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「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――それって本当にハッピーなんですか?「マブラヴ」の正体を探る後編を掲載
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印刷2017/03/11 00:00

インタビュー

「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――それって本当にハッピーなんですか?「マブラヴ」の正体を探る後編を掲載

大量の記号の裏に隠された「マブラヴ」の正体


吉宗氏:
 「オルタ」のラストってハッピーですか?

BRZRK:
 え,大団円じゃないですか。

吉宗氏:
 もちろん商品として送り出した以上,プレイヤーが個々に主観のフィルターを通して受け取ったものが正解なので,作り手の“つもり”を言うのは蛇足なんですけど……。

マフィア梶田:
 いやいや,すっごい気になりますよ……。

画像集 No.007のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――それって本当にハッピーなんですか?「マブラヴ」の正体を探る後編を掲載
吉宗氏:
 「マブラヴ」はメインヒロインである鑑 純夏の物語だと言えますが,彼女が最後に何をやったかというと,いわゆるFINAL EXTRA世界の創造なんです。武とほかのヒロインが幸せになる並行世界の消滅,その原因だった純夏が贖罪を込めて,ヒロイン全員が公平に武と恋人になるチャンスがある世界を再創造した。そしてALTERNATIVE世界に関わる武の記憶の一切を抹消した。

 中盤で武が因果律量子論を取りにEXTRA世界に戻ってきたとき,他者に対してどういう心理状態になったか。ベトナムやイラクの帰還兵が一般社会でどうなったかを考えれば,それが純夏の優しさであることが分かります。さらに,死んでいたはずの悠陽を蘇らせ,EXTRA世界には存在すらしなかった霞を,ALTERNATIVE世界の武を構成していた余剰物質で再構成した。形としては多くの作品に見られるパターンの大団円ですし,一見非常に良い話に聞こえますよね。

マフィア梶田:
 は……はい。

吉宗氏:
 ですが,それって本当にハッピーなんですか? 成長の糧となった過酷な経験や嫌な記憶。それだけじゃなく,嬉しかったことや感動した体験もすべてなくして,元の能天気な高校生に戻ることが本当にハッピーなんですかと。僕的には少し皮肉を込めた部分もあるんですよ。良くあるハッピーエンドパターンの裏に,何があるのかよく考えなければいけないんです。

マフィア梶田:
 うわっ。吉宗さん,本当に性格悪いっすね(笑)。

吉宗氏:
 最高の褒め言葉,あざす(笑)。やるからには一歩踏み込みたいんですよ。一方で,もしその意図に気付いたプレイヤーがいたら,喜んでもらえるかどうか分からないですよね。何しろハッピーの否定とも取れますから。だから当初FINAL EXTRAはやりたくなかったんです。とはいえ,マーケデータ的にはハッピーエンド的なラストにするというプロットになっていたので,何とか折り合いをつけてあの形にしたんです。
 そういえば桜花作戦後の遺書ですが,あれは当初のプロットにありませんでした。マスター数週間前にひらめいたアイデアで,「オルタ」が純夏と冥夜の関係をフィーチャーした話だから,サブヒロインファンにとっての報いがあるべきだと思ったのと,「貴様が選ばなかった女の情念を背負って生きていけ」という責任追求なんです。

マフィア梶田:
 重い!

吉宗氏:
 「君がいた季節」や「君が望む永遠」も同じで,あの時期のウチは,「意中の女と付き合った瞬間に,それまで粉をかけていた女が都合よく,綺麗さっぱり心が整理できたり消え去るわけねえだろ!」っていうスタイルでした。ですから,「君が望む永遠」と一対の企画である「マブラヴ」シリーズがそうなるのは当然なんです。思い遣りや想像力を培うには,ハーレム作っといて選ばなかった女の子が,そのせいで身持ちを崩していく姿を最後まで見守らないと。そこまででワンセットなんだよと。ゲームで経験しとおいて,良かったね!って(笑)。

「君が望む永遠」
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マフィア梶田:
 吉宗鋼紀,マジ悪魔(笑)。

