テストレポート
[COMPUTEX 2008#18]「COSMOS」シリーズ用液冷ユニット「Aquagate Max」はSkulltrailを冷やしきれるか?
今回4Gamerでは,COSMOS SとAquagate Maxの組み合わせで,その能力を検証する機会を得た。そこで現在考えられるなかでは最もCPUの発熱が激しいゲーマー向けシステム,開発コードネーム「Skulltrail」こと「Intel Dual Socket Extreme Desktop Platform」(以下,Skulltrail)を“冷やしきれる”のか,検証してみたいと思う。
ユーザーが自分で組み立てる仕様のAquagate Max
大きな内蔵型ラジエータとESA対応が特徴
ユニークな点としては,NVIDIAが提唱する「ESA」(Enthusiast System Architecture)に対応し,対応マザーボードと組み合わせれば,温度やファン回転数などを一括管理できることが挙げられよう。
特別に追加の水枕を入手しSkulltrailで検証
ラジエータの取り付けは少々面倒か
冒頭で,Skulltrailシステムに取り付けて検証すると述べたが,上で紹介したとおり,Aquagate Maxは基本的にシングルCPUシステム用だ。そのため今回は,Cooler Masterから追加の水枕を入手し,
- Aquagate Max本来の仕様+シングルCPU構成にしたSkulltrailシステム
- Aquagate Maxに追加の水枕を取り付けた状態+デュアルCPU構成のSkulltrailシステム
という,2パターンで検証したいと思う。2.については,Aquagate Maxで本来的に想定される使い方を完全に上回るテスト条件になるため,同製品のポテンシャル(というか,限界点)が見えやすくなるのではないかと考えた次第だ。
そのほかテスト環境は表のとおり。CPU冷却能力の検証ということもあり,グラフィックスカードは1枚構成にしている。
実際のテストに入る前に,Aquagate Maxの組み込み方について,以下のとおり写真で解説しておきたい。なお,今回Aquagate Maxを取り付けたCOSMOS Sがどういう特徴を持つPCケースなのかについては,2008年4月9日の記事で詳しく紹介しているので,興味のある人はご一読を。
カットするホースの長さなどは,入手した個体の製品マニュアルに書かれており,おおよその目安になる。写真がひとまず仮組みした状態である |
特別に入手した追加の水枕も取り付けた状態がこちら。左の写真の状態も含め,仮組みの時点ではホースを根本まで差し込まないほうがいい |
マザーボードの背面にテープ付きのバックプレートを貼り付ける。それまで空冷で運用していた場合は,一度ケースから取り出す必要あり |
組み立て型の液冷ユニットを取り付けた経験があるなら,作業自体に迷うようなところはないと思われるが,ホースの柔軟性が低いこともあって,けっこう手間がかかる。何度も取り付け,取り外しを繰り返さねばならない可能性が高く,かなり骨が折れる作業になるだろう。また,本稿の序盤でも指摘したとおり,ESA対応の温度センサーユニット(から伸びる温度センサーケーブル)の強度はかなり低い。特別に無理な力を加えたわけではないにもかかわらず,2本とも作業中にぽっきり折れてしまったほどだ。製品版では改良を望みたい。
シングルCPUの冷却には十分な性能
冷却性能の高いPCケースと相性がいい
今回HWMonitorで計測するのは,CPUコア温度とマザーボード温度,2枚のFB-DIMM温度,GPU温度,HDD温度。CPU温度については,CPU#1とCPU#2のそれぞれについて,4コアの平均値をスコアとした。このため,CPU温度のみは小数点以下1桁まで記載する。
なお,マザーボードのBIOSから確認できる温度情報と照らし合わせるに,HWMonitorではCPUソケット側に用意された温度センサーや,MCH(もしくはMCH内メモリコントローラ)内温度センサーのデータも取得できているようだが,100%の確証がないため,これら2項目のデータは除外した。
テスト結果取得条件は以下のとおりだ。
- アイドル時:Windows XPの起動後,放置して30分経過した時点
- 3DMark06実行時:「3DMark06 Build 1.1.0」のGame Testをループ実行し,30分経過した時点
- ロスト プラネット実行時:「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」のベンチマークモード「PERFORMANCE TEST」をループ実行し,30分経過した時点
- 午後べんち実行時:MP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」ベースとなるベンチマークソフト「午後べんち」の耐久ベンチモードを実行し,30分経過した時点
液冷システムの安定度をチェックするものとしては,「システムに100%の負荷をかけ続けて,何時間耐えるかを検証する」という定番の手段があるが,今回はテストスケジュール(=機材貸出期間)の都合により,そこまでの時間が取れなかった。ご了承いただきたい。
というわけで,まずグラフ1はアイドル時のスコアである。CPU温度は液冷と空冷で極端な違いは出ていないが,シングルCPU動作時は液冷,デュアルCPU動作時は空冷がそれぞれ若干有利とはいえるかもしれない。Aquagate Maxのポテンシャルを見るという意味では,意義深いデータといえそうである。
3DMark06実行時は,当然のことながらGPU温度がぐっと上がるものの,液冷と空冷の違いは出ておらず,COSMOS Sが搭載する側板のファンが効果を発揮している印象だ(グラフ2)。一般的なPCケースでは,CPUの液冷化を行うと,CPUファンによる空気の対流が減り,いきおいグラフィックスカードの温度は上がりがちだが,側板に巨大なファンを搭載するCOSMOS Sならその心配はない。Aquagate Maxとの相性がいい感じだ。
CPU温度は,シングルCPU動作時に,4コアの平均で8℃弱の違いが出ている。一方,デュアルGPU構成では,3DMark06の処理に8コアだと余裕が生まれるのか,液冷と空冷で大きな違いは生じていない。
グラフ3はSkulltrailの8コアを生かすテストモード「Cave」を持つロスト プラネット実行時の結果。メモリ負荷の高い同タイトルだけに,FB-DIMM温度は,PCケース内の対流が少ない液冷が不利な傾向になる。CPU温度はシングルCPU時だと液冷が有利だが,デュアルCPU時はAquagate Maxの限界も見える。
なお,デュアルCPU動作時にGPU温度が一段低くなっているのは,GPU温度が閾(しきい)値を超え,GPUクーラーのファン回転数が1段階高まったためだ。
最後にCPUベンチマークとなる午後べんち実行時だが,デュアルCPU時は8コアCPUの性能がフルに発揮されていない印象で,CPU温度は3DMark06実行時と同じような傾向に見せている(グラフ4)。
COSMOS Sとの組み合わせでTDP 150W CPUを冷却
スマートに冷却したいなら,選択肢としてアリ
基本的にCOSMOS/COSMOS S専用であること,ESA周りの実装が少々心許ないこと,ラジエータ部のファン回転数を標準状態では制御できないこと,そして取り付け難度が決して低くはないことを考えるに,万人向けではない。だが,PC内部で完結する冷却ユニットによって,スマートに高い冷却能力を得たいという場合には,(価格次第では)COSMOSシリーズ込みで検討に値する製品となり得るのも確かだ。国内発表を期待して待ちたい。
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