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不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない!」の第1回は,戦略級モンスターゲーム「グロス・ドイッチュラント2」をやるしかない!
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印刷2009/01/24 12:00

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不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない!」の第1回は,戦略級モンスターゲーム「グロス・ドイッチュラント2」をやるしかない!

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 不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない!」の第1回を掲載する。これは,独特の切り口でゲームを語るライターの徳岡氏が,要するに独特の切り口でゲームを語るという連載だ。第1回のテーマはボードゲーマーの視点から見た「グロス・ドイッチュラント2」である。いささか古いタイトルではあるが,発売以来,依然として日本有数の大戦モノシミュレーションであることに間違いはない。むしろ,長い時間をかけて遊び,さまざまな資料を渉猟し,多くの実験を重ねたからこそ見えてくることがあるってもんだ。

 おや,勝っているのに軍隊が減っていくぞ。あれ,戦闘に負けていないのにジリ貧だぞ。ということが普通に起きる本作。PCストラテジーゲームの「お約束」からはどうも理解しがたい話だが,ボードゲーマー徳岡氏の視点から見ればしごくまっとうで,ありがちな話であるらしい。果たしてそれは一体どういう事なのだろうか? というわけで,さっそく始めてみよう。

ゲームの形を借りた表現作品?


タイトル画面。第二次世界大戦でドイツ軍といえばやっぱりこの人,小林源文先生のイラスト
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 あくまで個人的かつラフな意見だが,ゲーム制作とモチーフの関係には,二つの方向性があると思う。つまり,ゲームにふさわしいモチーフを選ぶか,あるモチーフをゲームとして表現するかだ。
 前者は分かりやすい。いわばゲーム性の部分を先にイメージして,そこに味付けとしてのモチーフを肉付けしていく。それに対して後者は,表現したい何かがあって,それを盛る器としてゲームが選ばれるというものだ。根幹にあるのは「表現」である。
 先鋭的なゲームは,しばしば後者に比重を置いており,そのため多くはとても狭くて高い間口と敷居を用意することになってしまっている。だがその反面,そこさえ乗り越えてしまえば他では味わえないゲーム体験が待っていることが多いのも事実だ。これは,そもそもが社会への貢献,あるいは社会風刺をその基盤として始まったストラテジーゲームとそのファミリーに,しばしば見られる傾向である。
 なにしろ現存する最古の定量的なストラテジーゲームは,ドイツで生まれた“Kriegsspiel”であり,これはモルトケ時代の参謀本部における士官教育用に利用された。また世界で最初に商業出版されたストラテジーゲームはSF作家H・G・ウェルズの手による“Little Wars”で,こちらはゲームであると同時に戦争反対を訴える痛烈な社会批判でもあった。

 やや抽象的で分かりづらい前置きになったが,「グロス・ドイッチュラント2」(以下,GD2)は,かなり明白に後者と見なせる作品だ。これほどまでに「作品」という言葉がふさわしいゲームはめったにないくらいの,表現作品なのである。
 GD2が概略どういった作品であるのかは,2007年7月27日の紹介記事を見ていただくのがよいかと思う。作品全体の作りは緻密でありながら壮大,かつ徹底した定量主義がとられている。

数字から見た第二次世界大戦の姿とは?


 2008年現在,第二次世界大戦が最後の世界大戦ということもあって,さまざまな数的記録が残っている。やろうと思えば各種物資の生産量推移をトン数で把握していくことだって,ある程度まで可能だ。
 一方,そうして集計された数値をどう解釈するかは,論者が100人いれば100通りの解釈があるといってよい。世界の主要国がすべて参加した戦争だけに,絡み合う数値は種類も相互関係も複雑を極める。

車輌の生産はシャーシを基本として,それに上部構造を組み付ける形。ドイツ戦車の基本
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そして工数と資材の面から考えたとき,車輌生産数は,シャーシの生産コストにかなりの部分,左右される
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 とはいえ,「だいたいこの程度」というイメージが共有されているのも事実で,たいていのゲームはこのイメージに立脚して構築される。とくに「楽しいゲームを作ろう」という観点に立つなら,「ドイツ=戦車,ソ連=人海戦術,アメリカ=物量,日本=サムライ」程度のステレオタイプを許容しないことには,どうにも無味乾燥に思えてしまう。
 ちなみにこの点を力いっぱい逆方向に利用したのが「Command & Conquer: Red Alert 3」だし,Paradox Interativeの作品は,パラド的ステレオタイプを先に用意することで,戯画性と説得力を与えるゲームデザインになっている。

