連載
「キネマ51」:第13回上映作品は「L.A.ギャング・ストーリー」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第13回の上映作品は,アメリカ暗黒時代の実話を描いたハードボイルド作品「L.A.ギャング・ストーリー」だ。
「L.A.ギャング・ストーリー」公式サイト
この映画,飛行機の中で観たんですよ。
関根:
支配人は世界中飛び回ってますからねぇ。世界中に面白い映画を探しに行ってくれているんじゃないかと思っているんですが……,実際のところ飛行機で出会ってる作品が多いですよね。
須田:
寝る暇も惜しんで映画を観ているってことですよ。いやぁ,仕事熱心。
関根:
でも現地で出会った映画の話は聞いたことないんですけどね……。
須田:
ところでね,部長。
関根:
お,必殺技“スルー”が出ましたね!
須田:
僕は普段,洋画を観るときは字幕派なんですけど,飛行機では,吹き替え派なんです。
関根:
あ,それは分かります。
須田:
ご飯食べながら観たりするので,ずっと画面で字幕を追うのがけっこう大変なんですよね。
関根:
画面が小さいぶん,文字も小さいですからね。
須田:
でも,この映画の吹き替え,凄く良かったんですよ。荒くれ者を演じるのが得意な声優の方って,何人かいらっしゃるじゃないですか。そういう方達が多数参加されていたんですよ。いやぁ,渋かったですね。
関根:
じゃあ,そういった環境で観るのに適している映画だったんですね。確かに吹き替えが似合うタイプの映画だと思います。
須田:
1950年前後のアメリカを映画で楽しんだのは,久しぶりのことでした。
関根:
「ゴッドファーザー」シリーズや「L.A. コンフィデンシャル」「ブラックダリヤ」[1]など,この時代を舞台にした名作は,たくさんありますよね。
須田:
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」なんかも,そうですか?
関根:
いえ,それや「アンタッチャブル」なんかは,ちょっと前の1922年〜1930年,禁酒法時代のアメリカのお話ですね。
須田:
なるほど,20年くらい離れているのか。
関根:
さらに大きな違いは,第二次世界大戦の前か後かということですね。
須田:
それは相当な違いですね。
関根:
ええ。ところで,1950年前後のL.A.といえば,やはり……。
須田:
ギャングですね。
関根:
この映画,タイトル通りですけど,ロサンゼルスのギャングの話ですよね。
須田:
何度も映画化された時代の話ですから,今回は一体どんなストーリーなのか気になりましたね。ドンパチものだっていうのは分かっていたんですけど。
関根:
無法者の警官が集まって秘密裏に動く自警団を作り,ギャングに立ち向かっていくというのは,面白い設定ですよね。
須田:
しかも,史実なんですよね。びっくりしました。
関根:
で,まあ,思った以上にシンプルでしたね。
須田:
そう。直球でしたね。
関根:
もうちょっと自警団の仲間が裏切って……みたいな展開があるのかなと思ったんですが。
須田:
何て言うんですかね。裏切らない真っ直ぐさが,気持ち良すぎましたね。例えるなら,プロ野球のオールスターゲームで直球勝負,剛速球対ホームランバッターみたいなね,あんな感じですよ。
関根:
いつもは支配人の例え話,まったく分からないことが多いんですけど,今回は分かりやすい。
須田:
で,まあぼくにとってL.A.っていう街はですね,第三の故郷じゃなくて,第二の職場みたいなところなんですよ。
関根:
おやおや,やっぱり分からなくなりましたよ?
第二の職場?
L.A.ではE3が開催されますしね。それにゲーム会社や映画会社の多くが拠点としているんで,しょっちゅう行くんですよ。
関根:
なるほどなるほど,そういうところなんですね。ちなみに,どんな会社があるんですか?
須田:
えーっと,E.A.……はサンフランシスコですね。Ubisoftもサンフランシスコ……。Rockstar Gamesはニューヨークで……。じゃあ何があるんだっていうね。
関根:
まさかのボケツッコミ。
須田:
えーっと……あ,あ,Warner Bros.がありますよ。
関根:
あって良かった!
