連載
「キネマ51」:第5回上映作品は「みなさん、さようなら」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第5回の上映作品は,「みなさん、さようなら」。
団地と空手という不思議なキーワードを持つ本作。このキーワードと支配人,そしてゲームの意外なつながり。そして、なぜか部長が異常に反応するキーワードとは?
「みなさん、さようなら」公式サイト
関根:
もう3月なのに,新年1作品目ですよ。
須田:
そうなんですよ。
関根:
実は,幻の上映作品があるんですが。
須田:
「ウルトラセブン」の第12話[1]的な。これは,いずれまたお話させていただく機会がありましたらね。覆面座談会でね。
関根:
僕と支配人の覆面座談会って,それなんにも隠してないですけど!
今年は,積極的な作品紹介を目指します!
去年は,ぼくらの体たらくで,月に1本も作品を紹介できませんでした。
関根:
はい。
須田:
そんな折,4Gamerでも,そこそこビッグなニュースが流れたんですよ。
関根:
ほうほう。
須田:
グラスホッパーに関して。
関根:
へえ。
須田:
その興味なさそうな返事はなんなんですか,部長。きみの進退にも関わることかもしれんぞ。
関根:
そ,そうなんですか,支配人。
須田:
うむ。それは何かって言うと……こちらのリンクをクリックしてみてください。
関根:
なんなんですか,結局!
須田:
……ということもあってですね,キネマ51,こんなスローペースじゃいけません。
関根:
はい。
須田:
なので部長。これからは月に2回の勢いでね,やろうと思ってます!
関根:
隔週ってヤツですね。分かりました。
4Gamer:
心意気は理解しました。
須田:
なので新作だけじゃなく,旧作もどんどん紹介していこうと思っています。
関根:
確かに支配人の世界をより深く知るためにも,今まで観た映画のお話もお聴きしたいですね。楽しみです。
いよいよ本題,団地ムービー
須田:
さて,今回の作品「みなさん、さようなら」ですけど,これは,部長のセレクションですね。
関根:
はい。2008年の「ぼくのエリ 200歳の少女』[2]や,某アニメに出てくるCGのビル群の美しさの話など,支配人からは団地や集合住宅の話をお聴きすることが多いような気がしたので,選んでみました。
須田:
まさに“団地”ムービーでしたね。冒頭で濱田 岳さん演じる主人公の悟少年が,「もう俺は決めたんだよ。団地の中だけで生きていく」って言うじゃないですか。あの宣言のインパクトが凄かった。
関根:
まず,支配人にとって,団地のイメージってどんなものですか?
須田:
僕にとって,団地は都会なんですよ。都市なんですよね。
関根:
なるほど。
須田:
ぼくが生まれ育った長野の田舎に対し,団地=東京であり,団地=名古屋なんですよ。
関根:
名古屋?
須田:
そう。名古屋へ向かう途中に電車の窓から見える景色が,建物の塊が要塞のように立ちはだかってて,未来都市みたいで,それに凄く憧れて。そういうイメージがあったので,この映画の登場人物は選ばれた人達だなと思って観てました。
関根:
かつては団地族なんて呼ばれて,洋風のモダンな都市生活者の象徴でもあったんですよね。
1960年代前半の直木賞受賞小説,「江分利満氏の優雅な生活」[3]は,集合社宅に住むサラリーマンの生活をコミカルに描いていて,それなんか読むとなんだか夢があるんですよ。
須田:
劇中でも本物の60年代のCF映像が流れますよね,「団地への招待」というタイトルの。
関根:
はい。「まるでヨーロッパの街並みのよう」というコピーが秀逸です。
須田:
そんな都市の中に垣間見えるうすら寂しさに,一瞬,団地の怖さみたいなものを感じる時があって。
関根:
なんとなく分かります。
須田:
それで,この物語の面白さっていうのは,主人公が,そんな怖さを団地から排除,抑止しようとする約20年に及ぶ闘いの歴史も一緒に描くことで,団地そのもののすべてをぎゅっと凝縮して見せてくれてるっていうところなんですよ。
支配人と同い年の主人公
関根:
主人公は支配人と同い年なんじゃないかと思うんですが。確か昭和43年生まれでした。
須田:
まさに同い年だ。だから,映画と同じように団地の移ろいを体験してますよ。僕らの時代の憧れのショッピングモールって,団地の1階でしたし。
最近は,シャッター商店街みたいなところが多いそうですが……。蕎麦屋が1軒だけ残ってるとか。
4Gamer:
近隣に大型商業施設ができてしまったりすると,小規模な商店街は大打撃を受けますからねぇ。
須田:
ええ……。
話は変わりますけど,この映画に出てくる団地の街並みがいいんですよね,カーブが多くて。あれが美しい。
関根:
でも,ちょっと寂しげな。それが雰囲気を出しています。
須田:
そういえば,昔,都下[4]の団地に何度か行く機会があったんですけど,とても寂しい雰囲気が漂っていて,ちょっと高台にあって静かなところなんですけど,街並みは……なんていうんですかね,師匠しか住んでいないような。
関根:
えっ,師匠?