 ところがGD2は,この手のステレオタイプを真っ向から斬って捨てる。GD2のドイツは,電撃戦のモデルケースの一つとされるフランス攻略においてさえ,相応の損害を強いられる。そしてGD2のドイツは基本的に石油の確保に不自由などしない。
ベルギー軍を崩壊させた瞬間。しかし,こっちも半分くらい崩壊してるんですが
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 北アフリカで大勝利を収めたとしても,それが何ら戦局に影響を及ぼすことはなく(いや,これは割とステレオタイプか),最終的にドイツを崩壊させるのは,連合軍の戦略爆撃と東部戦線での人的消耗だといって過言ではない。

 実際,フランス戦でドイツが被った損害は決して少ないものではなく,戦死,戦傷を合わせると約15万人にもなる。連合軍のそれは約36万人なので,余裕の圧勝からはほど遠いのである。そして,実のところ機甲戦力が被った損害の大きさこそが,ダンケルクの脱出を許した遠因ともいえる。

 またドイツの人工(石炭液化)石油生産力の高さと,ルーマニアのプロエシュチ油田が発揮した生産力は,さまざまなデータから裏付けられており,ドイツが燃料の入手に問題を抱えるようになったのは1944年からだという逸話はデザイナーインタビューでも語られている。

マイナスサムゲームとしての総力戦


ゲームのバランス設定も細かく調整可能(部分)。もっとも,初めてプレイするときはとりあえず変更なしでいいだろう
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 だが,これらの数値に関する解釈は,GD2が切り捨てたステレオタイプの中でも,あまり中心的な論題ではないように思える。
 むしろGD2で克明に描かれるのは,戦争を続ける限り,戦争を始める前よりも何かが劇的にプラスになることはあり得ないという,単純な――そして戦争を描いてきたPCストラテジーゲームのほとんどが目をつぶってきた――真実だ。
 例えば,ぐっとゲームに寄ったRTSだと,戦争を優位に運ぶことは総じて自勢力の発展につながる。戦闘に勝つことでより多くの資源を確保する機会を得,より多くの資源はより多くの軍隊と,より効率の良い内政を実現する。

資源が利用可能な物資に変わっていくところ。ぶっちゃけ鉄とセメントが本当の意味での命綱
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 ところがGD2では,占領地は原則としてマイナスしか生まない。軍事行動で占領地を増やしていくことは,要するにリソースを消費してマイナスを増やしていくことにほかならない。収支だけでいえば愚の骨頂なのである。
 そしてこの「占領地はマイナス収支」という構図は,歴史的事実である。長くて広い第二次世界大戦ゆえ部分的な例外はあると思うが,総合的にいえば占領地はほぼマイナスしかもたらさなかった。炭鉱や鉄鉱を占領したからといって,次の日からそれが100%自国の利用可能リソースになったりはしないし,たいていの場合は復旧に数年から十数年の歳月が必要になる。
 例えばドイツが占領したクリボイログの鉄山から1年間あたりに獲得できた鉄鉱石は,露天掘りであるにもかかわらず,戦前の生産量の約6%に過ぎなかった。また,ヒトラーが非常に重要視したとされるドネツ炭田の石炭生産量は,ソビエト支配時の5%弱に留まる。

船を作っているところ。ゲーマーの常として,ついシナリオ開始直後に全部破棄してしまいがち。いや鉄が減るし
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 占領地ではさらに,戦争難民への対処という問題が生ずる。彼らのために資材を持ち込んで家を建て,運輸機材を使って食料を供給するのは,栄えある占領軍さまのお仕事だ。それを怠れば,占領地はパルチザンが闊歩する無法地帯と化すだけで,そこから何かが生み出される可能性すら生じない。
 果たしてクリボイログから産出された200万トン×2年の鉄鉱石(理想値で100万トン×2年分の銑鉄)が,クリボイログを維持/経営するために必要なリソースを上回ったのか? 残念ながら大いに怪しいといわざるを得ない。
 そして驚くべきことに,この問題は「解放軍」(つまりパルチザンやサボタージュをさほど心配しなくてよい立場)たる連合軍にすら降りかかった。パリをいつ解放するかについて,彼らの補給能力をもってすら,市民を養っていくだけの物資が間に合わないので遅らせるべきという意見が真面目に討議されたのである。第二次世界大戦において,大都市というのは「占領したら国力が増える地形」ではなく,「占領したら消費物資と物資供給ラインの負担が増える地形」なのだ。

