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「キネマ51」:第34回上映作品は「劇場版プロレスキャノンボール2014」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第34回の上映作品は,支配人&4Gamer・TeTの超推薦映画「劇場版プロレスキャノンボール2014」。
「劇場版プロレスキャノンボール2014」上映情報
「劇場版プロレスキャノンボール2014」公式Twitter
支配人念願の,プロレスムービー登場
今日はプロレスムービーですよ。
須田:
マッスル坂井[1]監督の,「劇場版プロレスキャノンボール2014」です。
関根:
本当はもっと早くご紹介しなくちゃいけなかったのですが……。
須田:
部長,だいぶ逃げ回ってましたね。
関根:
申し訳ございません。ついつい目先のアイドル現場にうつつを抜かしておりまして……。
須田:
確実にダメ人間ですね。
関根:
(泣きながら)すみません。僕にもう一度チャンスをください。
4Gamer:
はい,ダメなそこまでにして,どうでしたか? 支配人。
僕は長いことDDTを見てきましたし,この映画の前作にあたるDVD「プロレスキャノンボール2009」[2]を見ていることもあって,今回の映画だけを客観的に評価しづらいんですよ。
須田:
なるほど。男色ディーノ選手の連載も担当してますし,距離が近いんですよね,TeTさんは。
4Gamer:
実際はただのファンですけどね。
なので,ひたすら「最高!」と言いたいんですけど,ほかの人にとってどうなのか,ちょっと冷静なご意見をいただきたく。
関根:
僕は凄く楽しめましたよ。
須田:
僕も楽しめましたし,感動しました。
最後,ほかにも人がいたから我慢しましたけど,一人で見ていたら泣いていたと思います。
関根:
確かにウルっときました。
須田:
僕にとってプロレスラーってスーパースターだから,等身大のプロレスラーが描かれているのを見ると,なんだかドキドキするんですよ。昔,プロレス界の内幕を描いた映画がありまして。
4Gamer:
「レスリング・ウィズ・シャドウズ」[3]や「ビヨンド・ザ・マット」[4]あたりですかね?
須田:
そうですそうです。あれもドキドキしましたね。
4Gamer:
プロレス映画というとそのあたりと,ミッキー・ロークの「レスラー」[5]のように,ある程度,プロレスの内幕みたいな部分にスポットライトを当てた作品のインパクトが強いんですよね。
関根:
なるほど。
須田:
そして今回,まさに等身大のプロレスラー達を目の当たりにしたわけですが,その生きる姿がなんとすがすがしいんだろうと感じたんですよ。
プロフェッショナルな人達の崇高さといいますか。それが映画からあふれ出ていて,あらためてプロレスを好きになっちゃいました。
4Gamer:
そう言っていただけると,プロレスファンとして嬉しいですね。
関根:
裏返すと,プロレスに興味がない人は見ない映画ですかね?
4Gamer:
「キャノンボール」というくくりでは,見てみようという人もいたようです。
関根:
ああ,「劇場版テレクラキャノンボール2013」,「BiSキャノンボール2014」あたりの関連作品として。
須田:
でも,そもそも,「キャノンボール」ってアメリカ映画ですよね。
関根:
そうですね。元々はアメリカ大陸横断レースの名前なんですけど,それをタイトルにした映画が1980年代にヒットしまして。その後,それをモチーフにカンパニー松尾さんらが企画した「テレクラキャノンボール」という成人向けビデオ作品のシリーズが,サブカルチャー界隈を巻き込んで異例のヒットを飛ばしたんです。
須田:
なるほど。
関根:
そちらの内容は,スタート&ゴール地点を決めて,チームに分かれたビデオ監督が女の子と関係を持つことでポイントを稼いでいき,時間内に多くポイントを稼いだチームが勝利するというゲームを追う,ドキュメンタリー作品で。
4Gamer:
そんな作品に感銘を受けたマッスル坂井選手が,DDTに所属していた2009年当時に,プロレスキャノンボール2009を作ったんですね。これは劇場公開ではなく,サムライTVで放送されたのち,DVD化という形だったんですが。
ルールは,DDT所属選手を中心としたプロレスラー達がチームに分かれて車に乗って,ゴールを目指しつつ,途中でプロレスの試合をしながらポイントを稼ぐというものです(関連記事)。
関根:
劇場版プロレスキャノンボール2014も,そのルールにのっとって東京から東北へ向けて進んでいくんですけど,2日目からはちょっと様子が変わってくるんですよね。
4Gamer:
そうなんですよ。純粋にキャノンボール的なゲームを楽しみにしている人にとっては,拍子抜けしてしまうかもしれない部分ではあります。
須田:
TeTさん,ほとんどスタッフ目線ですよね。愛がありますよね。でも,大丈夫ですよ。最後まで見れば,そんなことは気にならなくなると思いますから。
4Gamer:
だといいのですが……。
支配人,レスラー達に思いを馳せる
関根:
今回,たくさんのプロレスラー,元プロレスラーが出てきますけど,支配人はどなたが気になりましたか。
須田:
まず,鈴木みのる選手。本当にいいプロレスラーになったなぁと。跳ねっ返りの若造だったころから見ているだけに,たたずまいを含めて,凄いレスラーになったんだなぁと実感しました。
4Gamer:
あー,ですよねぇ……。
須田:
そうそう。だからこの作品に,鈴木みのる選手が参加しているのを知ったときには,びっくりしたんですよ。
僕はあまりインディー団体は詳しくないんですけど,おそらく今回登場するレスラー勢はインディー・オールスターズですよね?