須田:
しかも,Warner Bros.がある場所が,この映画の舞台になっているんですよ。撮影所なんかはない時代だったと思うんですけど,街全体を使って行われる闘いの場面を観ていると,土地勘があるからどこで闘っているのか分かるんです。あ,ここ,バーバンクだ! あ,そこは山を下ったあのあたりだ! って。
これこそL.A.がね,第二の職場ということの表れじゃないかと。
関根:
ほほー。
須田:
あれ,半信半疑ですーって顔してますけど。
関根:
あれ,なんでばれちゃったんだろう。
須田:
ということで,非常にゲーム業界にはなじみの深い場所ということで。バーバンクには,Warner Bros.が今もあるんですよ。だからバーバンクっていう場所自体もね,僕らにとって聖地みたいな場所で。
関根:
聖地とは,また凄いですね。
須田:
バーバンクにあるWarner Bros.のスタジオは,見学ツアーもできるんです。バット モービルなんかが並んでいる博物館みたいなところも見せてもらえるんですが,そこにはなんと「LOLLIPOP CHAINSAW」(PlayStation 3 / Xbox 360)のプロモーションで使用したバスも置かれるらしいです。
関根:
ほほう,それは本当に凄いことじゃないですか!
須田:
という噂話を聞きました。
関根:
あれ? なんか,「関白宣言」[2]的な話に……。
須田:
土地勘もあるし,なじみ深い場所の60年位前の話だと思うと,また,感情移入がしやすいんですよ。みんな大好きL.A.ですよ。
ネタバレしちゃう?
須田:
で,さっそくなんですけど……ネタバレになってしまうんですけどいいですか,言っちゃって?
関根:
どうしても言いたいんだったらしょうがないですよ。何となく予想はついてますし。
須田:
じゃあ言っちゃいますよ。この映画の見どころ。それはですね,ミッキー・コーエンがとにかく格好いいこと。
関根:
ミッキー・コーエン,敵のギャングですね。支配人が好きな俳優ベストテン第1位のショーン・ペンが演じていますからね。
須田:
ショーン・ペンを観にいく映画といっても過言じゃない映画でしたね。
関根:
確かにそのとおりなんですが……。何となく予想はしてましたけど,ネタバレ要素ゼロでしたね,今の話。
須田:
そうですか? ショーン・ペンの魅力を再発見できちゃうなんて,とんでもないネタバレじゃないですか。
関根:
……。
須田:
そのミッキー・コーエンは元ボクサーなんですけど,彼を倒そうと奮起する主人公の警官,ジョン・オマラと死に物狂いの格闘戦を繰り広げるシーン,ここはねぇ,見どころですよ。これ,TeTさんどうでした? 格闘技好きとして。
4Gamer:
格闘技好きとしてですか? 分かりやすくって良かったなって(笑)。
須田:
まさにそうなんですよ,ほんとこれがねぇ,実に分かりやすかったですね。
関根:
映画の感想としてはどうかと思いますが,確かに分かりやすいです。
須田:
あのシーンを観てね,バカだなぁって。いや,ほんとに,気持ちいいくらいバカだなって。
4Gamer:
「パシフィック・リム」(前回参照)の格闘と大差ないですよね。
須田:
確かに。大差ない。
関根:
1950年代って,まだ,ほのぼのとしてたんだなって勘違いしちゃうような素直さですよね。
須田:
そうそうそうそう。ロボットと怪獣が殴り合っているのがパシフィック・リムならば,ギャングと警察が殴り合っているのがL.A.ギャングストーリーであると。
関根:
途中のシーンであれだけ機関銃ぶっぱなしておいて。
須田:
ボスの対決は噴水の前で殴り合いですよ。素手でね。最高でした。
関根:
確かに最高でした。
須田:
僕はあのシーンを観て,この映画は跳ねたと思いました。真っ直ぐすぎる話だなぁと思っていたところで,ある意味裏切られましたからね。これは,心に刻まれる名シーンです!
関根:
ストレートな熱さでいったら少年ジャンプレベルですよね。
須田:
そう,ジャンプレベルですよね。武器を捨てて最後は素手でぶつかり合う。
関根:
子供でも楽しめるギャング物っていう感じですよね。なんというか,「こども・ギャング・ストーリー」。
須田:
かもしれない。子供が見ても大丈夫な作品ですよ。ほのぼのしています。描かれていることは,殺伐としているんですけど,すっごいほのぼのしてる。
関根:
アーバン・チャンピオンに近いですよね。
須田:
近い近い。あとね,思い出したのが,子供の頃「ロッキー」を観て,ボクシングってこんなに殴り合うんだって思ったんですよ。でも,実際のボクシングってあんなに殴り合わないじゃないですか。みんなガードしてるんです。怒りましたもん,子供の頃,実際のボクシングを観て。何,ガードしてんだよ,ロッキーみたいに殴り合えよ! と思って。
大きな勘違いをしていたわけなんですけど,今回の映画の二人を観たら,まさにロッキーでした(笑)。
関根:
まあまあそうですよね。そういう意味では,ファミリー映画だと思うんですよ。
須田:
日曜日の昼間に観ても安心のギャング映画ですよ,L.A.ギャングストーリー,別名こども・ギャング・ストーリーは。
4Gamer:
なんか加藤清四郎君あたりが出てきそうですね。
須田:
清四郎君と,鈴木 福君の殴り合いの映画。観たいですねぇ。
関根:
そうとう観たいですね。
ネタバレの次はトリビア?