治安維持と国威発揚も欠かせない行事。国威発揚はしかるべき場所(生産設備のある場所)を選んで行いたいところ
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シナリオは7本。1945年開始のものはifシナリオになっている。とはいえ,1943年以降はひたすら厳しい戦争だ
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 「占領すればプラスになる」という夢は,悲しいかな,どうやら当時の戦争指導者自身も抱いていた夢であるようだ。また,非常に運がよければ無傷の生産施設を入手できるケースもあり,これが彼らの全体的な判断を歪めた可能性も否定できない。

 ドイツの場合であればニコポリのマンガン鉱山が有名で,これはほぼ無傷での入手に成功している。マンガンは兵器生産に欠かせない合金を製造するための必須希少資源であり,ここを押さえたことはドイツに大きなメリットをもたらした。またウクライナの穀倉地帯から搾り取った食料は,占領地域全体にプラスをもたらしている。ただし,それはとうてい満足できるレベルには達していなかったのだ。

シナリオの解説もかなり詳しい。前史からしっかりと書かれているあたり,ヒストリカルノートといったほうが適切か
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 第一次世界大戦において,ドイツはブレスト=リトフスク条約で割譲されたウクライナから,年産690万トン近い鉄鉱石を獲得していたというデータがある。軍事的占領とは比較にならないといっても,夢を抱いてしまう基礎データとしてこれが利用された可能性は否定できない。
 事実,ドイツや日本の参謀本部では「占領クリボイログからは,占領前の50%程度の鉄鉱石産出が期待できる」と考えていたようで,第一次大戦における690万トンという数字は,ソビエト支配下における産出量1650万トンの50%弱という数字とも符合してしまう。

壮大なゲームだが,かなりしっかりしたガイドが付いている。キャンペーンの初手で何をすべきか,指南されているのが嬉しい
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 戦争とはそもそもギャンブルなのだから,最終的な収支は勝ってから考えればよいという考えも,確かにあながち否定はできない。たとえ占領した鉱山の資源産出量が実効5%や6%に留まろうとも,“欧州新秩序”を打ち立てたあとならば,いずれ100%に戻し,あるいは120%に伸ばすことだって可能だろう。
 その「途中経過」において,低確率であろうが100%近い生産力が得られる可能性があり,最悪でも必要な資源の供給源がわずかでも増えるというなら,それを考慮しないのはもったいない。一応筋の通った話だが,これはタヌキを獲って利益を得ること以上の皮算用にほかならない。

 そのうえでもう一つ,より現実的な「戦争経済」の問題が鎌首をもたげる。
 例えば前述のドネツ炭田は,1940年において年間8850万トンを生産し,これはソビエト全体における石炭生産量の55.8%に相当した。結局,ドネツ地方がドイツから奪還されたのは1943年末から1944年初頭にかけてで,続く1944年,ソビエト治下での生産量は2110万トン,1945年で3690万トンだ。
 つまりドイツはドネツ炭田を占領することで,ソビエトの石炭生産に長期的かつ大きなダメージを与えることに一応は成功した。まあそれが,ソビエトの戦争経済にとってどれくらいの打撃となったかはともかくとしてだ。一応,工場移転したウラル周辺では石炭があまり取れなかったので,ウラル工業地帯では石炭不足に陥ったというデータは残っているようだ。

 ドネツの回復後,ソビエトは石炭の大増産に着手しているが,それでも1945年の全生産量は1940年の90.0%に留まる。1945年といえばドイツはまともな戦争ができなくなっている時期だが,その段階でもソビエトの石炭生産量に10%のダメージが残っていたと評価できよう。

 考えてみれば当たり前すぎる議論なのだが,要するに近代戦というのは,敵にとっても味方にとっても本来マイナス方向のゲーム展開なのだ。キーワードは「どれだけ奪い,手に入れるか」ではなく「どれだけ壊し,自身の損失に耐え抜くか」である。しかしこの当たり前の理屈は,多くのPCストラテジーゲームで否定されてきた。それはそうだ。勝っているのにますます貧乏になっていく戦争は,どう見ても景気のよいゲーム展開とはならない。

陸戦画面。どことなく「天下統一」を思い出すが,どこか1ラインが崩壊しても戦闘は続く。故障や落伍によって,戦う前から部隊が消耗していくのが味わい深い
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ユニット数も施設も,決して増えていかない


