはなく,ムアリムは人格者というより,裏切り者を無慈悲に殺害するなど,どことなく油断のならない人物として描かれている。
いや,ムアリムだけでなく,ゲームに登場するほとんどの人物はなにやら一癖も二癖もありそうな気配で,まずもって「誰が敵やら味方やら」という雰囲気だ。
そんなある日というかオープニングミッション,エルサレムの神殿から財宝を奪おうとしたアルタイルとその仲間は,アルタイルの判断ミスのために任務に失敗してしまう。怒ったムアリムは,アルタイルの持つマスター・アサシンの称号を剥奪し,彼を見習いのアサシンまで降格してしまうのだ。かくして彼は,自らの暗殺者としてのアイデンティティを証明するため,ムアリムの指示でさまざまなミッションをこなしていくというストーリーだ。
正体を見破られた場合,逃げて隠れるか戦うかの二者択一となる。相手の実力をよく見きわめないと返り討ちに |
そっと背後に忍び寄って,アサシンナイフでしとめる。距離の離れた敵には投げナイフが有効だ。鉄砲は持ってない |
秘技「タカの目」を使えば,NPCが敵なのか中立なのか味方なのか直感で分かる。あ,罪なき市民がいじめられている |
あなたはスニーク派? それともアクション派?
マスター・アサシンはどっちも器用にこなします
ゲームパッドの各ボタンには,アルタイルの頭,左右の手,足の動きがアサインされており,ステルス行動とアクション行動でそれぞれ違った動きをするのだ。そのため,操作系はやや複雑で,私がゲームパッドにあまり慣れていないせいもあるだろうけど,ときどき何がなんだか分からなくなって,戦闘中に「祈り」を捧げたりしてしまったりするのだ,えへへ。
ダッシュによる壁の駆け登り,驚くほどのハイジャンプなど,アルタイルの移動能力はきわめて高く,ちょっと無理じゃないのという場所でもスイスイ登っていったりする。さすがはマスター・アサシンだ。この動きを見ているだけでもなかなか愉快だが,これはまたヘマをしたとき追っ手をまくのにも有効となる。
ミッション中,スリをし損なったり正体を見破られたりすると,当然のように自警団だの兵隊だのに追いかけられるが,そういう場合は群衆に紛れ込んでみよう。これが噂の「ソーシャルステルス」である。なにげなくベンチに腰を下ろしたり,ワラの中に飛び込んだり,建物の上にある空中庭園に身を潜めたりしていると敵はあきらめてくれるのだ。中近東には割とあきらめのいい人が多いようで(←誤解),敵のAIは比較的シンプルという印象だ。
群衆は,ときには味方になりときには面倒な相手になるが,ハイテク装備を持たないアルタイルは群衆に溶け込んで姿を隠すのである。とはいえ,相手があまり警戒していないときはいいが,さすがに追われている最中にベンチに腰掛けて鼻歌を歌っても,相手は見逃してくれないのだ。
まあ,衣装とか同じなんだから“お祈りのポーズ”で見逃してくれというのも虫のいい話かも。いずれにしろ,画面左上の敵の警戒度を表すマークには常に注意していなければならない。
そうした高い身体能力と盗聴やスリといった小技を使って情報を集め,壁を登ったり巡礼のふりをしたりして敵に接近し,クライマックスは華麗なナイフさばきでざくり! こうした一連の動きがケレン味たっぷりに決まると,大変カッコいい。あんまりカッコよくてなんだか自分が偉くなったような気がしてくるが,気のせいだろう。このへんがアサシン クリードのゲーム性のキモである。基本はスタイリッシュなアクションゲームなのだ。
とはいえ,こうしたアクションの豊富さは,予想と違って必ずしも戦闘の面白さにつながっていない感じもしないでもない。ミッションはスニーク主体でもアクション主体でも行えるが,とくに何も考えずに特攻してエグゼキュート。そのあとダッシュで逃げてもなんとかなってしまうことが多いのである。
そうなると,苦労して情報を集め,こっそり接近して……などという方法をとろうとするモチベーションが下がってしまうことになる。まあ,警戒度が高いと敵はけっこうしつこく追ってくるので,それがイヤだからという人もいるとは思うが。
ヒットマンにはスニークに有利な「報酬システム」があり,スプリンターセルの主人公サム・フィッシャーは必要最低限の弾薬しか持っていない。そのためゲームの進行は開発者の意図するように,スニーク主体となる。
だがアルタイルは,かなり多くの敵と剣を交えても勝ってしまうし,走って逃げればほとんど誰も追いつけないのだ。ミッション内容のバリエーションもそれほど豊富というわけではないため,ゲームが進むにつれて作業化していくという声もあるようだ。頭を使っていろいろな方法を思いつき,そのうえでクリアしたいという向きはやや肩すかし感を覚えるかもしれない。