須田:
あと,トリビアなんですけどね。
関根:
おー,なんですか?
須田:
今年のE3のときに,初めてマリブに連れて行ってもらったんですよ。凄いセレブ感を味わえるレストランに行ったんですけど,そんなセレブリティーの街,マリブ出身なんですって,ショーン・ペンは。
関根:
ほほー。それもトリビアとは言いにくい情報ですねー。
須田:
いいとこの出のワルのほうがワルいんですってよ。
関根:
「ブリー」に出てくるグループでそういう人達がいましたよね。ボクシング習ってる金持ちのボンボン。
須田:
そうだそうだ,あいつらだ。金持ちのね。ショーン・ペンってそういうことでいうと,憎々しい人だったと思うんですよ。ムービースターになって,ケンカも強いし。で,そういう生い立ちだったショーン・ペンが,かなり激しいストリートファイトを繰り広げるシーン。いやぁ,凄いなぁって。あの悪役をやっちゃうんですね。
関根:
汚れ役を実にうまくこなしてましたね。
須田:
いや,ほんとに。ショーン・ペンが一人食いするのかなと思ったら,ちゃんと脇役としてわきまえていて,やっぱりすごい役者だなと。ショーン・ペンの匂いはしっかり残すんですけど,作品のジャマをしない。いやぁ,素晴らしい。
関根:
そういえばミッキー・コーエンが,勢力拡大を図って試みた新事業,面白かったですよね。
須田:
そう。電話会社を買い取って,電話回線を使った賭博事業でネットワーク拡大を図るなんて,考え付くことが先端いってますよね。IT先取りですよ!
関根:
そうですよね。しかも,これ,実話を元にしてますからね。
というわけで,ゲームいっちゃいましょうか。
須田:
今回はもう,このゲームだから,この映画だなっていうのは,ほとんどの読者の方が気付いてらっしゃると思いますけど。
というか,タイトルから気づいていると思いますけど,「L.A.ノワール」(PC / PlayStation 3 / Xbox 360)ですよ。ある意味まんまです。ただ,L.A.ノワールは,取り調べでしっかり犯人を落とすんですけど,このL.A.ギャングストーリーは,殴り合いですから,そこだけは誤解のないように,というね。
関根:
この映画,フィルム・ノワール[3]のようで,その雰囲気は無いですからね。
須田:
ですね。ノワール色ゼロでしたね。L.A.ノワールは,表情を読むとか心理描写とか,そういう細かいところが大事なゲームなんですが,この映画は,もっと大胆に人の懐に入ってきますからね。
4Gamer:
「ゴッドファーザー」のゲームもありましたね。オープンワールドで。
須田:
そうでした。確かにアクションシーンはゴッド・ファーザーに近いですかね。L.A.ノワールは結局,アドベンチャーゲームを,オープンワールドでやったらどうなるのかっていうのを,そのまま再現しているんですよ。ドンパチはありますけど。
関根:
非常に映画的ですよね。室内のシーンも,屋外のシーンも,ゲームのタイプを変えながらもスムーズにストーリー展開していくって,今のスペックと技術だからこそ実現できたってことですもんね。
須田:
ですよ。結果的に,より細かい描写まで,ゲームの中に組み込むことができたわけですからね。
4Gamer:
死体にも触れますしね。
関根:
え?
須田:
現場に行って,死体を見て,動かして,ゴロっとしてここに傷があるとか調べるんですよ。
関根:
そうなんですね。
須田:
とにかく,ゴロゴロ動かせるんですよ。そこまで徹底してるんですよ!
関根:
なるほど……。
須田:
……。
え? もう話終わりですか!?
須田:
死体を動かす話をしたら満足しちゃいました。
関根:
えーー!
……支配人を動かすゲーム作っても,今のハードのスペックじゃシミュレーションできそうにないですね。
須田:
いやいや,そんなそんな。
関根:
褒めてないですから!
須田:
失礼いたしました!
「L.A.ギャング・ストーリー」公式サイト
キーワード
(C)2006 Rockstar Games. All rights reserved.
(C) 2011 Rockstar Games, Inc.
(C) 2011 Rockstar Games, Inc.