須田:
いやいや,師匠っていうあだ名の人しか住んでいない感じがするんですよね。
関根:
うーん。分かるようで全然分からないんですけど。あれですか,博士とかいうあだ名の人もいますかね。
須田:
そうそう。博士とか。
関根:
そういえば,この主人公も小学校の卒業アルバムに,「将来の夢・大博士」って書いてましたね。
須田:
でしょ。そうですよ,そんな感じなんですよ。
関根:
うーん,やっぱり分かるような分からないような。
支配人&部長のプチ暴走が止まらない。
須田:
それからやっぱり,エレカシ[5]ですよ。ヴォーカルのミヤジ(宮本浩次)さんは板橋区の団地っ子じゃないですか。だからちゃんとエレカシなんだなって。
関根:
「sweet memory」でしたっけ,エンディング。良い曲でした。
須田:
また,この曲を持ってくるあたりが。エレカシの中でもここかと思いましたね。挿入歌の「さらば青春」もね。両方とも青春ソングなんですよ。分厚い系じゃない,さわやかなほうのエレカシ。
関根:
あのペッティング[6]のシーンですよね。
須田:
部長! 何言ってんですか。完全に死語ですよ,それ(笑)。
関根:
あのシーン,波瑠さんに夢中すぎてエレカシが流れてるのに気付きませんでした。
須田:
あの女優さんは,小池徹平さん主演の刑事ドラマ[7]に出演してて,それが良かったんです。
関根:
いやあ,あのシーン,ドキドキしましたよ。ザ・リアル中学生でしたもん。
須田:
どうやら,ずっとあの頃のドキドキを患っているんじゃないですかね,部長は。
関根:
そうですね。やはりあの寸止め感が,もう,ドキドキです。直前に,波瑠さんがメガネを外すのがまたいいですよね。
4Gamer:
スタローンがキャップのつばをクルって後ろに回すのと同じ感じで。
須田:
戦闘準備ですね(笑)。
関根:
服装も,親が買ってきた系のやつがいいですよね。ロヂャースとかでで売ってそうな。
須田:
それは分かる。しかも,やっぱインですね。
関根:
インですねぇ。ネルシャツをインですよね。
須田:
僕らの時代はインですよ。
関根:
誰がシャツを出そうって言い始めたんですかね。あれって革命ですよ。
須田:
あれは……スティーブ・マックイーン[8]じゃないですか。
関根:
古っ! 確実にインでしょ,マックイーン。
須田:
キムタクかな?
関根:
ぽいですね。
須田:
あ,あれ? ブラピじゃないですか。
関根:
ブラピ? そうかもしれませんね。じゃあブラピってことにしましょう。
須田:
いや……マッチさん[9]じゃないですかね。
関根:
もういいですよ! ブラピです。
須田:
まあ,そんなにむきにならないで。
関根:
続けてるの須田さんじゃないですか!
須田:
ところで,あらためて濱田 岳さんの力を実感させられたんですけど,中学生から大人まで,一人で演じ分けてしまうのはさすがですね。
関根:
ですね。顔立ちが古風なのか,昭和の設定にも馴染むし。
須田:
空手の型をやるシーンがありますけど,その姿はまるで,平成の倉田保昭[10]でしたね。
関根:
やはり「Gメン'75」[11]ですか。
須田:
もちろんです! あの,胸板の厚さ,子供の頃にあこがれました。あの胸板感,彼は持ってますよね。
関根:
「コイサンマン キョンシーアフリカへ行く」(1991)[12]っていう映画があって,もうタイトルからして無茶苦茶なんですけど。その1シーンで,霊幻道士(ラム・チェンイン)[13]がブルース・リーを降霊術で呼び出して,コイサンマンことニカウさんに憑依させる場面があるんです。
須田:
何を言ってるんですか……。
関根:
本当にあるんですよ。そしてこのシーンで,ニカウさんが完璧にブルース・リーのアクションを演じきるんですよ。
須田:
あ,濱田 岳さんにマス大山[14]が憑依するシーンと同じで!