BRZRK:
 そんな邪悪なこと,どうやって考えたんですか(笑)。

吉宗氏:
 実際,純夏や冥夜の最期だけが印象的すぎてバランスが悪いと思ったんですよ。そのふたりの結末にガチ凹みしているプレイヤーの心に,どうやったらサブヒロインに対しての申しわけない気持ちも分かってもらえるかなと考えて。
 で,「あ,遺書だな」って思ったんです。速攻,演出打ち込み最中の鬼畜人タムーに電話して「ここに遺書入れたら心が重くなると思うんだけど,どうかな?」って聞いたら,まあ開発終盤でムシャクシャしていたんでしょう「入れましょう!」と嬉しそうに即答されて(笑)。

一同(笑)

吉宗氏:
 でも,こちらの思惑とは裏腹に,「サブヒロイン達の見えなかった一面がわかって嬉しかった」という感想を多くいただきましたので,結果オーライでしょう(笑)。そういったゲーム本編では描かれていないサブヒロインのちょっとした周辺エピソードや,別売だった外伝的なサブエピソードなども,電撃大王で連載中のコミックで統合されたりして,いろいろ補完されていますから,ぜひ読んでみてください。

BRZRK:
 僕はコミックも買ってますけど,長いこと連載してますよね。

吉宗氏:
 2017年で電撃大王25周年なんですけど,ありがたいことに「マブラヴ」シリーズはそのうち15年間連続掲載していただいてます。蒔島 梓先生は「マブラヴ オルタネイティヴ」がデビュー作なんですが,「ガンスリンガーガール」を抜いて電撃大王単行本で最多刊数なんですよ。

マフィア梶田:
 まあ「マブラヴ」を真っ当にやれば,長くなりますわなぁ。

吉宗氏:
 最近やっと桜花作戦が終わりそうなんですけど,コミックだと遺書はどうやって処理するんだろう(笑)。

BRZRK:
 傷口に塩ですからね,マジで。

吉宗氏:
 お二人の推しキャラ彩峰(彩峰 慧。作中のサブヒロイン)の遺書は,個人的に一番破壊力があって好きなんです。あれ,すっごく可愛いと思うんですよ。あれなら「もらいたい!」って思いません?

マフィア梶田:
 いやいや,遺書はもらいたくねぇっすよ!(笑)

吉宗氏:
 あれ,松任谷由実さんが岡田真澄さんとデュエットした「恋人と来ないで」っていう曲の歌詞が元ネタなんです。さすがユーミン。すごく切なくて,記憶に残ってます。

BRZRK:
 今度聴いてみます(笑)。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――それって本当にハッピーなんですか?「マブラヴ」の正体を探る後編を掲載
マフィア梶田:
 制作の話に戻りますけど,吉宗さんが言ったように「マブラヴ」ってものすごくテンプレ的なのに,一筋縄ではいかない物語じゃないですか。キャラクターのアウトラインや性格なんて,完全にギャルゲーのテンプレ的なわけですよ。
 でもその裏には真逆な深みや重い背景がある。EXTRA編と状況がまったく違うUNLIMITED編,ALTERNATIVE編それぞれでキャラをブレさせず,うまく合致させるというのは,先ほど聞いた作劇のセオリーを使ったとしても難しいんじゃないかと思うんです。けど,実際作品では,キャラが破綻することなく見事に成立していますよね。そのあたりの秘訣は何だったんでしょうか。

吉宗氏:
 作劇のテンプレを丁寧に検証し続けて,何度も通しチェックすれば特別なことをしなくても大丈夫だと思うんですけどね。実際「オルタ」のシナリオは10回近く全リテしてますから,自然とそういうチェックができたんじゃないかなと。強いて言うなら「この物語はこうだ!」って決められる,誰か一人の基準に統一することぐらいでしょうね。

BRZRK:
 各編のブレという意味だと,冥夜は3編を通して,状況変化の影響がほとんどない珍しいキャラですよね。

吉宗氏:
 冥夜は重要なメインヒロインで,価値観変動の定点的なキャラクターとして,関係値や物語的にすべての世界でブレない軸を担っています。戦時だと冥夜の覚悟や言動はものすごく頼りになるけど,平和な世界ではネジの飛んだ変人に見えたり。
 例えばEXTRA編で,武の家と並んだ自分の屋敷,純夏の家だけを残して,半径数キロを買収して更地にしちゃうじゃないですか。あれ,ただぶっ飛んだ金持ちの行動ってだけじゃなく,横浜ハイヴのアバターでもあり,純夏にとっての冥夜はBETAそのものだって隠喩なんです。純夏にとっての平和な日常が,冥夜の登場で破壊されましたから。