 戦争がマイナスであるという事実は,GD2の別のルールでも描かれる。軍隊の損耗である。
 通例,ストラテジーゲームにおいては,戦線の拡大に伴って軍隊の数は増えていく。史実においてアメリカはそうだったし,ソビエトだって同様だ。だからこれ自体は絵空事ではない。
 ……いや,でもそれは正しくない。戦線の拡大に伴って軍の規模が拡大した国のほうが例外なのであって,ほとんどの国では戦火が広がるにつれて軍の規模が緩やかではあるが縮小していく。不適切な表現で恐縮だが,普通は「生産」量が「消費」量に追いつかないのだ。
 あいにくドイツの資料が手元になかったので,上で「増えていった」と表現したソビエトの資料を見てみよう。ソビエトは1941年から1945年までの間,合計で9万8300輌の戦車を作っているものの,同じ期間に9万6500輌を失っている。1944年以降,ほぼ常に勝ち続けたといっても差し支えない状況において,結局「戦車ユニット」は1800輌しか増えなかったのだ。
 「それは,電撃戦序盤におけるダメージが深かったからではないか?」と考えるかもしれないが,1941年〜1942年における戦車の損失数は3万5600輌。43年から終戦までで6万0900輌。月間平均をとると1943年以降のほうが損失数がやや多くなる。ソビエトが1941年において全保有戦車数の72.7%を失ったという面を見るなら,電撃戦の猛威もウソではないものの,こと生産/補充を加味した「ユニットの総数」推移は,それとだいぶ異なる様相を呈する。

戦闘解決はいくつかのフェイズに分けて行われる。圧倒的に有利な状態で攻撃を仕掛けた側が,防御側の半分程度の損害を受けているのが,これまた味わい深い
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閣僚にポイントを割り振ることで国家運営の重点を調整できる。割と影響が大きいので慎重に決めたいところ
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 もちろん,もし全兵科についてこうだったらあそこまで派手には勝てないわけで,野砲/迫撃砲は約31万門のプラス,軍用機も1万3800機のプラスとなっており,砲兵大国である様子がよく分かる。
 ただしソビエトはこの戦争で1500万〜2000万(資料によって異なる)の死者を出していて,これはソビエト全人口の10%〜12.5%に相当する。1750万〜2000万人が戦ったとされる軍人だけでも760万〜1300万人が戦死したという数字が残されており,何かが増えたのかと問われれば「減った」としかいいようがない。

 ドイツについておおまかにいうなら,東部戦線に投入された全兵士数は約400万人(同盟国含む)。東部戦線で戦闘が行われたほぼ全期間,これを上回ることはなかった。勝ち続けることで生産規模が拡大し,軍隊の規模も拡大していくという状況は,少なくとも東部戦線のドイツには一瞬たりとも――歴史的な大勝利を収めている期間を含めても――存在しなかった。そしてこれはGD2で克明に再現されていく。

ソビエトの地図。ポイントとポイントの連結がなかなか面白い。実は割と一本道マップなのだ
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連合軍の夜間戦略爆撃は,文字どおりボディブローのようにドイツの体力を削っていく
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 GD2ではもう少し別の視点からも,この「減るしかない」戦争の様子が描かれる。
 連合軍の戦略爆撃,とくに夜間爆撃は,ドイツにとって激しくうっとおしい存在である。このうっとおしさは,年を経るにつれて「うっとおしい」から「要対処」に格上げされていき,やがて「明白かつ重大な脅威」「お手上げ」にまで変化していく。

 何がそれほどまでに問題なのか? GD2における戦略爆撃の被害は,国家の生産力への被害であると同時に,国家が保有するセメントに対する被害でもある。戦略爆撃で受けた損害を修復するには,必ずセメントが必要になるのだ。
 となると,セメント工場は意外と重要な戦略的要地となってくる。しかし破壊されたセメント工場を復旧するためにセメントを使うという賽の河原の味わいは,絶望の味そのものだ。やがてセメントの消費量は確保量を上回り,「閣下,この戦争は負けです。なぜならセメントが足りないから」と断言したくなってくる。

航空機はあまり資源を食わずに生産できる。アルミの在庫が不安になるが,フランス戦さえ乗りきればあとは余裕
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 さて。最初に「GD2は一つの作品である」と評価した。だがこれは決してGD2をゲームとして遊ぶことがつまらないという意味ではない。いや,むしろ面白い。ただその面白さは,普通にいわれるゲームの面白さとは明らかに異質のものだ。
 言うなれば「楽しい」からは,だいぶ遠い。いやまぁ個人の性癖次第では,これが楽しいと感じる人もいるだろうけれど,そこはあえて議論しない。筆者はどうかと聞かれれば,それは割と楽し(以下略)。