こうなったら,例えば「断食月はお腹がすいて仕事が出来ない」とか「お祈りの時間がきちゃったので仕事を中断しなければならない」という,あちらならではといった雰囲気あふれる設定があってもよかったような気がするが,ダメですか。ダメですね。
没入感満点のリッチなグラフィックス
いやー,手間かかってます
マシャフを離れ,任務のために馬に乗って進むアルタイル。峠を越えたあたりでダマスカスの町並みが見えるが,その美しさと圧倒的な存在感には,以前から割と息を呑みやすいことで有名な私も思わず息を呑んでしまう。高い城壁やモスクの尖塔,はるかな山並み,そして行き交う人々など,しばし馬を止めて見入ってしまうほどだ。ジェイド氏,がんばってます。
しかもマップはべらぼうに広く,そこには人が暮らし,さまざまなイベントが発生するという凝り方。あちこちにこっそり置かれたアイテムを集めるといった探索要素が用意されているほか,ところどころにある塔に登り,「タカの目」を使うことでマップの表示範囲を広げたりできるなど,ただ通過するだけといったなんでもない土地にいろいろと細かい仕掛けが施されている。そのため,ただブラブラしてアイテムを探したり,馬を駆って遠乗りしたりなどだけでも面白いのだ。いっそのこと,暗殺者なんて因果な商売は辞め,ツボを頭に載せた女性の一人と結婚して住みつきたいぐらいである。できないけど。
ゲームが進むにつれ,行ける街が増えていくが,主要な街としてはダマスカスのほか,エルサレムとアッカが用意されている。いずれもいいデキだ。ただ,「イスラム教のメッカ」といわれるメッカには行けない。だからどうしたって聞かれても困りますが。
タカの飛んでいる塔に登って「タカの目」を使えば,マップの表示範囲が広がって便利である。えーと,残念ながら「ウの目」はない |
かくして,暗殺任務をこなしていくうち,アルタイルは聖地を揺るがしかねない陰謀に直面し,大きな決断を下さなくてはならなくなる。ゲームのストーリーも魅力的であり,テンプル騎士団や十字軍,アラブの王朝や奴隷商人など,中東史に詳しい人ほど嬉しくなるエキゾチックな設定と,一筋縄ではいかないクセのあるキャラクターがゲームに花を添える。暗殺というとどうしても悪いことをしているような気がするが(というか,悪いことをしているのだが),ターゲットがいかにもな奴ばかりなので,これはまあ,正義のためにやっちまうのも仕方ないかなという気分にさせてくれるのはお約束の設定。
ダマスカスの門前にて。細かい描き込みがさながら泰西名画のようである |
神学者の一団にまぎれて警備の目をごまかす。剣吊ってるし,服違うし,馬ついてくるしだが,警備兵は気づかない |
実にそれらしい市場の喧噪。ツボを頭に乗せている女性にぶつかり,彼女がツボを落とすと怒られるので要注意 |
兵士にいたぶられて困っている市民を助けてあげると,あとでいいことが起きるかもしれないが,起きないかもしれない |
コントロールがちょっとばかり難しいが,乗馬は楽しい。ただし,兵士のそばを通るときはゆっくり行こう |
当初期待していたように,必ずしも暗殺のドキドキハラハラ感を味わえるわけではなく,ミッションクリアにおけるパズル的要素はそれほどでもない。意外にも比較的ストレートなアクションゲームだったというわけだ。だが,作り込まれたマップとリアルなグラフィックスによる没入感は満点であり,謎めいたストーリーもなかなかいい。やり込み要素も多く(ちょと作業的になってしまうが),操作に慣れて,さまざまなアクションを自在に繰り出せるようになれば,アルタイルの華麗な暗殺技術を十分に堪能できるだろう。
というわけで,勝手にしていた発売前の予想とはちょっと違ったものの,かなり面白いゲームに仕上がっているのは間違いない。うーん,可愛い顔してなかなかやるなジェイド・レイモンド,という感じである。あ,生意気ですいません。というわけで,PC版が出たら時をおかず購入することに決定。PC版の紹介などもぜひお楽しみにしてほしい,と今回は軽くひっぱっておしまいである。それにしても,いつになるのかなあPC版?
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アサシン クリード
対応機種:Xbox 360メーカー:ユービーアイソフト
発売日:2007年11月29日
価格:7329円(税込)
CEROレーティング:Z(18歳以上のみ対象)
公式サイト:http://www.ubisoft.co.jp/assassinscreed/top/top.html
- 関連タイトル:
アサシン クリード 日本語マニュアル付英語版
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