マフィア梶田:
 言われてみれば確かに,あの無茶苦茶さはBETAのそれですね。

吉宗氏:
 だから武は冥夜が登場した10月22日を起点にループさせられるんです。純夏の無意識の嫉妬やネガな感情が,ALTERNATIVE世界の純夏とリンクしていますから。ついでに言えば,思い出の公園だけ残ったのは,純夏と武が捕まったのが,あの公園だから(笑)。

BRZRK:
 えええええ!? そうだったのか……。

吉宗氏:
 だからこそ,ALTERNATIVE編は純夏だけでなく,冥夜があそこまでフィーチャーされているんです。温泉と対になると言ったシーンは,武があ号標的との対話に行き詰まった局面で,EXTRAの純夏にとってBETAの象徴だった冥夜が,BETAの親玉であるあ号標的に斬りかかって力尽くで打開し,純夏と力を合わせて武を救う。
 あれは温泉で純夏と冥夜が「私は武ちゃんが好き」と告白し合って「お互いあれだな」と笑い合ったあのシーンの昇華で,純夏のネガな感情を浄化して冥夜と潜在的和解をさせるには必然の展開なんです。

BRZRK:
 ま,まじっすか……。

マフィア梶田:
 本当に,あらゆる物が対になってますね……。

吉宗氏:
 あれ? すみません,質問の意図を勘違いしたかも。全体設計をどうやったか,でしたよね(笑)。

マフィア梶田:
 いまの話も十分面白かったですよ(笑)。

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吉宗氏:
 ありがとうございます(笑)。えーと,「オルタ」は作劇のセオリーを逆に構築しているんですよ。
 まずはストーリー,次にテーマに沿った役割でキャラの配置を決めた。そしてキャラの記号は役割から逆算して最後に決める。いわゆるキャラ重視の萌え系とは真逆な作り方です。全体が完成していればセオリーで関係値や記号のチェックをできるので,質問を取り違えてそう答えてしまいましたけど。既存のエロゲーやギャルゲーの常識に挑戦するつもりでいたので,作り方もキャラから作るギャルゲーや萌えゲーの真逆なんです。

マフィア梶田:
 なるほど。

吉宗氏:
 なので広報では,ギャルゲーだけだと思わせるよう徹底していたのですが,さすがにウソをつきたくはなかったので,ジャンル表記には王道恋愛アドベンチャーではなく,それを超えるものという意味で「超」王道恋愛アドベンチャーという売り文句を付けてエクスキューズしておきました。

BRZRK:
 確かにギャルゲーやエロゲーへの挑戦ですね。以前の飲み会で,EXTRA編は死ぬほど低いテンションで作ったと聞きましたが(笑)。

吉宗氏:
 そもそもエロゲーどころか,ギャルゲーすらプレイしなかったので(笑)。萌えも苦手なので,いわゆる典型的なギャルゲーを参考プレイしても,まったく面白いと感じられなかったんです。実際,「君のぞ」の第1章作っていても「うへぇぇぇぇ,マジないわー,こいつ」とか思いながら作ってる部分があって……。

マフィア梶田:
 ちょ,やめてくださいよぉ! 制作者がそういうこと言うのは(笑)。

BRZRK:
 特徴的な口癖のキャラとか見ていると殴りたくなるみたいな?

吉宗氏:
 とあるゲームのスタートでいきなり「永遠はあるよ」とか言われて,「ない……」って電源を切りました(笑)。

マフィア梶田:
 おぅふ(笑)。

吉宗氏:
 だから僕はダメなんでしょうね。心から奇跡を信じてないから,多くのプレイヤーさんが望む展開ができない(笑)。ギャルゲーは記号論,つまりキャラで売るものだから,僕が共感できないもののほうが,完全に正しいんですよ。スピンドリルにもよく言われてましたよ。「吉宗さんが『うぇ〜〜〜っ!!!』ってなるものに,すごく萌えます」って。