連合軍の爆撃隊を迎撃する。護衛機なしで飛んでくるような相手は簡単に撃ち墜せるが,防衛線をすり抜けていく機体も多い
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飛行場へのダメージは地味だが有為。修理しないと飛べる機体の数が減り,修理すれば国力が損耗する
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 GD2では,「ゲームとして成立させるため」の妥協点が最少に抑えられている。資源の種類がある程度限定されているのも,ゲームを成立させるためというよりは,本当に影響の大きかったデータのみをピックアップした結果といえるだろう。

 前述したとおり,GD2には「楽しいゲーム」を演出するために,とくに戦略的視野で描かれるPCストラテジーゲームで欠くべからざる要素の一つである,拡張主義がほぼ存在しない。
 RTSのシナリオには,しばしば初期兵力だけで戦い抜く消耗戦型があって,これは筆者の周囲で聞く限り「ダイナミックさに欠ける」「一手のミスでやり直しなのが面倒」などなど評判が悪いものだが,GD2はその一歩先(?)を行っていて,「作っても作っても,勝っても勝っても消耗していく」体たらくである。作るのも自分なら,減らすのも自分なのが非常に切ない。

ゲームとして成り立たせるための古典的な妥協?


 もちろんGD2もゲームとして作られているからには,ゲーム的文法を採用せざるを得ない部分もある。インタビューでは進行がプロット式でない点について議論されているが,個人的には「退却先のない敵軍に退却を強いたらその敵軍は全滅」という,俗にいう「挟んでポン」がいささかゲーム的すぎる処理ではないかと思ってみたりする。
 ポイント・トゥ・ポイントのマップにおいて,一つのポイントが表す地域の広さと,そこに展開している軍隊の規模を鑑みるに,占領地に囲まれた地域で負けたから逃げ場がなくて全滅/完全降伏するというのは,ゲームとしては常識的でも,現実的ではない。1ターン=1週間というタイムスケールも「挟んでポン」を否定したくなる材料である。これが1〜2か月ならまだ分からなくもないのだが……。

包囲して全滅させたところ。それにしたってこの損害は……。歩兵の被害が痛すぎる
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戦闘はたいてい部隊の士気崩壊で決着する。とはいえ死守命令によって最後まで抵抗するケースもあり,損害の大きなルールとあいまって,なかなか厄介だ
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 もっとも,この問題は世界中のデベロッパが共有する悩みではないかとも思う。「Hearts of Iron III」という失敗できない打席を迎えたParadox Interactiveが,得意の抽象化をかなぐり捨ててプロヴィンスの細分化を加速させたのも,「挟んでポン」という“ゲーム的には”爽快感もあれば合理的でもある仕組みを,リアリティとのあいだで無駄に競合させないためではなかっただろうか。

 とはいえ,GD2ではここまでやったんだから,ボードストラテジーゲームからの慣例ともいえる「挟んでポン」を無批判に採用してほしくはなかったかな……とも思う。じゃあどういう方法があるんだと問い返されると,少々困るが。

同盟国のお財布は事実上ドイツと一体化している。イタリアは大国扱いなので自前の生産力があるが,あまり堂々と「ある」といえるレベルでもない
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野砲で遠くから撃ちつつ逃げて,敵軍に微妙な損害を強いる。情けないがやむを得ない
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 また,インタフェースについては,これはもうちょっとどうにかならなかったのか,と言わざるを得ない。情報の閲覧性の悪さ,クリックすべきボタンの飛び散り方,操作の直感性の低さは,GD2は「作品」である(=単なるゲームではない)という乱暴な仮定を意図的に肯定したとしても,やはり許されるものではない。普通のゲームじゃないから操作性が悪くてよい,などという理屈は成り立たないわけで……。
 情報の閲覧性については,メモを取りながら進めるものなのだと割りきるにしても,クリックすべきボタンがあちこちに飛び散っているところは,今後の製品でぜひなんとかしていただきたいポイントだ。カーソルが自動追従するにはするのだが,最も追従してほしい戦闘シーンにおいて追従性が半端なのが痛い。