関根:
そう,あのシーンを観て,それを思い出したんですよ。
4Gamer:
ちょっと思ったんですけど,主人公は,大山倍達氏に影響を受けてトレーニングをし続けていたじゃないですか。でも「空手バカ一代」[15]を読んでいるシーンが無いのは腑に落ちないんです。
須田:
なるほど,確かに。大山倍達ファンの必読書ですからね。
4Gamer:
もし読んでたら,絶対山ごもりしたくなって,さっさと団地を出られたんじゃないかと。
関根:
片眉剃ってね(笑)。
須田:
母さん,今から山行ってくる! ダダダダダッなんてね。でも,それじゃあこの映画成り立たないですよ。
関根:
ですね(笑)。
いよいよゲームですが。
僕としては,後半で異彩を放っていた田中 圭さん,我らが「相棒」のスピンオフ新作劇場版「相棒シリーズ X DAY」(2013)の相棒役ですよ,伊丹刑事の。だから,相棒のゲームを思い出しました。
関根:
ありましたねぇ(笑)。ニンテンドーDSの「相棒DS」。いいゲームでしたよね。
須田:
はい。あの,シナリオの方,後に「相棒」のオリジナル小説[16]の執筆もされているんですよ。
関根:
そうですね。
須田:
あとは,「カラテカ」ですかね。空手ゲームということで。
4Gamer:
団地ゲームなんてありますかねぇ?
関根:
1980年代前半の有名PCゲームはまずいですかね。
須田:
ムフフフ,あれはまずいですねぇ。団地で考えると,「シムシティ」にはそういうにおいがありますね。
関根:
あー,シムシティ。でも,この場合,逆シムシティですよね。どんどん団地が寂れていくし。
須田:
団地,団地,あっ,団地を探索するゲームありますよ。「ムーンライトシンドローム」っていう。
それ,かつて須田さんがディレクションと脚本を担当したゲームじゃないですか!
須田:
団地編のシナリオがあります(キリッ)。
4Gamer:
須田さんつながりでいくと,「ファイヤープロレスリング」シリーズでもエディットで空手家を作れますよね。
須田:
あ,そうだ。エディットでね,空手家を作れますから。
関根:
そのエディット機能でネルシャツをインってユニフォームは作れますか。
4Gamer:
ミック・フォーリー[17]っぽいものを作って,空手の構えをさせれば,そういう雰囲気が出そうですね。
須田:
ですね(笑)。あとハクソー・ジム・ドゥガン[18]とか。
それで,リングに上がってもらって。ファイプロに団地モードはないんですけど。団地が出てくるムーンライトシンドロームを横に置いてもらって遊ぶと,映画と同じ雰囲気を楽しむことができると思います。
さらに,奇しくも僕が関わっていたゲームをまとめて楽しむことが出来るという。
4Gamer:
さすがに同時プレイは無理ながらも(笑)。
須田:
ということはですよ。この映画,僕にとって,ど真ん中の直球ストライクということなんですね。
関根:
そういうことです。やはりぼくの見立てに間違いは無かったということで,ホッとしました。ところで,次回作はどうしましょうか。
須田:
今度出張に行くので,飛行機でやっている映画をチェックしておきますね。
4Gamer:
機内で観てると,なんてことない映画でも泣いちゃうことありませんか?
須田:
あります! だって,あのアニメの実写作品で号泣したんですよ,僕。ビックリですよ!
4Gamer:
なんか悔しいというか,この程度の作品で何で号泣しちゃってんだろうみたいな。
関根:
あっ,あれですよね,こんな女の子とペッティングしちゃって後悔みたいな感じですよね。
須田:
……部長,それオチに使っちゃいましたか。
関根:
すいません,もう頭から離れなくて……。
4Gamer:
次回もよろしくお願いしまーす。
「みなさん、さようなら」公式サイト
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