マフィア梶田:
 逆萌えセンサー(笑)。

吉宗氏:
 僕は奇跡を信じてないからどうしても「そんな都合良くうまく行くか!」って思っちゃうんです。なので,選ばなかったほうのヒロインが落ちぶれていく現実とかを描きたくなる。有名作家の作風を見ても,そういう人はたいていマイナーメジャー止まりですよね。
 逆に,心から奇跡を信じて描ける人の作品は,感動するし癒やされるしで一般大衆にもウケてメジャーになる。
 僕らはそのさじ加減が分からないから,とにかくギャルゲーに良くある要素をメガ盛りにすることで対処したんです(笑)。だから「マブラヴ」のEXTRA編では,当時の学園物エロゲーのお約束シチュエーションをすべて網羅しているんですよ。

マフィア梶田:
 いやらしいぐらいに狙ってますからね。メインヒロインは赤髪で,隣りに住んでいて,2階で向き合った部屋の配置で,朝起こしに来て……とか(笑)。

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吉宗氏:
 でもそれはふざけてやったわけじゃなく,少しでも多くのギャルゲー好きに引っかかってほしいという狙いはありました。
 キャラも同様で,飽和しているギャルゲーの中で,雑誌や店頭でとにかく目立つデザインを狙ったんです。メカと同じで,「塗りつぶしても絶対に見分けられるシルエット」がコンセプトで。
 でも長期展開を前提にしていたので,そのとき流行している絵柄はNG。ということで,知り合いのメーカー社長に相談したところ,そのブランドで原画を担当していたBouさんをご紹介いただきました。直線と曲線の融和がうまく,メカもカワイイ女の子もきちんと描ける天才です。キャラのラフで珠瀬壬姫(ヒロイン。タマの愛称で呼ばれる)の髪型が提案されたとき「このひと絶対神だな」って思いましたよ(笑)。

BRZRK:
 Steam版でもプレイしているんですが,珠瀬が出てくると「見た目がやっぱスゲェな!」って思います。

画像集 No.017のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――それって本当にハッピーなんですか?「マブラヴ」の正体を探る後編を掲載

マフィア梶田:
 あははは,分かる! でも,そこもあえてなんですよね?

吉宗氏:
 もちろん(笑)。とくにEXTRA編は,名が示すように「オマケ」なんですよ。まともなギャルゲーは作れないという意味でも,平和や人権が如何に貴重で当たり前ではないかという意味でもです。UNLIMITED編の冒頭,「自分の世界は平和だった」と言った武に対して,夕呼が「平和だったのは日本だけじゃないの?」と指摘しますよね。
 今の平和な日本は,大戦を経て地政学的要因や冷戦構造を利用し,先人達が命がけで獲得した「おまけ」のさらに「残りかす」なんです。だから,自分達で護ろうとしないとなくなるし,人任せにしてたらアニメも見られなくなるかもしれない。

マフィア梶田:
 UNLIMITEDやオルタのような状況だと,娯楽だなんだとは言ってられないですから……。

吉宗氏:
 そうです。オタク文化は江戸文化の正統後継と言われていますが,それらの市民文化の爛熟には時間と余裕が必要なので,長期的に国防から切り離された状況からしか生まれ得ないんです。
 それを守護するマインドの育成を訴えるタイトル,なおかつオタク文化のもっとも濃い層に位置するエロゲーの,さらに花形たるギャルゲーの王道を謳うなら,とびきりかぶいた究極のキャラ記号であることこそ,王道でしょう(笑)。

マフィア梶田:
 その極みが,タマなんですね(笑)。

吉宗氏:
 極端に記号化したキャラは,「オルタ」的なSFやロボ要素をプレイヤーに悟らせない迷彩としても機能したはずです。「マブラヴ」の発売日までは学園ギャルゲーにミスリードする情報のみを出していました。さっき話したジャンル表記に加えた「超」や,キービジュアルの背景にうっすら武御雷を配置したり,雑誌に掲載するバルジャーノン(バーチャロンに似た劇中ゲーム)に登場する機体に,こっそり戦術機の絵を混ぜるなど,よく見れば気付くような伏線やヒントはいろいろ混ぜていましたけど。

バルジャーノン
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BRZRK:
 そんな手間のかかる仕込みをやりきったのが本当にすごい。

マフィア梶田:
 ところで,UNLIMITED編以降の「マブラヴ」って,戦記物に近いような気がするんですけど,戦記物って,状況にキャラを配置する創作手法だからどうしてもキャラが希薄になるじゃないですか。だけど「マブラヴ」はキャラの存在がものすごくて,稀有だなぁと思うんですよ。