兵器の開発においてもポイントは傾斜配分可能。戦車なんてIV号があれば十分なんだ的な理論で戦うことも可能
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 せめてデフォルトで押下されるボタンが決まっていて,リターンキーを押せばそれが押されるのであれば,それだけでも相当快適になるのだが……。あるいは直前にクリックされたボタンの情報が残っていて,リターンキーでそれが再実行されるとか。自動処理ボタンよりは,むしろその手の単純な機能が欲しかったと思うのは筆者だけだろうか? キーボードを使うとゲームが複雑化するというのはただの偏見であり,つまるところフルマウス=操作が快適というのも幻想に過ぎない。

 まぁ,でも一つだけ妙な弁護をするならば,GD2は筆者がここまでプレイしてきた日本製PCゲーム(2000年以降に限定)の数々と比べたとき,決して最低の操作性というわけではない,ということか。動作が軽いこともあって,クリックしたいボタンが確実にクリックできるのは,最低保証としてありがたいところだ。

外交のオプションはけっこう広い。そして,ドイツに好意的な中立の資源産出国を残しておくメリットはかなり大きい
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思索としてのゲームプレイ


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表現はたいへん地味だが,ヒストリカルイベントもきっちりサポートされている
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ヒストリカルイベント。この瞬間から,アフリカでイギリスが怒涛のように進撃を開始する。止める術はない
 総じていうなら,GD2は日本産のゲームのなかで,際立ってユニークな作品である。パッケージからマニュアル,システムから操作まで実に重厚な造りだが,プログラムの動作自体は軽快だし,フランスと喧嘩して5〜6回負ける頃には,ほとんどの要素が理解できるだろう。
 戦略的な選択の幅は広いが,構造自体は難解ではないので,マニュアルと取っ組み合う前にとりあえずは1940年シナリオを選んで,繰り返し「死んで」みるのをおすすめしたい。
 「マニュアルなんてものは,分からなくなったら読めばよい」と誰かも言っていたような気がするし,「やりたいことができない」状態を解決するために使うのであれば,付属のマニュアルは割と便利に使える。というかカバー・トゥ・カバーであのマニュアルを通読し,それだけで全貌が把握できたら,それは一種の才能だろう。

 本職の方々が戦争を研究するのは,平たくいえば「次のとき負けない」ためだ。その一方で,兵器の火力が上昇し,一度戦争となれば総力戦化してしまう20世紀以降の戦争は,誰も勝てない戦争へと簡単にスライドする。
 大国が核をステージに載せてからというもの,全面戦争に勝者は存在しないと何度もいわれてきたが,1940年代の段階ですでに,戦争における本当の「勝者」になるのは,困難を極める次第となっていた。いや実際,5〜6年にわたって国家の全力を傾けてマイナスを積み上げいく“ゲーム”において,トータルで「勝つ」のは困難を極める。

パリを陥落させると最初の和平交渉のチャンスが訪れる。だがこれだけで史実どおりの条件を引き出すのは難しい
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 事実,第二次世界大戦に勝ったのはアメリカ一国のみといってもよいだろう――ソビエトは冷戦に負けたというよりも,第二次世界大戦と大粛清のダメージから最後まで復帰できなかったのだという説は,割と広く流布している(ヒトラーとスターリンに責任転嫁しているだけともいえるが)。

和平交渉のバリエーションはかなり広い。史実に縛られる必要はないが,最低限の割譲はしてもらわないと,戦争経済が成り立たない
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 この観点に立ったとき,ドイツがたとえ全ヨーロッパを征服したとしても,そこから始まる“米独冷戦”で勝者たり得たかと問われれば,1942年までの損耗を見るに,その展望は薄いとしかいいようがない。そして来たるべき第三帝国の崩壊は,ソビエト崩壊などとは比べ物にならないくらいのカタストロフィを撒き散らすことになっただろう。
 冷戦が終わって新たな時代を迎えたいま,アメリカはなおも勝者でい続けているのだろうか? そして各国が「次のとき負けない」という条件を満たすには,いったいどのように考えればよいのだろうか? GD2はそれを問いかけているようにも思える。
 
 それではまた,次回もやるしかない!

参考文献:
  • 「占領地は儲かる? 傑作ゲームに見る占領地政策の考え方」(コマンドマガジン日本版74号)2007年 国際通信社
  • 「Encyclopedia of the Great Patriotic War」
  • 関連タイトル:

    グロス・ドイッチュラント2

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AD(最終更新日:2022/12/17)
グロス・ドイッチュラント2
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発売日:2007/06/29
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