4Gamer:
そうですね。みちのくプロレス,KAIENTAI DOJO,大日本プロレス,スターダム,そしてセンダイガールズプロレスリングなどなど。
須田:
センダイガールズプロレスリングの里村明衣子選手,久々に見ましたけど……ちゃんとした方ですね。デビューの頃からちゃんとしてるなとは思ってましたけど。ちゃんとした方がプロレスをやるとちゃんとするんだなと。なんだか嬉しくなりました。仙台にプロレスをきちんと根付かせようとしていますよね。
そしてなんといってもこの人ですよ。僕,全然知らなかったです,ガンプロっていう団体。
4Gamer:
ああ,ガンバレ☆プロレスの大家 健選手。
須田:
そう。彼は人間としての魅力があるなぁと。彼が何者なのか,TeTさんに聞きたかったんですよ。
4Gamer:
うーん……。
いろんな逸話があるんですが,この映画に描かれている感じで分かりますよね?
一同:
(笑)。
須田:
やっぱりそうなんですね。
でも,同世代なんですよね,マッスル坂井監督,男色ディーノ選手と。
4Gamer:
ええ。詳しくはこの記事をご覧ください。
須田:
うわぁ……夜逃げに失踪ですか。これは強烈ですね。
きっとその頃から,ずっと逃げ続けてきたレスラーなんですね。
4Gamer:
プロレスラーが,僕らが抱く夢を,僕らのかわりにかなえてくれる職業であるとしたら,大家選手もある意味で僕らの夢をかなえてくれているのかもしれません。
関根:
TeTさん,逃げたいんですか?
4Gamer:
ええ,9月の足音が聞こえてくると,毎年……。
関根:
それはさておき,映画を見ると,大家選手のダメさ加減がどんどん伝わってくるんですよ。でも,大家健選手みたいなタイプって,男のグループの中に必ず一人はいません?
須田:
いますいます。
関根:
そのグループを外から見ている女子なんかには,「あいつらあんなのと付き合わなきゃいいのに」なんて言われたりするんですけど,なんか切れない縁みたいなものがあって。
須田:
そうそう,すぐグズるし,わがままだし,人の気分を悪くさせるようなこと言うくせに,なんとなくいる,みたいな。
関根:
なんでしょう,自分で振っておきながら,妙に大家選手に感情移入してしまいます。
須田:
あ,ダメ人間同士!
関根:
ストレートにおっしゃいましたね。
須田:
大家選手の試合はちゃんと見たことがないんですが,どんな感じなんですか?
4Gamer:
ある意味,個性的ではありますね。
DDT本体というよりは,系列団体のユニオンプロレスにいたんですけど,最終的にもうその団体の枠にも収まらなくなって。
関根:
でも,プロレスラーとしては続けてこれたんですよね。
須田:
それですよ,そういう彼を見捨てなかった人がいたわけですよ。
4Gamer:
ええ。DDTの高木三四郎社長が,どこにも居場所がないんだったら,お前は一国一城の主になれというエールとともに,ガンバレ☆プロレスっていう団体を作らせたんです。
須田:
彼の生き場所を作ったと。いやぁ,プロレス団体って本当に家族ですね。
4Gamer:
今では局地的なカリスマですからね。
昨今話題のプロレス女子からというよりは,すれっからしのプロレス男子の一部から熱狂的な支持を集めています。
須田:
それはすごいなぁ。そこがプロレスの力ですよね。
4Gamer:
放っておけない感じを含め,何かしら心を動かすレスラーではあるんですよね。不思議なことに。
関根:
売れちゃダメなんでしょうかね,ああいう人って。
須田:
売れちゃダメなんですよ。
4Gamer:
ルサンチマンみたいなものが消えてしまったら……うーん。
関根:
なんかのタイミングですごい売れちゃったら,めちゃくちゃ調子に乗りそうですもんね。
4Gamer:
この一本の映画だけでそこまで分かってしまうとは……。
映画としての魅力もたっぷり
須田:
劇中で数多くの試合が展開されるわけですけど,試合だけじゃなくて,だんだんレスラー達の人間臭さみたいなものが気になってくるんですよ。プロレスラーの魅力にぐいぐい引き込まれていくというか。
関根:
僕も感じました。誰かが発した一言に対する,ほかのレスラー達の驚異のアドリブ対応力というか,持っていきたい方向がどこなのかということを,すぐに理解してしまう瞬発力に驚きました。
須田:
とにかく驚くことが多い作品だったんですけど,試合会場もね。家の中でやったりとか,公園でやったりとか,でもちゃんとプロレスとして成立させてるじゃないですか。エンターテイメントにしているというか。
4Gamer:
プロレスは本来,非日常の世界のはずなのに,日常との境界線がだんだんぼやけていくように感じられるところにも,この映画の面白さがあると思うんです。
そのうえで,圧倒的なまでの非日常的なプロレス空間を大船渡できちんと作り上げるから,これはもうとんでもないなぁって。
関根:
ちゃんと大団円があって,それでいてドキュメンタリーとしてもきちんと成立している。
須田:
できすぎですよね。
でも,これがプロレスの持っている力だと思いたい。
関根:
奇跡というには大げさですけど,プロレスにはどんなものもエンターテイメントに昇華させちゃう力があるんだなぁと。
さっきTeTさんが日常と非日常の境界線がぼやけていくとおっしゃいましたけど,そうはいっても結局は非日常を日常のように演出しているってことなんですよね。その絶妙な塩梅が面白いし,いい試合を見たって感じを味わえるんでしょうね。
須田:
あと,DDTは試合内容ももちろん面白いんですけど,アメリカンプロレスに通ずるようなストーリーを大事にしてきた団体ですよね。
4Gamer:
そうですね。
須田:
ストーリーの面白さ,そしてそれを破壊する面白さの多くはプロレスラーのアドリブ対応力にかかってくると思うんですよ。これはとてもセンスを問われるところで,DDTのレスラー達はそういったことを重視してきた結果,この映画のような奇跡の大団円を作り上げることができたんじゃないかと思います。DDTだからこそ,実現した映画なのかもしれないですね。
話は尽きないけれども,そろそろゲームを……
須田:
それにしてもHARASHIMA選手,いいですねぇ。これからもどんどんいくんじゃないですか。
4Gamer:
現在はチャンピオンベルトこそ巻いていませんが,DDTのエースとして,今年の両国大会では,新日本プロレスの棚橋弘至選手とシングルマッチで対戦予定です。
そんなHARASHIMA選手が,映画の中で大家選手に絡んでいくあたりとか,熱くていいですよね。
須田:
ベロベロでね(笑)。
4Gamer:
でも,酔っ払いながらの発言とはいえ,あの1日目の夜の言葉がこの映画のキーワードなんじゃないかと思えるんですよ。あれがなければ2日目,そしてその先に続く大団円はなかったんじゃないかと。
須田:
なるほどね。映画の中でもきちんと試合を展開させたということですね。やはり期待大ですね。
関根:
支配人,そろそろ時間が……。
須田:
じゃあ最後に飯伏幸太選手のキラメキ感,なんか異次元でしたね。一線越えてますよね。
それにしても,出てきたレスラー一人一人の話をしたくなってしまうので止まらないですねぇ。
関根:
あ,それで言うと僕は以前,「ジャッカス クソジジイのアメリカ横断チン道中」を紹介した時にTeTさんが話していた,バラモン兄弟を見ることができたのが,ちょっと嬉しかったですね。思いっきりひどいことをやってましたけど,なかなかのイケメンでびっくりしました。
4Gamer:
喜んでいただけたなら良かったです。
須田:
それにしても今,日本でもプロレス熱が高まってますからね。
この映画を見て,僕もゲームデザイナーとしてプロレスともう一度向き合ってみたいなと思いました。
関根:
僕も思った以上にプロレスに対して興味を持つようになってびっくりしています。
4Gamer:
じゃあ,そろそろゲームを。
関根:
やっぱり「ファイヤープロレスリング」ですか?
須田:
うーん,キャノンボールですからね……やっぱり車。
関根:
えっ,そっちですか?
須田:
いやいや,軽い冗談です。でも,今出ているプロレスゲームでDDTの選手が出ているものってありますか?
4Gamer:
ブシロードの「キング オブ プロレスリング」に,数選手だけ出ていましたね。あと,2005年発売の「ファイプロ・リターンズ」に似たような選手が出ていたような気がしなくもないですが,DDTそのものズバリというのは……。
関根:
じゃあ,作りますか。
須田:
作りますかって,部長,簡単に言いますね。
関根:
軽い冗談です。
須田:
なるほど軽い冗談返しですね。部長もやりますなぁ。
二人:
はっはっはっはっ。
4Gamer:
支配人がプロレスラーの皆さんとお仕事ができるような作品を作るまでの間は,ファイプロシリーズで選手のエディットでもし続けなさい,と。
関根:
ではまた,来月!
4Gamer:
本当に来月ですかねぇ?
須田:
ダメ人間ですからねぇ,部長は。
関根:
ガンバレ,俺☆
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