吉宗氏:
 作劇的に説明すれば,戦記物は基本的に群像劇で,いろんな舞台にキャラがちらばっていて,カメラを点と点でコロコロ切り変えていく。キャラという記号はあくまでも興味の入り口で,ユーザーが主に重視するのはキャラ同士の関係値なのに,戦記物の場合は主要キャラの関係値は戦闘でしか見えてこないんです。
 「マブラヴ」の場合,各エピソードを担う見知った主要キャラを軸に,時系列イベントを介してキャラとイベントがつながっていくから,関係値の連続性が維持される。その上,キャラにしろ事件にしろ,見えないピースがどんどんハマっていって,全部ハメ終えたら一番最初に見ていたはずの画と同じものになるという仕掛けが明かされる。一見すると戦記物的でありながらミステリー的な構造なんです。

マフィア梶田:
 あー,そういうことなのか……。

吉宗氏:
 そういう仕込みはゲームを構成するすべてに徹底されていて,例えば主題歌「マブラヴ」は,EXTRA編で1番が,UNLIMITED編で2番が,ALTERNATIVE編のエンドクレジットではフルコーラスが流れますが,それぞれプレイしたあとで聞くと,同じ曲なのにまったく意味が違って聞こえるように設計してあります。

マフィア梶田:
 いやぁ,あの曲は本当に最高ですよ!

吉宗氏:
 作詞の江幡育子さんが天才なんです。

マフィア梶田:
 正直なところ,最初聞いたときは,なんかギャルゲーのノリとは違うかも?と思ったんです。

吉宗氏:
 まあギャルゲーにしては曲がはっちゃけてない感じですよね。歌声もキャラっぽくないし(笑)。

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BRZRK:
 ほんと吉宗さんの言ったとおりで,何気なしに聞いていた曲が,物語を進めていくと違った意味合いを持ち出して,「オルタ」の最後に聞いたとき,浮かぶ風景が最初と全然違いました。あれは本当に信じられない体験でしたよ。いったいどうやって作詞したんでしょうね。

吉宗氏:
 雑誌社のプレゼンと同じです。まずは最初の楽曲打ち合わせでストーリーを全部話して,打ち合わせを重ねながらストーリーをどんどんぼやけさせていって,単語になるまで磨き込む。その繰り返しであの歌詞ができたんです。プレイヤーの経験で解釈が変化する,“あいとゆうきのおとぎばなし”にふさわしい詞が。

BRZRK:
 聞いた人のフォーカスが,知識量に応じて段階的に合っていくんですよね。

吉宗氏:
 平易な言葉で簡潔に描かれているから,解釈の自由度が高いんですよ。切ない乙女心に聞こえたり,純夏がシリンダーの中で思っていたことのようにも思えたり。偶然ではああならない。しかもオルタのエンドロールのバージョンは,間奏のアレンジを希望が感じられるものに変更してもらったんですよ。あれが結構ぐっとくるんです。

マフィア梶田:
 エヴァンゲリオンの「残酷な天使のテーゼ」とは真逆ですよね。あっちは内容をまったく知らないで作られたのに内容に合致した名曲になっていますから。結局,「マブラヴ」が全部終ってからは,自分のiTunesで一番再生回数が多い曲になっちゃいましたね。 

BRZRK:
 「マブラヴ」狂いのバーチャファイタープレイヤーの友人と,「マブラヴの歌やべぇな!」ってずっと話してました(笑)。

吉宗氏:
 某誌で「マブラヴ」のレビュー記事を書いてくださったあの人ですね(笑)。その人にしろお二人にしろ,見た目がストリート系の武闘派で,目頭熱くしながらギャルゲーやるようには見えないからびっくりしますよね(笑)。

マフィア梶田:
 いやいや,ヤンキーとかって,意外と純情で感動しぃなんですよ!

BRZRK:
 僕とそいつらはいまだに「桜花作戦見に行くか!」って人の家に集まったりします。

吉宗氏:
 「桜花作戦見に行くか!」って,響きがオモロイなぁ(笑)。

一同(笑)

吉宗氏:
 もっと早く知り合えていれば,厚生年金会館のライヴは見てほしかったです。映画以上の大スクリーンでラダビノッド演説からの遠藤さん生歌とか,やばかったですから!

BRZRK:
 あ,でもZeppのライヴは某媒体経由で招待されましたよ! アーティストさんの歌を聴いてたときに,僕なんか号泣するの堪えて,横の友人に見られたくないから斜め上を向いたりしてましたね。

吉宗氏:
 やっぱり歌や音楽ってすごいですよね。4分で物語を語って感動させたり,記憶の触媒になったりする。昔の曲を聴くと,その時の気持ちから空気の匂いまで,いろいろなことを思い出します。アニソンがあれだけ愛されるっていうのも,ある意味軍歌だからなんですよね。作品という戦場の共通体験を主題歌が思い出させるんです。その体験さえあれば知らない者同士でも連帯感が生まれて盛り上がれる。正にオタクの軍歌ですよ(笑)。

マフィア梶田:
 分かります。物語あっての曲ですからね。

吉宗氏:
 やっぱり残る作品って,聞いただけで物語すべてがプレイバックするような主題歌やBGMを持っていますよね。「マブラヴ」もそういうモノにすべく,考え得る限りのことをやりました。音楽プロデューサーもガチでやってくださって,お互い曲も詞も一切妥協せず,イメージに合うまでリテイクを繰り返したり。例えば楽曲名も異例なんです。普通,主題歌やBGMの曲名は作詞家や作曲家が決めるんですけど,いろいろな人達に頭を下げてこちらで決めさせてもらいました。サントラの曲順も同様で,通して聞くとストーリーを追える構成にしたんです。

BRZRK:
 曲も含めて,徹底的に作り込んでますよね……。いまだに「マブラヴ」の曲は話題にあがるくらいですし。

吉宗氏:
 主題歌アーティストはもちろん,BGMも今では大御所になった方々がたくさん参加してくださっています。皆さん情熱を込めて作ってくださいました。ヴォーカル曲もいまだに人気が高く,とくに「未来への咆哮」は国外でも大人気ですし,カラオケリクエストでも現役だそうで,本当にありがたいことです。

4Gamer:
 メチャクチャ熱いお話で,まだまだ聞き足りない感じではありますが,そろそろこのあたりで一旦締めたいかなと思います。もうすぐ,4時間ですし(笑)。

BRZRK:
 うう,もっと話を聞きたいなぁ……けど,これ以上はまとめるのが……。やっぱり電撃大王の「オルタ」漫画連載が終わると情報が途切れてしまうのはもったいないですし,月1連載とか4Gamerでやりたいですよね。やっぱり続けていくっていうのは大事ですし。

マフィア梶田:
 連載企画自体は面白そうですよね。吉宗さんだったら人生相談とかもいいんじゃないですか?

吉宗氏:
 相談に関係ない情報がちょいちょい混ざるウザいコーナーになりそうですね(笑)。

4Gamer:
 引き続き検討します(笑)。

マフィア梶田:
 まとまった(?)ところで,最後にファンやこれからマブラヴに入ってきそうな新規に向けて,メッセージをいただければと思います。

吉宗氏:
 はい,2017年は4Gamerさんで連載が持てるように頑張ります!

一同:いやいやいや(笑)!

吉宗氏:
 では,真面目に(笑)。まずは「マブラヴ」シリーズですが,新旧どちらのファンにも楽しんでいただけて,今後20年,30年と続けられるようにしていくつもりです。プレイした時々で新たな何かを得られたり,背中を押されたりする,そんな人生に寄り添うコンテンツに育てていきたいと思いますし,皆さんが望む「マブラヴ」を僕達と一緒に作りあげてもらえたら嬉しいです。当面は,次のアニメを目指して頑張ります!

 ほかにもいろいろと動かしています。既存メディアやネット,同人など,形にするためなら手段を選ばず,一刻も早く皆様にお披露目できるように頑張りますので,応援よろしくお願いします。2017年の夏コミとかで,ちょっとまとまった物を見せられると思いますのでお楽しみに!

マフィア梶田:
 おお,それは楽しみです。長くなりましたが,本日はありがとうございました。

BRZRK:
 ありがとうございました。連載はぜひやりたいので,ファンにはぜひとも反応していただきたいっすね!

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